11話 祭りと格闘家と奇襲
この章の最終話!最後はキノシタ編を!
街の方から賑やかな声が聞こえてくる。
俺ことキノシタは賑やかな街の声を聞いているだけであった。
なぜならいくら祭り言えど、警備を怠るわけにはいかない。
街の外には魔物がいるわけだし、盗賊なども現れるかもしれないからだ。
というわけで、各ギルドのギルマスや衛兵団の部隊長格は警備に駆り出されている。
俺はヴァルハラのギルドマスターであるアーローがサボったため、緊急収集された。
市外から来る商人たちを誘導する仕事をしていたのだが
今はその数も減り、魔物を狩りながら歩いていた。
「そんなに祭りに行きたいなら、行ってもいいんじゃよ?」
並んで歩いていた薄汚い布に身を包んだ老人が言った。
しわくちゃの顔に禿げ上がった頭。
後頭部にわずかに残った髪は真っ白に染まっていた。
腰は曲り、歩く足取りもおぼつかない。
傍から見れば保護された老人にしか見えないだろうが、
この老人は70歳という高齢ながら、現役の衛兵団の十四番隊隊長なのである。
レベルは30オーバーの付与術師。正直言ってレベルが高すぎる。
この世界では近距離系の戦士職がレベルアップが早く、次は遠距離系の戦士職。
次が、攻撃系魔法職。そして最後が召喚系や補助系の魔法使いなどだ。
よって戦士職の隊長格はLv40近い人もいるようだが、
魔法使いではLV30というだけで超人級だ。
また、農家や錬金術師とか魔物育成者とかの非戦闘系職業は
経験値ではなく、熟練度でレベルアップする。
「イャン爺・・・あなた一人じゃいつ倒れるか心配ですからね」
「ガハハ!骨は拾ってくれよ」
イャン爺は軽快に笑い飛ばす。スカスカな歯が妙に痛々しかった。
「ところで・・・キノシタ殿」
「なんですか?」
「もう気づいておるよのぉ?」
「えぇ・・・3人ですかね」
俺は当の昔に気づいていた。向こうの茂みにある3人の人影に。
俺は地球にいたころ自衛隊の特殊部隊に所属していた。
そこで俺は諜報活動―――つまりはスパイ的なことをしていた。
だから索敵能力は非常に自信がある。
「出てきたらどうかのぉ?」
「フン!だから言ったじゃねぇか!不意打ちなんてつまらねーってヨ!」
出てきたのは胸に帝国の漆黒鎧に身を包んだ男が二人と
大鎌を担いだ大男がいた。長い舌をくねくねと動かし、目は狂気に見開かれる。
上半身は裸で下半身は忍者のようなか
「誰かと思えば・・・ガノンボではないかのぉ?」
「ガノンボ?」
あの大男のことを言っているのだろうということは何となくわかる。
「そうじゃ・・・『大陸最狂の男』の名をほしいままにした男じゃ・・・
処刑されたはずじゃったが、あの噂は本当じゃったのか」
「あの噂・・・?」
「帝国が最強戦士として利用するために、洗脳しようとしていたという噂じゃ」
なるほど・・・それで帝国兵と一緒にいるわけだな
「やれ・・・ガノンボ」
帝国兵の一人が命じる。
「ちょっと待ってくれんかの?ステータスを開いてくれんかの?」
「いいゼ!あの世にもっていきナ!」
ガノンボは不気味に笑うとステータスを開く。
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ガノンボ LV62
職業 狂戦士
年齢 29歳
性別 男
種族 人間
状態 普通
覚醒スキル ―――
HP 597/597
MP 0/0
FAT 29%
ATK 442
DEF 442
CLV 127
LCK 190
装備品
右手 地獄の大鎌
左手
腹部
腰部 シノビスーツ
頭部
腕部
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ちょ・・・勝てるはずねぇだろ!
「なんだ・・・このレベルは・・・」
「いいねぇその顔!恐怖に染まる顔!」
ガノンボは楽しそうにニヤニヤする。俺のレベルは今LV23だ。
どうやら地球人プレイヤーはNPCよりレベルアップが早いらしい。
そこそこのレベルになったが・・・ありえない!
「どうやら格が違うようじゃのう・・・まぁあがいてみるかのぉ
悪魔の力!大亀の守り!龍の翼!精霊の微笑み!」
イャン爺が杖を振りかざし強力な補助魔法をかけてくれる。
これによって俺は大体レベル3位の補正が掛けられるがあまり関係ない・・・
「ヒャッハァァァアアアアア!!!」
あの大鎌からして機動力はないと思っていたのだがやはりあのレベルだ。
瞬発力は異常なようだ。
一瞬のうちに奴の射程距離に入ってしまったようで、大鎌が振り下ろされる。
俺は自衛隊でつちかった反射神経で何とか体重を後ろにやって直撃を避けた。
が、胸から腰にかけて斜めに切り裂かれる。
「―――っっっ!!!」
声も出ないくらいの痛みが全身を襲う。
「針千本!」
続けざまにガノンボは技を放つ。俺とイャン爺を同時に無数の針が襲う。
俺のHPはおそらくほとんど残っていない。
狂戦士は一対多数の戦闘が得意な職業だったはずだ。
そんなことを薄れゆく意識の中で考えた。
「死ぬのは老いぼれだけで十分じゃ」
イャン爺の声が聞こえてくる。
「転送泡」
イャン爺の杖の先から泡が膨らみ俺を包む。
イャン爺は血だらけになった顔を皺くちゃにして笑う。
「ガハハ!ちゃんと仇をうってくれよ?」
俺は泡につつまれてシャボン玉のように浮かんでいく。
「イャン爺っっ!!やめろー!」
俺は泡をたたくが曇った音が返ってくるだけだ。
イャン爺は自分を犠牲に俺を逃がしてくれたのだ。
「イャン爺ーーー!!!必ず仇を・・・!」
俺は泣いていた。大粒の涙が流れてくる。
早く!早く!この事態を市長に報告せねば!!
俺は泣きながらイャン爺の名を叫び続けた。
さぁ次章は開戦です!!




