ミニゲーム:雪上競争
少しだけ遡ってクリスマス限定品をコンプリートした後。
冬休みにも入って、連日アリスンと楽しくイベントに邁進している。交換素材集めも少し休憩して今日はミニゲームをする予定。
「じゃあ、今日はこれだね」
ミニゲームは雪上競争と雪合戦、かまくら作りの三種類。
雪合戦は五人をマッチングしてチームを作り、雪原・樹氷地帯・氷河のフィールドで雪玉をぶつけ合う競技。
かまくら作りは時間内での作成と芸術点を競う生産職有利のゲーム。
そして、今日行う予定の雪上競争。
「LiLiはソリとスキーとスノボーのどれにするの?」
「んー、ソリかな」
「……LiLiに一番似合うね」
優しい眼差しで頭を撫でられた。
三種類の何れかを選んで指定のコースを滑り競うのが雪上競争。
その三種類がソリ、スキー、スノボーとなっており、それぞれ特性がある。
『ソリ』
直線:★★★★★
曲線:★
安定:★★★★
『スキー』
直線:★★★
曲線:★★
安定:★★★★★
『スノボー』
直線:★★★
曲線:★★★★★
安定:★★
このように別れており、ソリは直線コースにずば抜けた性能と安定性があり、スキーは直線もカーブもそこそこのスピードだが安定性が良く転びにくく、スノボーはカーブに強く直線もスピードは良いが安定性に難があり転びやすい。
「………だってスキーなんて小学生以来だし、スノボーなんて乗ったことないもん」
僕が選んだソリは直線ことトップスピードだが、カーブが絶望的。安定性があっても曲がりきれずにコースアウトもする極端な性能。だけど、言った通りにスキーなど慣れてないので一択だ。別に初心者でも補正みたいのがあると思うが、結局PSが最後は物を言うのでソリにした。
「練習はする?」
「んー、いいかな」
練習エリアには指導員がおり、子ども向けの緩い坂で教えて貰える。興味はあるけど、ソリって練習いるのかな。
「LiLi向きなエリアなのに」
「そういうアリスンはいいの?」
「私はたまに滑るし、学校でもスキー教室あるからね」
こういうアリスンはスキーを選んだみたい。板も慣れた手付きで装着している。
「それじゃあ、さっそく行ってみましょう」
流石にミニゲームは人化しないと難しいので、久しぶりに人間になってみたけど、マイクロビキニ姿で雪山は周囲のプレイヤーから注目される。イベントエリアだから寒冷ダメージがないのが、せめてもの救いかな。
今回のコースは全10種類あるなかで、ソリに不向きな曲線が多いコースだった。
コースの中には直線が多いものや、ジャンプ台やクレバスがあるもの、森林や急斜面のコースなどがあり、今回は凸凹なうえにヘアピンカーブやスラローム向きなものが出てきた。
「負けないからね」
マッチングで十人のプレイヤーが並び立ち、同時に受付したので横並びになったアリスンが勝負を挑んでくる。
「僕だって」
負ければ好きな料理を奢る約束をしている。一回ならいいが、今日はミニゲームで遊び尽くすつもりなので、勝負は一回では終わらない。
スタートのカウントダウンが始まる。
ソリは僕一人。このミニゲームはイベントフィールドの観戦エリアで同時に複数公開されている。惨めな姿は晒せない。
ビーー!!
スタートと同時に一斉に飛び出す。
初めの50メートルは直線なので、直線に強いソリである僕が一番に踊り出た。
まずはスラローム。
曲線が苦手でも、安定も高いのでお尻がバンバンとぶつかり痛いけどゴリ押しでぶつからないギリギリで何とか姿勢を傾けて交わしていく。
コースによってはショートカットなども出来るみたいだけど、チェックポイントもありなかなか難しいらしい。
今回のコースにあるヘアピンカーブもショートカットは少し可能だが、カーブの初めと終わりにチェックポイントがある部分が存在しているので、コース取りがシビア。
「って! ちょっと、アリスン!!」
スラロームをゴリ押ししながら、次のヘアピンカーブのことを考えていたら、前にアリスンが割り込んで進路を妨害してきた。
直接的な接触は不可能だが、エッジで舞う雪に視界が塞がれる。
「やばい、やばい!」
視界が晴れた時には遅かった。
カーブを曲がりきれずにそのままコースアウト。雪山に頭から突っ込んだ。
30秒以内にコースに戻らないと失格になるが、頭から突っ込んで逆さまになったまま失格を向かえた。
モニターには雪からお尻を突きだしたシーンが複数のプレイヤーに目撃、スクリーンショットやムービーに保存された。
「まず一勝だね」
得意気に戻ってきたアリスンは僕の惨状は知らない。
アリスン自体も三位に終わったが、僕との勝負では完勝には違いない。
「うー、次だよ。コースが悪かっただけだもん」
一回負けただけだしね。次こそは勝つよ。
「ソリから変えてもいいんだよ」
「ソリで勝つもん!!」
どうしてアリスンだと、僕ってこんな子どもっぽくなるのかな。でも、なんか変更も癪にさわる。
雪上競争はポイントによって、ソリかスキーかスノボーの何れかをポイントで交換できる。さらに、ポイントを使ってデザインやカラーも変更出来るようになるが、三種類は使用していたものが選べるので途中で変更したらポイントが無効になる。
たとえ十位のビリでも1ポイントは入っている。たかが1ポイントだが、それ以上に変更は負けた感じがする。競技では惨敗だけど、ここは譲れない。
「ふーん、私へのご褒美が増えて嬉しいから、別にいっか」
すでに次も勝った気でいるみたい。吠え面を見てやる。
「次は僕だって本気でいくよ」
そして、本気でクレバスに落ちた。クレバスは復帰時間なく、即失格だからね。アリスンのニヤニヤ顔が。
「次こそ」
木にぶつかり、降ってきた雪に押し潰されてタイムアウト。
「……次だよ、次」
ジャンプ台に乗って、ソリから投げ出されて雪山に頭から再度。
「今までは練習だから」
地味に何度もコースアウト。
「………笑ってるのも今のうち、だよ」
またクレバスに。
「今日は雪の状態が悪いみたいだね」
三度目の雪山に。冷たくて気持ちいい。
「……次……うっ、ぐすっ」
ヒャッハー! 急斜面、直接が多い! 一番にっ!!
ジャンプ台にカスってバランスを崩し地味にソリから転がり落ちて、こんにちはクレバス。さよなら地上。
「……うえーん、もうやだー、おうちかえるー!!」
ずっとビリ、毎回失格。
「ほら、泣き止んで」
「やーだー!!」
続々とプレイヤーが野次馬しても、イベントNPCである係員たちに励まされても、折れた精神は一向に治らない。
自分でも何で泣いているのか解らなくなってきても、涙は次から次へと溢れだしてくる。
いつの間にか手にはぬいぐるみやお菓子があるけど、今はそれどこじゃない。何が悲しいのか、何が悔しいのかも解らず泣いた。
「……、……ふぇぇ、ぐすっ、うー」
もはや言葉も出ずに嗚咽だけ、涙はそろそろ枯れてきて周囲を見るとアリスンがいない。
「ふえ、ありすん……どこ……いないよ」
なんか側にいない寂しさ、悲しさ。
「わーん、ありすんー、げしゅじんさまー、わー!」
あれだけ楽しかったのに、なんで今はこんなに。
そう思ったら、突然ふっと視界が暗転した。
「……うー、ぐすっ」
気がついたらリアルに戻ってきていた。
強制ログアウト。プリハに引きづられて涙がでるが、そこは紛れもない自室。
「……まだ、三時間ちょっとしか経ってない」
ようやく落ち着いてきて、周囲を確認し時計を確認した。
アリスンは接続上限時間で強制ログアウトしたのかもしれない。
なら、僕は?
外部から接続ログを確認すると、極度の精神の不安定からによる強制ログアウトだった。
「……アリスン」
最近はアリスンとずっとおり、主従関係でも友人関係でも楽しかった。
なんだかアリスンといると安心して、アリスンの前だと子どもっぽくなってしまうのは自覚していた。
……依存?
今日はミニゲームで遊んで楽しかったけど、毎回失格して悔しくて悔しくて。ついいつも以上にムキになってしまった。
少しは頼れる所を見せたかった。格好いい友人として、逞しい飼い犬として。アリスンの自慢のペットとして。
なのに情けない姿ばかり晒して、つい感情のコントロールが効かなかった。
「はぁ、呆れられてるよね」
僕の方が年上なのに。確かに精神年齢はアリスンの方が上だと思うけど。
「あ、メール」
接続ログを確認したままだった機体にお知らせを知らせるランプが点いてる。
機体経由でプリハのフレンドメールを開くとアリスンからだった。
『大丈夫? ごめん、三時間経っちゃうから強制ログアウトになっちゃう。また、明日いつもの所で。冬休み楽しもっ』
また泣きそうになる。小学生に励まされる高校生としてではなく、迷惑をかけたのにいつも通りに接してくれる優しさに。
「うん、あした」
今日はどうかしてた。せっかくの楽しいイベントだったのに。
忙しかったプリハから楽しいイベントで箍が外れたのかな。
しばらく楽しい毎日だったもんね。つい弛みすぎて幼児退行みたいになっちゃったのかな。
「あした、謝らなきゃ」
そして、また楽しまなきゃ。
そうだよね、アリスン。