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姫パーティは楽しくも楽じゃない  作者: 犬之 茜
生産と借金生活、時々メイン
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開放感と匂いフェチ

 結局また流されるままに僕はヴィーナスとパーティーを組み、ゼメスの挨拶をヴィーナスに言付けてもらい、再びフィールドで落ち合った。


「それで、どうするの?」

「リリっちは予定あった?無かったら、早速オススメの場所に案内するけど。そこで技能の話も出きるしね」


 一度村へ向かったヴィーナスは、流石に服を着用してくれている。

 だが、オススメの場所と言うことは脱ぐって言うことだ。どれだけ脱ぎたいんだろう。開放的なのは理解できるけど。


「うーん、本当はメインやりながら各街で生産覚えるつもりだったんだけど」


 この調子なら、あまり街に入るのは避けた方がいいのかな。なんだか、毎回生産にトラブルがセットなんだけど。


「リリっち、生産職になるつもり?」

「違うよ。でも、覚えられるなら一通り覚えようかなって」

「覚えて損はないしね。アタシは出来そうにないけど。それと、メインやりながらって何処まで行った?アタシらは実装されていた三つ目までやったけど」

「まだ、一個目の手紙だよ。三つ目まで難しい?」

「内容は敢えて言わないけど、ソロでも大丈夫。リリっちなら余裕かもね」


 それを聞いて安心した。ソロになったと思ったらパーティーを組み、メインでそうそうにパーティーを組む必要があるとまたソロでのんびりと進められないしね。


「そっか、街に入るのは極力避けた方がいいけど、ずっとフィールドもキツいし。生産覚えたいリリっちにはストレスだね」

「うん、街入れないのはキツいよ。戦闘したら、水浴びなりお風呂なり入りたいし」

「…………水浴びならできるよ」

「え?」


 ヴィーナスがニヤッと僕を見てくる。


「やっぱり今日はオススメの場所に招待してあげる」

「えーと、なんでその流れ?」

「オススメの場所に小川が流れていて、ちょっとした浅くて溜まる場所もあるから、戦闘なり技能なりの疲れも洗い流せるからね」

「えと、ここから近い?」


 街に入れないならそれは魅力的だ。つい、話に乗ってしまった。


「村と首都の間のフィールドだけど、かなり南に行くね。でも、すぐ側にセーフエリアもあるから大丈夫」

「……お願いします」

「やった!あ、生産覚えたいならアタシがそこまでエスコートしてあげるから、安心してね」

「うん、ありがとう」


 お礼をすると、抱きつかれた。身長差が十センチは高いヴィーナスがお姉さんみたいな感じ。でも、胸は僕と同じくらい。


「うーん、スレッドの紳士たちの気持ちが解る気がする」

「へっ?」

「リリっち、小動物みたいで可愛いからね」

「いや、それだとヴィーナスの方が栗鼠?で小動物だよ」


 栗鼠のような丸い耳とクリンとした尻尾が可愛いよ。


「外見はね。リリっちは、仔犬だし中身がね」

「うーんと、ありがとう?」


 外見と中身が一緒ってことでいいのかな?よく分からないけどお礼を述べると笑われた。


「リリっちにはそのままでいて欲しいね」


 なんだか、オリヒメにも言われた事があるような台詞を言われてしまった。なんで?


「さて、行こうか。リリっち時間は?」

「んと、リアルなら十二時まで大丈夫だから、あとこっちの時間で七時間ちょいかな。時間がややこしい……」

「慣れるしかないけど、アタシらはプリハ時間で言い合ってるよ。スレッドじゃ半々だけどね」

「なら、こっちの時間で言うようにするよ」

「リリっちが分かりやすい方でね。じゃあ、走って行こうか」


 ヴィーナスが走っていく。って、速いよ!そんなに遠いの?


「待って!」

「招待するけど、リリっちはアタシと似た構成だから大丈夫!」


 やや追い付いたと思ったら、またスピードを上げて引き離されてしまう。なに、誘う気があるの?


「ほら、速く!」


 僕よりも素早さにステを振っているらしいヴィーナスとの距離は縮まらない。マナー違反のトレインも、モブが遅いせいですぐに僕らは引き離すけどヴィーナスには追い付ける気がしない。


「もうっ!」


 《獣走》を発動。すぐに歩方の襲歩(しゅうほ)に切り替えて風を切る。


「リリっち!本当の犬みたい!」


 なんとか追い付いてからは、駆歩(かけあし)でヴィーナスと並走すること三十分。視界の先に林が見えてくる。


「リリっち、あの林の手前だから少し向き変えるよ!」

「うん!」


 走っている最中に《獣走》がレベル3に上がり、速度が上がった。なんだか、階位を手に入れてから獣系が上がりやすい。


「ここだよ」

「はっはっはっ」


 スタミナが三割くらい減っていた。荒い息を吐きながら、取り合えず喉が渇いた気がしてそのまま小川に顔を着けて喉を潤す。今までは喉が渇く感じもなかったのに、空腹度に影響しているのかな。


「リリっちが完全に犬……」

「ぷはっ!あー、疲れた」


 川面から顔を離し、そのまま後ろに倒れる。


「風が気持ちいいよ。……あれ、風も感じるくらいに実装されてる?」

「リリっち、裸になるともっと気持ちいいよ。それと、ようこそ。アタシの特等席へ。さ、ほらほら。約束だしね」

「んー、確かに気持ちいいかもねー」


 あー、風が冷たくて気持ちいいね。

 ヴィーナスは早速脱いでるし、確かに服なんて邪推かもね。


「草も気持ちいい」

「でしょ。リリっちなら気に入ると思った」


 たしかに、服なんて着てたら馬鹿馬鹿しいかも。…………あれ、なに普通に脱いじゃったんだろ。あれ?

 でも、今さらだし、ヴィーナスしかいないなら大丈夫かな。


「リリっち、写真撮っていい?」

「ん、いいよー」


 なんか、些細な事なんてどうでも良いような気がしてきた。このまま寝ちゃいそう。


「リリっち、リリっち」

「…………んあ?」

「そのまま寝るからビックリしたよ」

「へ?」


 あれ、薄暗い。寝ていた?


「今、何時?」

「あれから二時間くらいかな。もうすぐ完全に日が落ちるね」

「ごめんなさい!」

「いいよ。それだけ気に入ってもらった証拠だしね。ここだと、裸で寝ても風邪引かないし」

「あー、そう、だね」


 いつ、服を脱いだか記憶にない。風が気持ち良くて、それから……覚えてない。


「服着よ」

「えー、着ちゃうの?もう?」

「えと」

「水浴びもまだだよ」

「着ないよ。あはは」


 せっかくここまで来たんだ。水浴びしないなんてもったいない。


「そこが、ちょっと砂地になっていてオススメなんだ」

「あ、ちょっと待って!」


 ゼメス講習会二日目に習った事をここで試してみてもいいよね。ヴィーナスなら、大丈夫そうだし。

 講習会二日目には、爪や牙の手入れを習った。武器よりも圧倒的に耐久度があるらしいけど、手入れをしないといずれは、爪が割れたり牙が砕けたりするらしい。そこはリアルに似ている。手入れ用品は雑貨屋で格安だったので、さっそくやっている。身体の一部なので、耐久度が見えないので定期的にしないと。

 それとは別に、僕の《臭気探知》に影響するアドバイスも貰っていた。

 シーツに染みた匂いやベモルの毛で覚えるには数分も臭いを嗅ぐ必要がある。

 抱きついたりして、じかに嗅ぐ方が匂いを覚える時間は速い。体感で一分。

 でも、ゼメスが教えてくれたのは、圧倒的に速い。それ故にハードルも高い。動物番組で見た行動をする必要がある。

 それでも、服越しだとやや時間が掛かるらしい。だけど、ヴィーナスは今裸。すなわち、直に嗅げる。

 僕の趣味じゃないけど、情報を検証する必要はある。いつ、急に必要になるか分からないから。ヴィーナスなら、理解してくれるはず。


「ヴィーナス」

「なんか、怖いよ」


 何かを察知したのか、ヴィーナスが一歩さがる。それに合わせて、僕は一歩踏み込む。


「協力して。すっごく大事なことだから」

「えーと、リリっちに必要なこと?」

「うん。だから、お願い。痛いことはないから、ジッとしてて。すぐ、終わるから」

「なんか言い方がアレだけど、大丈夫なこと?」

「うん。僕に任せて」


 匂いを嗅ぐだけだから、すぐ終わるしね。


「わかった。リリっちを信じるよ」

「ありがとう」


 強張る身体をギュット抱き締めるヴィーナスがなんだか可愛い。そっと、ヴィーナスの腰に手を触れながらゆっくりと背後に回る。両手でヴィーナスの腰を支えて、僕は膝間付く。そっと、鼻をお尻の割れ目に挿し込み、クンクン、スーハースーハー。

 よし、覚えた!やっぱり、圧倒的に速い。

 その瞬間、支えを振りほどき反転したヴィーナスに思いっきり回し蹴りを喰らった。


「ぐべっ!ばぼっ!」


 小川に着水した僕は一瞬何が起きたか把握出来ずに、顔だけ溺れない様にあげる。うわ、LF二割減ってるよ。


「リリっち、この変態!なにっ、リリっちはそんな人だったの!ド変態!」


 なにやら、腕で身体をガードしているヴィーナスが喚いている。全裸なヴィーナスが変態発言しても、説得力に欠けると思うけどな。


「あ、アタシの、その、お尻の匂い嗅ぐなんて!変態!匂いフェチのド変態!」

「え?」


 あ、そっか、いきなりお尻の匂い嗅ぐなんて慌てるよね。なんとか言わないと。


「えーと、ヴィーナスの匂いは甘酸っぱくて良い匂いだったよ?新鮮な果物みたいで、美味しそうだったから食べたいの我慢するくらい。だから大丈夫だよ」


 ん?なんか変だけどフォローになったよね。臭いって言わなかったし、実際にお尻の匂いまでは実装されてないみたいだし。セーフだよね。


「あ、あ、あー!リリっちに嗅がれた。美味しそうって、もうヤダ」

「あれ?どうしたの?良い匂いだったんだし、ヴィーナスのならいつまでも嗅いでいたいんだけど」


 フォローをさらに付け足しながらヴィーナスに近付くと、より警戒しながらも顔を赤らめて泣いていた。


「リリっち、責任取ってくれるの?」

「へ?なんで、そうなるの!」

「匂い嗅いだ上に、あんなこと言ったくせに遊びだったの?」

「いやいや、遊びじゃなくて大事な事だったよ?」


 話が噛み合わないまま、変な言い合いが暫く続いた。


「技能の検証ならそう言ってよ」

「うん、ごめんなさい」

「いきなり嗅がれたら恥ずかしいでしょ?」

「うん。本当にごめんなさい」


 あのあと、紆余曲折があってヴィーナスに反撃されて全身を嗅がれてしまった。そのお陰で、ヴィーナスも《嗅覚強化》《臭気探知》《嗅覚追跡》と一通り修得するに至った。うん、恥ずかしすぎる。


「……それで、リリっちは、またアタシの嗅ぎたい?」

「えーと」


 ここはなんて返せば良いんだろう。どっちにしても微妙だけど、あまり傷付かないほうがいいはず。


「うん。もっとじっくり、僕にしたみたいに全身を。ヴィーナスの匂いは好きだから」

「あ…………その。うん、リリっちがしたいなら」


 …………なんか、空気が変なんだけど!なんか、顔を赤くして、そんなこと言われたら告白みたいだよっ!


「えーと、ありがとう?これからもよろしく?」

「うん。あ、次は水浴びしてからにしてねっ」


 そう言ってヴィーナスが小川へ入り水浴びを始めた。

 よく分からないけど、嫌われないで良かった。

 そして、結局そのまま微妙な空気を纏い水浴びだけをして解散となった。

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