蜜芽が消えた理由(1)
今、健太と重吾は蜜芽の部屋にいる。
どうして、蜜芽の部屋にいるのかと言うと、想像するにあまりある展開なのだ。
まず、学校から帰って来た二人は、カバンを各自の家に置くと蜜芽の家の前に集合した。
集合と言ったところで、玄関を出て二歩も歩けば蜜芽の家の玄関なのだ。
そして、誰もがするであろう行動をとった。
それは、チャイムを鳴らすということだ。
ここで、ひとつだけ言い足しておくとするならば、チャイムを押した時に珍しく健太がダッシュで逃げなかったいうことぐらいであろう。
ということは、いつもは想像通り、ピンポンダッシュを楽しむ愉快犯というところだろうか。
さて、玄関が開き蜜芽の母親が顔を出すと、その顔はいつもとは大きく異なり、目にはクマができ、疲れきっている事が手に取るように分かった。
更には、目は充血し髪はぼさぼさで、まるで掻き毟った後のようだ。
その酷い様相にビックリして声が出なかった二人に、問いただすように聞いてきたのは母親の方だった。
「健ちゃん、重吾くん! 蜜芽を見なかった!?」
ということは、蜜芽はどこかに行っているようだ、ということは察しがつく。しかし、蜜芽が親に黙ってどこかに行くとは思えない。
「いいえ、オレたち蜜芽が学校を休んだから、病気なんじゃないかと思って見舞いに来たんです」
と、さすが重吾だ。
蜜芽の父親が姿を現し、母親の肩を抱き抱えるように支えると、二人を交互に見詰めて静かに話し出した。
「昨日、夕方に出かけてから戻らないんだよ。友達に会って来ると言っていたから、てっきり近所の友達だろうと思ってね。すぐに帰る様に言ったんだが、帰ってこなかったんだ。一晩中蜜芽の帰りを待っていたんだが、結局いつになっも……」
さすがに父親の声が詰まったのが分かった。
「友達って、名前を言っていなかったんですか?」
重吾が考えるように聞くと。
父が頭を左右に振りながら『分からないんだ』と言う。
およそ蜜芽らしくない行動だ。
それから、母の涙ながらのグチ(?)を三十分ほど聞かされ、ようやっと『蜜芽のパソコンに何か手がかりがあるかもしれないので、上がってもいいですか?』と重吾が切り出した。
できることなら、もっと早くに言って欲しかった。
そうすれば、三十分のグチが五分で終わったことだろう。
と言うことで、蜜芽の部屋にいるのだ。
久しぶりの蜜芽の部屋は、小さい頃よりもずっと……。
「男らしい部屋だなぁ」
その通りである。健太が言うとおり、見事に女性らしさが欠如している。
「幼稚園の頃はぬいぐるみとか、キティちゃんのクッションとかあったよな」
壁に掛かっているのは、無造作にハンガーに吊るされた洋服たち。
クッションと言えば、何の変哲も飾りもない、シンプルな茶色。
ベッドはブルーの布団カバーで覆われ、枕カバーもブルーだ。
勉強机の上は乱雑に物が積まれ、小物のひとつでさえ可愛らしさを感じられるものがない。
さすがは小さい頃から男子と恋愛に発展することなく、友達でいられる女子である。
「健太、お前知らないのか? 幼稚園の頃にぬいぐるみとかあったのは、蜜芽のお母さんが、蜜芽が女の子だから可愛いものが好きだろうっていうか、好きになって欲しくて並べたんだってよ。でも、小学校に入るくらいには、蜜芽は全部箱に入れてお母さんに返品したってさ」
「それは知ってるけど、来るたびに男らしい潔さを感じるのはどうしてだろうなぁ」
「潔すぎるだろう。これじゃ、彼氏は到底できそうもないな」
重吾も健太も笑いながら話しているが、そんな蜜芽だからこそ何も気にすることなく友達でいられることは、重々分かっているのだ。
「でも、これで蜜芽が女らしくて、可愛かったらどうだよ」
健太がそう言うと、しばしの沈黙が流れた。
そして、次の瞬間には二人同時に吹き出したのだ。
「ありえない! 逆に気持ち悪いから止めろよ」
健太も健太だが、重吾も大変失礼である。




