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序曲

「彩也子ちゃん飲み過ぎよ、もうちょっと部屋片づけたら?キッチンから変な匂いしてるよ・・・」


目の前で飲んだくれて眠り込んでいる太った女にわたしは軽い嫌悪とどうしようもない愛情を感じた。


彼女はわたしの友達で、ただひとり体を許した人間。高校生のときにたまたま街中で出会って、それ以来の付き合いになる。


彼女を好きになってから、その気持ちはずっとかわらない。彩也子はわたしのお金でマンションに住み働かずに生活している。


わたしにはいくらでもお金がある、無限ではないけれど。親の持っている貸しビルのひとつがわたしの名義になっていて、年間5000万の収入がある。ちょっと馬鹿みたいな話よね?


それでも仕事は持っている、オペラ歌手。自分で言うのも笑っちゃうけど、いちおう美貌のソプラノ歌手ってことで名前は売れてるしCDも5枚出してる。ファンはマニアやおじさんばっかり。


「彩也子ちゃん、パソコン借りていい?」彼女は寝ぼけたままで「ううー」って声で返事をした。なんだか動物みたいで、可愛いくて仕方がない。自分のブログにアクセスしてファンのコメントにいちいち返事し始める。ほんとにマメだなって自分でも思う。


「先日の演奏会圧巻でした。特に、夜の女王のアリアは技巧の完璧さはもちろんのこと、さらなる表現力の深まりを体感できました。いままでに聴いたこのアリアの歌唱のなかでも10本の指に入ると言っても過言ではありません。私が去年のザルツブルグ音楽祭で・・・・


ふーん、そんなに良かったかな?悪い気はしないけど。でもこの人いっつも自分の自慢話になるんだよね・・・でもファンは大事にしないとね。


しばらくパソコンに向かっているうちに彩也子が目を覚ましたようだ。「美禰みねちゃん、ごめん。また許してくれる?」「え?なんのこと?」「だから・・・いつものやつだよ」


彩也子はわたしに近づき、肩に腕を絡ませてきた。「またやったんだね、処理はちゃんとした?」「うん大丈夫だよ」彼女は笑顔を見せた。数年前に矯正して綺麗になった歯並びが覗いた。そして唇を寄せてきた。醜くて愛らしい顔がわたしの視界にぼやけて一杯になった。


桜の下には死体が埋まっている。わたしのビルの地下にも死体が埋まっている。


(つづく)





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