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姫パーティは楽しくも楽じゃない  作者: 犬之 茜
名残し友への捧げ物
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草鼠群の駆除

 村をNPCゼメスを含めた三人で出た途端にフィールドには無数のポップが現れる。それはほぼ全てフィールラットで構成されており、申し訳程度にグリースネークが見て取れた。


「奴らは村の食糧を食べて強くなっているから気を付けろ。この辺りの鼠供は単体行動が多いが、奴らはそれぞれ群で襲ってくるから気合いをいれろ」


 ゼメスの説明で普段のフィールラットより強く、さらにリンクもしやすいのだろう。


「では行くぞ」

「連続クエスト進めたいけど、仕方ないか。リリはまだキツいだろうから私の討ち漏らしをお願いね」

「うん」


 僕らが話し合っている間にもゼメスは駆け出して手近なフィールラットに自慢のクローで薙ぎ倒していく。


「おお、強いね。多くても二撃か。私たちならもっと掛かるかな。でも、通常攻撃しかしてないね」


 ゼメスの戦闘は苛烈だが、チュートリアルにあった業の数々を行使したらもっと殲滅速度は上がると思うが、なぜかゼメスは通常攻撃しか行っていない。


「私たちの力に合わせてるのかな。負けてらんないね」

「そうだね」

「リリは驚いてる?」

「え?」

「獣人、引いてはクローが不遇扱いなのに、ゼメスはそれをものともしない。一撃が弱く手数勝負なのに楽々ラットを倒している」

「…………完成系の例?」

「一つの形だね。単にレベル差があるんでしょうけど。こんなの見せられたら本気で行くしかないじゃない」


 素早さ特化なのかゼメスの攻撃は当たるが無数のラットの攻撃の嵐を掻い潜り、左上に表示されているゼメスのLFは全く減っていない。自分も速度特化ではないにしろ、このワンサイドゲームには自分の可能性が現れていた。


「お姉ちゃん、僕は僕なりに戦ってみるよ」

「ん?リリも火が着いたんだ。なら、競走しようか」

「うん」

「じゃ、レディー・ゴー!」


 オリヒメも駆け出し、密集するラットの群れを両手剣で横凪ぎに斬り払っていく。


「よし、行こう」


 二人の戦闘を眺めながら準備を終えて別のラットの群れに飛び込み、足を振り上げる。

 新たな戦闘の方法をいきなり実戦で使うとは思わなかった。テストもせずに実戦で使用するほど無謀なこともない。だが、僕の考えは正しかった。

 振り上げた足先から伸びる爪が蹴り上げと同時にラットの腹部を斬り着けていく。

 リアルで爪切りをしている時に足の爪が気になった。クローは爪を武器としている。ならば、足の爪もクローとして機能するのではないのか。

 オリヒメが駆け出してから、ファッション装備の【草編みブーツ】を装備解除し、裸足でフィールドに立った。手と同じ要領で指を曲げてみると、両手程ではないがニュッと短い爪が飛び出した。だが、まだ武器としての機能があるか解らなかったがそれも証明された。


「強いけど、でも行けそう!」


 かつてテニス部でのフットワークを活かしながら右手の短剣と左手のクローを使いラットを斬っていく。噛み付こうと突っ込んでくるラットには避けながら蹴りと足のクローでカウンターを放ちダメージを重ねる。

 単体の能力は強化されているが、行動パターンは変わりがないのが救いだった。僕が一匹を仕留めるには十回近くは攻撃を与えないと行けなかった。

 足のクローはダメージ自体は低いようだが、蹴り上げのダメージと空中での行動制限を与えられるので一長一短なのだろう。そのうち格闘とか覚えそうだ。


「はあはあ、それより、も。僕も噛み付き攻撃が、出来るの、かな」


 左下の簡易ログには現在二十一匹目の討伐が表示されている。

 息が上がる中、状況を見ながら回復魔術を自分に掛けていく。LFは自動回復しないが、MSは十秒で5を回復してくれるので回復《応急措置》の消費8を考えれば二十秒で一回は消費なしで回復出来る計算だ。それでも、リンクにリンクが重なれば回復が追い付かない。

 流石に噛み付きを検証するほどの体力も精神衛生上の余裕もないが、蹴りにダメージ判定があるみたいなので何時かは検証が必要と覚えておく。


「よし、次っ!」


 新たな群れに両手両足を駆使して攻撃を加えていく。四十匹を倒したあとにゼメスが、七十匹を超えた辺りでオリヒメが目標数を達成したようだが、オリヒメはそれでも湧き続けるラットを攻撃していく。


「単純なのに経験値効率いいね!」


 クエスト用ラットだからか単に強いからか経験値の入りは良い。すでにレベルが14になっている。


「僕だってすぐに終わらせるよっ」


 近くに来て戦っているオリヒメに聞こえるように声を上げて、次のラットに蹴りとクローを叩き込む。


「リリ、ワンコスタイル!格好いいよ」


 時折四肢を着いての戦闘にオリヒメが興奮していた。たしかに端から見たら自分は獣のような戦い方だろうが、興奮される要素はないと思う。

 最後の百匹目を蹴り上げからの投剣で仕留める。


「疲れたー!」


 自分とオリヒメに回復を施しているとゼメスがやってくる。なんとゼメスのLFは一割も減っていない。


「頼んで正解だったな。嬢ちゃんたちの実力は確かだった。だけどな」


 ゼメスが不遜に腕を組んで僕らを見てから、フィールドの先を見つめる。


「鼠供の親玉がやって来た」


 ゼメスの視線を追うと新たな群れが近付いて来ているのを確認出来た。


「なんか無理ゲーだったり?」

「いやいや。親玉って言うからあれを倒せば!でも、推奨レベルじゃないよね」


 群れの中にはこのフィールドのレアモブとされている黒い大きなラットが見えた。以前に発見したことがあるがレベル差があり避けたラット。


「レアモブがボスとか、流石にキツいね。しかも群れは最低でも五十はいるんじゃないかな?」

「これで死んだらクエスト失敗かな」

「たぶん初めからだろうね」


 二人して会話をしているとゼメスが前に立ち構えた。


「雑魚は俺が押さえておく。嬢ちゃんたちはあのグランラットを頼む」


 言葉を残しゼメスは駆け出す。群れに接触する前にゼメスが刺突を放ち先頭のラットを屠り、続けざまに衝撃波で範囲のラットを一掃した。


「おー、この演出のためにさっきまで通常攻撃しかしなかったのかー」


 オリヒメが嬉々として光の残滓に呑まれるゼメスの演出に喜び、後を追うように駆け出した。


「あー、もうっ」


 まだ心の準備が出来ないままにオリヒメを追いかける。

 二人でもキツいだろうレアモブのグランラットは近付く程に大きさを実感する。自分と同じ位のグランラットに気が引けるが、大きいぶん攻撃は当たりやすいだろう。


「はああ!」


 両手剣を振り回し、フィールラットを巻き込みながらグランラットに一撃を入れてオリヒメをターゲットにしたように相対するのを見て、僕は背後に回る。

 範囲攻撃の業を放ったオリヒメの周囲にはフィールラットは存在しないが、背後にはまだラット達がいる。それをゼメスによる衝撃波で駆除してくれる。


「リリは常に背後からフォローお願い!」


 グランラットの噛み付きを避けながら指示をだし、隙があればオリヒメが斬り込む。どうやら防御とカウンターを主体としたスタイルに切り替えた様子に、僕は攻撃主体にサポートでオリヒメの回復を施すように立ち回るようにする。


「せいっ」


 クローと短剣のコンボに蹴り上げを加えたが、グランラットが重いのか身体が浮くことはなかった。


「弱点はフィールラットと同じお腹!」


 身体が浮くことはなかったが、足のクローでの攻撃が手のクローと同じダメージ量から弱点と推測する。


「そっちはリリが頼む。こいつの噛み付きは毒があるみたいだ!少し回復の効率も上げてくれっ」


 オリヒメも余裕がないのか男言葉でフォローを飛ばし、ヘイトが移らない範囲で回復の層を厚くする。


「毒抜けたから、回復はまたペース落としていいよっ」

「わかっ、ぐっ、つーっ!」

「リリ!」


 じわじわ削っていたラットのモーションが変わったのか初見の攻撃を交わせなかった。


「大丈夫!たぶん、尻尾攻撃が増えたよっ」


 横殴りの攻撃が正面にいる本体から放たれたとは思わない。今まで垂れていた尻尾が鞭のように揺らめいているのを見てそう判断する。

 マトモに受けたことで四割もダメージを貰い、バックステップで距離を取り回復する。

 その間に周囲を観察するとゼメスは未だフィールラットを駆除している。個数が減っている様子がないので、グランラットを倒すまでゼメスの参戦が出来ないようになっているのだろう。

 オリヒメには組み付きと毒付与の引っ掻き攻撃を行っている。こちらの攻撃モーションの追加は噛み付きの頻度が増えたようだが、逆にカウンターの隙も増えたようでオリヒメの攻撃回数も増えている。

 背後は尻尾の鞭攻撃。他には確認出来ないが、正面よりも不規則な動きに予測が付きにくい。


「お姉ちゃんばかりに任せられないよね」


 グランラットのLFが六割になって尻尾の鞭攻撃が発生したので、もう一回はモーションチェンジがあるだろうと警戒しながら戦線に復帰する。


「せいっ、はあーっ」


 死角から襲ってくる尻尾をなんとか躱しながら攻撃を加えていく。自分の小さな身体を利用してグランラットの下に潜り弱点攻撃をしようとすると、尻尾が防衛なのかその時だけ苛烈に自身の足元をカバーして入り込めない。しかもオリヒメとの戦闘も継続しているため、絶えず移動しているので横から潜ろうとすると踏まれる危険があった。


「《つむじ風》」


 オリヒメがパターンを把握したおかげか回復する頻度も減り、ここで攻撃魔術を混ぜていく。

 初級魔術だが、ダメージはしっかりと入っている。自分のステータス的に遠距離攻撃を主体にはできないので、MSに余裕があるときにだけ放つしかないが弱点属性なのか削るペースが早まった。


「でも、もう自然回復追い付かないや」


 魔術は回復優先なので一回分の回復を残し、もう魔術を放つ余裕はなくなった。


「ほらっ、もう当たらないよ‼」


 前方からオリヒメの勇ましい声が響く。うん、僕より男らしいや。

 若干意気消沈しながら尻尾を掻い潜り、バックアタックを続けていく。

 この尻尾攻撃も再現出来ないかなと思いながら、鞭のようなしなやかさや質感、長さなどどれも足りないので諦める。

 そんな横に反れた思考を現実に引き戻すように重い一撃が襲ってくる。


「くっ!」


 クローと短剣のガードと拮抗したかと思ったが、それを突破する尻尾。

 咄嗟にそれに噛み付いたが、尻尾の向きに合わせて身体が振り回される。


 うー、口の中が気持ち悪い。あと、変な味するー。


 ジェットコースターのように振り回される気持ち悪さとは違い大口で咥えている尻尾がウネウネと動き精神的にヤバい。まだ先端ではなく横から噛み付いているのでましかもしれないが。


「おー、リリが触手プレイを!」


 風切り音に混じって幻聴が耳に入ったが、これは幻聴だ。早く口を離したいがそのまま落下したらダメージは相当なものだろう。泣く泣く噛み付きながら尻尾に両手で攻撃をしていく。

 どうやら尻尾も弱点部位なのか、目に見えてLFが減り三割を切った。その瞬間、尻尾の速度が上がり、ついに口から離れ地面に叩きつけられた。


「くーっ!痛いし気持ち悪い」


 全身を静電気で刺されたような痛みと、アクロバティックな動きからの解放で直ぐに立ち上がれない。幸いにも、尻尾の射程圏外に飛ばされたので追撃はない。

 一気に六割も減った自身のLFを慌てて回復しながら、ようやく立ち上がろうとした所にグランラットの周囲に茶色い何かが現れ、それが周囲に発射される。そのうちの一つが立ち上がろうとしている身体にぶつかる。


「うぐっ……」


 折角回復させたのに再び三割も削られた。尻尾に食らい付いていた間にMSはかなり回復していたので間髪入れずに回復魔術を発動。


「リリ、大丈夫かっ!どうやら、土属性魔術使うみたいだなっ!」


 離れたにも関わらずオリヒメの声がよく聞こえる。左上のパーティ情報からオリヒメも今の一撃を貰ったのか蓄積したダメージも合わせて五割を切っていた。


「やばっ」


 オリヒメを視界にいれ、回復を飛ばす。オリヒメが全快するまで逃げ回りながら詠唱して回復を繰り返す。

 魔術詠唱は自動的に口から出るので楽だ。もし詠唱を暗記しないといけないとなるとここまでスムーズな回復は行えないだろう。


「山だよ!ここで一気に行くよ!」


 オリヒメがラットの魔術を躱した直後に両手剣用の三連撃を放ち、直ぐに二連撃を放つ。

 同じ業はリチャージまでの使用不可があるが、他の業を混ぜることで業のコンボを繋げる事が出来る。

 オリヒメが最後に衝撃波を放ち終わるころ、僕も風の魔術《つむじ風》を発動してから駆け出す。

 範囲攻撃は味方すら巻き込むので、使うなら状況を見ないといけないが、たまたま遠距離からの攻撃を起点にしようとした僕とはタイミングがよかった。フレンドリーファイアで戦闘不能なんて格好悪い。

 衝撃波が当たり、《つむじ風》が切り刻むのを確認しながら横合いからスライディングにより一気に下腹部に潜る。連撃により足が止まらなかったらこんなことは出来ない。

 晒されたお腹に短剣の《ラッシュ》とクローの《スラッシュ》を交互に放ち、足からの通常クロー攻撃をしながら詠唱というリチャージの代わりを経て再び《つむじ風》を叩き込む。

 その間にオリヒメも通常攻撃からの二連撃と三連撃とリチャージの短い順に業を再度使用。僕がいるからか、範囲攻撃は行わない。

 土属性魔術の初級に当たる《石礫》は下腹部には発生しないようで、踏みつけに気をつけながら通常攻撃と業、魔術を放っていく。


「よっしゃー!終わりだー!」


 オリヒメの声を聞くより早くに、それは押し寄せる。


「ちょ、わー!」


 崩れ落ちる身体に下敷きになると同時にそれはエフェクト光を散らし消滅していく。最後の押し潰しは僅かな接触だったが一割も削られ、背筋が凍る。


「流石に疲れたわ。リリ、いつまで寝てるの?軟膏タイム?」

「いやいや。大丈夫だからっ」

「ちぇっ」


 慌てて回復を施し、全快にする。

 オリヒメの発言で討伐の余韻が吹き飛ぶ。


「予定外のクエストだったけど、リリの新しい姿が見れたからいっか。それに、かなり美味しい狩りだったし。まさかレアモブをこんな始めに倒すことになるとは思わなかったけどね」


 オリヒメが怪しい笑顔を向けているところに、最後のフィールラットを倒したゼメスがやって来る。


「よく親玉を倒してくれた。また敵が来るかもしれんから、報酬は村に戻ってからだな」


 ゼメスが起き上がった僕の頭を撫でてくれた。


「なんでリリだけ撫でられるのかな?別にこんなおっさんに撫でられたくないけど、なんか腑に落ちない」


 オリヒメが不満な顔をして、さっさと歩いて行くゼメスを見ながら文句を言っている。


「リリ、私頑張ったよね?」

「え、うん」

「なら、私に偉い偉いして。リリのちっこくて柔らかい手で撫でて」


 オリヒメが頭を差し出してくる。


「えーと、えらいえらい」


 撫でることに慣れない自分が、ぎこちなく頭を撫でてみる。オリヒメの髪はサラサラと言うよりしっとりとしている。撫でることがこんなに気持ちいいんだと思う。

 いつも撫でられてばかりで、擽ったさに耐えていたが、今回は撫でまくる。


「えーと、リリ。も、いいよ。なんか、恥ずかしい」


 オリヒメの顔は見えないが、新しい反応が面白く撫でていると急に怒りだし押し倒され反撃として頭を撫でられた。

 もうゼメスが見えない距離に行っているが、まだオリヒメの欲求が収まらないのか僕を小脇に抱えながら頭を撫でて村まで連行された。

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