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姫パーティは楽しくも楽じゃない  作者: 犬之 茜
名残し友への捧げ物
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ロックタートル討伐

 昨日は散々だった。生産を覚えることはできたが、キンリーのテクニックで粗相をしてしまった。

 残り僅かな時間を腰砕けになり、オリヒメのなすがまま。最後の十分は、近場の公衆浴場に連行され身体を洗われる始末。いったい、その一連の短時間でどれだけのスクショを撮られたことだろう。

 オリヒメはなんだか終始笑顔だった。

 キンリーも微笑みながら、後始末をしてくれていた。申し訳ないと思っていると、「仔犬なら仕方ないさ。よくあることさね」と慰めてくれた。それは、今後も起こり得ることを示唆されているようだった。

 始めての公衆浴場だったが、粗相により気分が沈んでいたのであまり記憶にない。

 雄と雌に分かれていたので、当然のようにオリヒメに雌風呂に連れて行かれた。中には獣人やプレイヤーが何人か入っていたが、なんの感慨も持てない位には沈んでいたので勿体無かったかもしれない。


「はあー」

「どうしたの?昨日のこと、まだ落ち込んでるのかな?」


 現在はキンリーと一旦別れて、首都まで駆け足で向かっているところ。とりあえず生産を修得したので、クエストを進めることを優先している。


「ん、それは……少しはあるよ」


 この歳で粗相をしてしまった罪悪感と羞恥心はまだ残っている。

 しかし、それ以外にも理由はあった。昨日の事を証拠として残すような出来事。もちろん、オリヒメのスクショとは関係なく、システムとして残っている。


 《マーキング1》:指定ポイントから半径1m範囲の探知、および所持している支援技能の付与。消費MS5/5mis。最大設置数5ヵ所。


 嬉ションなんてものを、獣生初の経験をしている時にインフォメーションにて修得をしたお知らせが流れたのだ。内容は今日確認して、取り戻した気力も減衰。

 これはオリヒメにも秘密にしよう。

 そう決意する。だって、スキル名を伝えると絶対に修得条件を割り出しそうなんだもん。どんなことを言われるか分かったものではない。

 しかも、現在のスキルレベルではほとんど役にたたないだろう。ソロになってから、検証とレベル上げをしていくつもりだ。毎回トラウマを思い出しそうで怖いが、成長したらかなり便利になると思っている。


「そろそろ首都だよ」

「あ、うんっ」


 そんな事をあれこれ考えていると、首都に到着した。後から思えば、転移装置があるのだから、走る必要はなかった。それだけ、まだ落ち込んでいたのだろう。オリヒメも笑わずに教えてくれてもよかったのに。


「ほう、集めてくれたんじゃな。こちらも、準備はほとんど出来た」


 エンテの小屋への移動中にオリヒメの指摘により、僅かでも時間を無駄にしたのを知る。転移装置なんて、すっかり忘れていたのもある。


「では最後の素材を頼むとしようかの」


 攻略サイトでは、次はダンジョンに行くらしい。だが、モブが強くソロや低レベルパーティーでは攻略が難しい。いくら攻略組みでも、メイン派が多く、さらには時間が合わずに停滞中。そのクエストがいよいよ始まる。


「お前たちに頼む素材はな。たしかアナスルの炭坑にあったはずじゃ。儂は前回集められなかった最後の素材を探してくる。なに、知り合いが情報を持ってるから心配はいらないぞ」


 エンテが内容を話していく。僕らが集めてくるのは、【紅水晶】が五個と【炭毬の毛】が十個。それと、【軽岩の核】を一個。

 採取とドロップがあるが、最後の核はなんだろうか。一個と言うからには、かなりのレア素材なのだと思う。


「エンテの集める素材はなんなの?」


 オリヒメが気になったのは、無念の原因となったであろう素材だった。前回は手に入らず、親友が死んだと思われる。なのに、今回は情報だけでもあったらしい。なんとも都合のいいものだ。クエストの成り行き上は納得できるが、オリヒメもまたそんな設定だけをなぞるのは好きではなかった。


「ああ、火竜の皮膜じゃよ。小人領にある火山に棲むと言われている竜の素材じゃ。なんでも、数年前に討伐されて、その素材が出回ったらしいんじゃよ」


 小人領は獣人領の反対に位置する為、かなりの距離がある。そこで討伐されたのに、ここまで素材が流れてくるものだろうか。また、討伐から時間が経っており、未だに素材の状態で残っているものだろうか。


「当時は火竜は生息していたの?」

「ああ、討伐に何回も行っていたらしいな。だから、直に討伐されると思って素材に指定したんじゃが、アイツが出ていくまでには間に合わなかった」


 未だに親友の名前は不明。なんとも、後先考えずに作ろうとしたものだと思う。

 だけど職人には思い付いたから作ろうと思う者が少なくない。エンテもその一人だったのだろう。

 その結果、親友が死んだと思われるのだから、エンテの心情は僕らの想像できるほど軽くはない。


「なに、儂も調子に乗っていた代償なのだろう。大切な人を亡くしてしまったのじゃから、アイツには申し訳ないことをした。だから、償いなんて大したものじゃないが完成させて手向けたいんじゃよ」

「そう。分かったわよ。すぐに集めてきてあげる。リリもいい?」

「うん!」


 重いストーリーだけど、これ程詳しく話を聞くプレイヤーはどれだけいるのだろうか。

 僕らはその親友を知らない。だけど、エンテがどれだけ悔いているのか、どれだけ彼を探して旅をした先で僕らに託したのか、痛いほど分かる。いや、分かるなんて軽いものではないが、それの一端に触れることは出来た。

 クエストではなく、彼のために頑張ろうと二人は頷いて小屋を出る。



     ***



 今度は忘れることなく転移装置で『アネサス』まで戻ってくる。首都の転移装置は始めから登録されているので、本当に時間が勿体なかった。

 浮遊感が収まると同時に二人は駆けて、目的の炭鉱街へ向かう。

 フィールドに出没するモブは変化しているが、幸いに街道に飛び出してくるモブはいなかった。

 曲がりくねる坂道を走り、一時間でフィールドボスまでたどり着く。

 僕らの素早さで一時間なのだから、かなりの距離があるのだろう。着いたら、すぐに転移装置に登録しなくては時間がいくらあっても移動だけで終わってしまいそうだ。

 フィールドボスの回りにはそれなりの人数が集まっていた。周回プレイヤーたちだろう。


 フィールドボス・ロックタートル


 見た目は巨大な象亀だろうか。その見た目からして、防御力が高いだろうと見当付ける。

 動きはファイアリザードよりも遅く、強力そうな噛み付きや、頚を引っ込めてからのロケットパンチのような頭突きも避けやすいだろう。

 ただ、直ぐに頭や手足に尻尾などを甲羅に隠すのでダメージの通りが悪そうだ。かなり持久戦になることを覚悟する。


「うーん。今はコイツに用はないから、今度は私たちがパーティーに入れさせて貰う?」


 周回プレイヤーの暗黙のルールとして、ただ街に入るだけなら優先して挑戦させて貰える。特性などの情報を教えて貰ったり、人数が合えば臨時で組んで効率よく通ることも出来る。連携に難があっても、臨時パーティーも醍醐味の一つなので余程のことがなければ問題にはならない。


「んー、あこ三人かな。ちょっと行ってこよ」


 周回プレイヤーを眺め、自分たちに合う三人組みパーティーを見つけた。僕らが言うのもあれだが、三人で挑んでいるので相当強いか相性がいいのだろう。

 オリヒメに手を引かれて女性三人のパーティーに近づく。


「こんにちはー。周回プレイですか?」

「ん?ああ、そうだよ」

「私たちは街に入りたいだけなんですけど、臨時で一回いいですか?」

「ちょっと待っててくれ」


 オリヒメよりも男らしい、長身の女性が他の二人に話をしてくれる。

 こうやって周回プレイヤーたちを見ると、なんとも違和感に囚われる。なぜなら、ほとんど皆が同じ装備なのだから。その原因はファッション装備のせいなのだが、戦闘に向かない服で武器を構えているのは、なんとも可笑しなものだ。


「ああ、問題ない」

「ありがとう。私はオリヒメ。両手剣を使ってる」

「えと、ありがとうございます。LiLiです。クローと短剣を使ってます。あと、魔術も」


 未だにこういう場の自己紹介は慣れない。

 使用武器を伝えるのは、スタイルの簡単な説明と捉えて貰って構わない。使用武器で大体の立ち回りは想像できるのだから。僕が少し他と違うスタイルだろうと、接近には変わりがない。


「私はリーフ。見ての通り、片手剣と盾。この盾は、そこのタートルのレアドロップだな」


 長身の男らしい人が自慢するでもなく、盾を持ち上げる。灰色の甲羅にしか見えない。うん、別にいらないや。

 素材は分からないが、周回プレイするほどの価値は僕にはなかった。


「わたしはshia。魔術メインで槍使い。にしても、クローに短剣使いかー」


 なんともあからさまな反応だろうか。不遇武器でも、ここまであからさまな反応は始めてだった。いいもん、いろいろ便利なんだから。


「アタシは魔法拳士ね。武器なんて軟弱‼」


 スタイルを伝えて名乗っていない元気娘。拳を握り振りかざす。えーと、拳なんてスキルないよね?僕みたいに、何かの条件で修得したのかな?

 明らかに僕よりも特異なスタイルにshiaは苦笑している。


「んで、君はもしかして露出狂幼女のリリ?」

「っ!?」


 元気娘がいきなり爆弾を投下してきた。それに釣られて、他の二人も見てくる。


「なんだ、それは」

「たしかに、画像にそっくり……」


 リーフは知らなかったようだが、shiaは知っていたようだ。

 あれだけ情報は出回っていたのだから、知っていても不思議ではない。


「えーと……」


 オリヒメを見ると、うん笑ってるね。とりあえず足を踏んでから、三人に説明をする。


「オリヒメが悪いでしょ」

「だからって、街中で脱ぐリリもリリでしょうけど」

「えー、外で裸になるの気持ちいいじゃん」


 元気娘が意外な事を言うと、二人がジト目を向けている。


「リリとあんたは似てるんじゃない?スタイルも性癖も」

「私からはノーコメント」


 なぜか、露出狂の誤解は解けずに、逆に仲間が増えました。あれ?


「リリ、今度見晴らしの良い場所に連れて行ってあげるっ。一緒に気持ち良くなろう。あと、リリっちて呼んでいい?」

「呼び方は大丈夫だけど……」


 なぜか、向こうも仲間と認識したようだ。って、僕は露出狂じゃない!

 そんな会話をしていると、順番が回ってきた。

 ちなみに、それぞれとフレンド登録をした結果、元気娘はヴィーナスと言う名前でした。裸婦画のモデルだっけ?


「それじゃ行きましょうか」

「見た目通り硬いからな」


 オリヒメとリーフが戦闘に立ち、ロックタートルに向き合う。

 二人がヘイトを稼ぎながらダメージを与え、僕とヴィーナスが遊撃。shiaが回復主体での魔術支援となった。


「4割切ったら回転攻撃してくるから」


 ブレイク以降は回転による全身攻撃らしいので、気を付けないといけない。あの重量で当たったものなら、相当のダメージを追うだろう。


「気合いいれるぞ。今回は二人多いんだ。周回プレイヤーの意地を見せるぞ!」

「はいはい」

「リリっち、頑張ろうねっ」


 リーフの掛け声は無視された。なんか落ち込んでる。


「くそー!」

「リリも無理しないでね」


 八つ当たり気味に駆け出すリーフと、僕を気にしながら前線に向かうオリヒメ。リーフが残念キャラに見えるのは気のせいかな?僕?僕は残念キャラじゃないですよ?


「リリっち、いこっ」

「うんっ!」


 ヴィーナスと共に左右から背後に回る。短い尻尾が弱点らしい。

 なぜに、どのモブも尻尾が弱点なの?夢の尻尾攻撃は危険なのかな?


「《つむじ風》」


 shiaが風の魔術を発動する。僕よりも範囲が広いのか、甲羅に細かな傷が着いていく。

 どうやらタートルは一応土属性のようで風攻撃が効いているように見える。それならばと、短剣を交換しようと思ったが結局やめる。属性補正はないが、やっぱり攻撃力と毒の付与は低威力の僕からはかなり重宝しているのだから。

 まして、相手は防御力が高い。少しでもダメージ判定の高いもののほうがいいだろう。


「《つむじ風》」

「《つむじ風》」


 僕とほぼ同時にヴィーナスも魔術を発動する。戦闘スタイルがかなり似ているようだ。さすが、魔法拳士を名乗るだけある。この世界は魔術であって、魔法ではないけどね。性癖を無視して、今度じっくり話してみたい。


「《ラッシュ》《ポイズンクロー》」

「《ライトインパクト》!」


 《ポイズンクロー》は小声で言う。まだ、知られないほうが良いだろう。だけど、タートルのステータスに表示された毒状態で気付かれる可能性もある。


「《ヘヴィストライク》」

「《パリィカウンター》」


 オリヒメが重い一撃を加えると、リーフは頭突きをいなしてカウンターを放つ(スキル)でもって、タートルのLFを削っていく。

 緩慢な動作の為に、僕とヴィーナスは余裕を持って躱すことができ、攻撃を入れていく。やはり、戦闘スタイルが似ている。

 shiaは時おりオリヒメとリーフに回復を飛ばしながら、合間を縫って攻撃魔術を放つ。

 リザードよりも楽だが、ブレイクまでには時間が掛かったことから防御力が高いのか分かる。


「回転来るぞ!」


 一度、身体を甲羅に隠し溜めをするのか、防御時より丸まっている。

 次の瞬間、全身を出して手裏剣のように回転して周囲を移動する。


「あぶっない!」


 ヴィーナスが《ライトインパクト》を放った直後に回転攻撃が発生した。他の皆は距離を取っていたにも関わらず、ヴィーナスだけは突貫していた。


「ひゃー、あぶないあぶない」

「ばかっ、何回も言ってるが無闇に突っ込むな!」

「えー、だってチャンスでもあるんだよ」


 溜めが長かったので、攻撃は当て放題ではあったが、魔術や弓などの遠距離攻撃ではないのだから、直撃してもおかしくはなかった。

 そんな状態なのに、ヴィーナスはギリギリ交わしていた。溜めの時間を把握していたとしても、その動きは僕よりも速い。素早さに極振りなのだろうか。


「リリっちだって、チャンスだと思うよねっ」

「え?うん、まあ」


 同意を得てヴィーナスは笑顔で頷く。チャンスでも、初見なので魔術攻撃をしていた僕に同意を求めるかな?


「よし、終わるぞ!しばらく硬直するから全力攻撃!」


 リーフの言葉が終わると同時に、全身を出して止まるタートル。


「《つむじ風》……《つむじ風》」

「《つむじ風》《ポイズンクロー》」

「《ショックボム》《ライトインパクト》」

「《インパクトアタック》《ヘヴィストライク》」

「《クロスリード》」


 それぞれが持ちうる中の業を放っていく。まだ序盤での数は少ないが、一斉に放つ業は壮観だ。まあ、甲羅が邪魔で掛け声しか聞こえないんだけどね。

 それに、魔術は発音が必須だけど、業は思考するだけで発動するのに、みんなしっかり発音しているね。なんだかんだで僕も言っているのだけど。そこは、ほら、ね?分かるでしょ?


「残り二割切ったぞ!」


 その後、通常攻撃の後に回転攻撃が再びあり、その硬直時間で倒しきった。


「いやー、今回は楽だった」

「ええ、前衛と遊撃が二人は楽ですね。最大人数が六人なら後衛も二人ほしいですけど」

「楽しかったー!」


 三人がそれぞれ感想を言い合う。周回は機械的になって飽きてくるらしいが、今回は僕らのお陰で楽しかったと言って貰えて嬉しく思う。


「今回はありがとう。時間ないから、悪いけど先に行かせて貰うね」

「ありがとう。僕も楽しかったよ」


 目的の討伐は終わった。いよいよ街に入って、ダンジョンに挑まないと。


「もし、気が向いたらまた組もう」

「しばらくはここにいますから」

「またねー。リリっち、今度会う約束忘れないでねー」


 お互いにお別れを言って、パーティーを抜ける。

 はて、約束までしたかな?

 首を傾げながら、炭鉱街『アナスル』へ入る。


『LiLi』

レベル21

成長率24

種族:獣人

階位:なし

生命力510

精神力160

攻撃力58

防御力58

 智力30

命中力60

素早さ64

器用さ29

  運16


 ファイアリザードを合計九回とロックタートル一回の討伐でかなり強くなった。

 レベル20ではパッシブを修得しなかったが、レベルアップによるステータス増量値が増えているようで、さらにフリーポイントも1から2へ増えたのは嬉しい。

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