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姫パーティは楽しくも楽じゃない  作者: 犬之 茜
名残し友への捧げ物
20/123

探索とお宝

「やー!来ないでー!!」

「リリ、逃げない!」


 いま僕たちは蜘蛛のモブ数体に追われていた。正確には、その気持ち悪さに嫌悪した僕が逃げ出しオリヒメが追いかけ、さらに後ろに蜘蛛たちが列をなしている。やってはいけない行為でも、自分よりも大きくなった蜘蛛のリアルな造形は生理的に受け付けない。


「ああ、もう!《インパクトアタック》!」


 スタン付きの業を振り返え様に叩き込むオリヒメ。

 先頭が止まったことで後ろが突っかかり、近付いてこない。それを見て、オリヒメが僕を追いかけてきたようだ。


「リリ」

「ごめんなさい」


 今日のタイムリミットはもう三時間もない。その事で二人で話し合い、結果軽く内部構造やモブの情報集めを集中的に行う予定だった。本格的な攻略は明日にしていたが、ダンジョンに入って始めに遭遇したモブが先程の蜘蛛たち。そう、始めの段階で足を引っ張ってしまった。だって!気持ち悪いんだもん。仕方ないよね?


「はあ、リリは魔術で援護して。それなら近付かないでいいから大丈夫でしょ」

「…………たぶん」


 セーフエリアにて正座をして説教されてます。確かに悪いことをしたと思うので、なるべく頑張るつもりだ。でも、怖い。


「蜘蛛以外にも虫系はいると思うから、リリは支援だけに徹して。ゴーレムが出ても、始めはそれで様子見」

「うん」


 もしムカデなんて出たら失神する自信があるけど、エンテの為にも頑張らなくちゃいけない。

 鼠や蛇は大丈夫だったのにな。あれは、怖いけど気持ち悪さは薄かったのが要因かな。


「それじゃ、行くよ」

「うん」


 頷くことしか出来ません。いくら気持ち悪くても、蜘蛛だって単体でも強いだろう。気が抜けない状況が続くから、確りと自分の役目は果たさないといけない。ただでさえ、オリヒメよりも弱いのだから。


「リリ、大丈夫。私が守ってあげるから。後ろには通さないよ」

「うん、ありがと」


 オリヒメが男なら惚れてしまいそうだ。

 ……あれ、なんで女性目線で見てしまったんだろ。


「いるね」


 先程の道を引き返して戻ると、蜘蛛が二匹。一匹少ないけど奥にでも戻ったのだろうか。

 僕らは二人横に並んでもまだ余裕はあるが、蜘蛛は横にも大きいので一匹ずつの相手となるので、それだけが救いか。


「《インパクトアタック》」

「《つむじ風》!」


 初撃でスタンをさせて、サイドステップで後衛の僕の射線を空けてくれる。正視はしたくないが、外すのはさらに最悪なので狙いを付けて攻撃をする。

 その間にもサイドから通常攻撃を加えてくれるオリヒメはやはり頼もしい。


「《インパクトアタック》」

「《つむじ風》」


 魔術を二発撃ち込んだ後に一匹目が消滅し、急かさず二匹目をスタンさせる。この消滅と二匹目の連戦の為にオリヒメは初撃のみ業を使用してくれたので、タイムラグによる不意討ちを受けることもなく先程同様に魔術を放つ。


「《ヘヴィストライク》」


 いや、オリヒメが他の業も使用してくれたので楽に倒せた。初見のモブはこうやって情報を集めてパターンや有効打、連携を組み立てていく。


「んー、イエロービーよりは強いね。純粋な厄介さはあっちが上かな?とりあえず次も今と同じようにしてみようか」

「わかったよ」


 僕はまだ分析が苦手だ。画面越しのゲームとは勝手が違うので、オリヒメを見て勉強中でもある。

 今回はモブの硬さやLFなどの情報を集めたので、次は攻撃面を分析するはずだ。


「次は防御もするよ」

「ラジャー」


 一方的に攻撃出来る訳ではないので、こうして余裕のあるモブのパターンはなるべく引き出し、隙を減らしていく。作業的でも、こういう小さな検証をしないと格下のモブでも負けやすいのがVRMMORPGの難しい所か。

 単純なステータスや装備だけではなく、プレイヤースキルが重要視されているのだから。


「いた。一匹ってことはさっきの残りかな。二割減ったら回復宜しく」

「大丈夫?」

「ええ」


 そう言い残し駆け出す。近付いたことでタゲられ、口から白い糸を放射状に放ってくる。


「っぶな!予想は着いてたけどねっ」


 辛うじてサイドステップで射程から逃れて、そのまま近付いて通常攻撃を繰り出す。

 攻撃魔術は指示が有るまで控えている代わりに、オリヒメのLF管理とパターンを覚える。

 脚を高く持ち上げてからの突き下ろしと牙による噛みつき。離れると糸攻撃。糸を吐く際は身体を後ろに下げてからで、糸が残留する時間は十秒。糸の効果は拘束と予想通り。噛みつきは一割のダメージもないが、突き下ろしは一割以上。オリヒメが身体を張った検証の結果、パターンを引き出していく。


「さて、お疲れさま。じゃあね、《インパクトアタック》《ヘヴィストライク》」


 僕が回復をしてから、オリヒメの連撃に蜘蛛が沈む。ちまちま通常攻撃をしていたので、業二発で消滅した。


「囲まれない限りは大丈夫そうだね」


 伸びをして笑顔を向けてくる。面倒な検証を終わったので、後は倒していくだけなのでオリヒメの表情は晴れやかだ。考えるのはストレスらしい。


「さて、新しいモブいないならサクサク行こうか。リリは魔術支援よろしくね」


 前衛と後衛で役割を決めて暫く進むと二手に道が分かれる。炭坑なら、迷路みたいにこの先も枝分かれをしているだろう。迷子にならないようにしなくちゃ。


「どっちに行く?」

「どっちも行くなら、どっちでもいいけど。右でいくないかな」


 なんとなく方向を決める。右利きだからか、つい二択なら右を選んでしまうのです。


「じゃ、行くよ」


 それからも三回枝分かれして、行き止まりに二回到着。その間も蜘蛛を倒して行く。


「あ、ここ光ってる」


 到着した行き止まりには淡く発光している場所が二ヶ所。大きさは異なっている。


「リリは時間掛かるなら小さい方掘る?」

「うん、いいよ」


 インベントリからラーゴから貰ったピッケルを取り出す。


「力加減間違えたら壊れるんだよね」

「え?」


 バキーンという音と共にオリヒメ側の光が消えた。


「…………」

「はは、少し力入ったかな。初めてだから仕方ないね」


 まったく悪びれずに笑っている。にしても、一撃で破壊って。


「僕は慎重に掘るね」


 見なかったことにして、小さい光と向き合う。…………背伸びしても上までは手が届かなかった。


「リリはちっさいからね」

「わわっ!」


 背後からいきなり抱き上げられた。 すっごく恥ずかしいよ。


「ほら、時間なくなるから早くしてね」

「あ、うん」


 足が着かないので力を入れにくいけど、力加減を見るなら少しずつ強くした方がいいだろう。

 先ずは手の届かなかった上部にピッケルを打ち込む。

 キンッというかん高い音は成功か分からないけど、少しずつ力を入れて周りを削る様に掘っていく。かなり、神経を使う作業だ。


「ふぅ」

「お疲れ」


 オリヒメが下ろしてくれる。僕の手には未鑑定の鉱石が握られている。長い時間に感じたが、五分も経っていない。手のひらサイズなので妥当な時間なのだろうか。不明だ。


『生産技能《鑑定・鉱石》を使用しました』

『鑑定結果【鉄鉱石】と判明』


 未鑑定品に鑑定スキルを使うのは、何気に始めてだったのでドキドキしていたが鑑定結果は至って普通。まあ、こういう風に表示されるとこを知れただけで収穫だ。

 鑑定結果はパーティーにも共有されるのか、オリヒメにも内容は伝わったようだ。キンリーの話からして、パーティーは関係ないのかもしれないけど。


「さすがに依頼品じゃないみたいだね」

「お姉ちゃんが壊したの大きかったよね。大きさがレアに関係してたら」

「ほら、リリ。行くよ。はやく行くよ。すぐに行くよ」

「わっ、むみっ」


 無理矢理手を引かれてオリヒメの胸に顔を埋めてしまった。


「リリは甘えん坊さんだね」


 ちょ、胸押し付けて頭撫でないでー!


「んー、やっぱり飼いたい」


 なにボソッと言ってるの!聞こえてるよ!てか、苦しい……。


「リリ?」

「…………」


 酸欠になって頭がボーとしてきた所で漸く異変に気付いたのか、頭から手を離してくれた。


「ありゃ、やり過ぎたかな」

「……あふー」


 手が離れたことで、胸から離れて深く酸素を吸い込む。僕の死因にいつか登録されそうだ。あれ、でも酸素って要素あるのかな?

 とりあえず大きな胸はトラウマになると思う。


「大丈夫?」

「たぶん」


 なんだか今日はいつもよりも疲れる。残り時間は一時間くらいだけど、落ちたらすぐに寝よう。リアルだと七時くらいだから、お風呂に入らなきゃいけないけど。

 そんなことを考えて、胸の恐怖から逃れるしか方法がない。


「ごめんね。でも、リリが可愛いのが悪いんだからね」


 なんか僕のせいになってる。これ以上話を続けるのは経験上良くないので、話題を逸らす。


「そういえばダンジョンって宝箱とかないのかな。ゲームならよくあるよね」

「さあ?見てないね。あるとしたら、そこにもある様な木箱くらいだしね」

「うん…………」

「…………」

「開くのかな」


 ここへ来るまでにも何個も木箱が置いてあった。街の木箱は開かない。見た目は同じだけど、ここのは長い時間放置されているせいか、くすんだ色合いのものばかり。

 朽ちたものや、蓋が開いているものも多いが中身は入っていなかった。


「炭坑なら道具とかありそうだけどね。何でも試してみましょうか」


 オリヒメが唯一朽ちても、蓋が開いてもない木箱に近づき、蓋を触る。


「ひょっとして……開いた」

「ええっ、本当に?」


 オリヒメが蓋を持ち上げる。驚きながら僕も横から中を覗いてみると。


「ピッケル?」

「炭坑で使ってたやつだね」


 オリヒメが手に取るとインフォメーションがながれる。


『【ピッケル】を入手しました。所有者を決定してください』


 どうやら宝箱扱いで、入手は一つだけのようだ。ソロならともかく、パーティーなら所有者を選ばないといけないみたいだ。


『所有者決定の保留をした場合は始めに手にした人物のインベントリに収まりますが、使用不可となっています。保留のままパーティーを解散した場合は入手品は消滅します。次回もこの注意文を表示しますか?YES or NO』


 とりあえずNOを選択して、この注意を記憶に留める。

 先に手にした人物が逃げない措置なのだろう。ダンジョンで長く相談出来ない場合は保留を選ぶ必要があるから、こんな設定になっていると思える。


「とりあえず、これは貰っていい?」

「うん、僕は持ってるからいいよ。ツルハシが出たら頂戴」

「それぞれ一個ずつ手に入ったら、あとは保留にしようか」

「いいよ。今通ってきた所も全部見直さないとだね」


 ただの木箱と思っていたので、無視していたのでどれだけ木箱があるか覚えていない。まさか、宝箱がこんな形とは思わない。宝箱らしい宝箱があっても違和感があるけど、分かりにくすぎるよ。


「モブいた所でも見たはずだから、そういう場合は保留にしとこうか」

「危ないもんね」


 いつリポップするか解らないので、その為の保留機能なのだろう。

 モブを倒して、宝箱を開けてから逃げる。なんて慌ただしいのだろうか。


「今日は通った道から宝箱回収だね。蜘蛛しか出てきていないから、大丈夫でしょ」

「少し駆け足だよね。セーフエリアに戻っていた方が良いし」


 宝箱が保留状態で、さらにパーティー中にタイムリミットになったらどうなるのかは書かれていなかった。

 親切なようで、大事な所が抜けていた説明文に少なからず焦りが現れる。


「あー、確かに。なら、一直線に走って回収しながら戻ろうか。残りは明日にして、リアルに戻ってから私が問い合わせておくよ」

「うん、分かった。じゃあ、行く?」

「ええ」


 僕らは走って、来た道を戻る。止まる時は戦闘と宝箱回収の時のみ。

 オリヒメがダンジョン構造を完全に記憶しているのには驚いた。僕は朧気な記憶なのに。

 宝箱の中身も全て保留にして走り抜けてダンジョンから出る。何とか二十分以内に戻って来れた。

 宝箱は空の物も多かった。誰か取ったと考えるよりも、元から入っていなかったのだろう。

 入手した宝箱は消えたことからそう推察する。炭坑で使っていた木箱ということなら、空も納得出来た。


「とりあえず分配しようか」

「えーと、先に鑑定だね」


 宝箱の中には未鑑定の鉱石も存在した。それらを鑑定していく。鑑定対象ばかりなので運が良かった。

 やっぱり、全部の生産覚えるだけ覚えよう。鑑定だけでもかなり楽になるのを実感して、決意する。


「えと、ツルハシ一つにピッケルが二つ。鉄鉱石と銅鉱石が一個ずつで炭石が二つ。白石が三つ」


 宝箱の数としては多いのだろうか。【炭石】と【白石】はまとめて入っていたので、多く感じるのか。


「銅鉱石と炭石は始めてだね。私はピッケル一つと鉄、白石でいい?」

「それだと、僕が貰い過ぎじゃないかな?」


 始めのピッケルは既にオリヒメが所持しているが、始めて出た鉱石二種類を貰うのは多く感じる。【白石】なんて採集エリアでも拾える物だし。


「じゃ、炭石も一個貰うね。でも、他の道にもあったんだし、これから増えるはずだから遠慮なんていらないのに」

「でも、レア度的に上に感じるし」


 【銅鉱石】は生産で使えるし、素材でもあって困らない。しかし、【炭石】の使い道が解らない。ただ、炭坑のここでしか取れないと考えるならレア度的には鉄よりも上だとも考えられる。


「リリが納得するなら、これで決定でいいね」


 基本、オリヒメがモブを討伐して僕が回収。回収中はオリヒメが警戒をしてくれていた。

 所有者決定は音声入力で認識したのか、僕のインベントリからオリヒメの希望した物が消えた。


「確認したよ。決定は音声入力と画面入力以外にもあるみたいだけど、これも完全には持ち逃げは防げないね」


 先に「全部僕が貰う」と言えば所有者になるのか、リーダーが選択するのか画面入力もあるのか。いや、僕からは画面入力は見えなかったのでリーダーが選択するのかもしれない。

 どれも、完全には犯罪を防げないのはシステム的に困難なのだろうか。


「持ち逃げしたら晒されるのは確実だけどね」

「リーダーになるのが負担になりそう」

「そこは信頼度だろうね。宝箱は何回も出るのか、初回だけなのかも不明だし、検証が増えるなー。攻略サイトに書いてあったかなー」


 僕は基本部分しか見ないようにしているけど、オリヒメは疑問があればスレッドにも書き込むタイプ。ただ、興味がない部分は見ないらしいので樹たちほど利用はしていないみたい。


「さて、今日はこれで落ちようか」

「うん。今日もありがと」

「いつも言ってるけど、私が誘ったんだから感謝は私が言う立場なんだからね。ありがとうね、じゃ、また明日」


 最後に頭を一撫でするまでの一連のやり取りも習慣になってしまった。

 もう一度心の中で感謝を言って僕もログアウトする。


「僕も問い合わせしとこ」


 宝箱の保留中のタイムリミットのことを問い合わせフォームから送ってから、お風呂に入る。

 疲れもあって半身浴も一時間も入ってしまい、皮膚がふやけた。

 髪を乾かしていると小腹が空いていたので、お母さんが作っていたご飯を食べて、少しだけ宝箱について調べてからスキンケアをしてから眠った。

 中学の時にニキビが出てからはスキンケアと夜の間食を辞めることを徹底しているので、あれからニキビは出ていない。

 宝箱情報にはタイムリミットのことは書いていない。ただ、宝箱は初回だけの出現らしいことが分かった。一部ダンジョンは初回ではなく、ランダム設置と書いてあったが、噂の域を出ていないみたいだ。

 明日は本格的に攻略だ。ゴーレムを倒さなきゃ。

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