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それでも、この未来を。  作者: 風見鶏
第2章 友達の定義
8/33

【2-3】『それでも、笑わなきゃ。』

【本作はpixiv・小説家になろう 同時連載作品です】

すみません、誤って削除してしまったので本日更新分再掲載です。


ご覧いただき、ありがとうございます!

この作品は、オリジナルのダークファンタジー小説です。全7章構成の連載形式で投稿します。


こちらの物語は、pixivにも同時掲載しております。

https://www.pixiv.net/novel/series/14203170

(※創作活動としての併載です。転載目的ではありません。)


第2章 友達の定義③『それでも、笑わなきゃ」

お楽しみください。


ーーーーーーーーーーーーーーーーー


※この作品の無断転載・複製・AI学習への使用を禁止します。Repost is prohibited.

scene3 「それでも、笑わなきゃ」



セミの声も途切れた夜の公園。

街灯の下、優真はひとり、ベンチに座っていた。


頬をなでる風は少しだけ湿っていて、生ぬるい。

手には飲みかけのペットボトル。何を見ているわけでもない視線が宙をさまよう。


──澪は、律が好き。


当たり前みたいな現実が、やけに重たく胸に残っていた。


(なんで……あんなに動揺してんだろ)


好きだなんて、思ってなかった。

思わないようにしてたのかもしれない。


でも、あの瞬間──

ほんの少しでも「もしかして」って期待した自分が、誰よりも恥ずかしかった。


……気づかれないようにしてきた気持ちを、自分自身が一番ちゃんと見ていなかった。

そのことが今さら、じわじわと痛い。


ぼんやりと、胸の奥がしみるような感覚に沈んでいた、ちょうどそのとき──


ばさっ、ぱらぱらっ……


突然、優真の頭上に何かが降ってきた。

乾いた葉っぱと、個包装のお菓子がバラバラと落ちてくる。


「っばぁ〜〜〜〜っ!!」


どこからともなく飛び出してきた紫苑が、両手を広げて満面の笑みで立っていた。

明らかに“驚かせるぞ”という気満々の声。


彼女の手には空のレジ袋、足元には踏み荒らした草の跡。


「……」


──しかし、優真は無反応だった。


肩をすくめるでもなく、立ち上がるでもなく、ただ静かにベンチに座ったまま、宙を見つめている。


紫苑はきょとんとした顔をしたあと、にぱっと笑って優真に近づいた。


「どう!?今度はどう!?びっくりしたでしょ!?ほら、びっくりすると不幸って思う人もいるってテレビで……」


期待に満ちた声で話しかけながら、優真の前に回り込む。


けれど──


優真は一瞬だけ紫苑を見て、すぐに視線をそらした。

その表情は、まるで心ここにあらず。どこか遠くを見ているようだった。


「……あれ?優真?」


紫苑の笑顔が、徐々に不安げなものに変わっていく。

声をかけても、返ってくるのは気の抜けたひとことだけだった。


「ん……」


まるで中身のない返事。


──なんか、変だ。


紫苑はそれ以上はさわがずに、そっと優真の隣に腰を下ろす。

わざとらしくぴたっとくっつくこともせず、少しだけ間を空けて。



風に揺れる木々のざわめきと、遠くで犬が吠える音。


いつものようにふざけていいのかどうか、判断がつかなくて──ただ、黙ってそこにいることを選んだ。




しばらく沈黙が続いたあとだった。


ーーー俯いていた優真が、ふいに顔を上げた。


そのまま、どこか焦点の合っていない目で、ぽつりとつぶやく。


「……そうだ。魔紋」


「……へ?」


「そういえばさ、出てたんだ、僕にも。魔紋」


「……え?」


なんで急に、その話ーーー


「こないだ、見せてって言ってたよね」

「そういや見せてなかったなーと思って。見る?いいよ、今」


優真はそう言いながら、なんのためらいもなくシャツの前ボタンに手をかけ、ひとつ、ふたつとボタンをはずしていく。


屋外で、人目もあるというのに──その行動にためらう様子は微塵もなかった。


「……っえ!? ちょ、ちょっと優真!?」


紫苑が慌てて身を乗り出し、シャツを抑える。


「なにしてんの!? やめ、ほんとやめて!外だよここ!?」


「だって、紫苑が確認しなきゃとか言ったんじゃん」

「屋上だって外だし。あんなに見たがってたのに。なに、今さら」


ぐいと、脱ごうとする優真。

焦る紫苑。まるで押し問答のように。


「優真っ!!」


紫苑の声がわずかに震える。

なんとかこの状況を止めたくて、咄嗟に口から出たのは──


「あ、あのさ!」


「そんなことよりさ、律と澪! また一緒にいたけど──あんた、喧嘩でもしたの!?」




ーーー優真の手が、止まった。


紫苑は、安堵と緊張の混じった呼吸を整える。


なんとか空気を変えようと、わざとらしく明るい声で続けた。


「てかさ、なんかあの2人最近仲良いよねー。もしかして律って、澪のこと──」



「……うるさいっ!!!」


怒鳴った瞬間、優真の手が紫苑の手を振り払い


バランスを崩してよろめいた紫苑はそのまま、地面にへたり込む。


振り払った衝撃で、優真のそばに置いてあった鞄がベンチから滑り落ちた。

中身がバサバサと派手に飛び出す。


プリントの束。

数式や図表、走り書きのメモ。

澪の課題を手伝っていたときに書き込んだ、下書きのような紙。

そして、誰かに「見せて」って言われた時のために、いつも持ち歩いている全教科分のノートたち。


几帳面に整えられていたそれらが、夜風に吹かれてバラける。



── 紫苑は驚いたように息を呑んだ。


「……っ」


優真は、はっとして、


目の前の紫苑を見た。


「…あ……」

「……ごめん」


震えるような、小さな声だった。



紫苑は、黙って見つめていた。


優真は俯き、苦しそうにつぶやいた。


「…僕、なんで……」


「違うんだ……ごめん、怒鳴ったりとか


そんなことするつもり、なくて……」


さっきまでの自分を隠してしまいたいかのように、

優真は、胸元ではだけかけたシャツを、必死でぎゅっと握りしめた。


「ぐちゃぐちゃで…僕、もうなんか、なにしてるのか、わからなくなっちゃって……」


紫苑は、何も言わずに優真をみつめる。


そして、、散らばったノートやプリントに目をやると、ひとつひとつ拾い集めた。

まとめた紙を丁寧に揃え、端の折れたところをそっとなでて、すべてを大事そうにカバンへ戻していく。


「……律にさ……律に、頼まれたんだ。

“澪との仲、取り持ってくれ”って」


優真は、自分に言い聞かせるように呟く。


「……僕は、それでいいって……ほんとに、そう思ってたんだ。思ってたのに……っ」


息が詰まる。

苦しい感情が、胸の奥からじわじわとこぼれ始めていた。



「……最低なんだ」


そしてまた、ぽつりと、落ちる声。


「澪が、澪が好きな人いるって話し始めた瞬間、心のどっかで……“僕かも”って……思ってた」


「ほんの少し、そうだったらいいなって……」


「律に頼まれたことだって、ちゃんとできなくて……勝手に、期待して、勝手に……」



息を吸うのもつらそうに、言葉を絞り出す。


「……何考えてるんだろ、僕……っ」

「こんなのおかしい……気持ち悪いよ、こんなやつ……」


優真の肩が、かすかに震えていた。


その背中から、押し殺すような感情が伝わってくる。



今にも押しつぶされてしまいそうな優真を前にして、プリントを拾う手が、一瞬止まる。


──そして、、ふと気づいた。




あ……これ。


(『不幸』……だ)





瞬間、魔紋が刻まれた左腰に、チリッとした痛みが走る。



けれど紫苑は、それを無視した。

そんなこと、今はどうでもよかった。


次の瞬間、口が勝手に動いていた。


「……気持ち悪くなんか、ないし」



優真が顔を上げた。紫苑の方を見る。


紫苑自身も、なぜその言葉を口にしたのか、わからなかった。

ただ、どうしようもなく胸の奥がざわついて──気づいたら言っていた。


優真は、驚いたまま黙っている。


紫苑は、優真を見つめ

そして、たどたどしく言った。


「……なきそう」


図星を突かれたように、優真はふいに視線を逸らした。

少し間を置いて、小さく答える。


「……泣きそうじゃないよ」




「くるしそう」


「……くるしくないよ」


紫苑は、ほんのすこし目を伏せて、ぽつりと続けた。



「澪とか、律は──」


優真の肩が、わずかに跳ねた。


「……笑ったり、泣いたり、怒ったりしてるよ」



「え……?」



「優真は…

……笑うばっかり」


紫苑は、落ち着いた手つきで、すっかり詰め直したカバンを抱え、そっと優真の膝に乗せた。

まるで、それが何かの代わりであるかのように。



「ほら。泣きそう。」




優真は、なにも言い返せなかった。


でもその言葉が、

“泣いていいんだよ”って言ってくれた気がして。


「……うん」


「……ちょっとだけ」


そうつぶやいて、カバンを胸に抱き寄せると、優真はそのまま顔を埋めるようにして突っ伏した。


紫苑は黙って、すぐ隣にそっと座る。

さっきより、ほんの少しだけ、優真の近くに。


魔紋の痛みは、いつの間にか消えていた。






──カァ…カァ……。


低くかすれたカラスの鳴き声が、夜の静けさをかすかに揺らす。


二人の姿を、少し離れた茂みの陰からじっと見ている者がいた。


赤く鋭い眼。

影に溶けるような黒い衣に、口元には冷たい笑み。


「……見てらんねぇなぁ。タラタラやってんじゃねぇよ」


声は風に溶け、誰の耳にも届かない。


その男は、ただ一言だけそう呟くと、闇の中へと姿を消した。


最後までお読みいただき、ありがとうございました!


《次回以降投稿予定》

08.01(金)【2-4】『火花』/《第2章:審判記録》


08.02(土)【3-1】『ボール、顔面キャッチ事件』


物語はいよいよ第3章にむけて進んでいきます!


※お知らせ※

第3章以降、最新話の更新は1〜2日に1回のペースになります。

また、更新の時間帯については、日付が変わった直後〜お昼ごろまでの間に投稿することが多くなる予定です。


少しお待たせしてしまうこともあるかもしれませんが、継続して更新して行きますので、楽しみにお待ちいただけると幸いです。


ブックマークや感想をいただけると励みになります!


よろしくお願いいたします。


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