移住
今回移住する人数が確定した。
大人九人、子どもが十三歳から二歳までの二十四人と大所帯となる。十四歳からは今回を機に独り立ちとなったが、新たに孤児となったのが二十人近く。内、十三人が僕の土地に来る事になり、首都の孤児院に残りが移る事になった。ただ、首都の孤児院もこれ以上の受け入れは困難で今後現れるだろう孤児が僕の土地に来る事を受け入れた。
オリヒメ曰く、今後も襲撃イベントなどで増えるだろうと危惧しており、確認し受け入れ次第だけど僕の土地もどこかを潰して家を増やす事も検討する。
お金はまた稼げばいいし、幾ばくかは補助金が出る。またオリヒメたちのギルドや見守り隊の二つのギルドも協力してくれるので徐々に進めていこう。
『移民の護送が発生しました。拠点まで移民を護りながら移動をして下さい。補助金に特別手当てが変動で付与されます』
『拠点の簡易転移装置を確認しました。許可があれば通常評価にて移民の転移が可能となります。許可しますか? はい/いいえ』
護送イベントと思ったら、転移可能とか。でも通常評価って、フィールド移動で誰も怪我させないと最高評価で手当てが増えるのかな。
お金はあった方がいいけど、ログイン時間や手間を掛けることを考えると転移を選んだ方がいいよね。はいを選択する。
これで皆を連れて広場の転移装置から行けばいいのかな?
「リリ。準備出来たかい?」
キンリーは今回を機に引退して共に移住して僕を初めとしたプレイヤーと住民の橋渡し。総合的な代表となることにしたみたい。それによって、現在の半壊した工房兼自宅を姉弟子の狐獣人のアルクに譲り、プレイヤーへの《彫金》と《魔装》の指導等を引き継ぐことになった。キンリーは僕の工房が出来たらたまに貸す位でほぼ完全に引退。孤児を移すのに、僕の保証人という後ろ楯になってくれた。
今回のイベント、信用度も発生に関わってきそうだよね。そしてキンリーの身分ってかなり上なんじゃないかなと疑問に思ったけど、怖いので聞けない。
「僕は何時でもいいよー」
住むスペースはあるけど、家具はないので皆には着替えと布団類はお願いした。ただ、火災などで消失した可能性もあるので無理には頼めない。布団はともかく、服がないなら裸族でいいじゃんとキンリーに言ったらお尻を叩かれた。久しぶりのお仕置きにキュンときた僕はもうダメかもしれない。
それでも各自最低限の荷物を持参してきた。孤児の分は大人が持ち、家具など使える物を後で大人が取りに来る。その点を考えれば簡易転移装置があって良かった。移動に時間が取られないので、家具などの運搬も早くて済む。放置していれば、火事場泥棒のように強奪の可能性が高くなるしね。
必要最低限以外に親の遺品や貴重品、貯金など大切なものをまず優先して一緒にもっていく。
かつてこの副都心の感じの悪い副族長は戦わずに真っ先に逃げた先にて敵に殺害された。その副族長の家から着服金や豪華な木彫りの彫刻や欄間、剥製などが出てきた。
周囲からも不信感があったらしく、今回の襲撃後に真っ先に取り調べたようだ。それを復興費にあてるらしい。移民の補助金もそこから出るので、そんな裏話をキンリーから教えて貰った。
先に仕度金として十万リゼ。これを食材や日用品など整えるのに渡されたけど、復興の煽りもあり食材だけなんとか確保した。
拠点まで移動したら補助金五十万リゼに特別手当てが至急される。一年は毎月最低五万から最高十万の補助金が出るけど、復興にお金が係るから五万でもかなり行政的に厳しいくらいに打撃が今回起きた。一年越えれば、もうそこからは自給自足。これが首都などなら永年最低保証あるけども、僕の土地は離れて独立しているので一年以降は対象外になるらしい。
移民したらいいだけでなく、そこからの生活の基盤作りなど思った以上に責任重大。それを踏まえれば、プレイヤーがこの移民を受け入れる可能性は低くなりそう。
「それじゃあ、行こっか」
僕は今後を見据えて移民受け入れの土台作りから行う事を新たに心に刻み皆と転移をする。
僕が先に拠点に入り大人を間に入れて最後にキンリーが転移してきた。
「チビ。先に渡して置こうかね」
そう言い、補助金の五十万リゼと別に二十万リゼを渡された。
特別手当ての通常評価が二十万リゼにあたるみたい。これらは個人資産としては使用出来ないように規制が掛かっていた。先の仕度金十万と同じ仕様。仕度金で余った五万弱と合わせて七十五万リゼを元手にやっていくしかない。
「あたしらはどこ使えばいい?」
子どもはさっそく自由に探検や動物とのふれあいと行動しており、大人数人が見守りに付き添っている。
この場には僕と移民団リーダーのような総合代表キンリーの他にこの地の孤児院とする院長ミリンダと過去に負傷にて退役した元兵士ランダに雑務などをする老爺カニスの五人が集まっている。
副都心にあった孤児院から孤児を移すにあたって副院長シェスタも同伴しているが、院長となることは辞退された。今は二歳児を抱えて走り回る幼児の見守りをしている。
移民の大人たちは養育者として何らかの形で孤児院に関わっていく。
その中に顔見知りの大工ラニヤがいたことに驚いた。丁度休暇で実家に戻っていたらしい。両親はすでに亡くなっており、本人も首都に住んでいるがたまに実家に戻って掃除をして残していたらしい。そこはすでに火災によって消失し、今回の話を聞いて僕の事も知っており引っ越しを決めたと少し話した。棟梁には組合を抜けてここの開発を行いたいと話すそうだ。首都の家も荷物を移したら引き払うとのこと。
その棟梁は首都とこの家の地下にあるダンジョンを往復している。ダンジョンに一室設けて暮らせるようにしてある程に居着いている。今も新人を連れて工房部の建設指導しているはず。あとで、ダンジョンの一部を居住区に使えるか聞かなきゃ。
「客室があるから適当に選んで貰っていいけど、子どもは皆一緒がいい?」
「そうさね。傷付いた子もいるから暫く一緒が良さそうかね? どうだい、ミリンダ」
「ええ。それが良いと思います」
成り行きで養育者の代表である院長になったミリンダが迷いながら発言する。まだ代表について馴れていないのは仕方ないよね。
結局リビングの地下の広い部屋を子どもの寝室になった。ただ大人数名も一緒に寝るが、院長仕事と総合代表のミリンダとキンリーにはそれぞれ二階の客室を仕事部屋になるように各自一室。同じく二階の客室に元兵士のランダと老齢にて退役したキケルス、高齢にて常に子どもといると負担になる老爺カニスと老婆ラミナが移動の負担の少ない一階客室にそれぞれ部屋を割り振った。
ミリンダと他の大人は夜も子どもと一緒に寝る事が決まった。
『住民の定住が確定しました。定住数により"里"に認定しました。里の名前を決めて下さい』
『"里"となった為、土地の一部開拓が可能となりました。詳しくは土地販売人に確認して下さい』