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犯罪の影にキュララあり!(2)

 教えられたとおり、青い家と茶色の家の間を入っていくと電線に掛かるほど伸びた木と、緑鮮やかに生い茂った雑草が目に入った。




「すげーなー!」




 健太が思わず言った言葉は、裕也と重吾が思った言葉と同じだった。




「本当に化け物が住んでそうだな」




 確かに小学生が言ったように、その庭は化け物が住んでいてもおかしくないような状態ではあるが……住んではいないだろう。




「分かってるわぃ! 本気で化け物がいるなんて……思うわけ……ないだろ」




 なぜか語尾が小さくなる健太である。




「それにしても、夢で見たのと同じだ」




 自分の見た夢でありながら、実際に目にすると驚いてしまうものだ。




「ちょうどこんな感じに草が伸びてたんだよ。で、この木の間から覗くと、キュララの板人形が何体もあるんだ」




 と言いながら、木の間に首を差し込むと、言葉通りに無数のキュララが大小取り混ぜて地面に刺さっていた。


 板でできた少女たちは、いろいろなポーズで悪と闘っているようだった。


 そして、その手にはマイクが握られている。




「何でマイク持ってんだ?」




 さすがに大学生の裕也にはキュララのキャラは、知識の範疇ではないようだ。




「キュララっていうのは、普通の姿のときはモデルで歌手なんです。で、悪と闘う時は、あのマイクがキュララの変身道具になるし、相手を倒すときには武器になるんです」




 重吾が淡々と語るが、その語り口がいつもより熱く感じる。




「重吾。お前って本当は、キュララファンなんじゃねーの?」


「な・何を言ってるんだよ。オレがキュララみたいな小学生の、しかも低学年が見るようなアニメのファンであるはずがないだろ! キュララみたいな、オタクと一緒にするなよ」




 キュララがオタクなのではなく、キュララのファンがオタクなのだが、かなり動揺しているようだ。




「まぁ、そこは良いとして。ここの二階に少女たちが監禁されているってことか」




 裕也が顔を二階へ向けると、重吾と健太も顔を上に向けた。






 いったん現場から離れた三人は、どうやって助け出そうかと考えていた。


 考えながらも、汗が額に流れる。


 学生服に身を包み、昼日中に商店街で大学生とたむろってるわけだ。


 周囲から見たら、どんな図に見えるのだろう。




「なんだか、さっきから道行く人の視線が痛いんだけど」




 裕也が眉根を寄せて呟いた。真面目に考えてる風でありながら、周囲の視線に意識がいくとは、案外本気で考えているわけではないのかもしれない。




「視線より、オレは暑いのが辛いよ」




 健太が暑くてたまらないといった感じに、手を顔の前でひらひらと動かした。




「確かに暑いなぁ。こういうときは冷たいものを食べると、頭が冴えるんだよな」




 重吾が商店街の方へ視線を投げた。そこには、昔ながらの喫茶店もあるが、もっと手っ取り早く、自販機というものがしっかりと設置され、アイスまで販売しているのだ。




「しょうがないなぁ。バイト代が入ってないから、驕るっていってもなぁ」


「自販機のアイスで十分です!」




 こんなときはしっかりと語尾に『です』を付けることを忘れない健太である。




「分かったよ、その代わりしっかり考えてくれよ。何せ、オレの輝かしい未来が掛かってるんだからな」




 財布をポケットから取り出すと、小銭を健太の手に乗せた。




「え? なんで、この事件で輝かしい未来とつながるんだ?」




 アイス代を手にしたとたんに溜め口に戻っている。




「そこは気にしなくていいから、オレのはストロベリーにしてくれよ」


「ストロベリーって、可愛いなぁ」


「余計なお世話だよ。早く買って来ないと、驕らないぞ」




 驕ってもらえないのはつらいので、急いで自販機に走りよる健太である。




「それにしても、本当にキュララの板人形がたくさんありましたね」




 健太の後姿を見送りながら、重吾が口を開いた。


 その重吾の脳裏には、さっき見てきたキュララの人形が並んでいるのだ。

「うん、異常だよな。ちゃんと整地された庭に、それなりに飾られているなら分かるけど、雑草だらけの中に無造作に刺さってるって感じだったな」


「やっぱり、オタクなんでしょうか。ああいうのも」


「さぁ、犯罪者とオタク……」




 裕也が考え込んでしまった。


 考え込んでいる二人の前に、自販機から出てきたばかりのアイスが差し出された。




「どうせなら、日陰で食べようよ」




 確かに、日向で食べたのでは溶けるのも早いだろう。


 三人は、日陰へと移動した。




「それにしても、何で少女ばかりを誘拐してるんだろう」




 アイスを食べながら健太が疑問を投げてきた。




「六人の少女、ということは……やっぱり、キュララと関係があるんでしょうね」




 重吾がアイスを口に入れ、冷たさを嚙み締めながら言うと、裕也が頷きながら呟いた。




「キュララオタクが少女を誘拐する。と言うことは、キュララのような可愛い女の子ばかりを集めて、何かをしようとしているのかも」


「だとすると、蜜芽は論外でしょう」




 すかさず健太が言うと、重吾も頷きそうになってしまった。


 しかし、今同感だと思うことすら危険なのだ。




「健太、余計なことは言わないでくれ!」




 重吾が泣きそうになりながら、懇願した。


 健太にしてみたら、なぜ懇願されるのか理解ができない。


 しかし、泣きそうな重吾の顔を見れば、さすがに面白がっているわけにはいかない。




「ごめん。今は助けることを考えないとな」




 三人ともアイスでクールダウンを終了すると、真面目に救出作戦会議を始めた。




「どうやってあの二階へ行くか」




 裕也が疑問を投げる。




「犯人は何人いるんだろう」




 健太が言う。


 確かに、犯人の数が分からないのでは、飛び込んでいっても後ろからズドンと撃たれることもあるだろう。


 もちろん、銃を持っていたらの話だが。




「犯人は三人だよ」




 重吾が蜜芽の言葉を伝える。




「その犯人は、今どうしてるか聞いてくれ」




 裕也に言われて、重吾が黙って視線を下げる。


 しばらくすると、ゆっくりと口を開いた。




「今は、二人が買いだしに行ってるそうです。残っているのが、分厚いめがねをかけた気弱そうな男が一人。その男は、一階にあるパソコンに向かっています。どうらや、三人ともかなりのマニアのようで、一日中パソコンに熱中しているようです」


「パソコンマニアなのに、どうして女子を誘拐したんだろう?」




 確かに健太の言うとおり、パソコンに熱中してるなら、三次元の少女を誘拐するより二次元の少女と遊んでいた方が良いと思うのだが。




「それは後で考えるとして、今はその弱そうな男がパソコンに熱中してるわけだから、侵入するのに都合がいいということか」




 裕也が組んでいた腕にかいた汗を手のひらで拭き取った。




「玄関は、扉を開けたときに音が鳴るようにしてあるらしいです」


「そうかぁ。と言うことは、玄関から入るわけにはいかないってことか」




 健太が難しそうに言うが、侵入するのだから玄関からおおっぴらに入るわけには行かないだろう。




「どこから入ればいいんだろう」




 重吾が土に石で絵を描き始めた。


 それは、四角がいくつも並べられた図面のようだ。




「これは?」




 裕也が聞くと、重吾が『あの家の見取り図です』と言いながら、書き終えた。




「蜜芽の言うとおりに書いたんですけど。玄関がここです」




 重吾の持っている石が玄関を指した。




「ここが庭に面した大きな窓ですが、エアコンを入れているので、閉めてあるそうです。一番危険性の低い出入り口といったら、この台所にある勝手口だそうです」


「そのドアに、鍵は?」


「鍵は……開けるそうです」


「開ける? 誰が?」




 侵入しようとしているド素人の三人に鍵を開けろと言うのであれば、それは無理難題と言うものである。




「……蜜芽……蜜芽が開けるそうです」




 どういう状況なのかは分からないが、家の中にいるのだから、一階に下りてきて鍵を開けることくらいはできるのかもしれない。


 しかし、それならばそのまま逃げてくれれば、誰も危険な真似をしなくてすむというものである。




「そういうことじゃないみたいですよ。よく、わからないけど」




 テレパシーで話しているとはいえ、そんな細かいところまでは説明してくれないらしい。




「そうか。……まぁ、開けてくれるなら簡単に入れるからいいか。で、階段はここ?」




 裕也が指でさすそこには、横にいくつものラインが短く引かれていた。




「そうです。犯人は、この部屋でパソコンに熱中しているようです。しかも、エアコンを入れているので、部屋のドアを閉めています。静かに侵入すれば、他の二人が帰ってくる前なら、比較的入りやすいだろうって事です」




 なるほど、そう言うことなのかと、アゴに手を当てながら考え込む裕也である。




「どうする?」




 健太が裕也を見ると、裕也は『やるしかないだろ』と健太を見返した。


 三人の瞳がお互いの意思を確かめるように、頷きあった。


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