パーティーまで
「……おはよ」
まだ眠そうなアリスンが母親と共にホテルから出てきた。
まだ朝八時を過ぎた所だけど、パーティー会場となるホテルは区が一つ離れている。
出勤ラッシュは避けるように話し合っていたが、やはり移動に時間が取られそうだったので早めに集合することになった。
僕らの泊まったビジネスホテルとアリスン親子が泊まった高級ホテルは同じ区にあった。やや離れているからバスで移動するしかなかったけど、アリスンと過ごせる嬉しさから僕も寝不足気味。
「私は実家に行ってくるから、楽しみなさい」
「うん」
僕らと挨拶したあとに、アリスン母がそう伝えて出待ちしていたタクシーに乗り込んで去っていった。
「あれ、一緒にパーティー行くんじゃないの?」
「元はそのつもりだったけど、大丈夫って思ったみたい」
従姉妹と同じように未成年による保護者枠で一緒に来るものだと思った。
「良かったね、認めて貰えたみたいだよ」
「んん??」
何のことか解らないうちに、首輪から伸びているリードをアリスンに手渡している。
「LiLiはお母さんにもペットとして認められた。昔描いた同人誌みたいにリアルで見られて幸せだって」
「同人誌……」
「お母さん元同人誌作家兼ゲーマー。お父さん元ゲーマー兼同人作曲家」
「そんなドヤっとした顔で……」
可愛いけどもっ!
でも、小学生がプリハやMMORPGをプレイするには両親の許可が不可欠。理解ある両親なのは、プレイしている時点で判明しているか。
「私のユーちゃんが遠くに行っちゃう」
僕を抱き寄せながらそんな譫言を呟く従姉妹。
ホテル前だから、チェックアウトをした宿泊客たちやホテルマンに見られているけど、少しカオスな空気に近づいてこない。
「それより、その尻尾。昨日と色違うし、耳もある」
今日はパーティーだからって、従姉妹の要望でフル装備。朝から何枚か撮影させられた。
獣耳もバッテリーや脳波センサーにモーターが入っているから、少し重いんだよね。だから、普段は尻尾のみ生やしているけど、今日は生き生きと獣耳も動いている。
黒毛に先だけ白毛の獣耳と尻尾。赤い首輪とリード。黒の獣耳パーカーに白地のフレアミニスカート。黒いニーハイソックスと焦茶色の可愛いハイカットブーツ。左手首に赤いリボンに鈴が付いていて動く度にチリンッと軽やかな音がなる。
「ユーちゃんの全国デビューだからね!」
今まで抱き着いて頬刷りをしていた従姉妹が元気に答える。
「今日のユーちゃんの下着は純情な白無地に赤いリボン付きのお子さま下着にしたよ」
いや、そんなカミングアウトしないで。
とうとうノンワイヤーブラやショーツも手作りし始めた従姉妹が暴走している。
ニーハイとブーツ以外は従姉妹の作品だから自慢したいのかも知れない。
パーカーの紐にも小さな肉球ワッペンのような物が先に着いており、紐が片方から抜けないようになっている。スカートも肉球の刺繍が左端に然り気無く入っている。
普段使いが出来るように作られているので、伸縮性や保温性もしっかりと確保されている。
さらに、背負っているランドセル型鞄に革製の耳や肉球刺繍を施して改造までしていて、どこに向かっているのか。
「って、スカート捲って見せなくていいからっ!!」
「ユーちゃん、見られるの好きっしょ?」
「LiLi、変態」
なんで僕が責められるんだろ。ゾクッときて嬉しいけど、理不尽だ。
ホテル前で姦しく騒いでいたら、ホテルマンの視線が厳しくなってきたので慌てて移動する。
すぐそばのバス停から隣区にある会場となるホテル近くまで移動し、ホテルまで歩いていく。
「ここ、だよね」
「合ってる」
「二階だったね。フロントで聞いてみよ」
今回のパーティーはゲーム雑誌の記者や僕らみたいに招待されたプレイヤーも来るので、ホテルの一番広い会場を使用する。
フロントには立て看板にプリハの会場が二階とは出ていたけど、一応従姉妹が聞いて来てくれた。
「そこのエレベーターであがってすぐ右側だって」
「ありがとう」
「ありがと」
アリスンに引かれながらエレベーターに乗り込む。遅れてリードがエレベーターに挟まったら大変なので速やかに乗り込んだ。衝撃映像とかでそんな事故見たことがあるから、少し急いでしまった。
「右だね」
「広そう」
「そこのスタッフがプリハの会社の人かな」
エレベーターから降りるとすぐに目に付く場所に看板があり、視線を少し動かすと受付にスタッフが二人待機していた。
「行こっか」
いよいよパーティーだ。
本来のこんなパーティーはどんなことしてるんだろ。
ゲームショーも行ったことないから解らない……。