お助けマンはknif(1)
神野美香に言われたとおり、いつものゲームサイトでやる気にならないゲームを始めた。
しかし、やる気がないのが分かるのか、誰も参加してこない。
いつもなら、誰も入ってきて欲しくないと思っているのに、第三者が参加してくる。
参加自由なゲームサイトなのだから、文句をつけるわけにもいかないのだが。
蜜芽も重吾も仲間以外の参加者が入れば、腕も上がると喜んでいるが、健太はのんびりとゲームを楽しみたい。
だから、他人がゲームに参加してくることを快く思ったことがないのだ。
だが! さすがに今回ばかりは、神野美香の言葉があるだけに、早く参加者に現れて欲しかったのだ。
「今日に限って来ないなぁ」
健太がぼやく。
「そうだな。俺たちのやる気のなさが分かるのかな」
落ちてくるブロックを適当に反転させて積み重ねていく。
びっちりと横一列に綺麗に並べば消えていくはずのブロックが、どうしたことか空間を埋めることができない。
そのため、次から次へと降ってくるブロックをどうすることもできずに、ゲームオーバーを繰り返しているのだ。
「それはないと思うけど、下手すぎて誰も参加する気にならないのかも」
ありえないくらいの速さでゲームが終了するのだから、見ている人がいるとすれば下手どころの騒ぎではないだろう。
しかしルームに入ってこない限りはゲームを観戦することもできないのだから、下手かどうかも分からないはずである。
「それはないなぁ」
あくびをかみ殺しながら重吾が言う。
「眠そうだな」
「やる気が起きないだけだよ」
「分かるけど、蜜芽のためにやる気をだそうぜ」
「……そうだな」
しばしの無言があり、思い直したように重吾が呟いた。
「よし! じゃ、次のゲームから本気勝負だ!」
「よし! 気合入れて、やるぞー!」
そこまでの気合もいらないと思うが、二人には必要なようだ。
蜜芽のために真剣にゲームを始めて、三ゲーム目。
参加者がやってきた。画面の右端に参加者の名前が表示される。
横目で表示を確認すると『knif』とある。
「おい、knifってなんて読むんだ? クニ……フ? カンフー!」
ブロックを反転させながら健太が重吾に言う。
通話は参加者には聞こえていないのだ。
「バカか! ナイフだよ」
「なんだナイフか。日本語で書いて欲しいよな」
「中学生として恥ずかしいぞ。ナイフくらい分かれよ」
「そんなもの分からなくても、俺はスポーツ推薦で高校に行くから大丈夫なんだ」
「夢物語ばかり言ってると、人生を誤るぞ」
「誰が謝ってくれんだ?」
「健太」
「なんだ?」
「本気で言ってるのか?」
「そんなはずないだろ。冗談だよ、冗談」
「良かったよ。長年の関係を絶ちたくなった」
「オレの性格くらい分かれよなぁ。で? 誰が謝るんだ?」
やはり分かっていないらしい。
そんな会話が落ちてくるブロックと共に終了したのは、健太の勝利の雄叫びと同時だった。
「やったね! やっぱりオレの方が強いんだな」
健太が大喜びしているとき、重吾のチャットが画面に表示された。




