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姫パーティは楽しくも楽じゃない  作者: 犬之 茜
生産と借金生活、時々メイン
37/123

二つ名。そして、創作部。

 昨日のヴィーナスの一件で空気が微妙な状況となり、ろくに時間を過ごす事もなくログアウトをするとメールが届いていた。

 差出人は樹。最近の樹からのメールは毎回LiLiに関してだった。友人が心配です。

 内容は、所持属性の追加と二つ名が決定した報告だった。


『露出狂』…人前で脱いで快感を覚える者。

『幼女』…イエスロリータ。世界の宝。

『獣耳』…モフモフprpr。ただし、男は断る。

『庇護欲』…護りたい。ただ、それだけ。

『百合』…美しい女性同士の花。

『害獣(回避)』…マナー違反をしたが、和解した者。

『お漏らしっ娘』…聖水ありがとうございます。

『真性ドM』…痛みも困難も快楽に感じる特殊人物。

『泣き虫』…よく泣いている者。

『残念』…強く生きれ。

『天然』…暖かく見守っていきます。癒し系。

『犬系魔物』…先祖帰りした獣人。飼いたい。

『獣○』…人×獣。

『悪戯っ子』…お仕置き前提。ペンペンしたい。

『発信者』…重要情報を公開。感謝。


備考:NPC獣人ゼメスとエルンの娘。養女。(PC主観)

ゼメス所持属性『教導者』『保護者』『解説者』『公開調教師』

エルン所持属性『農家』『人妻』『保護者』『教育者』


 なんだか、色々と増えていた。

 真性てなに?伏せ字って……。それに、ゼメス達の娘ってなんで?二人にも異例の属性が付いているし。いろいろ突っ込みたいことがある。

 だけど、それよりも…………。こんな二つ名が過去にあっただろうか。いや、ない。断言できる。

 二つ名。それは、プレイヤーが付ける称号。異名や通り名とも言う、本人を端的に分かりやすく表した名前。プレイヤー名は知らなくても、二つ名が有名になることもあり、二つ名で呼ばれる事もある。

 それなのに、二つ名命名委員会で議論して僕に与えられた二つ名がこれなんて。泣きたくなってくる。


 二つ名【三才児】


 そう、ゼメスがちらっと言った単語がそのまま僕に与えられた。

 あの生中継は、他のプレイヤーによって保存され未だに未編集でネットに存在している。何度も再生され、属性などもそこから来たみたい。

 二つ名も然り。ただ、議論した結果それが一番相応しいと結論付けられた。

 曰く、三才児なら裸になってても普通。曰く、三才児なら粗相だってするし、よく泣くのも普通。曰く、残念なのも天然なのも年齢を加味すれば普通。庇護欲だって湧くってもの。百合なのは、まだ乳離れが出来ていない証拠。

 そう言われると、なるほどと納得して、慌てて否定する。


「僕、三才児じゃないよっ!」


 次点が「オマセさん」だった。どっちが良いと言われると「三才児」になるのだから、泣きたくなる。


「はあ、僕ってなんでいつもこう」


 一晩経っても自己嫌悪。

 ヴィーナスに言われたマスコットも理解した。スレッドで人気みたいだ、LiLiが。大きなお友達に。男女問わず、見守り隊まで出来ていて辟易するほどに。


「ユーリ、また身悶えてるけど大丈夫?」

「うん。たぶん」


 今日はウサミミと部活を決める為に実習棟を見て回っている。

 桜たちは、すでに部活を決めたらしい。桜はテニスで、あーやはバドに入ると聞いた。そして、日数もないのでまだ決まってない僕らはこうして以前見学出来なかった部活を覗いている。


「ウサミミは何かいいのあった?」

「うーん、調理部が良かったけどなー。小麦粉は遠慮したいし」

「……ウサミミを歓迎しないでしょ」

「そんなこと言うのはこの口か!」

「ひゃい!ひひゃいよ、ウシャミュミュ」

「……なんで、ユーリの肌ってこんなにモチモチで綺麗なの」


 引っ張らないで。痛い、痛い。

 それから、二分くらいは頬を弄ばれた。うー、ひどい。


「さて、次行こう」

「うーーー」


 頬をマッサージしながら、ウサミミの後を着いていく。


「次は、創作部」

「ここ、この前は閉まってたよね」


 以前の見学で回っていたときには閉まっていた文化部の部室。今はその向こうから人の声が僅かに漏れていた。


「なんか楽しそうな声がするね」

「うん。入ってみる?」


 そっとドアをスライドさせて、「失礼します」と二人で顔を覗かせると、話していた女子生徒たちが一斉に僕らに視線を向けた。


「見学希望者?」

「え、はい」

「いいですかー」


 端に座っていた女子生徒がにこやかに僕らを手招きし、五人の前に近付く。どうやら、手招きした生徒の校章の色を見ると三年生。部長だろうか。

 僕らが近付くと同時に、一人の生徒がすれ違いドアに向かった。

 カチャン。と、何か鍵が掛かるような音がした。え、鍵?


「いらっしゃい。創作部へようこそ」

「あ、はい。よろしくお願いします」

「ね、今の」


 鍵について聞く前に、部長らしき人物から握手をされ、疑問の声が遮られた。


「私は部長の目眼(さっか) 皐月(さつき)。これから、よろしくね」

「はあー」

「はい。ん?」


 ウサミミが首を捻った。


「部員を紹介するわね。そっちから二年で副部長の篠倉(しのくら) ひなた」

「よろしくね!」


 さっき僕らの後ろへ向かった女性徒が、部長の横に戻り手を上げた。元気があって快活な人。


「その横が同じく二年の木下(きのした) みどり。同じく二年の八幡(やはた) 美夜(みや)


 それぞれニコニコと挨拶をしてくれる。木下先輩は僕よりも小さい。八幡先輩はお洒落な眼鏡が大人のイメージを醸し出している。


「んで、この子は君たちと同じ一年。仮入部二日目の桜海(おうみ) 優希(ゆうき)ちゃん」

「は、はじめまして」


 照れているのか、モジモジと挨拶をする桜海。


「んで、君らは?」

「僕は小沢(おさわ) 優理(ゆうり)です」

「私は宇佐見(うさみ) 瑞樹(みずき)

「どうもー。これからよろしく」


 部長が笑顔で再び握手をしてくる。でも、今回はその眼が笑っていない。いや、嗤っている。


「あの、今日は見学に」

「うんうん。見学して、そのまま入部でしょ。言わなくても分かってるよ」


 全然分かってないよ!

 ウサミミは二年生三人に話掛けられているし。


「私、ここに入部します」

「え、ウサミミ?」


 いつの間にか陥落していた。


「ユーリも入ろう」


 ウサミミにすら勧誘されるようになった。手を握って、顔を近づけないでよ。恥ずかしいよ。


「えと、ウサミミ。突然どうしたの?」

「だって、この部活毎日やらないんだよ」


 どうやら活動日程からウサミミを切り崩し、そこから敵?の巧みな話術に洗脳されたみたいだった。


「えと、まずは話聞かせてください」


 もうウサミミはだめだ。話し声からするに、もう一人もすでに入部は決めたらしく先輩から話を聞いている。桜海は洗脳されていないと思う。たぶん。


「この部活について説明するから、そこに座って」

「はい」


 空いている椅子に腰掛けると、向かいに部長が座り色々な資料を机に並べた。


「まず創作部は色々作ったりする部だけど、福祉活動みたいなこともしてるの」


 部誌ではなく、アルバムには今までの活動が収まっている。みんな笑顔や真剣な表情をしている女子部員たちは、見ない顔もあるので代々の部員たちだろう。


「元は部員が少なくなった演劇部や文芸部などが集まった部活でね。福祉科があるからか、科の生徒が多かったの。それで、自分たちが作った劇や絵本を披露するのに保育園など訪問することも伝統となって、今はそれを前提に活動しています」


 「子ども好き?」と問われながら頷き、説明を続けてもらう。


「活動日は月・水・金が基本で、ウサミミちゃんはそれが嬉しいみたい」


 すでにウサミミを渾名(ニックネーム)で呼ぶ部長。二人で話す暇はなかったはずなのに。

 あ、ウサミミが何か食べている。


「二週間に一回は保育園や児童館に訪問して、自分たちで作った絵本の読み聞かせだったり、一緒にお遊戯して遊んだり。児童館は小学生も来るから、遊ぶ事が多いけどね」

「えと、絵本は自分で描くんですよね」

「基本はね。でも、得手不得手があるから裁縫してもらったりもあるよ。人形劇とかもするから。向こうが気に入れば絵本とかは寄贈することになってます。行き先は私か副部長が問い合わせているけど、何年も続いているから断られることはほとんどないね」

「すごいですね」


 僕にも紙パックのジュースとお菓子が出てきた。

 部活なのにいいのかな。でも、せっかくだし貰おう。


「あとは、土・日なら買い出し頼むことはあるね。夏休みに合宿とは違うけど、保育園の宿泊行事に泊まり込みでボランティアだったり、児童館の夏祭りの企画だったり。今年は人数が増えるなら、学園祭で演劇もいいわね」

「大体は訪問を基本とした活動ですか?」

「うん。創作部って言う感じじゃないかもしれないけどね。あとは、ハロウィーンやクリスマスに仮装して訪問もするね。この辺りのハロウィーンパーティー知ってる?」


 お菓子は美味しいけど、桃のジュースは温い。文句は言えないけど。


「はい、地元なので」

「そうなんだ。自治体主体なのは知っているね。仮装行列に参加もするけど、事前に仮装して加盟店や電柱にポスターを貼ってお知らせをしたり、新聞やテレビに出たり」

「あれ、先輩たちだったんですね。……って、テレビ!?」

「うん。告知に私たちが起用されるようになったのは、この数年だけどね」

「それ、断ることは……」

「無理。部員少ないし。大丈夫、小さい自治体だから記事も少ないよ」

「えーと、この話は無かったことに」

「この部活になったら、内申書が良くなるよ。考えてもみて。いくら部活だからって、ボランティアや自治体への協力をしているんだよ。例え福祉科じゃなくても、教師の反応は良いものだって」


 なんだか通販や保険の勧誘みたいな手口だけど、そう言われると心が揺れる。


「あと、顧問は訪問時以外はあまり来ないから比較的楽だしね」


 そう言ってお菓子を指差した。そのお菓子をポリポリと食べる。なんか、ウサミミ共々餌付けされてる感じだけど、まったり感は魅力的すぎる。


「はい、入部用紙。考えてみて。仮入部期間もほとんどないし、お得物件ですよ」


 いや、不動産屋みたいに言わなくても。


「あと、そのまま帰るならお菓子とジュース代は払って言ってね。五百円置いて行って」

「お金取るの!?」

「そうだよ。タダな訳ないでしょ。それぞれ持ち寄った物だしね」


 詐欺だ。悪質過ぎる。


「身体で払う?」

「え、いや」

「ウサミミちゃんは届けに記入したみたいよ。桜海ちゃんも」


 五人で談話しながらお菓子を食べているのを尻目に、部長は笑っている。


「ウサミミちゃんは身体で払うことを選んだ。君も身体で払うなら、これに書いて」


 身体で払うって入部のことね。ビビった。


「週三。内申向上。比較的緩いなんて部活ないよ」

「…………入ります」

「まいどー!お一人様、ご入部でーす」

「ありがとうございまーす!」


 なんか、居酒屋っぽいノリで部長と部員が声を出す。なんなの、この部活。


「じゃ、これに」

「はい」


 まあ、実際に悪い条件でもない。子どもが嫌いな訳でもないから、本当は途中から入部を考えていた。


「これでお金払わなくていいですよね」

「ん?元から払わせる積もりはないよ」

「え?だって、さっき」

「あれは冗句。私たちが出したんだし、勝手に食べた訳じゃないしね」

「あれじゃ、騙しているものですよ」

「ごめんね。実際にこっちも必死だったから、怒られても仕方がないね」


 部長に「ごめんなさい」と謝られ、なんだかこちらが悪い様な気がして許す。実害もなかったしね。


「今年は私たち四人でしょ?もし君たちが入部しなかったら、この見学期間をもって休部になる予定だったんだよね。私たちはこの部活が好きだから、続けたくて。でも、こんなやり方は間違えてる。時間がない所に、君たちが来てくれて必死になってしまってね。ごめんなさい」


 部長が再度謝ると、二年生たちも謝罪をしてくる。みんな、この部活が好きなんだね。


「他に生徒は来なかったんですか?」

「君たち以外は、桜海ちゃんだけだね。やっぱり、部活名だけだとはっきりしないみたいで」


 部活案内の用紙も部活名と活動場所しか記載されていない。こんな部活内容だとは僕らも思わなかった。


「部活の説明したら、もっと来るんじゃないかな?福祉科も有るわけだし」

「そうなんだけどねー。少人数が楽なのもあるけど、訪問先が沢山訪れるのも迷惑ってのもある。まあ、行く人数絞れば良いだけなんだけどね。今までは口コミや紹介で部員が来てたのもあるかな」


 どうやら、桜海は二年生の紹介らしい。そして、福祉科にとっては創作部は割りと知られているみたいだった。それでも、見学にすら来ないのは興味がなかったからなのだろう。


「授業でも訪問することはあっても、今年の一年は本当に福祉に興味あるのかな。子ども好きって理由で入学する人出てるはずなんだけどな」


 今まではそんな理由だけでも入部する一年はいたみたい。一年生は部活所属が義務なので、そういう理由で入るらしいけど、二年になると辞める人たちも出るので現在はこの人数にまで減ったとの事。三年に上がって、就職や進学で辞める人はさらに増えると教えてもらう。


「とりあえず、三人入ってくれて休部にならなくって良かったー」


 部長が机に突っ伏しながらジュースを飲んでいる。


「さて、見学期間中は毎日やっているけど帰っても大丈夫だよ」

「あれ、この間閉まっていたような」

「前、来てくれていたんだ。ごめんね。たぶん、訪問スケジュール決めたり連絡してた日かも」

「そうだったんですか」


 なんとも日が悪かったんだね。小麦粉?なんのことかな。


「そんな硬い言い方しなくていいよ。あと、部長とか先輩とかって呼ぶのはこの部だと禁止だから」

「えーと」

「みんな下の名前とか愛称で呼んでるよ。これも仲良くするため。訪問先で敬称だと子どもたちとも壁を作るしね。まあ、その場合は名字だけど」


 いきなり呼ぶのもなんとなく気が退けるけど、一年二人はすでに先輩たちを名前で呼んでいた。これが、男女の適応力の差かな。


「君たちは来週から来てね。その前に、可愛いエプロンだけ買っておいて」

「エプロン?」

「活動中の制服の一つ。子ども相手だから、可愛いのをよろしく。来週、それに名前とアップリケを刺繍するから。忘れても予備はあるけど、買っておいて欲しいな」

「分かりました」


 そして、いくつか話してから僕らは部室を出る。一緒に桜海も帰るみたい。

 いつの間にか鍵は開いていた。気のせいだったのかな。


「えと、改めてよろしくお願いします。桜海優希です」

「うん、よろしくね。小沢優理です」


 ウサミミとはすでに親しくなったのか、自己紹介はしていない。


「それにしても、優希に優理かー。呼びにくいね」

「僕たちのせいじゃないよ」

「ごめんなさい」


 桜海は気が弱いのかすぐに謝った。別に悪くないのに。


「ユーリに、ユーキ。いや、桜海も可愛いから捨てがたい…」


 なにかウサミミがぶつぶつと呟いている。


「その、ユーリさん?」


 おずおずと桜海が僕に話し掛けてくる。ウサミミは放置みたいだ。


「うん?」

「あ、ごめんなさい。いきなりユーリさんなんて」

「別に好きに呼んで良いよ」

「はい。じゃ、ユーリさんで。私も優希って呼び捨てでいいですよ」


 部活の決まりでもありますしと、顔を赤くして話す。嫌な訳じゃなく、恥ずかしいらしい。


「わかったよ、優希。これからよろしくね」

「はい」

「ちょーと!ウサミミさまを無視するなー!」


 ほんわかした空気がウサミミによって壊された。むう。

 そしてウサミミを交えて校門まで話ながら歩き、それぞれ別れて帰宅する。

 別れる際に、日曜日にエプロンを一緒に選ぶ約束をした。二人して笑顔だったので、断れなかったけど、可愛いのを選ぶと言う言葉に力が入っており、若干怖く感じた。

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