ゲーム中です(2)
「さぁ。オレは、生霊は見えないから、生霊のオーラを見ることはできないな」
もっともな意見だ。
「じゃぁ、霊は見えるんだから、霊のオーラを見てみたらいいじゃない」
「なるー! そうだよ、重吾。霊のオーラを見て教えてくれよ」
そう言われて、霊のオーラを見たことがないことに気がついた重吾である。
しかし、ここでそれを暴露したのでは、二人より頭が良いことになっているだけにプライドが傷つく。
「霊のオーラは……。そのうち、教えてやるよ」
かなり勿体つけて言ってみる。
そんな話をしているところへ、ここのところ頻繁に三人のゲームに参加してくる少女がやってきた。
『こんばんはぁ』
必ず文字の最後に小文字をつけてくる。それがこの少女のチャットスタイルなのだろう。
今まで通話しながらゲームを楽しんでいた三人はチャットに切り替えた。
『こん』
二文字で挨拶しているのは軽い調子の健太である。
『こんばんは』
文字の全てを打ち込む重吾。
『こんばんワン』
なぜか最後が犬の鳴き声の蜜芽。
『皆さん早いですねぇ。もぅ、来てたんですねぇ』
『カノンちゃんも早いじゃない。部活やってるんだよね』
カノンちゃんとは少女のHNである。そして、今のコメントは蜜芽。
三人が会話しながらゲームを楽しんでいると、突然入ってくるのだ。
もちろん、誰でも入れる場所でゲームを楽しんでいるのだから、カノンが入ってくるのも当たり前のこと。
こうして次から次へと会話が弾んでいくのだ。
これが最近では毎晩繰り返されている。
三人だけで遊んでいたのでは、仲間うちだけの自己満足となり、ゲームの腕も上がらないというものだ。
それゆえカノンだけではなく、老若男女、下は幼稚園児から上は七十過ぎの老人まで多種多様なのだ。
カノンはといえば、三人より一歳下の中学一年生。
さて、そのカノンがどうして毎晩同じ時間に三人の前に現れるのか。
それは大きな謎なのである。
健太が言うには『オレのことが好きなんだ!』と言うが、重吾は『軽い健太より、紳士的なオレに決まってるさ』と言う。
蜜芽からしたら、そんなことはどうでもよいことなのだが。
『部活はやってますけどぉ、文化部だからぁ。そんなに遅くはならないんですぉ』
『文化って、何部なの?』
『手芸部ぅ』
これまた、現代に生きる少女らしからぬ趣味である。
もちろん、手芸が好きな少女がいても何の問題もないのだが。
蜜芽にしたら、転変地位の前触れかというくらいにありえない部活なのだ。
『手芸部なんだぁ』
『星空さんは、何部なんですかぁ?』
星空と言うのは蜜芽のHNである。
なぜ星空なのかと言えば、別に意味はない。
たまたまHNを考えていたときが夜で、星が綺麗だったと言うだけのことだ。
『私は……』
『星空は無芸大食だからwww』
健太が“w”を連打する。
これは誰もが知っている通り“笑”の意味である。
それにしても、星空……いや、蜜芽に“無芸大食”と暴言を投げかけるとはいい度胸である。
『へぇ、誰が無芸大食なのかしらね? ゼロ』
ゼロとは、健太のことである。
ネットの世界では、本名を名乗らないというのが鉄則のようだ。
それにしても紛らわしい。
『誰だったかなぁ……www』
こんな具にもつかない会話が飛び交い、時々ゲームを楽しむ。
そうしているうちに時間が過ぎ、気がつけば健太が
『オレ、飯食べてくる。母殿に怒鳴られる前に行かないと、飯抜きになってしまう』
と書いてくる。
『オレも勉強しないと。遊んでばかりいたら、将来の夢が儚くも散っていくからな』
と重吾。
『夢ねぇ。龍の夢ってなんだ? オレは、プロのサッカー選手だけど、龍の夢は聞いたことがなかったな』
龍とは、言わずと知れた重吾のことである。
『オレの夢は……言わぬが花ってところだな。簡単に口にしたら、実現しなくなりそうだから、言わないよ』
重吾らしい切り替えしである。
しかし、健太も蜜芽も良く分かっているのだ。
重吾がこのような言い回しをしたときは、決まって何も考えていないと言うことを。
と言うことで、二人が落ちるとカノンが蜜芽に話かけてきた。
女の子二人なのだから、ここは本音トークというところだろう。
『星空さん!』
しかも、しょっぱなから語尾に“!”とはビックリである。
何を強調したいのだろう。




