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姫パーティは楽しくも楽じゃない  作者: 犬之 茜
名残し友への捧げ物
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採集とドロップ素材の依頼

 オリヒメと首都へ向かう途中、パーティ時に(おい)てのドロップ品などの分配の仕方や戦闘での役割分担、消耗品の使用条件や支払い方法など初心者の僕にも分かりやすくレクチャーをしてくれた。


「だったら、グランラットのレアドロップだよね。さっきの短剣」


 初めは素材しか確認していなかったが、クエスト報酬でお金が増えた為、このあとのクエストに向けて武器を更新しようという話が出た時に、装備品を確認すると知らない短剣があったのだ。

 それをオリヒメに確認すると、大変羨ましがられた。


「さっきも言ったけど、私は短剣使わないからね。効果は羨ましいけど、使わないなら意味ないし。リリの強化に繋がるなら、その方がいいよ」

「確かに僕なら嬉しいものだけど、レアドロップなら尾をあげようか?」


 レアドロップ一つと通常ドロップと思える素材三つで釣り合うのか分からないけど、そう提案するとオリヒメが首を振り思いっきり拒絶をしてくる。


「いい、いらない。だって、リリが噛み付いてたアレでしょ。触手ていうか、巨大なミミズっていうか」


 そんな喩えは聞きたくなかった。あの時の食感や味が甦り、吐きたくなってくる。


「私は自分でドロップした二つだけで充分だから」

「……でも、爪は僕達の強化素材だよね。他に使い用あるのかな?」


 先程の尻尾の味に毒爪の粉末が足されたような感じがして、思いっきり顔を顰める。


「んー、他にも利用先くらいあるでしょ。装備品の材料とか、毒の状態異常薬とか。なかったら、他の獣人の女の子にあげるだけ。あのクエストが強化の達成条件なら無意味になるけど、そんな物をわざわざドロップに加えないでしょ。データだって有限なんだし」


 やはり他のゲームでも遊んでいたお陰か、オリヒメは思い付く限りの可能性をスラスラと答えていく。

 そして、過去のゲーム同様にサーバーなどが扱えるデータ量は限られている。そんな情況で、無意味なドロップ品は設定しないだろうとの事だ。


「やっぱりゲームすると詳しくなるね」

「でも、裏の事情なんて憶測でしかないからね。今までがそうでも、ここは違うかもしれないしね。変な思考に囚われたら痛い思いするんだし。リリみたいな初心者の方が、思いつかない事するから私たちからすると貴重な存在なんだよね。だから、これからもっと楽しませてね」


 オリヒメが満面の笑みで僕に語りかけてくる。聞く人が聞けば、初心者云々(うんぬん)は見下したように聞こえるが、オリヒメが言うと本当に頼りにしているという感情が伝わってくるから不思議だ。


「さて、エンテの小屋が見えて来たよ」


 レクチャーを色々受けているうちに首都に入り、エンテのいる場所までやって来てしまった。それほどに僕は物を知らなかったのだと実感する。

 オフラインとオンラインではまるで違うのだなと、今更ながらに実感してしまう。


「ありがと。初めてがお姉ちゃんで良かったよ」


 始めはソロで行こうとしたが、オリヒメとパーティーを組んで本当に良かったなと思う。

 ロリコンと言う性格さえなければ、オリヒメはしっかりした人物なのだから。トラブルを起こす前に教えてくれて本当に良かった。友人二人は誘うだけ誘って、こういう基礎的な事はほとんど教えてくれなかったのだから。


「えーと。リリの初めての相手が私で良かったって。いやー、なんか照れるよ。リリ、可愛いなー。リアルで飼いたいなー」


 どう受け取ったのか、デレっとした顔で頭を撫でてくる。

 いま飼いたいって言ったかな。言ったよね。買うでも危険な変換になるけどっ。


「ほら、エンテが待ってるよ!入ろう。そうしよう」


 身の危険を感じて、素早さ頼りにオリヒメの手を躱す。うん、パッシブの《勘》がきちんと働いている。今までよりも躱しやすいと思いながら小屋に突入する。


「こんにちはー」


 狭い小屋には今にも壊れそうな椅子に座っているエンテがいた。ゆっくり顔をあげた様子から、今まで寝ていたんじゃないかと推測する。


「ああ、お前さんか。ソイの奴はいたか?」

「え、と……」


 柔和に微笑んだエンテに、僕はなんて言おうか迷っていると、やや意気消沈しながら入って来たオリヒメが説明をすると、エンテの表情は悲しい物へと変わっていく。それを見て、僕の胸もキュゥと苦しく感じた。


「そうか。まあ、ここを経つ前の付き合いだからな。もう何年も会っていなかったんじゃ。仕方がないよ。でも、ソイもか。残念だ」


 それはもうゲームだとか、NPCだとか思えない程の哀愁。どれだけの哀しみを抱いているのか、僕には分からない。

 後から思えば、この時に、この世界が僕にとってもう一つのリアルになったのだろう。


「ソイの子どもが元気で良かったよ。これは確かに受け取った」


 説明をしながら依頼の【白岩】を渡しており、今クエスト達成のメッセージが流れた。

 達成の報酬はないようだ。いや、やはり武器の補修がそれに当たったのだと思う。


「えと、それって白石と何か違うのかな」


 【白石】は採集で拾える素材で、装備品の補修アイテム。武器の強化にも一度適用される有用な物だ。

 【白岩】は現在の入手方法は不明だが、同種の素材だろう。ただ、サイズが大きくなっただけにしか思えない見た目。


「これは染色の素材じゃな。あいつは白が好きだったから、この色にしようと思ってな。石は主に装備の補修に使う物だ。あれは微量の鉱石が含まれておるから、まず砕いて高温で溶かせば不純物を取り除ける。まあ、素人目じゃ、大きさが違うだけにしか見えんが、まったく別物じゃな」


 名前も見た目も同系に思えたが、全然用途が違う素材なのだと知る。なんて、紛らわしい。

 だけど、染色か。いずれ装飾品を作る時の為に覚えておこう。生産職はこの辺も自力で調べないといけないのかなと、生産の大変な一面を想像する。


「エンテさん、装備作る前に染色の素材って、どういうこと?」


 僕が生産へ思考が割かれていたが、オリヒメはどうやらクエスト自体の流れに疑問を持っていたみたい。

 確かに、装備を作る前から色付けに拘るなんて、効率が悪い様に感じる。


「なに、一番楽な物をまず取ってきて貰っただけじゃよ。その間に、儂も旧友を訪ねて幾つか素材を手に入れておる。それに、染色はタイミングでまったく違う表情になるんじゃ。最後に上塗りだけだと、なんともつまらん」


 どうやら僕達が村へ行っている間に、過去の生産仲間に連絡を取り幾つかの素材を手に入れたようで、エンテの顔の広さを知ることが出来る。しかも、素材があると言うことは、その人たちは現役なのだろうか。

 そしてまた、生産に関係するヒントも貰えた。エンテは染色にも拘りがあるようだが、作るなら拘りたいと思うのは僕にもある。


「さて、いつまでも話していても始まらん。次の素材を頼もうかの」


 いったい一つの装備を作るのにどれくらいの種類と量が必要なのか分からないが、まだまだあるようだ。


「次は……この先の村の周辺にある白椰子の樹皮を十枚と、さらに先にあるアネサスと言う街の手前に陣取るファイアリザードの火袋を五つ頼むかな。獣人にとって火は避けたいと思うが、どうじゃ?」

「火くらいなら大丈夫!」


 僕は勢いよく返事をして、オリヒメは顔を引き締めている。

 前回、ここでクエストが止まったことで、気が引き締まっているのだろう。


「リリ、属性については?」

「うん?」


 そう思っていたが、オリヒメが考えていたことは違ったようだ。


「知らないんだね。火は獣にとって苦手ってイメージもあるけど、風属性の弱点でもあるんだよ」


 どうやら、属性にも得手不得手があるようで、それは他のゲームにも取り上げられている因果関係らしい。

 風<火<水< 土<風と言う感じで属性の相性があるようだが、もちろん威力の違いで覆すことも可能。

 《つむじ風》は風の初期魔術で、なおかつ強化も起きていない。今回のファイアリザードでは無意味どころか、相手の火力を上げるだけになる可能性すらあると教えてもらう。


「うーん、なら土属性の短剣なら」

「属性的には大丈夫だね。それより、攻撃力高い装備だから、今回は接近戦だね」

「でも、お姉ちゃん前にここで止まったんだよね」

「まーね。でも、討伐クエストでレベルも上がったし、装備も更新した。さらに、今回はリリが一緒だしね。敵としては、グランラットより弱い部類だしね」


 前回は低レベルかつソロでデスペナを貰い、クエストがストップしていたようだ。このファイアリザードの討伐推奨レベルが、始めにこの連続クエストで聞いたレベル20らしい。

 なら、果たしてグランラットの推奨レベルは幾つだったのだろう。知らずに受けたが、かなり無謀な挑戦だったのだろうか。


「アネサスに入るには、このリザードを一回は倒さないと入れないんだよね。フィールドボスって言うやつね。メインを進めてると、自然とパーティー組む人が増えるからもう少し楽に倒せるみたいだけど。さすがに、メイン放置でこっち進めようとするとソロになりやすくて、人間領も同じ理由でほぼ停滞。先に進んだパーティーも、その先のダンジョンで停滞中のまま」


 目的の『アネサス』に入るには、フィールドボスを倒さないといけないと言う情報を始めて知ったが、そのあとの情報は以前聞いたような内容だった。


「まだ停滞中って、その先って強い敵ばっかり?」

「強いのもいるみたいだけど、それよりもリアルな問題じゃないかな。社会人は言うに及ばず、学生はタイムリミットの短さとか。こんな序盤なら、メインに遅れたくないって心理もあって、攻略組でもサブを進めるのはソロくらいじゃない?詳しくは本人じゃないから分からないけど」


 二人でそんな話をしていると、エンテがわざとらしい咳払いをしてきた。


「それで、取ってきてくれるか?」

「ええ、受けるわ。フィールドボスなら、レアドロップ狙いの周回でプレイヤー集まってるかもしれないから時間掛かりそうだけど」

「僕もいいよ!あ、お爺ちゃん。アネサスの彫金師って知ってるかな?」


 場所が違えば同じ生産職でも知らない可能性があるが、聞いてみる価値はあると思い尋ねる。


「ああ、あの偏屈婆なら。……いや、あの偏屈婆もとっくに逝ったんじゃったか」

「…………そう、なんだ」

「でも、たしか弟子を取っていたはずだ。いや、養子だったか?」


 エンテも詳しくは覚えていないようだが、『アネサス』には確かに彫金師がいるようだ。


「うん、ありがとう。それだけでも充分だよ」


 本当は名前や姿の情報が欲しい所だったが、行けば分かることだ。


「なにか、装飾品を依頼するのか?」


 突っ込んで聞いてくることに驚いたが、素直に答える。


「んと、作り方教えて貰おうかと」

「ふむ、弟子入りか。防具じゃなく残念だが、その細腕なら装飾品くらいなら物によっても出来るだろうな」


 生産に細腕かどうか関係するのか不明だが、頷いておく。


「えと、お爺ちゃんも弟子募集?」

「いや、儂は教えるような性格じゃなくてな。作れるのと、教えるのは全くの別物じゃ」

「そうなんだ」

「なんのせ、素材を頼んだぞ。そして、偏屈婆の弟子に会ったら、儂の推薦じゃと伝えれば教えてくれるかもしれん」


 これは何かのフラグだろうか。

 早くその『アネサス』まで行って、作り方を習いたいと思う。偏屈婆の弟子と言うフレーズが気になるところだけど。


「リリ、話終わった?」


 今度はオリヒメが話に入れずに暇になっていた様子。


「うん、今いくー。じゃ、またね。お爺ちゃん」

「ああ、行ってらっしゃい。儂も準備を進めておくからな」


 エンテと別れて、小屋を出るとタイムリミットまで二時間位しかなった。かなり話し込んでいたようだ。


「全力疾走して、リザード相手に一回挑戦出来るかどうかだね」

「あれ、白椰子の樹皮は?」


 手前の村周辺で採集出来る素材を先に集めるのかと思っていたら、ドロップ狙いなのに驚く。時間がないなら、採集をした方が良いように思える。

 また樹皮は僕の防具に使っている素材らしい。


「あれなら持ってるから。二種類同時に渡さないとダメみたいで、前回の分がそのままあるからね。だから、ファイアリザードまで一直線」


 途中の村も素通りして、まずはリザードとの戦闘で自分たちの実力も試すようだ。ただ、どれだけプレイヤーがいるのか不明なので、挑戦出来るかどうかは不明。戦闘中にタイムリミットになったら、記録されたセーフエリアからやり直すしかないので、時間配分がシビアだ。


「村まで走れば……私の速度で十分くらいかな。前はもっと掛かったけど。リザードまでさらに二十分くらいかな、たぶん」


 約三十分も走るのは本来なら疲れるが、ここなら肉体的には疲れないので楽である。

 改めて時間を確認。残り二時間と八分。なんとか、一回は挑戦出来そうだが、全力疾走後すぐ戦闘は精神的に疲れるだろうと思いながら首都を出て走り出す。

 時速何キロで走ってるのだろうと思いながら街道を掛ける。

 僕はまだ余裕があるが、オリヒメは文字通りの全力疾走の様相を雰囲気が出している。

 街道を歩いているプレイヤーを躱し、同じく時間を有効に使う為に走るプレイヤーをたまに追い越していく。

 首都の先の村、『サドロイ』の中は早足で歩き、村を出て再び走る。時折、街道に飛び出すモブは先行するオリヒメが凪ぎ払い、すれ違い様に僕が止めを刺していく。

 フィールドボスのファイアリザードのエリアまで二十三分で着きました。オリヒメびっくりしてた。

 フィールドボスを避けられないように、ある程度両側が倒木などで塞がれている。飛び越えて行けないのだろうか。

 リザード前にプレイヤーが十一人。三つのパーティーなのか、それぞれ離れている。その内、四人パーティが戦闘中。


「少し待たなきゃいけないかな。挨拶して、順番待ちしようか」

「うん」


 ボスはお店のように、それぞれ途中から見えない相手をする訳ではないようだ。

 マナーが悪いプレイヤーが独占しようとしないか心配だ。

 そんな事を思いながら、戦闘中以外の二つのパーティーに挨拶をしに行く。

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