53.
大魔導師「なぜここへ戻ってきた」
魔法使い「……勇者が行きたいと言ったから。それ以外の理由なんて無い」
大魔導師「――二度と足を踏み入れるなと言ったはずだが」
魔法使い「なら、呪詛でも何でもアタシに掛ければ良かったでしょ」
大魔導師「たわけた事を。人を呪わば穴二つだ」
魔法使い「……相変わらずの腰抜けね」
大魔導師「其方が消えてから、この魔法国家は荒れに荒れた」
大魔導師「当然だ。魔法の主――『賢者』の後釜が失踪したとあればな」
魔法使い「……。」
大魔導師「先代が崩御されてから、かの地位は依然空白だ。其方のせいでな」
魔法使い「でも、魔力の流れは乱れてないじゃない」
大魔導師「高官たちの尽力だ。都市の運営を犠牲にした、な」
魔法使い「……。」
大魔導師「国営の魔法学校も、質が随分と悪くなった」
大魔導師「其方が築いた新理論体系も、すぐに潰れた」
大魔導師「日常を守るので、民は精一杯なのだ」
大魔導師「国営の孤児院の話もしよう。其方も当然、思い入れが深かろう」
大魔導師「――数か月前に解体された。資金不足でな」
魔法使い「……。アタシに戻ってこいって言うわけ?」
大魔導師「儂は、事実を伝えているだけだ」
魔法使い「煮え切らないわね。優柔不断な年寄りは嫌いよ」
大魔導師「……勇者と旅をしているのだったな」
魔法使い「っ、何が言いたいの」
大魔導師「そう警戒するな。魔王を倒して世界を救う、殊勝な心掛けだ」
大魔導師「――だがしかし、足元が疎かではないか?」
大魔導師「民を見よ。徐々に軋む日常に、発狂を水面下で堪えておる」
大魔導師「大地を見よ。その数多の罅割れが、自然の嘆きである」
大魔導師「見上げて見よ。今夜も、月は紅く染まるだろう」
大魔導師「『賢者』さえ居れば。これが、魔法国家の切なる願いだ」
大魔導師「さあ、答えてみろ――」
大魔導師「目の前の平穏よりも、未来の平和を選ぶと言うのか」
魔法使い「……。」
魔法使い「『賢者』の条件は、類まれなる才覚を有すること」
魔法使い「多属性魔法に精通すること。流れを知覚できること。他、数十」
魔法使い「尋常ならざる力の為――一部の条件は『聖女』と重なっている」
大魔導師「――其方、まさか」
魔法使い「それ、アタシが『賢者』だから起こる問題でしょ」
大魔導師「やめろ。未来を棒に振るつもりか!」
魔法使い「心配しないでクソジジイ。……当てはあるから」
魔法使い「禁止だけは声高に叫ぶ癖、やめなさいよね」
死まで、あと48日




