宝箱回収と子供たち
翌日となる今日は午前中からログインをしてダンジョン探索を行った。
お昼からはオリヒメが用事があると言う事で、午前の三時間で昨日の通り道から宝箱を回収していき、採掘も合わせて始めの分かれ道から右側の通路の攻略が終了した。思っていたよりもどれも深く奥まで続いていなかった。その分、分かれ道が多数あったが。地盤が硬くて先に進めなかったのだろうか。
「結果な収穫だね」
「うん。お姉ちゃんは新しい業も覚えたみたいだしね」
右側の通路にはゴーレムは存在しなかった。代わりに、シンラッタという鼠が新たに現れた。
シンラッタは鼠らしく素早くそれでいて防御も高めだったが、攻撃パターンはフィールラットと大差がなかったので対処は楽ではあった。因みに、蜘蛛はリトスパーという名前です。
「これとか鑑定できないね。鍛冶スキルないと無理かな」
現在はダンジョンから出て、収穫物の分配を行っている。午前の残り時間は十分ちょいしかない。別にタイムリミットではないが、オリヒメの用事を考えると少しでも早く終わらせてあげたい。
「未鑑定の武器系か。種類が分かるだけマシだね」
採掘では【炭石】と【鉄鉱石】を中心にわずかに【銅鉱石】が手に入った。こちらは、二分して端数は話し合いで決めた。僕の入手分は【炭石】が五つと【鉄鉱石】が四つに【銅鉱石】が一つ。昨日の分配を考慮してそうなった。
んで、宝箱からも鉱石類と【ツルハシ】と【ピッケル】以外に【ロープ】や【スコップ】が手に入った。新規品では【スコップ】を貰うことになった。うん、なんか僕をどう縛ろうと聞こえたのは幻聴のはずだ。緊縛プレイ、なにそれ。
そして、未鑑定の武器が斧と槍。装飾品は鑑定結果【鉄の指輪】だった。能力は防御力1と自分で作るよりも低かった。
「リリはどれが欲しい?」
「んー、武器は使わないし、指輪は自作より弱いし……槍でいいかな。牽制に使える時があるかもだし」
使う予定はないけどね。槍の効果次第だけど、装飾品の能力からみて期待は出来ない。
「なら、それでいい?決定にしとくよ。指輪は貰っておくね。にしても、宝箱多すぎでしょ」
「やっぱり多いんだよね。イベントダンジョンだからかな?」
他のゲームでも宝箱なんて僅かにしかない。それなのに、このインフレはなんなのか。
「廃坑はゴーレムのせいって言ってたし、逃げたのも慌ててたなら碌に物資を回収出来なかった。…それが宝箱となった」
「んー、そうなのかな?まだ木箱が宝箱って実感ないし」
どうしても宝箱らしい宝箱を想像してしまうので、オリヒメが言う背景がしっくりくる。なら、本物の宝箱があるのだろうか?謎だ。あったら、誰が設置したとかで悩みそうだけどね。
「とりあえず、午前はここまでだね。ごめんね。また夜に」
「うん。バイバイ」
オリヒメがログアウトするのを見届けて、自分も落ちる事にする。夜に再開するので、下手に時間は消費したくはなかった。
***
目覚めてからカチューシャ型端末を外して伸びをする。
「なに食べよ」
現在は正午を十分ばかり過ぎたあたり。八時に起きて、菓子パンを一つ食べただけなのでお腹が空いてきていた。
ゲーム内で食べても空腹は感じる。正確には軽減されるけど、実際にお腹に物が入っていないので空腹はなくならない。ゲーム内で食べて満腹中枢を脳が認識しても、実際には食べていない状態なのだから当たり前だろう。多少は誤魔化せるのでダイエットにはいいのかもしれない。あ、ダイエットとは標準体重に戻すことを言うとも聞いたから、この表現は間違いかな?詳しく知らないけど。
「んと、卵あるしハムあるし」
朝食メニューになりそうな素材はある。あとは野菜が何種類か。
「玉子丼にしようかな」
僕は料理が得意ではない。食べられる程度の物が作れる腕前なだけ。ようは男料理という目分量の調味料の投入と適当に思い付く食材を組み合わせて作るのがいいところ。決して誰かに食べさせるようなレベルじゃない。
「しみるー」
涙を浮かべながら玉ねぎを切り、ハムも一口大に短冊切りにする。
それらを鍋に入れて火を通す。暫くして醤油を始めみりん等を適当に投入。最後に卵を入れて余熱で蒸らせばはい、大雑把に完成。自分ひとりなら、これで十分なのです。
レタスやトマトを別皿に盛ってドレッシングを掛ければサラダの出来上がり。
丼にご飯を入れて鍋の玉子を乗せて、本日のお昼ご飯が出来ました。
「うん、まあまあかな」
親が作るレベルにも達していないが、問題なく食べれる。稀に失敗して苦痛に喘ぐことがあるのは秘密。
「本屋さんにでも行こうかな」
○○屋さんとつい言ってしまうのは、口癖のようなもので直そうにもなかなかハードルが高い。友人二人からは、そのままのユーリがいいと言う意味不明なことを言われる始末なので、もう気にしなくなった。
歯磨きをしてから服装を整え、本屋さんに向かう。特に目的もない。目当ての新刊が出てる訳でもなかった。
なんとなく寄って、ファッション誌やアクセサリーの本。料理本やコミック新刊コーナーを見ていく。
アクセサリーは装飾品の参考にするために何冊かを流し見たが、デザインをここまで真似るレベルになるかどうか。
新刊コーナーではやはり目を引く物がなかった。僕は少年コミックも少女コミックも関係なく読むけど、今日は惹かれる表紙やタイトルがないので何も購入することなく店を出る。出掛けに、入り口からフリーカタログを貰っていく。通販のカタログにも少なからずアクセサリーが載っているので、参考になると思う。
「どこ、行こう」
今から友人の所に遊びに行くのも中途半端。服屋さんはこの間行ったばかり。
当てもなく公園へ行き、ジュースを買いボーとする。もうすぐ高校生になるので、こんなにまったり出来ないかもしれない。
春休みのほとんどをゲームに費やすのはどうだろうと思いながら、貰ってきたカタログを見ていく。
「女性服中心だね。あ、これ可愛い」
前より女性服に目が行く。まあ、見ているだけで楽しくて時間を費やせるのは変わらないけど。それにしても、ティーン用の服を凝視するのはどうだろうか。
「シルバーアクセサリーいいなー。銀はまだ採れないしなー」
リアルでもゲームのことを考えてしまうなんて、かなり填まったものだ。携帯ゲームも結構やったけど、ここまで影響は与えなかったと思う。
「おい、かくれんぼの方が楽しいだろ」
「えー、お店屋さんの方がいいよ」
「カードの方が面白いって」
カタログを見て楽しんでいると、公園にはいつの間にか小学生低学年か園児くらいの子供が五人来ていた。園児なら、親もいそうだけど見当たらないのでやっぱり小学生か。男の子二人に女の子が三人。
「元気だねー」
室内で遊ぶ子供が増えてきている中、まだ小さいからか外で遊ぶのが楽しいのだろう。次々上がる遊びには知らない名前のものも多くあり、子供の発想は凄いと思う。僕もまだ、高校生になってないけどね。
微笑ましく見ていたら女の子の一人と目が合った。
「お姉ちゃん、ろりこん?」
だれ!こんな子供に変なこと教えた人は‼
昨今の声掛け事案に背筋が凍ると同時に、幼女の純粋な瞳で見つめられながらそう言われると罪悪感に支配される。
樹やオリヒメみたいな病気じゃないのに、そんな気分にされるなんて子供はなんて純粋な凶器を持っているのだろう。
「違うよ」
「ふーん。なら、遊ぼう」
支離滅裂だ。子供だから、こんなものなのだろうか。
「えーと、お友達と遊んだ方が楽しくないかな?」
カタログを閉じて、子供達を見ると男の子二人と女の子一人が離れてジャンケンをしていた。
「私とみわちゃんで遊ぶ事にしたから」
結局遊ぶ内容で対立が起きて、この子ともう一人で遊ぶみたいだ。でも、なんで僕?
「二人だとつまんないから、お姉ちゃんも遊んで」
人見知りをしないのか、僕の手を引いてくる。
それにしても、僕のこと女の子に見えるのかな?前よりは見られなくなったと思っていたのに。
「別にいいけど、本当にいいの?」
「うん!」
女の子が花のような笑顔を咲かせる。うん、ロリコンさんがいたら気を付けようね。樹とか、オリヒメとか。
あと、こんな子に性別を正そうとしてもなかなか信じてくれないことは、今までの事で経験しているので訂正しない。変に意固地になって泣かれたら大変なんだもん。
「みわちゃん、良いって!」
女の子に手を引かれて、みわちゃんて子の所まで連れて来られる。こんな子供にまで手を引かれるなんて…。
「え、いいの?ありがとうございます」
みわは丁寧にお辞儀をしてくれるので、釣られてお辞儀をする。どっちが歳上なんだろうって図式が浮か…ばないよ!
元気な女の子はゆりって名前らしい。なんだか、親近感。でも、僕はこんなに元気でも人見知りを全くしない性格でもない。
「なにして遊ぶのかな?」
見ればもう一つのグループはかくれんぼをしているようだ。ゆりは元気だから、向こうのグループに入りそうなんだけど、子供の付き合いに突っ込まないでおこう。
「やっぱりお店屋さん?」
「何屋さんする?」
僕を置いて二人で話していく。僕がいる意味あるかな?
そのあとお花屋さんごっこをして、ケーキ屋さんごっこをすることになった。いずれも僕はお客さんの役。
小学生なのに、園児のときの遊びで楽しいのだろうか。二人は今年二年生になるらしいのに。
「んー、飽きた」
「カードでもする?」
三十分も遊べば飽きたのか、砂のケーキを呆気なく崩すゆり。僕が園児だったときには、作ったケーキやご飯を遊び終わっても崩すのは忍びなかったのに、二人はもう少し大人だから躊躇いもないのかな。
「お姉ちゃんにも貸すね」
みわからカードを何枚も受けとる。アイドルの着せ替えゲームなのか、可愛い女の子や衣装が描かれていた。
「ここじゃ、土付くからあそこでしない?」
近くの東屋とでも言うのか、屋根の付いた木製の机とベンチがある場所を指差す。
「うんっ」
「いこう」
二人に着いて東屋に来ると、太陽の陽射しが遮られてやや肌寒い。近年は春先でも気温が高い日が増えてきているのに、今日は過ごしやすい気候だったのでこう日陰にくるとやや肌寒く感じてしまう。
「二人とも、寒くない?」
「大丈夫!」
「寒くないです」
子供は体温が高いからか平気なようだ。
それから、カードの説明を受けたが設定が細かすぎて理解が出来なかった。なんて細かいルールなんだ。よく覚えられるね。
正直、理解が出来たのはこれは別に対戦ゲームではない。見方によって対戦ゲームになるけど、いかにコーディネートをするか、いかにアピールをしてファンを獲得するかのゲームらしい。ゲームセンターなどでオンラインを通じて自分のプロデュースしたアイドルを公表することも出来るみたい。運営が認めたアイドルは商品化すらして、キャラクターソング等も発売されるとか。うん、かなり魅力的だ。
さらに、VR機能でアイドルと出会ったりライブをしたりとかなり人気だと言うことも教えて貰う。
自分がアイドルになる訳じゃないけど、女の子には人気が出そうな感じだ。ついでに、大きなお友達にも。
考えながら女の子をコーディネートをしたり、レッスンをしたりしていく。
「楽しいかも」
ルールは難しいけど、好きなようにカスタマイズ出来るのは楽しい。衣装も可愛くて、ジュエリー類も素敵。生産の参考にもなる。いずれは生産系は全て修得する予定なので、服も作るだろう。こういうアイドルみたいな衣装も参考になるはずだ。
「お姉ちゃん、それ無理だよ」
「あ、ごめんね」
ファンアピールカードを引っ込める。まだ、レッスンカードを出したままなのでその他の種類は出せない。
ターン制で20ターンでどれだけファンを獲得するかの勝負が一応あるので、レッスンなどの駆け引きが男の子が遊ぶゲームよりもシビアかもしれない。しかも、ファン獲得の計算が複雑すぎる。普通のカードバトルならモンスターの攻撃力と防御力とプレイヤーのライフくらいなのに。
アイドル育成だけならカードを集めれば良いけど、対戦系ならデッキ上限枚数は50枚。みわはかなりカードを持っているみたい。
「これで終わりっ」
「ラスト」
「じゃ、これで」
始めのお店屋さんごっこがなんだったのかと言うくらいに、二人は真剣というか鬼気迫る感じがした。二つの遊びの年齢層にギャップがありすぎる。
「ファン数は私の勝ちだね」
「コーディネート力は私が上なのに」
「んー、ダンスは一番になったけど……」
対戦にならないのは、どれをメインに組むかによるのが関係してくる。公式バトルがあるが、それはファン獲得数によるらしい。それを踏まえればゆりが勝ちだ。
ただ、ファンを獲得するにはバランスを取らないといけないが、自分のアイドルなら自分がしたいようにするのが一番。中でも、商品化しやすいのはコーディネートの比重が高い。公式バトルで三位まで入れば商品化するみたいだが、それとは別にコーディネートやダンスや歌などの技術系にジャンルが分かれてコンテストもあるようだ。うん、まだ難しいよ。
「ね、これどこに売ってるのかな」
難しいけど、なんか填まりそうな予感。ずっとオンラインなんて出来ないし、そもそも時間制限があるので無理なんだけど。
これでカードゲームにまで填まったら毎日ゲーム尽くしになりそうで怖い。でも、面白いんだから仕方がない。
「コンビニに売ってるよ」
「あとオモチャ屋さんとか」
「ありがとう」
女の子たちにお礼を言って、買いにいくことを説明すると二人が着いて来ると言う。知らない人には着いて行ったらいけません。
「どんなカード出るか気になるし」
「私たちの弟子ですし」
いつの間にか弟子になっていた。まあ、二人の影響で買うわけだし、合ってるのかな?
そして、ゆりの先導のもと近くのコンビニに入る。
「これだよ」
「最近のシリーズはこれです」
二人がレジ近くに置かれた数種類のトレーディングカードから関連の物を教えてくれる。
今は三シリーズあり、一パック三百円で十枚入り。子供のおこずかいにしたら高いように感じる。
「えと、新しいのを二つと残り一つずつかな」
「お姉ちゃん、お金持ち」
「うらやましいな」
僕の所持金ギリギリです。見栄を張りましたごめんなさい。
だって、この間ハード合わせて十万近くも飛んだんだよ。でも面白そうなのに種類少ないのはなんか癪だ。
清算を進めてコンビニから出ようとして、奥の飲料コーナーに樹がいたような気がしたけど、気のせいだよね。声掛けて来なかったし。
「早く開けて」
コンビニの前でさっそく開封をせがまれる。
邪魔にならないように店の横に移動してから開封してみる。
「これ、公式じゃ禁止になったレッスンだね」
「あ、持ってないレア」
二人が見聞してくれるので助かる。あまり良いカードはないが、どれも素敵なイラストが描かれている。古いシリーズから、能力を見直して禁止に指定されるものもあるみたいで、僕のにも一枚入っていた。
「でもデッキは組めないね」
「いらないのあげようか?」
小学生に同情されるなんて。
「いいよ。おこずかいで買ったんでしょ」
「でも、遊べないとね」
「レアじゃないので何枚も有るものを上げますよ」
「私たちの弟子だしね」
「せんべつ?です」
なんか、僕よりも大人だ。最近の小学生て、こんなものなの?
結局、押し付けられる感じで二人からそれぞれ五枚ずつ貰う形になってしまった。
いずれも本人達が言うように能力は低く、メインのキャラやコーディネート系ではなくレッスンやアピール系のカードだった。それでも助かる。
「ありがとう、ゆりちゃんにみわちゃん」
「また遊んでね」
「今日はありがとう」
カードを確認して満足したのか、二人が別れを告げて公園へ走って行った。他の友達の元へ向かったのだろう。
「なんか楽しそうだな、ユーリ」
そして樹に捕まった。気のせいではなかった。
「あはは……じゃ、また」
逃げ出せるでもなく、樹に詳細を聞かれて経緯を説明することになった。でも、二人の名前は死守しました。安心してね二人とも。この犯罪予備軍からは守るからね。
「ほら、やるよ」
そして樹も同じカードを買っていた。その一つを僕に寄越す。さも、これで共犯だという目で。
ありがたく貰ったけど、これ以上は二人に近づかないようにだけは注意しました。こんなのに売るつもりはないから、安心してね。
こうして、久しぶりに日中のお出かけをして夜にはログインをしてオリヒメと攻略を再開する。