蜜芽の残像思念(1)
「で? 蜜芽の残像思念を追いかけることができるってのか?」
「多分ね」
重吾が自信なげに言う。
「お前にしては自信がなさそうだな」
「普段はそんな力使わないからなぁ。ていうか、人の残像思念なんて見たくないからさ」
「なるほどね」
「そういう健太だって、予知夢を見てたじゃないか。最近は見てないのか?」
「見てるよ。この間は、ニュースになった事件を夢で見てたよ」
「そりゃ凄いな!」
「でも、所詮は夢だからな」
「もしかして、蜜芽のことも見てるんじゃないのか?」
「蜜芽のことは見てないよ。蜜芽じゃなくて、全く意味のない夢なら見てるな」
「意味のない夢?」
「うん、全く意味が分からないんだ。一回見て終わるくらいなら、ただの夢だと思うんだけど、もう一週間も見続けてる」
「どんな夢だよ」
「……笑うなよ」
「大丈夫だ。笑わないと約束する。笑うときは、家に帰ってからにするよ」
「うん……って! 笑うことに違いはないじゃないか!」
「あはは、気がついたか」
「言わないぞ!」
「そう言うなよ。教えろよ」
「じゃぁ、三十円で教えてやるよ」
「高いよ。十円でいいだろ」
「十円じゃ教えないよ」
「小遣いもらったら払うから」
「しょうがないな。じゃぁ、教えてやるよ」
意味のない夢を聞くというだけで、金銭が発生するというのは納得がいかないが、話の流れというものは怖いもので、そのおかしさに気がつくことなく、会話が進められていった。
「ここ一週間、毎晩見てるんだけど。二階建ての普通の家なんだ。その庭には板でできた人形がたくさんあるんだ」
まるで極秘事項を話すように、声が小さくなる。
「……それで?」
「それだけだ」
しばしの沈黙。
「健太」
「なんだ」
「この話。十円じゃ高すぎる」
値段の問題ではないと思うのだが。
「でも、一週間も続いているんだぞ」
「本当にそれだけだとしたら、全く意味がないな」
「いや、意味はあるぞ」
「さっきは意味がないと言っていたじゃないか」
「そうだけど、考えたら一週間も見続けるなんて、何かの意味がなかったらあまり
にも哀しすぎる」
「だからって、こじつけるように意味があるってのもねぇ」
「きっと、何かあるんだよ。そうに決まってる!」
どんな意味があるのか分からないが、とりあえずその話は保留ということにして、蜜芽の残像思念を追いかけることにした。




