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合流

「ユーちゃん、ユーちゃん」


 肩を揺すられて目が覚める。

えっと、確か早起きして新幹線に乗って……、そうだ前の日に楽しみで寝不足だったから寝ちゃったんだ。


「ユーちゃん、大丈夫? もう着いたよ」

「ん。大丈夫」


 小さく欠伸をして周囲を見れば、すでに新幹線は停まっており降りる人や荷物を下ろしている人たちが目に入る。


「僕たちも、いかなきゃ」

「まだ混んでるから、ゆっくりでいいからね」


 手櫛で髪を解いて貰いながら、テーブルのペットボトルを鞄に詰めてしばし通路が空くのを待って、棚からキャリーケースを下ろして従姉妹に手を引かれながら新幹線を下車。

 さすがに新幹線内で迷子にはならないとは思うが、人の波には飲まれそうだから、手繋ぎは強制。


「どこで待ち合わせなんだっけ?」

「んー、SLが目印だったかな」


 懐古趣味というより、昔の遺産を遺すのに十数年前に東京駅に付随するように設置されてからは待ち合わせ場所の定番となった。後ろの客車数列は改造されてキッチンカーみたいに店が入っているので、待ち合わせにも便利。


「ならこっちだね」


 変わらず手を引かれながら後を着いていく。

 僕自体は数回しか来ていないし、それも学校行事で来たのみ。魔境である東京駅は現代のダンジョンと言えるので、100%確実に迷子になる自信しかない。えへん。

 道順を覚えられないなりに、はぐれないように一生懸命に着いていく。

 従姉妹は原宿や新宿に行ったり、服飾系のイベントを覗きに何度も東京に来ているのでなれている。ほとんどは高速バスらしいけど、都内移動で電車は使うので東京駅構内も熟知している。使いなれたのは一部ルートだけらしいけど、それでも僕は覚えられる自信はない。

 電車どころか、バスにもほとんど縁のない田舎だから覚えられないのも仕方がないんだ。


「ここを登ったらすぐだからね」


 人酔いしそうな状態から漸く解放される。

 よく毎日こんな人の多い場所を利用できるね。通学だけで疲れそうだよ。

 週末、学生からは春休みの時期だからか駅は人が多い。そう考えると、田舎は良いよね。

 人酔いしないように、どうでも良いことを考えながら着いていくと漸く外に出られた。もう疲れた。

 だけど! 待ちに待ったイベントがこれからある。

 アリスンに会えるんだ。楽しみで疲れも吹き飛ぶ。


「目印は?」

「アリスンは来る時に服選ぶから服装で目印にならないかもって。母親とSLの正面にいる予定だって言ってたから、親子連れが目印くらい」


 同じ新幹線で来ているはずだけど、どちらが先に到着するかわからないからお互いに目印は伝えている。

 僕らは女性(・・)ふたりに首輪や尻尾をしている僕がいるから分かりやすい。

 周囲を回ってそれらしい親子連れは何組かは見つけたけど、僕らが近づいても反応はなく、どの組かわからない。


「聞いて回る?」

「メールしてみるよ」


 こうしている間にも、僕が目印となって見つけてくれるかもしれないけど、すれ違いは回避する手を打った方が良い。


「いまトイレ待ちだって」


 メールがすぐ返信が来たけど、まだ時間が掛かるみたい。

 ちなみに僕らもトイレに寄ったけど、然程混んではいなかった。

 それから出歩く先の候補を話したり、他愛ないことを会話して十五分くらいすると親子連れが近付いて来たのに気付く。


「あの、LiLiさんとLiAさんでしょうか?」


 そう大人の女性が話し掛けてきた。

 僕の母親より若い感じで、身長も僕よりもあるクールな感じの眼鏡美人。シックな黒のジャケットにパンツスタイルで一見仕事中のOLのように見える。

 でもショルダーバッグ以外に小型のキャリーケースを持ち、隣には女の子が一緒にいる。


「あ、はい。僕がLiLiです」

「従姉妹のLiAです」


 僕の名前に似せてLiAとしてプリハを遊んでいる従姉妹は、アリスンとは向こうで面識がある。だから、それぞれの名前を聞いてもすぐにわかるはず。一応オフ会だからキャラクター名で呼びあう。


「良かったです。こっちのアリスンの母親で暗こ………んん、衣梨亜と言います」

「アリスン、です」


 母親の衣梨亜さんが何かを言いかけて辞め、本名? を名乗ってくれる。

 それよりも目が行くのはやはり生アリスン。

 一言で言うなら可愛い。二言で言うなら服従したい。

 母親譲りの綺麗なストレートな黒の艶髪が背中まで流れ、やや吊り上げっている目尻は無理に背伸びしているような愛らしさ。

 スカイブルーのワンピースに白のボレロが黒髪をより引き立て、アクセントの白いリボンがまだあどけなさを感じさせる。

 身長は僕と同じか少し高いくらい。

 思わず何時ものように飛び込みたくなる衝動を押さえて、挨拶をお互い交える。


「思ってた以上に可愛いらしいね、アリスン」

「……ママ」


 なんか衣梨亜さんがニマニマしてアリスンを見て、アリスンが顔を反らしてるけど何かあったのかな。


「私はこれから実家行くから、娘をよろしくね」


 挨拶だけして衣梨亜さんが時計を確認して、さっさと雑踏に消えていった。アリスンが心配じゃないのかな。


「えーと、アリスン」

「ママは何時もあんな感じ。私も東京には何回も来てるし、ホテルの場所も分かるから」

「それでも保護者として心配じゃないの?」


 従姉妹もこんなあっさりと保護者が別れた事を心配しているみたい。

 それにしても、ママかー。可愛い。


「ママもLiLiのことはネットで知ってるし。それに、ママたちもオフ会で知り合って結婚したから信用出来そうな相手なら寛容」


 衣梨亜さんも昔はかなりゲームを遊んでいたらしく、オフ会などでよくプレイヤーたちと会っていたらしい。さすがにアリスンが小学生だから警戒したようだけど、なぜか合格したみたい。


「LiLiがプリハで私のペットだって知ってる。リアルでも飼育許可もらえた。それより……」


 飼育許可っ!? と驚いている間にアリスンが僕の後ろに回ってスカートを捲った。


「お尻に……LiLiはやっぱり変態」


 褒められた。いや、罵られた。どっちも嬉しいけど。


「首輪もして、私が選ぶ必要ない?」

「必要あるよ! アリスンが着けてくれる首輪が一番嬉しい!」


 つい、条件反射で叫んでしまった。周りの人が見てきて恥ずかしい。


「そか」

「ユーちゃん、私が選んだ首輪嬉しくないの?」

「嬉しいよっ! でも、アリスンが選んでくれるのが一番……ごめん」

「んー、いーよ。ユーちゃんが盗られるのは寂しいけど」


 従姉妹が抱き締めてくれる。温かくてホッとする。


「……」

「あ、アリスン。ごめんね、ユーちゃん抱き締めたい?」

「ん」


 従姉妹とアリスンで話が進んで行くけど、そのままアリスンの胸に移された。


「ちいさい」


 抱き締められると、僕のほうが身長小さいのが分かる。胸はお互い様だからね。


「よしよし」


 プリハではもう何百回と頭を撫でられたけど、リアルだとさらに多幸感が。

 胸にいっぱいアリスンの匂いが満たされてヤバい。


「………あ」


 つい、やっちゃった。まあ、ギリギリセーフだけど。

 合流してそうそう幸せで死にそう。

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