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姫パーティは楽しくも楽じゃない  作者: 犬之 茜
名残し友への捧げ物
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廃鉱のゴーレムと指輪の改良

 ログインをすることを少し抵抗に思いながら、今日も別世界に降り立つ。いや、地面に横になっていた。


「ふんんー」


 昨日そのままタイムリミットが来たせいか、セーフエリアにて緊縛された状態で。

 春休みも残り僅かになってきたので、クエストを終わらせる為にこうしてログインしたが、今日は待ち合わせ時間を相談していなかった。

 猿轡のせいで、音声入力によるログアウトも出来ずに三十分もこの体勢で過ごすはめに泣きたくなる。この状態を脱しないと、次回も状況は変わらないと最後は悟って晴天の中、ゴロゴロ。


「…………リリ。やっぱり縛られてるの好きなんだね」


 オリヒメが現れると、身体が硬直する。昨日の情景に身体が火照る。

 しかしスクショを撮るだけで、特に何もされずに開放された。無断のスクショもマナー違反だけど、もう慣れてしまった。良いことじゃないけど、いちいち言うのも疲れたんだ。


「はー、やっと動けるー」


 あのまま放置され、知らない男性プレイヤーにでも発見されたらと思うとゾッとする。とりあえず、嫌なこともろもろ伸びと深呼吸で吐き出す。


「いやー、ごめんね。つい楽しくなって残り一時間もアレして。スクショもムービーも良いのが撮れてたよ」

「そう。じゃ、早く行こう」


 ここは深く突っ込まないのが吉だ。ムービーが心配だけど、オリヒメだし。僕を不幸な状態にはしないよね。


「……だいぶ調教できてきたなー」

「ん?何か言った?」

「なんでもないよ。リリは今日どれだけ先に来てた?」


 不吉な言葉が聞こえたような気がしたが、気のせいだったみたいだ。


「三十分くらいかな」

「なら、あと五時間くらいか。ロックゴーレムまでは速攻。毛玉は私だけでやるから。リリもいい?」

「むう。いいよ」


 グレイポゥの討伐はしたくないけど、エンテの依頼品だと言うことも分かっている。オリヒメもそこを理解して、僕に討伐を任せないのだろう。


「じゃ、さっそくゴー!あ、昨日の分配はまとめてしようか」

「うん、それでいいよ」


 入り口に戻ってきてしまったので、攻略は始めから。

 蜘蛛と鼠はもう楽に対処が出来るまでになった。マッドゴーレムは僕の魔術で一掃。グレイポゥは事前に決めていたようにオリヒメが相手をしてくれた。グレイポゥの出現率は低いようだが、単体であり、依頼品の【灰毯の毛】は確実にドロップしているようだ。一度、グレイポゥ討伐中にマッドゴーレムが現れたが、戦闘に参加していなかった僕が軽く沈める。


「ここまでは楽だね。ロックゴーレムの連戦はキツいけど」

「連なってたら、背後も取りにくいもんね」


 一列に並んだロックゴーレムだと、背後に回ると次のゴーレムの攻撃が飛んでくる。その為、オリヒメが疑似壁役になり、僕が魔術で倒すしかなかった。魔術の巻き添えでオリヒメのLFも僅かに減るが仕方がなかった。フレンドリーファイア無効がない以上、至近距離にいる仲間にもダメージが行くのはどうしても避けられない。回復をしている間に次のゴーレムがやって来るので、気が気じゃない連戦が一番厳しい。


「ラスト!」

「《つむじ風》」


 ゴオンと倒れると同時に、ロックゴーレムは粒子となり消えていく。


「ふー」

「つか、れたー。少し回復させて」


 精神疲労回復とMS回復の為に壁を背に座りこむ。MSが一度枯渇した時には焦った。なんとか、オリヒメが先頭のゴーレムを抑えている間に自然回復を行い、それで最後までもってくれた。地形と種族補正でオリヒメが凌げるレベルだったが、オリヒメの今のLFは三割程しか残っていない。回復魔術を使う余裕がないので、オリヒメは自前の軟膏を自身に塗っている。

 前に全種類の軟膏全て売ったのは間違いだったかな。

 魔術書を買う為の資金にしてから、新たに軟膏を買わなかったツケがここに現れた。だけど、あの時魔術書を買ったことは後悔していない。今まで攻撃も回復もかなり重宝しているのだから。でも、回復薬は持っておこうと思う。


「リリ、大丈夫?」

「うん、回復したから行けるよ」

「なら行くか」


 二人で立ち上がり、歩き出す。休憩中も警戒していたが、モブは幸いにも現れなかった。

 幾つもの分岐を行き来して、とうとう一本道と思われる長い直線に行き当たる。ここにもゴーレム二種にグレイポゥが二匹。それらを倒しながら進むとセーフエリアにたどり着いた。


「セーフだ!」

「この先に何か開けた場所があるみたいだな。ボス部屋みたいなもんか?」


 オリヒメは警戒しながら、エリアの先にある広場を眺める。たしかに、ボスエリア前にセーブポイントがあるのはよくゲームで見かける。

 二人してセーフエリアで休憩をして、この一本道の連戦の回復に努める。


「残り三時間か。行くか」

「うん。僕は三時間もないしね」


 ボスがどれだけ強敵かは分からないが、戦う必要があるはずだ。【紅水晶】も今の所見つかっていない。採れるのは鉱石三種類のみだった。


「どんな奴が出てくるかな」


 そう言って、僕らはボス部屋と思える広場に足を踏み入れた。



   ***



 初めての死に戻りにボーとゾンビハウス内を眺める。隣にはオリヒメも同様にしている。身体がダルいだけではなかった。


「強いし早いよ」


 広場に入ると次々にポップするマッドゴーレム十体とロックゴーレム四体。

 その背後に一際大きなゴーレムが現れたのだ。それがボスであるステンレスゴーレム。名前が残念な感じだけど、ボスたる強さがあった。

 防御力はロックゴーレムにやや劣るかもしれないが、LFの多さと速度が問題だった。ステンレスは軽金属。それ故の速さなのかもしれない。

 高機動ゴーレムと複数のモブゴーレム。

 弱いながらの再生能力持ちマッドゴーレムがここにきて、その厄介さを発揮した。前衛潰しと言える程に、他のゴーレムの壁となり攻撃を邪魔してきた。

 魔術で数を減らしたが、僕はそこで背後からロックゴーレムの一撃を浴びた。それを皮切りに、地面に縫い付けるような滅多打ちを受けて僕は死んだ。

 オリヒメはマッドゴーレムに阻まれながらも、ステンレスゴーレムに挑んだが回避性が向上したゴーレムは一筋縄ではいかず、同じく死亡。その際、マッドゴーレムの切り離された泥に拘束されるという新たな能力をここにきて確認する始末。


「だりー」

「うん。今日中にデスペナ消える時間あるけど、どうしよ」

「ダンジョンは無理だね。ログアウトしたら引き継ぎだから、なんとか時間は潰さないとな」


 さっきから戦闘の余韻なのか、男口調のままだ。


「僕はそれなら生産したいかな」

「それだって、デスペナのせいで成功率も熟練度も減るだろ」

「そう、だったね。対策だけにする?」


 僕ら以外にもチラホラとゾンビプレイヤーが現れる。それを見ながら、先程の戦闘を思い浮かべる。

 始めの流れは良かったと思う。だけど、モブの数。マッドゴーレムの厄介さ。ロックゴーレムの硬さ。ステンレスゴーレムの高機動力。それ以外にも課題があると思う。


「まあ、失敗しても熟練度は少なくても入るしね。作りながら考えましょうか」

「うん。せっかくセーフエリアまで行けたのに、また始めからの攻略だしね」


 セーフエリアはモブの進入を禁止することと、ログアウトが出来る場所。だけど、死に戻りなどで首都に来るとその場所は解除される。首都がセーフエリアとして上書きされるためだ。


「まだ何日かあるでしょ。このクエストから先がなかったら間に合うでしょうけど。まだ、不明だし。まずは目先の事をしましょう。装備の更新と、生産で装飾品を作って底上げ。だから、リリの生産したいって考えは正解でしょう」


 僕はそこまで考えていなかったが、装飾品で少なからず底上げは出来る。まだ、生産職が現れていないし、店売りの装飾品は未だ店頭には並んでいない。これは僕らのアドバンテージだ。


「そうと決まれば移動しましょう」

「キンリーさんの所だね。僕は、魔導具も少し作らせて貰おう」


 初回みたいに素材無料かは不明だけど、そこは交渉とか物々交換なんか出来ないかな。ダンジョンからの入手品はまだ換金もしていない。そう思いながら、サークルを通りキンリーの工房へ移動する。


「チビとオリヒメかい」


 キンリーは相変わらず僕をチビと呼ぶ。犬の獣人だからだろうか。僕も犬だしね。


「工房貸して」

「装飾品の素材あるけど、出来たら魔導具の作り方教えて欲しいです。そっちは材料ないけど……」


 オリヒメが勝手に工房へ向かおうとするのをキンリーが叱っているが、果たして僕の声は届いただろうか。


「オリヒメは装飾品かい」

「ええ。素材は炭石に鉄鉱石、それから銅鉱石しかないけどね」

「炭石は炉の燃料だよ。薪や枝でもいいが、そっちのほうが火力も出るし上質な物が仕上がるだろうね」


 採掘はしたが、使い方が分からないものの用途があっさりと判明する。そして、やっぱり僕の声は聞こえなかったのかと思ったら、キンリーがこちらを見た。


「チビは魔導具かい。始めだから素材はこっちで出すよ。素材も知らないはずだからね」

「ありがとう」


 どうやら、聞こえていたし配慮もしてくれる。エンテの語った偏屈婆の弟子とは思えない。


「じゃ、行こうかい。オリヒメめ、勝手に行ったようだね」


 キンリーと話す隙を狙って、オリヒメは勝手に移動したようだ。人としてダメでしょ。


「オリヒメは好きにしな。チビ、魔導具の作り方は前に言ったように、基本は装飾品と同じさ。ただ、鉱石は魔術との相性の良いものを使うから高いし、さらに効果を上げるのに宝石も使うからね。魔導具には宝石が必須なのは装飾品とは違うかいね。だから、今回は作らせることは出来ない。見て覚えるんだね」

「うんっ」


 素材をキンリーが出すと言うのは、自分で作るからみたいだ。高価な素材なら、それは当たり前かもしれない。自分でするなら、散財覚悟で挑む必要がありそうな感じ。


「鉱石と宝石の品質を鑑定して、製錬するのは同じさ。宝石は研磨以外に、カットによっても効果が変わる。カット面が増えるだけ効果は上がるよ」


 リアルでも、カットの精巧さや面の多さなどで値段が変わるけど、それを効果として反映しているのかな。


「今回も指輪を作るけど、宝石の台座や埋め込む穴を作る必要があることを忘れちゃいけないよ」


 キンリーは手慣れた手付きでリングの形にして、台座を取り付けていく。型枠なんて初心者向けなものは使わない。


「最後に宝石を取り付ける」


 台座に綺麗に納まった青い宝石が光を反射してとても綺麗だ。リングにも、細かな堀りが見られた。

 キンリーの説明を聞きながら、基本のスキルは習得することが出来た。


「ほら、チビ。手を出すんだよ」

「うん」

「……なんで、お手なんてするんだい」


 慌てて手を返し、手のひらを向けて笑って誤魔化す。

 だって、なんか響きがそんな感じだったんだもん。


「前に作った物で悪いけど、魔導具を教えたのに持ってないのは可哀想だしね」


 手には小さな指輪が置かれた。ピンキーリングと言う小指に嵌める指輪。そこに小さくても綺麗な緑の宝石が埋め込まれていた。細いリングなのに、葉っぱの堀り込みまでされている逸品。すごく高そう。


「その宝石は風属性の効果を少しだけど上げるものさ。指輪は智力補正だね」


 装備を弄ってファッション装備に貰った指輪を右手小指にセットする。装飾品に関してだけは、装備もファッションも関係なく効果が現れる事をこの間サイトで知った。見える装備としては、ファッション装備の二点のみだが、こんの可愛い指輪はいつでも見ていたい。


「出来たー‼」


 指輪にうっとりしていると、オリヒメの大声にビクッと震える。あ、キンリーが怒っている。


「だから、ごめんって。あ、リリ。これ受け取って。ファッション装備で、こっちを左手の薬指に付け替えて。前のは良かったら右の薬指にでも」

「あ、うん」


 いきなり送られてきたトレード画面に許可を出して受けとる。

 装備を変更し、新たな指輪を見る。


「きれい……」

「でしょ?まさか、出来るとは思わなかったけど。流石にピンクシルバーにはならないけど」


 受け取った指輪は、銅の色が薄まり赤に近いピンク色をしていた。その他の外見は前のリングと変わりないけど、それでも綺麗だった。


「灰石のお陰か性能も上がったし、まさか合金出来るとは思わなかった」


 デスペナがあるのに、こんな指輪が出来たのはどれだけの確率か。かなり失敗したのか、オリヒメの指にも一つ嵌まっているが、これよりも色がくすんでいる。


「流石に貰えないよっ」

「昨日、調子に乗ったし。それに、リリを守るって言って死んじゃったからね。お詫びだよ」

「でも」

「受け取って」


 オリヒメの申し訳なさそうな顔を見て、頷くしかなかった。


「それに、リリから貰った以外に四つ指に着けたしね」


 これを作る上での失敗品だと思う。失敗の中でも出来の良い物を選んだと思うから、かなり大変な思いをしたはずだ。


「ありがとう。大事にするね」

「ええ。あ、指輪のステータス見てみて。作る上で設定出来ることに気が付いたから、付けてみたんだ」


 話しによれば、アイテム名や説明を付け加えたりと、生産者向けの嬉しい機能があったみたい。気付かなかった。


【エンゲージリング】

 製作者:オリヒメ

 説明:二人が交わした永遠の愛。いつか、絶対飼うからね。

 効果:防御力4

    運1


【葉風の小指輪】

 製作者:キンリー

 効果:智力5

    風属性補正(小)

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