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兵器

第1話 兵器


 ノアの報告を聴いたRは、義経の元に戻った。義経は、故郷・平泉に住居を構えている。話を聞いた義経は「テムジンも交えよう」といった。この会合の結果次第では、この世界の進む方向が決まる。テムジンは、折よく月にいた。久しぶりの家族サービスなのだそうだ。テムジンは、住居を月に構えている。義経は、1度理由を尋ねてみた事があった。

「俺が地球にいると、俺が地球を壊したくなる」

 義経は、思っていた。「世界統一を果たして、これからの目的を失ったのだな。私も同じだ。ただ、私には実務は少ないが、考える事が多いのが幸せなのだろうと思う」

 会合に参加したのは、義経・テムジン・R・劉基・耶律楚材・大江広元・アイン・リーガルと実体験者のノア、そしてRが推薦するマハーヴィーラであった。ノアは、他の9人にあらためて、当時の様子を報告した。先ず、発言をしたのは義経だ。

「我らは、多くの兵と数々の武器によって世界を統一した。この先も、闘いは起こるのであろうか。いや、実際にノアが襲撃されている。これからは、制圧のための軍ではなく防衛のための軍を編成する必要があると思う」

テムジン:「ようやく、俺の出番か」

劉基:「ノアさんの話では、襲撃の予兆を探知出来なかったとか。それは、奇襲だったのですか」

R:「我々のような文明では、奇襲の事を技術力の差というのです」

劉基:「では、その奇襲を防ぐためには、技術力を上げなければいけないのですか」

R:「その通りだ。そして、技術を実体化し開発しなければならない。しかし、そこには、やってはならない事があるはずだ。私には、それが何なのか分からない。義経が判断してくれるだろう」

義経:「私が?無理です」

R:「貴方には、貴方自身が知らない力がある。そして、今日連れて来たマハーヴィーラに相談してみてください。彼は、優れた問題発生予測能力者です。彼は、リスク回避者となり得ます」

義経:「分かった。Rの事を信じて見よう」

劉基:「話を元に戻しますが、我らは何をすればいいのでしょうか。戦は味方と敵の情報を知る事から始まるとありますが、同じなのでしょうか」

R:「同じです。探知技術を上げましょう。それから、簡単な防衛施設と強力な破壊兵器または捕縛兵器を研究します。強固な防衛施設は、同じレベル以上の武器に攻撃された時に敗れます。同じ労力をかけるなら攻撃に労力をかけましょう」

 この意味は、いつか理解出来ると思うが、今の劉基では無理だった。

アイン:「僕が、技術開発の責任者になっていいですか。お師匠様、よろしくお願いします」

 Rは、思った。やはり、私は余所の世界の人間なのだ。これは、自然が決めた理なのだ。私の知る限りの事をアインに伝えよう。事の是非は、義経らが判断してくれるだろう。


第2話 会合の後


 会合の中で、各人の役割が決まった。一番喜んでいるのは、テムジンかもしれない。周り中に言い放っているらしい「また、戦が出来るぞ」と。実際に、彼の役割は軍事訓練の長である。彼の肩書は帝王である。しかし、彼にとってその肩書は何の意味も持たなかった。彼にとって、2番目に大切なのは家族だった。妻は2人いたが、1人は亡くなってしまった。今の妻はクランだけである。亡くなった妻が産んだ子供が3人いる。クランとの間に子供はいない。ケムの者は、子供をつくる事が出来ないそうだ。彼が、3人の子供を持っているという事は、生まれつきのケムの者ではないのだろう。

 さて、彼にとって1番大切なのは「死への挑戦」である。死ぬつもりはない。ただ、命懸けで行動している時が、最大の喜びなのだ。その彼は、今太陽系の隣の恒星系にいる。宇宙船を使用した軍事訓練を行っているのだ。今まで、冒険と称して宇宙船を操って来た事が役に立った。しかし、ここに配備されている宇宙船は、大型艦が4隻(4門艦)と小型艦が32隻だけだ。しかも、全ての艦が軍艦ではい。4門艦は、時を越える調査艦として建造されたものだ。防御シールドを張る事と時間を越えて逃走する事以外は出来ない。尚更、小型艦は何も出来ない。

 テムジンは、地球で建造されている軍艦を待ちながら軍事訓練を行っている。彼の3人の子供達は、かつての征服時代から軍団の重要な位置に付いている。そして、彼には作戦参謀として劉基が付いている。しかし、劉基も現状では為す事が、ほとんどない。

ところで、ノアはリーガルと同格の人物で、それぞれが、4門艦の艦長だったらしい。残り2人の艦長の行方は不明だそうだ。彼らは、テムジンらに操鑑の指導を行っている。

 アインは、技術の開発に追われていた。しかし、Rの指導の元で、初期型の軍艦や防衛施設、探知システムは出来そうだ。この技術が外宇宙に対して、どの程度通用するのかは分からない。今の自分の全てを与えた技術である事だけは確かだと思う。しかし、技術理論が確立されても、建造や製作が思うように行かない。白羽の矢が立てられたのは、クランの父だった。クランの父はパーヤといった。彼は、最初渋っていたが、実際にものを造り出すと、目が輝いて来た。パーヤは、製造部門の長となって行った。

 耶律楚材と大江広元は、内政に忙しそうだったが、義経に相談事を持ち込まなくなった。彼らも、現状を理解している。義経を些細な事で悩ませたくなかったのだ。

 義経の気の晴れる日が、多くなった。それは、マハーヴィーラのお陰だった。彼は、義経に理路整然とした示唆を与えた。彼は、何かを立案する事はなかったが「これは、どうだろう」と、相談すると「こことここが矛盾していますよ」とか「それをすると、後でこういう問題が発生しますよ」とか、相談事の評価を納得出来るようにしてくれるのだ。義経は、的確な判断材料をくれる彼を信頼し始めていた。


第3話 配備


 ここで、Rの指導の元アインが技術開発、開発仕様を考え、決めた第1次防衛軍配備を紹介する。

・空母(A1):2隻。防御力(弱)。攻撃力(弱)。航続距離(短)。巡航速度(遅)。30機の攻撃機を搭載。

・戦艦(B1):2隻。防御力(強)。攻撃力(強)。航続距離(短)。巡航速度(遅)。

・巡洋艦(C1):6隻。防御力(中)。攻撃力(中)。航続距離(長)。巡航速度(中)。

空母の搭載艇

・攻撃機(R1):防御力(弱)。攻撃力(中)。航続距離(最短)。巡航速度(速)。

・偵察機(S1):防御力(強)。攻撃力(最弱)。航続距離(長)。巡航速度(最速)。

 この中で、攻撃機以外は、空間転移装置を搭載している。Rの説明によると、時間を超える技術と空間を超える技術は、異なるようだ。これら全ての艦には、時間を超える装置は搭載していない。アインの学びは、Rから見て未だ初歩の段階だ。

アインはこれら宇宙艦の他にもいくつか技術開発を行っている。

・探知機:物質/エネルギー/電波の探知機を開発した。だが、威力は分からない。更に、これら以外の種類の探知機も必要なのかもしれない。

・シールド:宇宙艦の装甲は、ほとんどが無効化される。Rから初歩のシールドである電磁シールドを学んだ。この原理は、電子のクーロン力の反発と撹乱にあるようだ。攻撃がミサイルなどの物質なら、ほとんど無効化出来るはずだ。但し、エネルギー砲などの非物質攻撃には、どの程度効力があるのか分からない。

 ところで、太陽から最も近い恒星はケンタウルス座アルファ星と言われている。この恒星は、3重連星である。そして、太陽系から約4光年離れている。この恒星を観察したい方は、沖縄より南に行かなければならない。

 4門艦は、1年で50光年を航行する事が出来る。アインの技術による宇宙艦は、最も早いもので、1年に5光年である。空間転移には、膨大なエネルギーを必要とする。このために、エネルギーを空間バッテリーに充填する。長距離の空間転移に時間が必要なのは、このためだ。つまり、より遠くに早く到達するためには、大容量のバッテリーと素早く充填出来る強力なエネルギー発生装置が必要になる。しかし、このために宝器を利用する事を義経は、禁じていた。

 一般の人々には、解放されていないが、シグナル・ネットワークが構築されていた。太陽系の中心に近いところならば、携帯型の送受信機(端末)で、情報のやりとりや、検索が出来る。マザー・サーバーは、未だ幼稚なものだった。これも水晶ドクロからのエネルギーを電気に変換する技術を得たためだった。もっとも、これはRが、ほとんど1人でやったらしいが。

 技術の開発と詳細設計を終えたRとアインは、宝器探索に出掛けた。


第4話 トルコ


 Rとアインは、トルコに向かった。この地には有名な遺跡が2つ存在する。

1つは、ハットゥシャ(ボアズキョイ)遺跡である。この遺跡は、紀元前15世紀頃アナトリア半島に王国を築いたヒッタイト民族の首都だったとされる。ヒッタイト民族は、人類初の高度な製鉄技術を持ち、各地を制圧した。そして、紀元前1190年頃、謎の「海の民」によって滅ぼされたとされている。

 1つは、カッパドキアである。この名の地の範囲は、厳密に規定されていないようだ。中央アジアの一地方やアナトリア高原を指す事もあるらしい。そして、カッパドキアの名前は、古代のペルシア語で「美しい馬の地」を意味する。

 筆者は、大きな思い違いをしていたようである。現在のトルコ共和国には、11の世界遺産が認定されている。上記の2つの遺跡は、その1部のようだ。ここで、もう1つだけ世界遺産を紹介したい。それは、ギョレメである。この地は「妖精の煙突」と呼ばれる。誰が掘ったのか謎らしいが、数多くの洞窟が存在する。しかも、現在調べた限りにおいては、その洞窟の最大深さが、45mある。これは、縦抗の事である。(全くの雑談であるが、現代では縦抗の深さが50mを越すと、土木の作業規定で、エレベーターを設置しなければならない)奥行きは、残念ながら調べる事が出来なかった。洞窟が縦横に走り、部屋同士を繋ぎ、広範囲の地下都市を形成している。

 この地の最期の居住者は、古代ローマ後期のキリスト教徒のようだ。しかし、彼らがこの洞窟を造ったのかは明らかとされていない。蛇足となるが、この洞窟に20万人を収容出来るという説もある。

 Rは、思っていた。

「この洞窟を掘る事は、年月と労力をかければ、可能だろう。しかし、落盤事故を起こさずに掘り進むためには、高度な設計知識と測量技術が必要だったと思う。ここにも、タイム・トラベラーの関与があるのだとすれば、何が目的だったのだろう」

 ここの情報は、少な過ぎる。Rは、端末でマハーヴィーラに情報を流しておいた。その足で、イラクに向かっている。バベルの塔を探すためだ。2、3日すると、マハーヴィーラからの返信があった。

「おそらく、宗教関係だと思います。他に目ぼしい情報があったならば、連絡をください」

 Rは「死海文書」の事を思い出していた。この時代には、未だ発見されていないはずだ。バベルの確認が済んだら、寄り道をして見よう。

 死海文書は、20世紀に発見された最古の聖書である。7割くらいが旧約聖書で、他の3割は規則や儀式書となっているらしい。文章全体の8割くらいが、ヘブライ語で書かれた写本らしい。もっとも、原本があればという前提の写本であるが。この文書の書かれた時期は、紀元前150年ごろから紀元70年の間とされている。その文書が発見される前までは、最古のヘブライ語写本は、925年頃と考えられるアレッポ写本であり、レニングラード写本(1008年)であった。ギリシア語写本は4世紀のバチカン写本とシナイ写本が最古とされていた。


第5話 バベルの塔


 Rは、バベルの塔の探索に手間取っていた。探知機が、誤作動を起こしてしまうのだ。

「バベルの塔は、実在するのであろうか。いや、探知機が、誤作動を起こす事が実在の証拠だ」

 ようやく、探索の絞り込みが終わり、位置を確定する段階になった。

「しまった。逃げるぞ」

 Rとアインは、携帯型の空間転送機でそこから脱出した。アインはRに訊ねた。

「何が起こったのですか」

「逆探知をされた。装置に雑音が混じった。あのままでは、どうなっていたか分からない。予測される事がある。それは、あそこの宝器が高いレベルで、守護獣が護っている事だ。守護獣の種別と頭数が分かれば、何の宝器かも分かるのだが。義経に向かって貰おう。義経は、この世界の宝器に好かれているはずだ」

バベルの塔の物語は、旧約聖書の「創世記」11章に記述されている。この中に「人々が高い塔をつくるのは、皆が1つの言語を話しているためだから、別の言語を話させる事にしようと、神が考えた」とある。つまり「人々が纏まり、何か大きな事を為す事を神が拒んだ」とも読める。この事を深く考えると、いくつかの推測が出てくるが、この物語とは、無縁という事にして先に進みたいと思う。(実は無縁ではないと、思っているのだが)

 さて、バベルの塔に近付いた義経の元に、1羽の孔雀が現れた。

「よく、ここまで来ましたね」

 これは、孔雀が話しているのではない。義経の頭の中に言葉が流れ込んでいるのだ。何か偉大なものの一部に触れたような感じのする義経だった。

「私は、ある方からこの地球を、お預かりしているだけです。貴方は、貴方の未来を築くのです。あの方でさえも、貴方がどのような未来を創るのか予測出来ないでしょう。私の役目は、ただ視ているだけです。私の視ているものが、あの方にも見えています。この孔雀は、ここにある宝器の守護獣の1つです。もう1ついますが、それは、見ない方がいいでしょう。そして、ここの宝器は、その時が来るまで、このままにしておくのがよいでしょう」

 義経から、この話を聞いたRには思い当たる事があった。Rは、元の世界で触る事も見る事も出来ない宝器を3つ持っていた。おそらく、その1つが、これなのだろう。そして、リーガルらの同僚を1人失っている。この孔雀の仕業なのだと思う。その時、同僚のセムラは、忽然と消えた。宝器の捕獲に失敗したのだった。Rは「もし、セムラが生存しているのなら返して欲しい」と義経に頼んだ。

 義経は、孔雀に頼んだ。セムラは戻って来たのだった。


第6話 エジプト(1)


 Rとアインは、エルサレムの近くの死海で死海文書を手に入れ、マハーヴィーラに送った後、エジプトに向かった。エルサレムに数多の宝器が存在する事は知っているが、調査は後回しとした。先に、存在の明らかでない宝器の探索を行う事にした。エジプトに数々の宝器候補が眠っている事をRは、知っている。

 ギザのピラミッドに向かう2人は、この地が何者かによって手が加えられているのではないかと思った。それは、この時代のものとは、考えられない構造物が多く存在するためだった。Rは、この地のものは、宝器では無く、道具ではないかと思い始めた。ギザのピラミッドが、造られたのは紀元前1万5千年と言われている。この時期は、アトランティス大陸が崩壊した年代とほぼ一致する。ヒッタイト王国を滅ぼした謎の「海の民」とは、アトランティス大陸の生き残りではないのか。アトランティスの民族の正体は、タイム・トラベラーだと考えている。しかし、Rの世界とは異なる世界からの訪問者だろう。地球外生命体だとは、考えにくい。この地球には、それほどの価値はないのだ。もしかして、宝器の事を知った地球外生命体がいるのか。

 全ては、憶測である。確実な証拠が欲しい。ギザには3つのピラミッドが存在する。その中に何か秘密があるのだろうか。ピラミッドの中に侵入したRは、メッセージを発見した。それは、4門艦の艦長アムスからのものだった。アムスは、アトランティスに調査に向かい、行方不明となっていた。そのメッセージは、特殊塗料で残されていた。Rでなければ、発見出来なかっただろう。そのメッセージによれば、アトランティスの住人は、地球外生命体であり、宝器の探索のために地球に降り立ったようだ。アムスは、彼らに捕えられ「ある状態にされるようだ」と締めている。

 その地球外生命体は、どうなったのであろうか。少なくとも、今の時代にその陰は見えない。あのバベルの宝器の類に撃退された事が、予測される。それよりも、アムスの安否が気掛かりだ。絶望に近い程、生きている可能性は低い。しかし「ある状態」とは、何を意味するのだろうか。その時、アインがRに訊ねた。

「あの干からびたものは何ですか」

 微かな希望が見えた。ある状態とは、ミイラの事かもしれない。全てのミイラとアムスの個体識別をして見よう。アムスが、見つかった。しかし、ミイラとはどのような状態なのだろうか。淡い期待かもしれないが、理論的には永久冬眠が考えられる。誰かに目覚めさせて貰う事を前提とした冬眠状態だ。この地に「静」が、呼ばれた。


第7話 エジプト(2)


ここに、クリプトビオシス(隠された生命活動)と呼ばれる動物がいる。これらの動物は、乾燥などの厳しい環境に対して、活動を停止する無代謝状態となる。このメカニズムは、明らかとされていない。筆者の推測を述べたい。酵素などが、ある物質を化学変化させる時、加水分解という反応を起こす事が多い。つまり、酵素が化学反応を起こさせるためには、水が必要となる。仮に、自身を乾燥状態に置けば、酵素は機能する事が出来ずに無代謝状態となる。これらの動物の例として、クマムシ・ワムシ・ネムリユスリカなどが存在するようである。これらの動物は、水を与える事により蘇生する。

Rも、ミイラは人工的なクリプトビオシスではないかと考えた。この地に辿り着いた静は「充命の衣」を発動させた。アムスは、生き返った。妖精を連れて歩くノンノも静に同行していた。アムスの治癒は、ノンノが行った。Rは、何人かの旧いミイラも蘇生させた。当時の事情を尋ねるためだ。彼は、ある恒星系の集団の一部の派遣部隊のようだ。彼らの主人は、ある海賊から宝器の噂を聞いた。彼らが、地球に派遣されたのはこの宝器の探索のためだった。彼らは、アトランティスという栄えた文明を興し、宝器の探索を行った。メソポタミアまで来た時、宝器の反撃を食らった。宝器の怒りを買い大陸は沈没させられた。生き残った者達は、エジプトの地に逃れ再度、文明を築き始めた。しかし、宝器の追求は、終っていなかった。彼らは、諦めミイラとなって生命活動を停止させる事にした。停止させた生命活動を元に戻す者が、必要になる。そこで、選ばれたのが、アムスだった。アムスの世界の者が復活させてくれるかもしれない。

彼らは、主人に嘘の報告をしていた。「宝器の話は出鱈目のようです」これでは、彼らが、行方不明となっても探してくれはしない。彼らが冬眠に入った後に造られたピラミッドやミイラは模造品である。彼らは、軟禁という形で、月に送られた。地球外生命体の情報は、義経が得てくれるだろう。

通説では、ギザの3大ピラミッドは、エジプト第4王朝のファラオ、クフ王の墳墓として紀元前2540年頃に20年以上かけて建築されたと考えられている。そして、このピラミッドは、オリオン座とシリウスの方角を指しているようだ。オリオン座の恒星群は、地球から200~2000光年離れている。シリウスは、おおいぬ座に属し、10光年弱の距離である。地球から5番目に近い恒星とされている。彼らは、このシリウスから派遣されたようだ。おおいぬ座のシリウス・オリオン座のベテルギウス・こいぬ座のプロキオンは、日本では冬の星座とされる。そして、冬のダイヤモンドの大三角を形成している。尚、この物語では、ギザのピラミッドは、1万5千年前の建造物としたい。

彼らは、光を遡る超光速通信技術を持っていたようだ。そのために、ピラミッドは、シリウスの方向を指していた。ギザには、スフィンクスが存在する。これは、彼らが宝器への攻撃兵器として、建造したものらしい。しかし、まるで効力を発揮しなかったようだ。

今、確認されている地球外生命体は、海賊や私設の集団といった小規模で単発的な来訪である。彼らから宇宙の詳しい情報は得られるのであろうか。


第8話 オリハルコン(1)


 エジプトに宝器は存在しないのだろうか。全てが道具と思われた。しかし、その道具は、Rの知識を超えたものが多く存在した。Rとアインは、この地で数年学ぶ事になる。それにしても、アインの学習能力は高い。Rが100年かけて得たものを1年で学ぶ。更に、学びの速度は、上がっているようだ。そして、独創性がある。Rの気付かなかった技術を発見する事もある。アインは、この地で第2世代技術の構想を得る事になる。

アトランティスは、古代ギリシアの哲学者プラトンが著書「ティマイオス」と「クリティアス」の中で記述した、大陸と呼べるほどの大きさを持った島と、そこに繁栄した王国のことである。ここに「オリハルコン」と呼ばれるものが、存在したようだ。Rは、このオリハコンを探索した。しかし、探知機に反応はない。

ハトホル神殿に向かったRは、そこで奇妙なものに出会う。ハトホル神殿は、デンデラ神殿複合体の主神殿である。ハトホル神殿にあるレリーフは、デンデラの電球として知られ、オーパーツとして世の論争を生んでいる。

Rの見つけた奇妙なものは、探知機に反応しなかった。それは、地球上で知られる元素から構成されるものではなかった。元素は、原子核と電子から構成される。原子核の持つ陽子の数で、元素番号が決まる。原子核は陽子の他に中性子も含む。そして、陽子と中性子は3つのクォークから構成される。

以下、21世紀の素粒子理論からの出典となる。物質そのものの研究に興味の無かったRは、この事に異論はない。クォークは、3世代存在し、それぞれ2種類を持つ。つまり、合計6種類のクォークが存在する。6種類のクォークは、次の通りである。

・アップ:第一世代・質量2・電荷+2/3

・ダウン:第一世代・質量5・電荷-1/3

・チャーム:第二世代・質量1,290・電荷+2/3

・ストレンジ:第二世代・質量100・電荷-1/3

・トップ:第三世代・質量172,900・電荷+2/3

・ボトム:第三世代・質量4,190・電荷-1/3

そして、バリオンと呼ばれる陽子と中性子は、次の通りである。

・陽子:アップクォーク2個とダウンクォーク1個。電荷+1。

・中性子:アップクォーク1個とダウンクォーク2個。電荷0。

 地球上の元素は、これら第一世代のクォークから構成される。Rの調査によると、オリハルコンは、第二世代のクォークから構成されているようだ。


第9話 オリハルコン(2)


 原子核を構成するバリオンに対して、電子をレプトンと呼ぶ。ここから先は、筆者の理解を超えるので、この物語の設定論理とする。クォークが三世代を持つならば、レプトンも三世代を持つはずである。つまり、第二世代の電子は、第一世代の電子より強い電流を流す。その強さは、クォークの質量に比例するものと思われる。デンデラの電球は、これを示したものではないだろうか。

 月の地球外生命体から得なければならない情報が増えた。しかし、義経は苦労していた。彼らは、ほとんど何も知らなかった。知っているのは、シリウス恒星系が1つの共同体を持ち、見掛け上平和であるという事と、各集団のエゴが強く、より多くの富を望んでいるという事だけだった。彼らをシリウスに帰す事は、出来ない。彼らもそれを望んでいない。エジプトの彼らの仲間のミイラは、全て蘇生させられ、月に1つの集落を与えられた。

 Rとアインは、オリハルコンの構造研究に励んだ。理論上、オリハルコンの元素は地球上の元素の約300倍の電流を発生させるはずである。この研究に数年を費やした2人は、オリハルコンの構造を解明し、探知機を製作した。しかし、地球上に第二世代のクォークは存在しない。彼らは、テムジンにこのクォークの探索を依頼した。但し、地球から5光年以内という条件をつけた。特に「シリウスには近づくな」とも付け加えた。

 分かった事が、もう一つあった。第二世代のクォークでも水晶ドクロの出力には、遥かに及ばない事だ。しかし、宇宙艦には応用できる。シールドを始めとした装備が300倍になると予測される。

 ここで、少し素粒子について学びたいと思う。21世紀初頭に知られている力は、4種類ある。「重力」「電磁力」「弱い力」「強い力」となる。「重力」「電磁力」については述べない。「強い力」は、原子核がお互いに引き合う力、「弱い力」は原子の崩壊を引き起こす力である。現在、この4つの力を1つの力で説明しようとする大統一理論の研究が進められている。また、第5の力の存在を主張する研究者もいるらしい。これら4つの力には、それぞれ力を媒介するゲージ粒子が存在するようだ。このゲージ粒子は、分類項としては、クォーク・レプトンと同じらしい。

 さて、3つのクォークからバリオンを構成する時、ゲージ粒子である「強い力」のグル-オンが働く。2人は、オリハルコンの解明の時、第二世代グル-オンを発見した。後は、テムジンが第二世代のクォークを発見してくれる事を祈るだけだ。


第10話 木星


 探索を依頼されたテムジンは、張り切っていた。何か目的があると言う事は、嬉しい事だ。しかし、太陽系以外の恒星系に惑星は、ほとんど存在しない。恒星の中に突入出来るほど宇宙艦は、頑丈ではない。半ば諦めかけて、地球に帰還する途中に探知機が鳴り始めた。それは、木星の近くだった。木星から一部を採取し、地球に戻った。

 Rとアインは、分析を行った。間違いない。埋蔵量の調査と採掘が行われた。他の惑星の調査も行われた。木星は、恒星になりそこねた星と言われている重量星だ。第2世代クォークは、重量星に存在すると予測される。調査の結果、僅かだが、土星、天王星、海王星にも存在するらしい。義経からは、警告が出されていた。「破壊的な採掘をしてはいけない」

 第1世代宇宙艦は、後方支援となり、新しくオリハルコン宇宙艦が前線に立った。

・空母(A2):4隻。防御力(弱)。攻撃力(弱)。航続距離(短)。巡航速度(遅)。30機の攻撃機を搭載。

・戦艦(B2):4隻。防御力(強)。攻撃力(強)。航続距離(短)。巡航速度(遅)。2機の偵察機を搭載。

・巡洋艦(C2):12隻。防御力(中)。攻撃力(中)。航続距離(長)。巡航速度(中)。

空母の搭載艇

・攻撃機(R2):防御力(弱)。攻撃力(中)。航続距離(最短)。巡航速度(速)。

・偵察機(S2):防御力(強)。攻撃力(最弱)。航続距離(長)。巡航速度(最速)。

 この中で、攻撃機以外は、空間転移装置を搭載しているのは、第一世代と同じだ。Rから贈り物があった。S2にのみ時間を超える装置を取り付けて貰った。これは、未だアインには理解の出来ない技術だ。

 ・探知機:物質/エネルギー/電波の探知機は、威力を増したはずだ。理論的には、第三世代クォークまで検出可能なはずだ。

・シールド:電磁シールドは、第一世代の300倍の防御力があるはずだ。しかし、以前として、エネルギー砲などの非物質攻撃には、どの程度効力があるのか分からない。

 4門艦の艦長が皆揃っていた。リーガル・ノア・セムラ・アムスだった。4門艦は、1年で50光年を航行する事が出来、時間を超える事も出来る。アインの技術による宇宙艦は、空間転移だけなら、1年に65光年移動出来た。これは、アインの技術というより、オリハルコンの力によるところが大きい。

 S2と4門艦は、シリウスの過去の何箇所かに偵察に向かった。シリウスからこの地球に来訪者があったのは、1万5千年前だ。シリウスのその後と、出来れば現在を知りたい。シリウスとは、僅か10光年弱しか離れていないのだ。


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