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姫パーティは楽しくも楽じゃない  作者: 犬之 茜
名残し友への捧げ物
13/123

報酬と強化

 頭を撫でられながらオリヒメに運ばれ、村に入りゼメスの下まで辿り着くと、顔を顰められた。


「…………ああ、報酬を渡さないとな」

「今の間は何かなっ!それに、そろそろ降ろしてお姉ちゃん」


 ゼメスがなんとも言えない表情をしている中で、ようやく地面に足を着くことができた。


「散々だよ」

「リリが私の楽しみを奪ったからね。軟膏とか治療とか」


 未だに警告を受けても自重しないオリヒメが心配になる。近いうちにアカウント停止になるんじゃないかと。ただ、それは自己責任になるので僕から言うつもりはない。というより、言ったら標的にされる。


「それより報酬は何かな?」


 オリヒメとの会話は引き際を見極めないと、とんだ被害を受けることをこの短期間に学んだ。

 実際に、これだけ大変だったクエストなのだから報酬も気になるのは事実ではある。


「ああ、一つはリゼだ」


『クエスト報酬として2,000リゼを受けとりました』


 今までにない高額な褒賞金だ。だが、ゼメスの言葉はこれは報酬の一つと言っていたのが気になる。


「結構良いクエストだね。お金以外にも何か貰えるみたいだし。敵も経験値良かったし」

「うん。なに、くれるのかな?」


 ゼメスが僕らをそれぞれ見てから、口を開いた。


「グランラットの爪は毒を与える」

「うん、そうだったね」


 先の戦闘ではオリヒメが数回、その毒爪の攻撃を受けて状態異常を起こしていた。それが何か関係するのだろうか。毒耐性のアクセサリーかな?


「今回、討伐し奴の爪が手に入った。これを使ってお前たちのクローを強化してやる」


 武器の強化は今日聞いたばかりだ。だが、自前のクローはその強化が特殊だと聞いていたのに、いきなり強化とは。どのように行うのだろう。


「まずは……すまん。名前聞いてなかったな」

「オリヒメ」

「僕はLiLiだよ」


 今まで、若造やお嬢さん、果てはお前としか呼ばれていなかったことを思いだし、改めて自己紹介を行う。


「そうか、オリヒメ。お前のクローから強化をするからこっちにこい」


 二歩前に出たオリヒメとゼメスが対面する。強化に興味があり、僕も横に移動して様子を見ることにする。


「お前らが来る前に爪を煎じておいた。飲んでみろ」


 ゼメスが紙の包みをオリヒメに手渡す。その包みを開くと毒々しさが分かりやすい紫色の粉末。


「えーと、これを飲めと?」


 戦闘に続き、また男性口調になってきている。それほど、オリヒメも逡巡しているようだ。


「飲めば奴の力を手に入れられるが辞めるか?所詮は小娘か」

「おい、私を侮るなよ」


 売り言葉に買い言葉のように、オリヒメは一気に紙包みを傾けて紫色の粉末を口に流し込む。

 瞬間、すごい顔色になりながらも嚥下し、それからむせ込む。さすがに水分もなく粉末だけを飲むのはキツいだろう。


「ごふっぼほっ、リリ、回復……」


 粉末の()せだけではないようだ、左上のパーティ情報を見ると毒のデバフが掛かっていた。


「ちょ、大丈夫!?」


 慌てて回復を施そうとするが、毒は十秒くらいで消失する。


「なんなんだ。おい、私を殺そうとしたのか?」


 オリヒメが両手剣に手を掛けてゼメスを睨み付ける。


「よくみろ。クローが強化されているだろ」


 訝しげにオリヒメは自分の爪を見るが変化はない。次にメニューリストから変化を確認しているのか、眼が開かれた。


「毒爪。まんま《ポイズンクロー》を修得してる。攻撃力も上がっているな」

「そうだ。特定の効果を持った爪を俺の所に持ってくれば調合して強化粉末にしてやる。ただ、いくら特殊攻撃をするからって雑魚の爪なら効果はない」

「先に言えよ」


 つまり、今回みたいな状態異常を持つボスやレアモブ系の爪を集めてゼメスに渡せば強化をしてくれるようだ。ただ、粉末の苦痛と短時間の状態異常が発生するみたいなので、水分や回復手段は必要だろう。


「両手剣だけで行くつもりだったがサブとして鍛えるかな。こんな序盤で状態異常攻撃修得するとは思わなかった。いや、獣人の特性に上げられていたから、これが特権なのか?」


 オリヒメが独り言を言っているように、獣人は他の種族よりも状態異常を発生させられる確率が上がるらしい。ただし、それはクローを使用した場合のみ。リーチの短さや低威力により、その特性があったとしても結局は不遇扱いではあった。


「ほら、次はLiLi。お前の番だ」

「うん」


 オリヒメと位置を替わり、ゼメスの前に立つと(おもむろ)に口を両手で開かれる。


「ふぁっ、ふぁにっ!」

「ちょっ、なんて羨ましいことを」

「……やはり牙が伸びているな」

「ふぁ?」


 まともに喋れない。口を開けて中を見られて何だか恥ずかしい。歯医者さんなら仕方がないが、こう他人にされるのはすごく羞恥心を煽られる。


「噛み付いたな」

「はひ?はみふいは?」


 言っている意味がわからない。そろそろ手を離して欲しい。オリヒメは幸いとスクショを撮っているようだ。あとで消すように言わないと。


「敵に噛み付いて攻撃したな。獣特有の本能が刺激されて、クローと同じようになっている。お前はその牙も十分な武器になるだろう」


 ようやく手を離してくれた。片手で頬を揉みながら、メニューリストを確認すると確かに武器が増えていた。


ファングLv1:《噛み付き強化1》


 なんともそのまんまの武器と、それを補助する業なのだろうか。ファング専用のパッシブかもしれない。

 噛み付きはあの偶然の攻撃に対して行ったので、一回しか行えていない。

 考えていた格闘は存在しないのか修得しておらず、投剣は複数回行い修得した。この差はなんなのだろうか。


「ファングもクローと同じように強化が出来る。粉末はまだあるから、試しにしてみるといい」


 そう言って紙包みを渡される。開いてみると、オリヒメの時に比べて倍以上の量ではないのか。


「えーと」

「二つ同時に上げるんだ。一つにくらべて二倍以上になるのは当たり前だ」

「……お姉ちゃん?」

「頑張れ、リリ!毒が酷かったら、私が治して上げるから」


 僕の心配よりも、治療にすでに意識が行っているようだ。ぶれないその気持ちは評価したいが、出来れば他に向けてほしい。


「あーもう!」


 一気に粉を口に含むと吐き出したくなるのを我慢して、なんとか飲み込む。すごい味だ。それに毒効果か気持ち悪くなるが、三十秒程で治まる。内服量が多い為か、効果時間も長かった。

 オリヒメが軟膏を取り出しているのを見て、慌てて回復魔術を発動する。こんなに気持ち悪くなるなら、毒は喰らいたくない。


 改めてステータスを確認する。今回で一気にレベルが上がった。


『LiLi』

レベル16

成長率4

種族:獣人

階位:なし

生命力400

精神力125

攻撃力42

防御力42

 智力21

命中力46

素早さ49

器用さ21

  運13


 一気に6レベル上がったことで、ステータスがかなり強化したように思う。そして一度にフリーステータスポイントが入り、迷いながら最後はステ振りが出来ないLFとMSを除外して、運以外にそれぞれ1ずつ振り分ける。

 今回の事で攻撃や防御の必要性、魔術の使用の多発を受けて均等に振り分けてみる。魔術防御は防御と智力の平均なので、智力に振り分けても損ではない。また、そのうち装飾品を作るのに器用さにも振っておく。それでも、種族補正やボーナスで命中力と素早さは突出する。


 そして強化された武器スキルはというと。


 武器スキル

 ・クローLv3:《スラッシュ3》《ポイズンクロー1》

 ・ファングLv2:《噛み付き強化1》《毒牙1》

 ・短剣Lv2:《スローイング1》《ラッシュ3》


 こんな感じになっている。今回、《スローイング》は最後のフィールラットのトドメに使用しただけだが、そろそろ強化されても良いと思う。鍛練度は目に見えないパラメータなので、どれだけ貯まっているのか不明。《スラッシュ》や《ラッシュ》は威力増強や攻撃回数の増加と目に見えて強くなっていると思う。ただ、回数が増えれば隙も大きくなるので、キャンセルするタイミングも重要になってきた。


「ファングはすでに身に付けてるから、一回使えば武器判定になるのかな。私は使う気にはなれないけど」


 オリヒメは修得の条件をあれこれ試案しているようだが、僕には深く考えるほど知識があるわけではない。そのうち攻略サイトに載るだろうと他力本願でいる。


「ところでリリ」

「ん、なに?」

「レベル15になったからパッシブスキル覚えたでしょ。たぶん同じやつ。種族ごとに違うみたいだけど」


 そう指摘され、武器などのスキルリストに新たに《パッシブ》と表示されていた。


「えと、パッシブは《勘》?」

「それそれ、パッシブは五つまでセットできるみたいだから、これから増えるんじゃないかな。拡張とかもありそうだし。それより、《勘》は文字通り野生の勘じゃないかな。なんとなく攻撃の軌道を読めたり、採集ポイントが発見しやすくなったり。たぶん、トラップの発見も出来るんじゃないかな」


 先にレベル到達していただけに、色々検証や応用を考えている。村に戻るまでは戦闘とオリヒメに運ばれたので採集ポイントは分からないが、格上の尻尾攻撃を掻い潜れたのはこのパッシブスキルが発動していたお陰かもしれない。


「どれも僕には嬉しい効果だね。それに、やっぱり尻尾攻撃も検証しようかな」

「完全に獣になるんだね」


 オリヒメの生暖かい視線を感じる。


「さて、そろそろ首都に戻って、本来のクエストを再開しよう」

「だね。もう三時間切ったけど話くらいは進めなきゃ」


 さすがに百匹の雑魚討伐とボス級の討伐に時間が掛かってしまった。だけど、見返りは大きかったので、時間を無駄にした印象はなかった。


「私も今は三時間くらいしかないしね。あ、そだ。ラットのドロップ確認した?すごい事になってるはず」


 言われて気が付いた。今回はパーティ三人で大量のフィールラットとレアモブのグランラットを倒しているので、相当なドロップだろう。

 経験値は熟練度との兼ね合いなのか、自分が一回でも攻撃を与えないと貰えないが、ドロップはパーティ全体の討伐分がそれぞれ手に入る。それ故、タイムリミット間近でパーティを組んで寄生でドロップ狙いをするプレイヤーがいる。


「うわ、フィールラットの毛や牙がすごい。グリースネークも少しだけど皮とか肉がある。あとは…グランラットのかな」


 素材アイテムには【土豪(どごう)の尾】という初めてみるアイテムがあった。後から武器を見て気付いたが、新しい短剣もドロップしていた。


 【土鼠の毒剣】

 攻撃力21 追加効果《毒1》《土属性》


 現在の【草鼠の骨剣】よりかなり高い攻撃力と毒の追加効果。ただし、土属性みたいなので場合によっては骨剣を使う必要もあるので、そちらも売らずに装備だけを交換する。

 どうやらオリヒメは武器のドロップはなく、【土鼠の毒爪】と【硬毛の皮】と言う通常ドロップだったようで、後から羨ましがられた。すぐに、自分が使わない短剣だったので興味をなくしたようだが、僕自身はある仮説を立てる事ができた。ラット系からは短剣がドロップする可能性があると。

 フィールラットからはドロップしていないが、それに沿った【草鼠の骨剣】があり、今回のグランラットから【土鼠の毒剣】からそう推測する。まだ二種類なので、今後はラット系を進んで狩っていこうと思いながら、二人して首都へ辿り着いた。

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