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姫パーティは楽しくも楽じゃない  作者: 犬之 茜
名残し友への捧げ物
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補修と討伐クエスト

【あらすじ】


 注目VRMMORPG『プリズムハーツ・カルテット』が発売されて二日遅れで小沢(こさわ)優理(ゆうり)はゲームを開始した。だが、同一ネーム不使用の制限により試行錯誤を経て『LiLi』という女性のような名前で登録。さらに脳波の読み取りによってそのアバターは女の子の姿だった。

 一時のショックを払いログインして始めてのフレンドとパーティを組んで、ある噂に振り回されながらも一応の終息をもって、いよいよ本格的なクエストが始まる。

 浮遊感が薄れ、眼を開けるとそこはログアウトしていたハジリ村だった。


「戻ったんだ」


 先程まで砂漠地帯にいたのに、今は見慣れた村に立っている。この世界の管理者であるAIと出合っていたのが嘘のような穏やかな村。


「まだ、エイワだっけ。監視してるのかな」


 自分をサンプルとして観察していると言っていた。そのお陰で噂の拡散はこれ以上拡がる確率は減るだろう。もちろん、普通に街中でスクショを撮られる可能性もある。よく今まで撮られなかったものだ。だから噂は再び流れる可能性もあるので慎重にいかなければいけない。


「お姉ちゃん次第かなー」


 元凶となるオリヒメの姿はない。警告を出すみたいな事を言っていたので、なにかペナルティーもあったのかもしれない。

 ただ待っているのも時間が勿体ないので、先に雑貨屋に向かう。


「やあ、嬢ちゃん。久しぶりだね」


 以前武器を買った時の老人が話掛けてきた。

 一人ずつ覚えているのだろうか。


「こんにちはー。えっと、ソイさんているかな?」


 この老人の名前は知らないので尋ねてみる。もしかしたら、この人がソイさんなら失礼だと思うが、老人は眼を見開いて僕を見てくる。


「嬢ちゃんはソイを知ってるのかい?」

「え、うん。依頼で聞いただけだけど」

「そうか。ソイ……儂の父親なんだけどね。すまないね、もう居ないんだよ」


 老人は悲しそうな顔をする。この人の年齢からいって、父親が居ないということはそう言うことなんだろう。


「あ、ごめんなさい」

「いやいや。まだ知ってる人がいるなんてね。良かったら、どんな依頼か教えて貰えるかな」


 NPCだとしても依頼内容を伝えるのはルール違反にも感じたが、この老人は身内だ。しかも、存在しない人物へのお使いなんてないはずだ。


「えと、これを渡して代わりに白岩を貰って来てほしいって」


 自分より高いカウンターに貴重品の【白椰子の酒】を置く。


「白椰子の酒か。父親が好きだったお酒だよ。良かったら貰ってもいいかな。父親に飲ませてやりたいんじゃ」

「それは……」

「代わりに白岩を渡すよ。父親が好きだった物を知ってる人がまだいるなんて嬉しいね」


 老人は嬉しそうに眼を細めている。断ることも忍びなく、お酒を老人に渡す。


「ありがとうな。これが白岩だよ」


 老人から白岩を受けとるとクエスト進行した(むね)がメッセージとして現れる。これを報告と共に渡せば完了するので、ホッとする。


「嬢ちゃん、特別に武器の補修をして上げよう。どうやら、儂のとこの武器を使ってくれてるしな」


 補修と聞いて首を傾げると、それを見て老人が説明してくれる。


「なに、耐久度を知らないのかな。まあ、見れるのは儂らや生産の技術を持っていないといけないしね。初期の武器は耐久度はかなり持つように作られているし」

「はぁ…………」


 武器、いや防具にもだろう隠しパラメーターみたいなものがあることを始めて知った。確かに【蜜蝋の樹】は耐久度が記されていた。


「よく壊れなかったものだね。耐久度がもう10くらいだ。このままなら時期に壊れていただろうね」


 武器を渡し鑑定して貰うと驚く返答が返ってきた。


「耐久度は儂ら武具を扱う店なら無料で鑑定するよ。補修……耐久度回復は有料だけど今回はサービスだよ。それに、補修はアイテムを持ち込みなら半額、武具強化ならアイテムの持ち込みは必ず必要となるよ」


 チュートリアル的な説明に、事前にどこかで聞くフラグがあったのだろう。今回のサービスはクエスト報酬に含まれているようなので、知らない事を表情を読み取ってフラグが立ったと思われる。なんとも細かい。


「はい、嬢ちゃん。これで回復したよ。補修にはさっき渡した白岩より小さい白石を持ってきたら直せるからね。強化も一回だけなら同じ素材だけで出来るよ。ただ、武具共に種類やランクなどによって素材は変わるから気を付けてな」


 【白石】は採集エリアで拾えたが、今まで用途不明と金欠で全て売り払っていた。オリヒメはこの事を知っていたのだろうか。


「嬢ちゃん、他に何かあるかな」

「えと……いまはお金なくて。…………あ、生産を覚えるのはどこでか分かりますか?」


 先程耐久度は店か生産職なら見れると言っていた。いちいち店まで行って調べて貰うのも大変なので、出来たら取得したい。


「生産と言っても色々あるけどね。薬や武器、防具に装飾品。魔導具や料理、建設なんてのも。さらに細かく金属や布などの素材や単一な種類のみを専門とする方法などに分かれたりもするね。補修や強化を始め製作もそれに対応したものしか出来ないよ。ああ、未鑑定品の鑑定もね。ただ、耐久度を調べるだけならどの生産でも可能だけどね」


 その辺りの生産の種類だけは流し読みながら攻略サイトで見ていた。自分が武具を扱えるとは思えないが装飾品には興味があった。自分でアクセサリーを作れたら楽しそうだ。


「えと、装飾品はどこで覚えられますか?」


 魔導具や料理も興味があるのでその内覚えたいが、一度に全部は無理だと思い装飾品について聞いてみる。


「装飾品か。たしか首都の向こうにアネサスと言う街があるから、そこの彫金師に教われば良かったと思うな」

「ありがとう‼」


 まだ行っていない街だ。覚えるのはまだ先になりそうなので今は連続クエストに集中しよう。


「リリー」

「わわっ!」


 突然後から抱き付かれた。


「聞いてよ。なんか猥褻(わいせつ)行為で警告メールがきたんだけど、なんでかな。しかも、一週間のログイン時間が三時間短縮された。リリ慰めて」


 そう言いながら頭を頬擦りしてくる。そんな行動するから警告が来たんでしょと言いたいが、反撃が怖くて言えない。


「お姉ちゃん、今クエスト終わらせたから早く行こう。時間ないし」

「あ、私も六時間だから悠長に出来ないんだ。私が来る前に終わらせたんだね。偉い偉い」


 頭を撫でられる。警告の意味を理解しているのだろうか。


「警告、くるよ」


 注意しても頭を撫でる行為をやめない。


「心配してくれるなんて、リリは優しいね。これぐらいでバンなんてされないよ。それに、警告は街中で脱がせたらダメって内容だったから、フィールドや室内ならセーフだよ、きっと」


 エイワとか、警告はそんな狭い範囲での内容だったの!?と思ってしまうが、軟膏の特性と治療を考えるとフィールドなら仕方ないと思える。室内も、他人に悪影響を与えない。自分にも忠告と自己責任を言ってきたので、あとは自分次第なのだろう。

 軟膏の特性を変えてほしいものだ。


「お姉ちゃんは補修とか強化って知ってたの?」


 これ以上突っ込んだらやぶ蛇になりそうなので、話題を変えてみる。


「リリは知らなかったの?初めの方で武器か防具を買って二回目にお店に行ったら説明あったんだけど」

「お金なかったから……」


 二回お店に行ったが、始めはお金が足らずに何も購入しなかった。二回目は村を出るとき。

 そう考えると知らないプレイヤーもいるかもしれない。聞けば攻略サイトにも載ってたみたいなので、見落としていたようだ。


「ま、自分で探したり検証するのもゲームの楽しみだからね。痛い目をみればより教訓として身に付くしね」


 そう言いながら両手剣を見せてくれた。昨日と変化は見られないが一回強化を施されているらしい。


「強化は文字通り攻撃力や防御力の強化と耐久度の増加だね。魔法防御だけは防御力と智力が影響するから純粋に上げにくいんだけどね」


 これから連続クエストを続けるなら最低一回は強化を施す事を薦められたが、お金も素材もないので首都への帰り道に採集しようと思う。


「とりあえず首都に戻ろう」

「うん。……ね、お姉ちゃん。たまに男性らしいしゃべり方になるけど」

「気にしないで‼気が緩むと普段のしゃべり方になるだけだからー!」


 珍しくワタワタするオリヒメが可愛い。普段のってことは…と男性の可能性があると期待したが否定される。


「兄たちの影響でつい言葉が乱暴になることがあってね。擁護教諭を目指してるから優しい話し方に気をつけてるけど、やっぱ子どもの時からの話し方はなかなか治らなくてね。高校まで意識してなかったし」


 肩を竦めてる雰囲気が普段見ないオリヒメの弱い面を現しているようで、それ以上何も言えない。リアルの話はルール違反であるし、なによりオリヒメ自身が気にして治そうとしているのだ。ロールプレイでもそうだが、その人の抱えるものを下手に刺激しないようにする。


「あ、あこにいるのゼメスさん?」

「ん?あー、チュートリアルのNPCだね」


 話し方を気にしたのか、どこかぎこちなく話すオリヒメ。二人の視線の先には腕を組んでどこかを眺めている獣人。


「あの人に容赦なくて負けたんだよね」

「確かに強かったね。一撃入れて試合終了したけど、負けるなんてあるんだ」

「え、負けイベントじゃないの?」


 あの時一撃入れてみろと言われたが、結局一撃すら有効打を打てずに爪の雨に沈んだ。


「リリは一撃入れれなかったんだ。負けたらどうなるの?」

「爪の雨みたいな業で倒されたけどLFは残ったよ。で、そのまま話が進んでクリアしたけど」

「クローの奥義みたいなものかな。私にはなかったけど。勝敗に関係なく話が進むのはチュートリアルだからかな。流石にこの先に関わらないだろうけど」


 ストーリー上の負けイベントは昔から存在する要素だ。二週目に序盤の負けイベントに勝っても話の内容が変化しないものもある。これもそう言うものだろうか。


「とりあえず挨拶してくるね」

「えー、チュートリアル用のNPCだから用ないし、早く次のクエストに私は進みたいんだけどな」


 三時間短縮制限がオリヒメを焦らせているのかもしれない。僕は元から六時間しかないので気にならないが、確かに三時間は攻略を進めたい人には大きな枷となる。


「挨拶だけだから」

「仕方ないなー」


 挨拶だけなので時間もほとんど消費しないので、オリヒメが折れて着いてくる。


「こんにちはゼメスさん」

「ん?いつぞやの若造か。大分いい表情になったな」

「そ、かな」


 褒められてつい照れて頬を掻いてしまうが、オリヒメは違う事を思ったようだ。


「チュートリアル専用でも普通に会話は出きるんだね。流石に細かく作られてる」

「そっちの若造も…………ああ、逞しいな」

「あれ、内容が違う?」

「お姉ちゃんは前に一撃入れたから?」

「そうなのかな」


 それかレベル差によるものかもしれない。昨日別れてからオリヒメは単独レベル上げをして15になっているとのこと。


「ふむ…………いや。お前らこれからも精進しな。俺が見所をみつけて教えたんだからな」

「なんて図々しい」

「いやいや、お姉ちゃん。それより、何か困ってるのかな。考えてるみたいだったけど」


 オリヒメがゼメスを見るが首を傾げた。先程言い淀んだ言葉を聞き漏らしたようだ。


「ん?なんだ、手伝ってくれるのか?」

「リリ?」


 訝しげにこちらを見てくる。こんな所で時間を潰したくないのだろう。だけど、気になるのでつい聞いてみた。


「内容によるけど」

「そうか。実は村の周囲に鼠どもが大漁発生してな。食料や建物に被害が出てる。俺一人じゃ数が足りなくてな。手伝ってくれるか?」

「んー、討伐クエスト?お姉ちゃん?」

「そんな目で見ないでよ。わかったから。私も受けるよ」

「いいの?」

「フィールラットなら弱いしね」


 流石に村に被害があると聞いて断るのも気が引けてクエストを受理する。


「ありがとうな若造。いや、嬢ちゃんたち。村の周囲にいるフィールラットを各百匹倒してくれるか」

「ひゃっ!?」

「いくら弱くても多すぎじゃない?」

「それでは行くか」


 パーティにゼメスが加わった。レベルなど不明である前にNPCもパーティに入ることがあるんだと二人して驚く。

 そして三人は揃って村を出る。

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