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姫パーティは楽しくも楽じゃない  作者: 犬之 茜
生産と借金生活、時々メイン
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大型アップデート

 ワールドサーバーのオープンに合わせて、日曜日は一日ログインすることが出来なかった。今までの日本先行期間はプレイヤー人数の把握とそれに関するサーバーの負荷テスト。各種不具合やトラブルなどを精査する期間でもあった。

 βテストよりもプレイヤーは圧倒的に増えた為、サーバーダウンを避ける意味合いもあり、機能の幾らかはアップデート後に順次開放していくことは販売以前より公式サイトにて説明がされていた。

 ゲームが行えない日曜日は、すでにクラスメイト二名と桜の四人で服屋さんなど巡る約束をしていたので、暇を弄ぶことはなかった。

 レディース専門の服屋さんやランジェリーショップなど、女性にしか縁のない店にも連れ込まれた。これ、セクハラだよね?危うく買わされそうになったけど、試着だけで辛うじて回避できた。レディース物を着ることに抵抗を感じなかった僕も僕だけど、あちらじゃワンピース姿が普通になってしまっているので単に楽しめた。

 雑貨屋では、なけなしのお金を使いアロマを購入。ラベンダーの香りが落ち着くね。

 買い物でショックだったのが、僕のおこづかいの少なさが判明したこと。桜なんて僕の倍も貰っていた。


「はー、今日から課金ガチャも開始だったよね」


 課金する予定はないけど、アップデートより課金ガチャ限定のファッション装備が手に入るようになったらしい。これでプレイヤーの外見に違いが現れると思う。残金が六千もない僕には関係ないけどね。

 先月末におこづかいを貰い、ゲーム類とカードを買い、友達とカラオケや昨日のアロマ購入で出費が激しい。入学祝いとして、昨日臨時で五千円貰わなかったら遊びにも行けなかった。課金なんてもっての他。


「とりあえず、ログイン前に情報集めなきゃ」


 ログインしてから変更点を調べてタイムリミットを消費するより、前もって複数のサイトを巡るほうが情報は集まるもんね。あちら側からだと、公式サイトにしかアクセス出来ないし。あちら側から書き込みする場合はプレイヤー名が表示されるから、嫌煙している人もいるからね。


「一番大きいのは、やっぱ進行時間が二倍に引き伸ばされたことだよね」


 今までタイムリミットは六時間でリアルと時間の流れも同期していたけど、これからはあちら側の時間の流れが倍になる。タイムリミットがリアル時間で六時間、『プリハ』内で十二時間とややこしくなる。その分、遊べるようなものだから嬉しいけどね。

 元から『イリューティス』は、倍速を前提にした設計だったし、『プリハ』も倍速の民間器機初のゲームとしても注目されていた。

 完全五感リンクが技術確立と、それに伴う副作用のテスト。なにより、倫理観によって民間器機に使用が認められるまで時間が掛かった。民間にフルダイブ技術が流れる頃には、倍速技術の確立が研究され、一部で運用が始まった。そして、ようやく二倍速ならば民間に流用しても差ほど副作用はないことが認められた。その第一陣が『イリューティス』であり、『プリハ』らしい。

 ただ、元からの副作用であるVR酔いが現れやすくなったり、時差ボケや思考の加速化があるみたい。

 思考の加速化は、『高速から下りた後の、車や景色がゆっくり流れるような錯覚』とのこと。

 他には『ジェットコースターから下りた後の浮遊感』みたいなのがログアウト後に感じる人もいるとのこと。

 それでも、症状が出ない人は出ないみたい。こればかりは、ログインしてみないと分からないね。

 次にギルド実装。すでに公式含めて募集のスレッドが立ち上がっている。まだ、詳しいギルド設立手段は未発見だけどプレイヤーは一人でも多く取り込もうと盛り上がっている。そういえば、オリヒメも作るような事を言っていたかな?ロリ限定のギルドを。

 あとは、さっきも思っていた課金ガチャ。日本人はガチャが好きだから、そういう仕組みを取り入れたらしい。その文化をワールドサーバーにも持ち込んだ。首都の一画にガチャ屋さんがあるみたいで、すでに課金組は挑戦しているらしい。

 ファッション装備なので、見た目変更だけの攻略には優位とならない仕様だけど初期ファッションと僕のワンピース以外は情報が出回っていないので需要はあるみたい。他には特定アイテムを使用し、ファッション装備の頭部分が当たりとなるガチャ。リゼを使用して当たりなら元金以上の水薬(ポーション)が出るガチャがある。いつかリゼガチャはやってみたいけど、ハズレの素材しか出ない気がする。

 その他は細々と、ウィンドウのカスタマイズが細かく設定出来るようになったり、特定アイテムが出てきたり。年代限定のダンジョンが開いたり。とにかく、お祭り騒ぎでサイトで情報を集めるのも大変。


「やっぱり、実際に行ってみるしかないかなー」


 現在は夕食を食べた後。八時になろうとしていた。

 今から入ったら、リアルで四時間、あちらで八時間は過ごせる。まだ、宿題がないだけ長く居られるのは嬉しいね。明日にでも部活決めないと。



     ***



 ここ数日はゼメスの家で暮らしている。首都など大きな街には宿屋が営業しているが、この農村にはそんなものはなかった。

 今までは宿屋を利用するプレイヤーもほぼいない状態だったが、倍速となった現在は宿屋を利用する事が増えると思われる。それだけ出費も増えそうだと溜め息を吐いた。


「今は……夕方四時くらいなんだね。慣れるまで時間掛かりそう」


 視界に入るように設定していた時間表記にはリアルとこちらの時間がそれぞれ表示されていた。今まではリアル時間だけの表示だったけど、早速変化した事を実感する。

 メニューリストや常時表示される簡易情報などのカスタマイズがより細かくなっているのを、確認しながら自分が見やすいように整理していく。

 簡易情報の左上には自分のLFやMSが表記するようにしたが、そこにも謎なバーが現れた。


「スタミナ……えっと、ヘルプヘルプ。あった。活動限界?半分になったら空腹感、三割で疲労感、二割で睡魔。ゼロで過労死で死亡って。睡眠取っても、食事を摂らなかったらこちら側で二十四時間経過したら餓死」


 今までも疲労感は感じることはあったが、それは脳が認識して感じる実際の感覚だった。それに合わせて、別にシステムでも空腹感や疲労感などを新たに取り入れたらしい。バーがあるだけで、数値の表記はないのでどの行動でどれだけ減るかの検証も難しい。しかも、種族やレベル、階位や技能などによって変動するみたい。


「考えても仕方ないよね」


 それよりも外に行ってみよう。

 手早く、視界の左下に簡易ログ、右上に時間系とチャットやメールのアイコン表示、右下に映像チャットのワイプを設定する。ワイプはタッチすることで拡大できる。マップ表示があればしたかったが、マップ機能がないのは以前のままだった。迷わないようにしなきゃ。


「あれ、ゼメスいない?」


 勝手にゼメスの部屋を覗き、家を見て回ったが姿はなかった。


「いってきます」


 自分の家ではないけど、ついそう言ってゼメスの家を後にする。

 振り返り、歩こうとした所を幾つもの視線に縫い付けられた。そして、囲まれた。


「なあ、俺のギルドに入らないかっ」

「ああ?お前後から来て何言ってやがる。先に待ってたのは俺たちだぞ」

「ね、私たちの所にこないかな?女の子ばかりだから楽しいよ?」

「リリちゃん、これ上げるから私の所に来て?」


 男同士で言い争うプレイヤー、僕の頭を撫でてくるプレイヤー、何かの果物をトレードなしに僕に渡そうとするプレイヤーなどに揉みくちゃにされ身動きが取れなくなった。家にも避難できない。

 ギルドの勧誘みたいだけど、なんで僕なんか誘うのかな?見たところ、面識のない人ばかり。


「リリっち、こっち!」


 人垣から手を捕まれて、引っ張られた。


「わ、わっ!」


 他のプレイヤーより小柄な僕は、手を引かれるままに人垣をすり抜ける事が出来た。こんなに簡単に抜け出せたの?


「リリっち、久しぶり。取り合えず走ろう」


 人垣から抜け出した時に、ようやく手を引いた人物が視界に入る。フレンドとなったが、一度しか会ったことのないヴィーナスがそこには立っていた。

 一瞬の笑顔を引き締めて、問答無用に僕を連れて駆け出す。僕らの後ろでは、未だに言い合いをしているプレイヤーたちが残された。


「はあ、はあ」

「ふう、なんとか抜け出せたようだね」

「うん、あり、がとう」


 スタミナバーが僅かに減っていた。村にいると再び補足され、勧誘に合うとフィールドまで逃げて来た。


「同じ仲間だしね」

「へ?」

「やっと、二人きりになれた」


 顔を赤らめているのは走ったせいだろうか。


「って、何脱いでるの!」

「リリっちも好きな癖に。前に約束したからね。オススメの場所じゃないけど」

「いやいや、露出する誘いは勝手にしたんじゃないの!僕、約束してないよ!」

「えー」


 下着姿で阻止したヴィーナスが不満顔のまま、僕をジット見てくる。


「本当は脱ぎたいんでしょ」

「だから、僕にそんな趣味ないよっ!」

「でも、フィールドで脱いだら気持ちいいでしょ?」

「……う、まあ。少しは」

「ほら、仲間!だから、遠慮しなくてもいいんだよ。アタシらしかいないんだし」

「えーと、あ、そだ。オススメの場所で脱ぐって約束だったよね。だから、今は我慢して?」

「うーん、まあ、それでいっかー」

「じゃ、服着よ?」

「なんで?このままでいいよ」


 ヴィーナスは下着姿のまま背伸びをする。反り返った胸元が強調される…………ことはまったくなかった。

 うーん、女の子の下着姿見ても特に何も感じなくなってる?むしろ、胸ないからホッとしただけだし。巨乳じゃなくてよかった。また、窒息させられたくないし。って、なにジッと見ちゃってるの!


「リリっちは胸も仲間」

「うっ、別に小さくていいもん」

「だよね。大きいと動く時に邪魔だしねっ」


 何故か両手をブンブンと握って振られる。別に仲間じゃないんだけどなー。


「それで助けて貰ったけど、ヴィーナスはどうして村にいたのかな?」


 しばらく、ヴィーナスの胸があっても良いことはないって話を聞いていたが、さすがに状況を知りたい。

 ハジリ村は特に寄るような拠点ではなかった。生産を覚えたり、クエストで寄る程度で滞在するような場所ではない。それは宿屋がないことからも分かる。

 それなのにヴィーナスがたまたまクエストなりで寄っているとは思えなかった。

 奇しくも、他のプレイヤーがゼメスの家に僕が泊まっていると突き止めて待ち伏せしていた状況が僕を警戒させるには充分。

 

「誤解されるのは避けたいから言うけど。本命はリリっちと気持ち良くなるって約束を果たす為だから」

「えーと、あはは」


 どう返すか分からず、乾いた笑いだけが口から溢れた。


「それで、シアからついでにってギルド勧誘」

「やっぱり」


 はー、と溜め息しか出ない。再度そっちは建前で、同志と友好を深める為だと説得されるも、心境は複雑。


「リリっちは解ってないね。アタシらは実際にパーティー組んで実力を知っているだけマシだよ」

「どういうこと?」

「リリっは今じゃ獣人の中でも有名人だからね。この間の生中継みたらね、色んな趣味の人は集まるよ。リリっちはスレッドの中じゃマスコット化してるからね」

「なにそれ」


 いつそんな扱いになったの?


「有名人がいるギルドとして箔は付くし、簡単に自分たちも注目されるから。男女ともにリリっちを可愛がりたいんだよ。子供として…………ペットとして」

「へ?今、なんて言ったかな」

「リリっちは可愛いから、皆が愛でたい。出来れば、すぐ側に置いて飼い慣ら……遊びたいってスレッド民を始め、色んな人に目を付けられているって状況」


 なんかオリヒメ的思考が聞こえたような気がするけど、気のせいだよね。


「それで、ヴィーナスたちも?」

「だから、アタシ自身はフレンドのままでもたまに趣味を共有出来たらいいだけなんだよね。でも、シアはリリっちとオリヒメの実力を見て、仲間に引き入れたいって考え。無理だとしても、有名人となったリリっちが困ってるはずだから、助けてあげたらってアタシが来た訳。中継とその後の動きでまだ滞在しているのは知ってたしね」


 shiaは以前の戦闘から実力を知った事もあるが、ヴィーナスの性癖をLiLiに押し付ける気で送り出していた。二人が揃った相乗効果に悩まされるとまでは考えてはいなかった。


「僕のプライバシーは……」

「しばらくはないでしょ。でも、時間が経てば興味は他に移るでしょ。リリっちがまた何かしなければね」

「はあー」


 何回溜め息を吐いただろう。もう、溜め息しか出ない。


「しばらくはソロは控えた方がいいよ」


 そう言って、パーティー申請が届いたが許可を躊躇う。


「そのままギルドにお持ち帰り?」

「それも魅力的だけど、単純にリリっちと冒険したいのもあるしね。二人も別に仲間集めしてるし、リリっちと組んでいても大丈夫って言われたからね」


 話が本当か悩みながら、オリヒメに相談してみようとフレンドリストを開いてログインしていないことを確かめて、再び溜め息。大事な時にいないと思い、考え直す。そんなんじゃだめだ。ソロになったんだから、自分で考えないと。それに、ログインしていないことを非難する資格もない。


「無理にパーティーを組む必要はないけど、村に帰っても、他の街に行っても勧誘の嵐だよ。アタシがいれば、少しでも諦めるプレイヤーはいると思うな。もう組んだと誤解させる程度には、露払いできるはず」

「……強迫?」

「事実だよ。それに、リリっちなら《格闘》を覚えると思うからアトバイスやパッシブを教えてあげられる。《格闘》は身体のみでの撃破が条件だから、マイナス補正があってもクローも身体の一部だから覚えるはずだしね。あと、蹴りも確かしてたよね」

「うん。よく、あの時みていたよね」


 僕と似た戦闘スタイル。あの時、僕も観察したようにヴィーナスも観察していたのかな?確かに、考えていた技能だけど、実際に所持しているヴィーナスからのアトバイスは聞いてみたい。


「じゃあ、お願いします」

「よろしくっ!」


 パーティーになったと同時に背中を叩かれて噎せてしまう。

 こうして、ソロ活動もほとんどしないうちに暫定パーティーが結成された。

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