第11話「不敵、M3の男」
本作は最終回に向けて主人公たちを覆う不穏な未来と、それを吹き飛ばすような熱血おっさん登場の話です
ちょっと燃える展開、読み損はさせません。
「不敵、M3の男」
速見 防衛軍所属宇宙ステーションM3号司令 遊星怪獣Kロン
#プロローグ カウントダウン
「おっしゃっている意味が分かりません博士」
暗い研究ラボに置かれた黒い合金製テーブルの上に細かい細工が施された銀の小箱が置いてある。
箱に付けられたパイロットランプはプライベート通信を示す黄色に点灯していた。
「君の身体のことだ君が一番分かっているはずだ」
「君の免疫力、再生能力は人類の常識を遥かに凌駕している。
GVHDだよ。君の強すぎる免疫力がF01として移植されたあらゆる機械部品の拒絶を始めているんだ」
「最近F01としての接合動作に違和感を感じなかったか?」
「それで僕はどうなるんですか」
超人としてのUマンの声の響きに一切の動揺は感じられない。
「これはあくまで最悪の予想だが⋯⋯」
言い淀む世界屈指の頭脳、眉間には深い溝が刻まれる
「どうぞ、僕は大丈夫です」
「あと2月もすれば君の右半身は完全に瓦解する、元々失われた半身だ奇跡的な超再生をしない限り君と言えど⋯」
「なるほど」
超人の声の調子には自分について宣告されている事実への焦りは無かった。
「だが⋯ユキ子の、ユキ子が⋯」
神の顔は歪みもう声が出ない
「約束してください博士。彼女には一切この事を告げないように。
その日が来る前に僕はユキコ<ソルエル>の前から消えます」
「ソルエル?君は⋯」
#M3の男
いつもと変わらぬ風景の防衛隊本部。大きな声とともに、その男はやってきた。
「隊長、いや白鳥はいるか?」
「お早うございます、速見教官、いや今はM3ステーション司令殿でした」
敬礼をしながらも全身から緊張感がにじみ出るのを隠せない小竹小隊長。
「おお、お前小竹か、久々に見たが、相変わらず締まらねえ顔してやがるな、現場で何とかやれてるのか?」
ズカズカと隊本部に踏み込んで来た男は
「なんだ葵や小島まで雁首揃えてるのか、伊豆の練兵場じゃねえんだ、ぼんやりしてねえで、ちゃんと動け、仕事しろ」
「で白鳥を呼べ、帝大の同期が来てやったぞってな」
「は、隊長は現在パリ本部に出張中ですので、不肖小竹が対応させていただきます、司令」
「まあ良い、じゃあ小竹お前案内しろ。今日はお前の所の赤いやつを見に来た。」
ガチガチの小竹を先頭にF01のハンガーに来た小竹と速見。後ろから葵隊員に付き添われたユキ子も帯同していた。
ハンガー上のキャットウォークから、整備台に乗ったF01を見下ろす速見。
「ふん装甲は一応Z合金製を奢ってはある様だが、まず薄すぎる。
そもそもなんだ、このコクピットの位置は、胸部表面だと?
パイロットの棺桶でも作ったのか?」
「最低でも胴体の奥深くに設置するか遠隔だ、ともかくお話にならん」
「これでは昔いたなんとかいう異星人の色付き信号の出来損ないかよ。
お前ら、本当にこいつ使い物になるのか?」
機関銃もかくやとばかりに言葉を叩きつけてくる元指導教官に反証
しようとする小竹
「は、はい ですが⋯
先日のQ星人の再戦の時やテラ2の一件でも彼らの戦効は著しく⋯」
「ああ、あの時か
だがあの時戦闘中にパイロットは早期離脱して偶発的な戦果だったと聞いたぞ」
「で、そのパイロットはどこのどいつだ」
おずおずと手先を上げる少女。
「ん?お前か。冗談だろう、白鳥のやつ焼きでも回ったか?
いつからここは小学校になったんだよ、こんな年端もいかねえ娘を前線に据えるなんてどうかしてる」
おそらくユキ子の目に気づいている速見はそこには一切触れない
顔面を紅潮させながら、手を震わせながら猛然と抗議する小竹。
「お言葉ですが、司令、この子は、いえ神は立派なここの隊員です。彼女とF01がいなければ、
この星ごと終わっていたかもしれない事態だってあったんですよ」
「そうよ教官、貴方が彼女の何を知ってるっていうんですか?」
「おいおい、何を興奮してるんだ 小竹、それに葵まで」
「ああそうか、今日は分かった。
いずれこのクズ鉄どもの、お働きは期待せず拝見させて頂くと白鳥には伝えておけ」
「ぐぬぅぅ」
「進、良いから!」
あわや元教官に殴りかかろうとした小竹隊員を、後ろから拳を包み抑える葵隊員
「ふん、興が冷めた。
だがなちょっとだけ、機械疑似演習に付き合ってもらうぞ、おい
そこの子供。」
少女の顔色は蒼白であった。
#小手調べ
F01のキャノピーの横に演習用の仮設シートが置かれ、まだ少し青ざめた顔で固定ベルトを締めている少女。
「さていつもやっている様にやって見せて貰おうか?」
少し離れた場所にパイプ椅子を据え、どっかと座っている速見。
「え、でも私⋯」
戸惑いを隠しきれない少女
ユキ子とUマンの特異な連携を知らない速見はゴリ押しをしてくる
「おいおい、こんな簡単な機械演習も出来ないのか、この基地の姫様は?」
その時ユキ子の胸ポケットから微かな声がする
「大丈夫だユキ子、ヘッドセットのケーブルをこの箱に繋ぐんだ」
「うん、分かった⋯」
その目ざとく見咎めた速見
「そこ?何をこそこそしてる!」
#神家の食卓
「それでね、その司令って言う人がひどいの」
思わず銀の小箱を握りしめながら愚痴をこぼす少女。
「ああ、速見のやつか、私は学部が違ったので噂しか聞かなかったが、帝大時代は実直だが融通が利かないと言うもっぱらの評判だったな。コンビを組んでいた白鳥も相当苦労したんじゃ無いかな」
「もうね、トリガーの立ち上がりが必ず0.2秒遅れてるとか何とか。もう細かいことばっかり!
確かに私は役に立ってないと思うけれど隊員失格とまで言わなくたっていいじゃない」
「ふうむ、毎回0.2秒か⋯」
神博士は家事アンドロイドタエが淹れてくれた食後のコーヒーを飲みながらどこか遠い目をした。
「だがな、あいつが現場に来たってことは少し嫌な予感がするな」
「え? どういうこと、お父様」
「速見と言う男は、肝心な勘所に妙に気がつく男でな、やつが動いてる時には必ず何らかの大事が起きる事が多かったんだ」
銀の箱からその言葉に呼応した声がした
「おそらく博士の予感は正しいです。M3宇宙ステーションに向かって何らかの存在が接近して来ています。軌道を考えると天体では有りません。おそらくステーションの観測網にも、すでに引っかかっているでしょう」
「その存在が最接近するのは何時ごろだと?」
「今の速度なら最短で約16時間後かと思われます」
「え、本当にすぐじゃないの⋯」
3人の間に静寂が訪れた。
#遊星怪獣
防衛軍所属宇宙ステーションは
喧騒に包まれていた。
20時間以上前に観測室のレーダーで捉えられ近距離通過を予測していた物体が、あろうことか「制動」をかけ静止軌道に向かって方向を変えていると言うのだ。
更にその後の観測室からの報告がステーションの混乱に拍車をかけていた。
「何、対象が消えた?」
「2kmずれた場所に再出現?
観測班、寝言もいい加減にしろ」
その会話を聞きつつ司令席にいた速見の表情は優れなかった。
「今の対象の動き、軌道、教練資料に有った13年前の遊星事変⋯」
「まさかKロン」
速見の脳裏に有ったのは、速見や白鳥の伊豆時代の教官でもあった伝説の防衛隊員八代総司令が、自らの身を犠牲にして一時撃退を成し遂げた遊星怪獣の名であった。
「おのれ、来やがったか」
「接敵まで3分」
観測員の淡々とした声が響く。
する怒
対気を含んだ速見の声はステーション中に響き渡るほどだった。
「整備班はスーツを用意しろ、俺が出る
反論は許さん」
「「アイサー、ボス!」」
速見率いるM3部隊の戦いが今始まる。
#超人の決意
F01が係留中のハンガーでは、上空と同様に人々が忙しく動いていた。
M3からの緊急打電を受けF01の軌道投入が決まったのだ。
大気圏用のジェットパックからロケットブースターへの換装を急ピッチで進める神博士の目は、F01の操縦席付近を心配そうに見つめていた。
そのコクピットに収まった少女に超人がインカムで話しかける。
「良いかユキコ、落ち着いて聞いてほしい。昨日の演習で気付いたと思うが、僕の今の状態は本調子とは言えないんだ。
上空にいる敵は瞬時に位置を移動出来る能力を持った遊星怪獣と言われるやつで0.2秒の攻撃遅延は致命的な弱点になりかねない。
今回ユキコは地上に残った方が良いと思う。」
銀の小箱を、そっと右手で撫でながら
「うふふ、マン、貴方バカね、こんなピンチの時に私が行かないと思うんだ
最高の相棒と言ってくれたのは誰だったっけ?」
「ああ、分かったよユキコ。
もう止めない、万一の時は何をしてでも
絶対に君を守る、約束だ。」
「では一緒に宇宙そらに上がろう」
「はい」
#激戦 その1
M3ステーションから発進した速見の乗る戦闘スーツは、神健人博士がF01の生体改造の際に使用した技術を転用した、いわゆる個人が装着できるスーツ型の小型F01であった。
四肢にロケットノズルを装備し軽量の機体は恐ろしいほどの機動性を備えていた。その反面、彼自身が普段主張する操縦者の安全性はほぼ考慮されていない。すなわち強大な敵と相対した場合、殆ど玉砕兵器になる可能性もあるのだった。無論、速見はF0と名付けたそのスーツの性能に絶対の自信を持っていた。
だが、実際に遊星怪獣と対峙しその異質さに背筋が凍る思いを抱いていた。
視認上200mは下らない岩石の様な巨体である遊星怪獣Kロンは、その図体にも関わらず、速見のスーツに何ら劣らない移動速度を有していた。それだけではない。どんな理屈なのか、突然その図体が視界から消え、全く別な方向と距離から現れる。完全に物理法則を無視したような瞬間移動をしてくるのだった。
<確かにこいつはヤバい奴ですな、八代先輩、貴方ほどの人間が少しは手こずるわけだ>
<だがこの速見、貴方の仇を前にして引く気などさらさら有りません>
<もしかすると、少ししたらそちらに怒られに伺う事が有るかもしれませんが。その時はめいいっぱいあのゲンコをくれてやって下さい>
<さあ来い遊星怪獣奴、俺を、人類を舐めたら痛い目に遭うぞ!>
速見が纏う白いスーツF0は、手足のブースターを途轍もない速度で、点火を繰り返し、あり得ない程の機動性で飛来する巨体に突っ込んでいく
<南無さん>
速見の乗るF0が両の手に纏うプラズマ青い燐光で確かに遊星怪獣を捉えたと思われたその瞬間、Kロンは速見の眼前から消え、そしてほぼ「同じ場所」に現れた。即ち、突っ込んでいった速見のほぼ真後ろに。
<馬鹿なこんな0距離で>
次の瞬間速見は経験したことのない激しい衝撃を味わっていた。
<クソ。すみません先輩、貴方の教え子はここまでの様です>
Z合金製の白い機体は大きく歪みながらもまだ何とか原型を保ったまま虚空に浮かんでいる。
薄れていく意識の中、速見の視線はこちらに向かってくる遊星怪獣を受け止めた赤い人型を捉えた気がした。
<バカなやつだ、来やがったのか、神の娘>
少し口元に笑みを浮かべたまま速見は自らの意識を完全に手放した。
#激戦2
「感じたかユキコ、あれが遊星怪獣だ」
「速見司令大丈夫なの」
「ああ、どうやら生命反応は衰えていない、呆れるくらい頑丈な機体だ。
僕らは彼の事より、まずあいつを何とかしよう」
「はい」
「速見の戦いをここに着くまで観察していたが、奴さんの瞬間移動にはどうも法則性がある様だ」
「演習の時と同じ様に、シンクロしようユキコ」
「ヘッドセットのケーブルを博士の箱に繋いで。パターンが分かってしまえば、0.2秒の遅れ何とかしてみせる。行くぞ相棒」
「了解よマン」
赤い残像が、岩塊からわずかに左方にずれた位置に疾走する
右手に閃くは青き輝き。
「喰らえぇ!」
#エピローグ
「馬っ鹿野郎、お前また来やがったか」
病院のベッドの上には全身をぐるぐるに包帯で巻かれ、にも関わらず全く口の減らない男が身体を横たえていた。
検温を済ませた訳知り顔の若い看護師が、口の端に笑みを浮かべ何事も無かった様にさっと部屋から出ていく。ベッドの上のネームプレートには、当然「速見順造」と書かれていた。
「お父様からリンゴ。速見司令の好物だって」
蚊の鳴くような声で少女がやっと言葉を発すると。
「んん、なんだ、ここでは私人だ速見で良い」
少し緊張が解れてきたのか少女が言葉を繋ぐ
「速見さん、でも本当に良かった⋯」
「ああ、こちとら丈夫だけが取り柄なもんでな、ああ
それ遠慮なく頂いておくわ」
「で、1個だけ剥いてくれ、出来るか?」
少女の胸ポケットから、いつもの声が響く。
「ユキコ、右斜め前方30cmにフルーツナイフが有る。刃先は丸めてあるが注意して皮を剥離してあげなさい」
「そこは剥いてあげてよ、バカね」
器用にリンゴの皮を剥くと少女は一切れをおっかなびっくりベッド上の声の主の方に差し出す。
「おっと、もうちょい右」
しゃりしゃりとよい音がして、その一片を味わっているのが伝わって来る。
「うわ、これ酸っぱいなあ。お前の親父さんも寄越すならせめて蜜入りにしろと伝えておいてくれ」
「はい、おいしかった様だと確かに伝えます」
「そ、それで、なんだ」
「あ、有難うな、神」
少女の胸ポケットからまた声がする。
「あ、照れてますね、速見」
「箱のやつうるせえから、黙れ」
うららかな午後の日が差し込む病室の2人と一箱は、いつしか皆笑顔になっていた。
FIN
速見司令いい男でしょ?
まあ昭和の匂いをまとった親父の好き嫌いになるかなw
次話は主人公たちとは距離をおいたジュブナイルに
なります
「怪獣と少年 夏」お気に召しましたら幸いです。




