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姫パーティは楽しくも楽じゃない  作者: 犬之 茜
始めてのVRMMORPG
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『姫楽』を見つけて、読んでいただきありがとうございます‼


当作品も含めて不規則更新となります。

VRMMORPG用語の認知があまいので、用語について意味が違うなどの訂正箇所がありましたら、随時更新致します。



 今年も暖冬の影響で降雪日は数えるほどしかなかった。その為、去年より三日早い桜の開花宣言が発表された。

 2046年3月27日の今日、二日前に発売されたゲームソフトを購入して、さっそく同時に買ったハードを起動する。

 春休み。いや、高校入学を控えた身としては準備もあったが、合格発表から時間も立ち制服も仕上がっていたので特に重要な用事はなかった。

 もっともこの春は小学校や中学校からの友達と高校が別になるので遊んではいたが、その友達は発売日当日より自分が購入したのと同じゲームで遊んでいるはずだ。

 なぜ自分は遅くなったかと言えば、一重にお金が足りなかったせいである。

 お年玉と今までのおこずかいを貯めていたが、入学準備に思ったよりお金が飛んだために、わずかにソフト代金が足りない事態に陥った。

 それも高校入学に際して、過去に市場規模が縮小し、近年再び拡大してきたスマートフォンを購入したためだ。一度はさらなる小型機種に湧いていたが結局は画面の見にくさなどで二台持ちが急増し、契約料金の兼ね合いと便利さでスマートフォンの人気が再熱し華麗に復活した。まあ、二十年も前の機種より薄く軽く高性能なのだが。

 そのスマートフォンの旧機種分の料金は親が負担してくれたが、新機種が欲しくて一万近くは自己負担するはめになった。なんでも新しい方が自慢になる。3D機能と自動翻訳機能の強化くらいしか目立ったバージョンアップは見られなくても。

 そのスマートフォンを見ながら、検索した立ち上げ方法を確認する。いまや、説明書など入っていない物も多い。

 パソコンでも代用出来るが、自分用のはない。しかし、そのスマートフォンの購入によりゲーム購入費用を削る必要があったのは何の因果か。

 共働きの両親に給料が振り込まれたのが、本来ならば二十五日だが日曜日の影響で昨日の二十六日。おこずかいを貰ったのが昨夜。

 その為、ゲームを買えるのが今日と遅くなってしまった。

 赤色のハードのモーター音が静かに回る。

 VRMMOゲーム機『イリューティス』

 箱形の筐体とカチューシャ型端末からなるこのハードは昨年の十二月に発売された。いわゆる、クリスマス商戦に乗っかって販売されたのだが、当時目立ったソフトもなく購入は控えていた。

 そこからclosedβテストを挟み、一ヶ月延期し発売されたゲームがVRMMORPG『プリズムハーツ・カルテット』だった。

 αテスト時に数枚の開発画面がゲーム雑誌に載り、新機種対応の目玉ゲームとなった。

 βでも幾つかのスクリーンショットが公開され、友達も含めて購入意識が高まった。

 一部掲示板にはβを経験した人間なのか、『ありきたりなゲーム』『王道系でビミョー』『生産涙目』と個人の感想が書かれていた。


「よしっ」


 初期起動とフォーマットが終わったアラームが鳴り、スマフォを置き頭に赤いカチューシャ型端末を装備してベッドに仰向けになる。筐体とは無線でのやり取りなのでコードが邪魔になることもなく、行動の制限がされないので楽なものだ。

 深呼吸をし、リラックスすると不意に浮遊感が訪れる。

 無事にリンク成功のようだ。


 そこは闇に無数のグラフなどが浮かんだ空間。ここがハードのホーム空間。その初期設定空間らしい。

 およそ最初で最後と思われる空間に圧倒される。

 今まで携帯ゲームはやっていたが、VRMMO、つまりヴァーチャルリアリティーのゲームは始めての経験だった。

 その期待と不安、緊張すら数値化されているのか一部グラフの変動が激しい。


「あなたの名前を入力してください」


 女性の合成音声のアナウンスと共に入力画面が30cm前に表示される。

 ここでの初期設定は別に事実を書く必要はないが、ここのデータ準拠に依存するソフトもあるため自己責任で行うように書いあった。

 名前はアカウントとなり、年齢は課金や年齢制限ゲームに関連、身長体重はなるべくリアルとの違和感を減らす為の目安になることが多いらしい。

 その他、性別や性格は脳波により読み込まれるとのこと。

 性別は脳波で分かると聞いたことがあるが、性格まで分かるものなのか。平均化されても、いったい何に使われるのか疑心暗鬼だった。スマフォで見た際は自動アバター生成を実装しているゲームに影響し、ホーム空間から行けるコンテンツの紹介広告にも影響するんじゃないかと書いてあった。広告の方は製造元は否定しているのだが。


「名前はユーリ、生年月日は2031年3月4日、身長は154で…体重はたしか43から45の間だったかな。45でいいや」


 身長はクラスでも低い方だった。制服を作る際にも計ったので確かなはずだが、体重はよく覚えていなかった。中学時にはテニス部だったので筋肉はあったが、引退してからはまともに運動などしていないので、体重も変わっているかもしれない。

 ニックネームと他は正直に入力する。

 本名『小沢(こさわ)優理(ゆうり)』からニックネームがユーリと呼ばれている。

 アカウント作成が終了すると、ホーム空間…長いのでホームと略すとグラフが消えて闇に幾つものアイコンが浮上した。


「この辺りは携帯ゲームと一緒かー。えーと、たしか……ゲームを表示」


 VR未対応機種でもネットには繋げられる。その機種のホームが立体化したらこんな感じなのだろう。タッチ画面以外には音声入力も出来るのは、すでに確立された技術だ。

 

 ゲームアイコンが更に細分化された。


「えっと……先に設定だっけ」


 毎回ゲームをするのにこのスパンは面倒でしかない。そこで各アイコン、さらに細分化された先に直接行ける設定がある。ハードへのログイン時に起動するか尋ねてくるのは省略できないみたいだが、それでも時間短縮にはなる。


「ゲーム起動」


 これでようやくゲームを開始できる。


 再びの浮遊感と共に闇が遠ざかり、今度は白の世界に高速で過ぎ去るグラフと思える物が次々に流れたかと思った次の瞬間には砂漠が広がっていた。

 暑さも、足下に広がる砂の感触もない。


「ようこそ、プリズムハーツ・カルテットへ。あなたのことを教えてください」


 どうやらゲームの初期設定、いやキャラクターメイクの空間らしい。


「ということは、ここが世界の中心なんだ」


 広大な砂漠地帯。そこが、この世界の中心に存在するフィールドらしい。

 その中心、もっと言えばストーリーの根幹に繋がりそうなフィールドを始めにプレイヤーに見せて、運営はどのような思惑があるのだろう。

 取りあえずキャラメイクが先だ。


「キャラ名は……ユーリ」


 ここでも呼び慣れた名前を入力してみた。自分で名前を付けるのが苦手であり、いくらゲームでも自分の慣れた名前じゃないと反応が遅れそうだったからユーリと入力したが、すでに登録されていたようでエラーが出た。

 この世界のキャラ名は片仮名かアルファベットでしか入力できないらしく、名前は早いもの勝ちだ。

 試しにアルファベットで入力したが、これも駄目だった。

 次に、短くしてユリと女性のような名前を入れたがエラーが連発。 ユリと呼ぶようにこの名前は考えられていたことを両親から聞いた時は少しショックではあった。小学生のときに、国語の宿題で名前の由来を調べる機会があったが、始めて『優しくあってほしい』と言う意味と『男女どちらでも使える名前』だったからといい加減な理由があり、宿題では後半の意味は隠したことをはっきり覚えている。あの時が僕の反抗期だったのかもしれない。従姉妹のお下がりばかりそれまで着ていたから、格好も男の子らしいのを選んでいたし。

 その読み方すらすでに使われており、アルファベットも百合を英語読みしたリリーも既に使われていた。

 そして、自分の名前のいい加減さを体現するように大文字小文字を変えてようやく『LiLi』でエラーが消えた。リリと読むそれが、この世界の自分の名前となった。


「はぁ……なんか名前って面倒」


 それでもこのくらいで投げ出す気にはならない。

 続けて、種族選択が表れる。

 この世界に生きる主な高等種族とのことだ。

 それらがお互いに争い、不毛の大地となったのが今のこの砂漠地帯らしい。

 人間、獣人、小人、エルフの四種族が現在は争いはないが、にらみあっている関係との設定となっていた。

 その四種族には特色があるらしい。直前にチュートリアルまでの流れだけは攻略サイトに頼ってしまった。出来れば頼りたくはなかったが、初めで転けたくはなかった。

 サイトによれば、それぞれの種族首都に近い村からスタートするらしいこと。種族ボーナスと言う追加ステータスポイントが五レベル置きに貰えること。初期装備の違いと種族スキルの違い。種族ボーナスは固定であり、それぞれに特色があることだ。

 四種族の特色を頭から呼び起こす。

『人間』は物理攻撃に長け、生命力と攻撃力が上がる。

『獣人』は素早さに長け、素早さと命中力が上がる。

『エルフ』は魔法攻撃に長け、精神力と智力が上がる。

『小人』はやや特殊で生産職向け。器用さと運が上がる。身長設定も100から140cmの間である。

 そしてこの中で初期装備に武器がないのが獣人とエルフ。獣人は自前のクロー、エルフは杖のブーストがないが魔法攻撃が行えるかららしい。

 そして生産向けの小人を抜かせば、人間とエルフに人気が集中していた。今までのゲームでも、後半に行くほど優遇される職のせいだろう。


「ま、今まで通りかな」


 攻略サイトを見て、すぐにこれは決定していた。

 獣人。かつてのゲームに置いても素早さや回避が高いキャラをなぜか選んでしまっていた。昔は人気だったらしいが、どれも後半、とくにボスでは回避困難な高火力、広範囲攻撃が増えるから一撃に頼れないステータスやサポートに向きにくいと不遇とされている。ソロならば選択の余地もあるだろうが、オンライン系のボス戦は徒党を組むことを前提に作られているので、レイドの不和を生む異分子は嫌われる傾向にある。だが、運営はなぜか毎回のようにそう言うキャラを投入してきた。

 一番多いのがシーフ、つまり盗賊と言う名前的にも嫌われ者だったが、優理はなぜかそう言うキャラに惹かれた。別にドMプレイや縛りプレイが好きな訳ではないはずなのだが、友達に言えばドMだと言われてしまう。


 取りあえず種族も決定し、髪色を橙に、瞳を黄に設定する。

 髪型などの選択肢がなく、再びの浮遊感。

 そして、光景が変わりいよいよゲームが始まった。

 その数分後、とある小屋から悲鳴が上がった。

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