1話 俺と勇者と暗殺者の本気
最終章?突入!
では、どうぞ。
開戦から2週間が過ぎようとしていた。
回復魔法や回復アイテムがあるこの世界では、なかなか勝敗が決しないのは当り前だ。
傷付いた兵士も、回復魔法を唱えてあげれば、また戦場へ戻ることが出来る。
序盤こそ苦戦したものの、なんとか戦線を立て直す事が出来た。
包囲されていたギルド連合軍は、キノシタ率いる遊撃隊が救出した。
ガノンボはなぜか、キノシタ達が到着すると同時に本陣に下がって行った。
その姿はまるで操られた人形のようだったという。
ガノンボは本陣に下がった後、まだ姿を現していない。
市長室には、俺とヒロと市長の3人。
最低限度の近衛部隊を部屋の前に配置し、それ以外は前線へ。
と言うのがヒロの考えだ。
何事もないいまま日が暮れたころ、急に扉の向こうが騒がしくなった。
バタンと扉を開き、血だらけになった魔法使いが転がり込んできた。
「し、市長!にげ――――
そこまで言ったところで声がと切れる。
なぜなら、ナイフが魔法使いの後頭部向かって投げられたからだ。
刺さっているナイフを俺は見た。プギオという広刃のナイフだ。
俺はこのナイフに見覚えがあった。
「嫌な予感がする」
俺の予想は的中した。
黒装束に身を包んだ男が部屋に入ってきた。
ドン・ラン。帝国の幹部でもある暗殺者だ。
「ば、バカな!?20人近くいた近衛部隊を1人で突破したのか!?」
市長の声が思わず上ずる。
しかし、ドン・ランは市長に目をくれる事もなく、俺を見た。
「久しぶりだな。リューヤ」
「レベル5のフリーターに負けたおっさんが何のようだ?」
俺はドン・ランを挑発する。
「ほざけ。運だけの小僧が」
「運だけ?ならもう1回試してみるか?」
俺のレベルは20を超えているし、今は勇者だ。
前回戦った時よりは、互角に近い勝負が出来るだろう。
「フン!この俺がどんな思いで牢屋にいたと思う?」
「知ったこっちゃねぇな」
ドン・ランは右手に持ったナイフについた血をなめる。
「バラバラにしてやんよ!」
―――月夜の影よ、その無限の恐怖を我が魂に刻め―――
ドン・ランの体が紫のオーラに包まれる。
「この前の俺とは一味違うぜ」
俺とドン・ランはほぼ同時に床を蹴り、間合いを詰める。
二人の刃が交わる。
腕力で勝るのは、覚醒状態のドン・ランだ。
覚醒状態になると能力は1.5倍になるので今のドン・ランは60レベル相当だ。
「風の刃」
来た!暗殺者の攻撃技。
ドン・ランがナイフを振るたびに無数の細かな衝撃波が発生し俺を切りつける。
「高速移動」
俺は回避技で脱出し、
「高速舞踊」
高速での接近と脱出を繰り返し、接近の度に切りつける。
「く、くっ!」
浅いが、何度も切りつけられればダメージ量も増えてくる。
耐えきれなくなったのか、ドン・ランは大きく跳躍し、部屋の隅に逃げる。
市長はドン・ランと反対側の部屋の角にいて、それをヒロが守るような形で陣どっている。
「ふん。お前みたいな勇者気取りのザコに、本気を出すことになるとはな」
「・・・?」
「見せてやるよ。影分身」
室内に10体のドン・ランが現れる。
とは言え、すべては影のように薄暗く、姿はノイズが走ったかのように揺れている。
本物との見分けはつくはずだが、見当たらない。
「ヒロ!」
「あいよ!魔酸の雨」
ヒロの新魔法。つい先日習得したものだ。
広範囲に攻撃できるうえ、一定確率で痺れ状態にさせる魔法だ。
俺は巻き添えを食らわないように、ヒロの近くまで下がった。
雨は部屋の大半を攻撃し、分身を消していく。
雨はやんだ。しかし、そこにドン・ランはそこにはいなかった。
俺は数歩 歩いて、部屋を見渡す。どこにもいない。俺は静かに目を閉じた。
全神経を勇者の第六感に集中させる。
〈近づいてくる〉
俺は何かを勘づき、目を見開いた。
しかしその時には、既に遅かった。
生々しい音を響かせ、ナイフが俺の額を貫いた。
歪んでいく視界の中で、ゆらりとドン・ランが現れた。
「暗殺者の最上級技。空間同化だ。暗殺者は音もなく標的を狩る」
そんな言葉が聞こえる暇もなく俺は地面にく連れおち、目の前が真っ暗になった。
しょっぱなから・・・




