ゴーレム集団
デスペナした翌日。僕らは転移と疾走を経てボス部屋手前のセーフエリアに到着した。
オリヒメと話したが現状戦力では、どう討伐するかの良案が二人して浮かばなかった。べつに、頭悪くないよ?
「昨日の反省から、改善出来ることはやったから頑張るよ」
「なんとかやるよ」
オリヒメの改善点は防具の更新。首都よりも『アナスル』のほうがグレードが上だったので、武器よりも防具を優先して強化された。それは昨日、囲まれてから一方的な蹂躙を受けていたためで、生存率を上げる必要があったから。ただし、重量のある鎧類は必然的に素早さが低下してしまう。そこで、武器よりも弱いが安い《つむじ風》の魔術を補助で修得したみたい。また、昨日の作製ではデスペナの影響もあり、質より量で勝負したようで指輪の防御力が合計8がプラスされている。効果もない指輪だが、底上げに於いて装飾品は重宝していた。
「リリはまた魔術中心でお願い」
「ラジャー」
一方の僕は昨日に続き魔術による攻撃と回復が主体。魔導具による補正増加以外に、以前行った早口言葉が影響したのかパッシブ《詠唱速度上昇(小)》を修得していた。まだ、五百回超えた位の特訓だったのに。ちなみに、素振りによるパッシブはまだ修得には至っていない。他にも知らない内に修得したものあったけど、今回は活躍がないと思うので割愛。
基本は魔術による後衛だけど、場合によっては前にも出る。昨日の失敗点の一つに土属性の短剣を装備していたの問題だった。マッドゴーレムは土属性なのに。しかも、毒も効きにくいと思っているので、今回はクローのみ。短剣よりも攻撃力は低いとは思うけど、身体の一部だからかクローやファングの攻撃力は不明。自身の攻撃力だけとは思わないけど。ヴィーナスのように拳を使うことも視野に入れているけど、僕の役割は後衛なのでボスのみになるまでは前衛に出る気は今の所はない。
「さて、いくか」
「うんっ」
オリヒメに二歩離れて横に並ぶ。二メートルも進めば、次々にポップする取り巻きたち。最後にボスであるステンレスゴーレムが姿を現した。
「《つむじ風》」
「私もいくか。《つむじ風》」
初めは二人による魔術でマッドゴーレムの数を減らす方針。オリヒメの魔術は修得したばかりな上に、ステも振っていないので一体を足止めする程度。
ダンジョン通路のマッドゴーレムよりは強く一発という訳にはいかないけど三発程当てれば倒れてくれる。魔導具の補正と、パッシブによる回転率の高さで昨日よりも早く一体ずつ沈める事が出来ている。今回は、各軟膏も購入しているので魔術も遠慮なく放つことが出来るのも大きい。
「ようやく一体か。リリ、かなり近付いて来たから任せる」
僕が五体でオリヒメが一体を倒したあとに、オリヒメがロックゴーレムに向かいながら魔術を放っていく。
「マッドゴーレムは引き受けるね」
マッドゴーレムがオリヒメに向かう前に、残り四体に一発ずつ魔術を当ててヘイトを稼ぐ。マッドに足を絡め取らることを知ったので、前衛には近付けさせないようにする。ここまでしか対策が打てなかった。ロックゴーレムは強化版だけど、動作速度までは早くなっている訳ではなかった。ステンレスゴーレムは総力戦。マッドの次に、ロックを討伐するだけだ。ただ、ブレイクで増援を呼ぶ可能性もあるとオリヒメが言っていたので、気はまったく抜けない。抜くつもりもない。
「次っ」
また一体を倒し、残り三体。オリヒメは回避をせずに両手剣での攻防と魔術で二体同時に相手をしている。時折回復を飛ばすだけで、強化した防御は揺るぎない。
残りのロックゴーレムが僕に向かって来ているので、距離を取りながらマッドに魔術を絞る。
「あと、にっ!」
ステンレスゴーレムが軽やかな動作でロックゴーレムの背後から腕を持ち上げている。このままなら、仲間も巻き込みそうなのに関係なさそう。
オリヒメも常にステンレスゴーレムの動作を視野に入れているはずなのに、まだ動かない。
「こいっ」
腕が降り下ろされた。だが、ロックゴーレムの肩に衝突して勢いが削がれ、その隙にオリヒメが半歩横に移動。
ロックゴーレムの一体の右肩が崩れ落ちた。ステンレスゴーレムの腕も少しひしゃげている。防御力は低そうなのは、軽金属故なのか。オリヒメはその隙を見逃さない。
「《ソルソニック》」
サイドステップから、ロックゴーレムとステンレスゴーレムを巻き込んで範囲業を放つ。ロックゴーレムにはさほど効いて無さそうだが、ステンレスゴーレムの左腰部に亀裂が走っていた。範囲業は威力は低いと聞いていたのにだ。
「マッド終わりっ!ロックいくよっ」
オリヒメの様子を見ながらも、距離を取りながら一方的にマッドゴーレムの排除を完了させる。
僕に近付いていたロックゴーレムから順に相手をするつもり。たぶん、十発も当てれば一体ずつ倒せそうだけどMSが心配なのでバッグから軟膏を取り出して手と首に素早く塗りつける。
軟膏は回復までに時間がかかるが、使いきるまでは小分けに使う事が出来るのが利点。
「《つむじ風》」
先程よりも発動が速い。魔術のレベルでも上がったのだろうか。この連戦においては嬉しいことだね。
「あと一体!」
僕に向かってきたゴーレムは残り一体。そこで、一気に間合いを詰めて左右のクローで切り裂きながら魔術を放つ。攻撃力が高くても、当たらなければ問題ないね。
「《スラッシュ》」
僕が業を放つ間に、オリヒメも範囲業を放ちロックゴーレムが一体倒れた。
「ゴゴゴオォォォ」
「リリ!ブレイクくるよ。警戒!」
マッドゴーレムが五体。ロックゴーレムが五体の合計十体が新たに出現。しかも、ステンレスゴーレムを中心に放射円状に現れたものだから、オリヒメが囲まれた。
「リリ、すぐそいつ倒してくれっ。私は回避に専念する」
オリヒメの予想通りの増援だったからか、焦りは見られていない。僕はアワアワしてるけど、ねっ!魔術を放ち、背後に回って両手両足を使ってのクローを叩き込む。たまに拳を撃つけど効いた感じはなかった。スキルにあるのかな?
「《つむじ風》」
どうやら、オリヒメも回避中心だけど合間に魔術でマッドゴーレムを狙っているみたい。だけど、やはり魔術の威力は僕よりも低い。
「っと、危ない」
チラチラとオリヒメを観察しているせいで、稀にゴーレムの腕が掠めていく。うん、僕も攻撃力自体は貧弱だからおあいこだよね。
いつまでもオリヒメにボスを含めて十二体も任せられないので、魔術を続けて放ち僕を狙ってきたゴーレムは全て倒す事が出来た。
「今からマッド引き受けるね!」
マッドにそれぞれ一発ずつ魔術を放ちヘイトをこちらに移す。重なるようにいたロックゴーレム一体も釣れてしまったけど、これくらいは仕方がない。
あとは、先程同様に始末していった。ブレイク前よりも回復するペースは上がったけど、オリヒメはまだ余裕がありそうだったので、自分のノルマを確実に達成するだけだった。
「残りLF三割!もっかいブレイク!」
五割でブレイクがあったので、もう一度ありそうだとは思っていたけど嫌な予想は当たってしまった。この段階でフィールドボスより格上。イベント中のグランラットよりは弱く感じるけど、新たに現れたゴーレムは違う種類だった。
「アイアン……ゴーレム」
数が少ないのが助かるけど、ロックゴーレム三体にアイアンゴーレムが二体という、見た目からも防御力が高いモブが五体も出てきてしまった。
幸いなのは、高機動力のステンレスゴーレムの防御力が低いこと。隙を突いてオリヒメが範囲業を使用していたら、回避することも多いが気が付いたらこれだけ削れていたのは予想外。
「リリはロックと出来たらアイアン一体!私は、先にステンレス狙う」
「うんっ!《つむじ風》」
立て続けに魔術を放ち此方に狙いを反らす。
ボスを倒したら他のモブも消えるゲームもあるけど、ここはどうだろう。流石に軟膏もキツい。
「ならっ!」
僅かな時間にインベントリから実体化した軟膏をバッグに詰めて、そして駆け出す。
接近中に魔術を放ち、緩慢な攻撃を回避してすれ違い様に業を撃ち込む。絶えず流動するため、一体ずつの集中攻撃は出来ないけど、攪乱も含めてこれが最良と判断したのだ。
斬り付け、魔術を放ち、次へ移動して攻撃を繰り返す。リチャージが間に合わなければ、通常攻撃で対応していく。
「はあ、ふう、残り二割!リリ、押さえといて」
オリヒメの大声に、一瞬視線をやる。ロックゴーレムはもう見えない。あちらは、アイアンとステンレスが各一体みたい。
「がんばんなきゃ」
そして、僕の動きに合わせて移動し攻撃を繰り出すゴーレムが遂にお互いの攻撃圏内に入り、お互いを殴った。その隙間から僕は抜け出す。うん、小さいのはいいねっ。
アイアンゴーレムに殴られたロックゴーレムは右半身を大きく抉られ動きを止めた。そして、アイアンゴーレムも腕が抜け出せないのか、反対の腕で残骸となったロックゴーレムを攻撃している。
「ゴーレムは核があるって聞いたけど、それに当たったのかな」
疑問に思ったけど、今の好機を逃す訳にはいかない。アイアンゴーレムの背後から業を放ち、離脱と共に魔術をぶつける。先にロックゴーレム二体を倒した方が楽そうだけど、攻撃する機会があるなら少しでも削らなきゃね。
「ラスト!」
オリヒメが業の連撃を打ち込んだみたいだけど、抜け出したアイアンゴーレムの攻撃を避ける為に見ることが出来なかった。そして、ステンレスゴーレムが倒れたことをオリヒメが報せてくれる。
「消えないかっ。なら、掃討戦だ!」
オリヒメが自分に貼り付いていたアイアンゴーレムに正面から斬り込んでいく。
「《スラッシュ》!」
僕の方も残りロックゴーレムとアイアンゴーレムが各一体。アイアンゴーレムのほうがLFが低いけど、ロックゴーレムのほうが幾らか防御力が弱い。なので、魔術をアイアンゴーレムに当てながら、クローをロックゴーレムに向ける。二体同時攻略。緩慢なモブ相手じゃない限り無理な戦闘を仕掛ける。軟膏も尽きたことだしね。魔術もあと三発しか放てない。回復をしたら、攻撃魔術は使えなくなる。
「でも、もう終わりっ」
業と通常攻撃を交互に蹂躙する。単騎なら、素早さの格差がありすぎるので、一方的な状態。もちろん、周囲を警戒しなが、魔術を撃つけどね。そして、三発の魔術も放ち終わる。
「じゃ、ばいばいっ」
ロックゴーレムが倒れる前にアイアンゴーレムに向けて駆け出し、すれ違い反転。
「《スラッシュ》」
がら空きの背後からの攻撃に業を撃ち込むと、あっけなくアイアンゴーレムも倒す事が出来た。
どうやら、かなり魔術で削れていたみたいだ。何発かはモブの攻撃もあるけど、フレンドリーファイアが発生するということは敵にも発生するみたいで、これからの戦略の幅も広がりそう。
「お疲れ」
「あ、お姉ちゃん。結局ボスの相手出来なかった」
ドロップは入っても、一回も攻撃していないので経験値も熟練度もボスからは貰えていない。かなり勿体ない。
「まあ、その分かなりの取り巻き倒してくれて助かったけどね」
どちらがより多く経験値等が入ったかは不明だったけど、ドロップは手に入ったのでまあいいかな。
「依頼品だね」
「あと、そのまんまステンレス鉱がドロップか」
エンテの依頼品の核はここのボスのものだったみたいだ。
「じゃ、残りは水晶だけかな」
「それも目処着いてるけどね」
ボス部屋はかなり広い。そりゃ、あれだけのモブが制限を受けない広さを確保しなきゃいけないし、図体が大きく機動力も高いステンレスゴーレムがいるのだから当然の広さかもしれない。
さあ、ボスも倒したしあと少し。
気合い入れて頑張ろう。