つながり
信じてよい相手なのかどうか――
神野実香が言ったように、いつものゲームサイトで出会った最初の相手こそが、今の窮地を救ってくれる救世主なのだと信じるしかないのだ。
二人は、時間を惜しむように助けて欲しいと懇願していた。
「唐突だなぁ」
knifこと、金子裕也に通話を承認してもらうと、三人は自分たちの顔を画面に映しだし、会議の様相を呈した。
「唐突なのは分かってます。信じてもらえないかもしれないのも分かってるんです」
裕也の驚いた顔を見ながら、重吾が言った。
「オレ達だって驚いてるんだ。昨日まで仲の良かった友達が、急に誘拐されるなんて、思ってもいなかったし」
沈痛な面持ちの重吾に反して、苛立ちと焦りを隠せない健太。
「それにしても……君たちのような子供がいるなんて……」
重吾の視線が画面右下へと動く。そこには、小さく時計が表示されているからだ。
そして、その時計は日付を変えているのだ。
いつもなら眠気のさす時間だが、今夜の重吾は眠気どころか、頭が冴えわたっていた。
健太も同じ気持ちのようで、いつもなら半分閉じかけた目を泳がせながら、惰性でゲームをしている時間だが、今日の健太の目は血走っているようにも見えた。
「さっき霊を信じるって言いましたよね。だからこそ、オレたちのことを話したんだ。本当ならオレたちのような能力があることが知れると、キチガイだとか病気だとかいう大人が多いから」
小さな頃から、予知夢を見ては親に話して聞かせてきた健太。
誰もいない空間に向かって独り言のように語り掛けては笑っていた重吾。
しかし、そんな二人の姿や言動は、能力者ではない大人には、理解の範疇を超えていた。
健太の親も、重吾の親も同じように二人を訝しがり、病院へ連れて行こうかと考えていたのだ。
自分たちの能力が普通ではないと知ったのは、小学校へ入ってからだった。
それまでは、一番の友達が同じ体験をしているのだから、何もおかしなことではなかったのだ。
もし、仲良しの蜜芽が自分たちとは違って、何の能力も持ち合わせていなかったら、もっと早くに自分たちが特殊な能力者なのだと分かったことだろう。
しかし、幼い彼らには誰もが持ちうる力と思い込んでしまったのだった。
「うん、霊は信じる。逆に言えば、君たちを疑っているわけじゃないよ。ただ、驚いてるだけだよ」
裕也の言葉に嘘がないのは、画面に映る裕也の表情から察することができた。
また裕也も、健太と重吾が言ってることが、嘘や冗談、遊びからの言葉でないことは確信していた。
「でも、オレに何ができるかなぁ。力になってあげたくても、オレは学生だし何の能力もないんだ。簡単に力になってあげるよとは言えないと思うんだよ」
「大丈夫! 神野実香さんが最初に会った人が助けてくれる人だって言ったんだから」
健太が神野実香の名を出すと、裕也の表情が変わった。
「え? 君たちは神野実香さんを知ってるの?」
「通話友達です。裕也さんも知ってるんですか?」
「あぁ、知ってるよ。彼女は多くの人を助けてる超能力者だ。彼女の力のおかげで、オレも辛い状況から脱することができたことがあるんだ。本当に彼女のおかげだよ」
「そうなんだぁ」
世間は狭いというが、ネット社会はもっと狭いようだ。
健太と重吾が、こんなところにもつながりがあったのかと驚いていると、裕也が言葉を続けた。
「神野実香さんがそういうんなら、きっとオレに何かができるということなんだろうな……。分かったよ、何ができるかわからないけど、一緒に蜜芽ちゃんを救い出そう」
力強いその言葉に、安堵を覚える健太と重吾である。
「こうしている間にも、蜜芽ちゃんが犯人にどんな目にあわされているか心配だな。とはいっても、今日この場で何ができるって言われてもな……」
蜜芽がどんな目にあわされているか――
裕也に言われて二人は怪訝な顔をしていた。健太がつぶやいた。
「どんな目にあわせているか、心配だ」




