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それでも、この未来を。  作者: 風見鶏
第2章 友達の定義
6/26

【2-1】『嫌われなくて、よかった。』

【本作はpixiv・小説家になろう 同時連載作品です】


ご覧いただき、ありがとうございます!

この作品は、オリジナルのダークファンタジー小説です。全7章構成の連載形式で投稿します。


こちらの物語は、pixivにも同時掲載しております。

https://www.pixiv.net/novel/series/14203170

(※創作活動としての併載です。転載目的ではありません。)


《この投稿の掲載内容》

ー第2章 友達の定義①ー

scene1 『嫌われなくて、よかった。』


《次回投稿予定》2025.07.30(水)

ー第2章 友達の定義②ー

scene2『変わり始めた距離』


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


※この作品の無断転載・複製・AI学習への使用を禁止します。Repost is prohibited.


scene1『嫌われなくて、よかった。』



「優真ー!おねがいノート貸して!(泣)」


「あは、いいよ」


澪がほとんどいつも通りになったのを感じ、優真は正直ホッとしていた。

今までと同じように、笑ってくれる。それだけで十分だった。


(……よかった、気まずい状態がちょっと落ち着いて)


安心感とともに、ふと頭をよぎったのは──


(……嫌われなくてよかった)



自分でも思いがけなかったその言葉に、ほんの少しだけ違和感を覚える。

でもそれが何なのかまでは、まだわからない。


(まぁ、いっか。澪が笑っててくれるなら)


そんなことを考えながら、頼まれた掃除当番代理を粛々とこなす優真であった。





「優真のやつ、また掃除当番変わってやったぽい」


「はぁもう、本当、あの性格は一生なおらないのかも」


夕暮れの道を、2人並んで歩く。

いつのまにか、足音がそろっていた。


「ねえ、律くん」


「ん?」


「こないだ、優真に対して怒ってる?って聞いてきたときの、話なんだけど…」


澪が、おもむろに口を開く。


「ちょっと前なんだけどさ……屋上で、紫苑…と優真が、ふたりでいるとこ、見ちゃったの」



律の歩みが、わずかに緩んだ。



「……あの時、私、優真が引きずっていかれるの見かけて…また何か巻き込まれてるのかって心配になって、あと追いかけて…屋上まで行ったの。」


視線を前に向けたまま、澪はぽつりぽつりと話し始めた。


「で…屋上、扉開けたら…」


「その、紫苑が……優真に馬乗りになってて。」


「しかも、なんか…無理やり服脱がせようとしてるみたいに見えちゃって……」



「……え?」


律は、澪の顔を見た。


「びっくりした。何してるの!?って感じで、見ちゃいけないもん見たって思って、すぐ引き返したけど……なんか、頭の中ぐるぐるして、しばらく優真と顔合わせづらくなっちゃって」



この話は、初めて聞いた。


「そっか……そんなことあったんだ」


そういえば――あの時、澪はずっとむすっとしていて、でも理由は聞けなかった。


変顔で笑わせたけど、本当は何に悩んでいたのか、その時の律にはわからなかった。



澪は続ける。


「今はもう、普通に話せてるつもりだけど……でも、紫苑と優真が一緒にいると、なんか、ちょっともやっとして。なんでかわかんないんだけどね」


律は、しばらく黙っていた。

澪の横顔を見つめたまま、何も言えずに。


胸のどこかで、引っかかるような何かが芽を出していたけれど、それをうまく言葉にすることはできなかった。



けれど次の瞬間、律はふいに笑って、パッと声を張った。


「なるほどなるほど。では澪ちゃんは、二人のその……アレな現場を“目撃”してしまったわけですね?」


わざとらしく人差し指を立てて、推理ドラマの名探偵のように眉をひそめてみせる。

おどけた仕草に、澪は一瞬ぽかんとしたあと、真っ赤な顔で抗議した。


「は!? ちょ、そんな言い方しないでよ!」


その反応がまた可笑しくて、律は肩を揺らして笑った。


「はは、ごめんごめん。冗談だってば」


澪は、拗ねたように口をぶーっと尖らせる。


「まぁ、あの紫苑ちゃんだからなぁ。ちょっと変わってるとこあるっぽいし、もしかしたらただの悪ノリだったんじゃね?」


「……うん、そうなのかな」


「優真も、ああ見えて真面目っていうか……なんとか平和に済ませようとしたのかもしれないし」



「……そっか」


澪は、少しだけ肩を落とすようにして答えた。




律はほんの一瞬だけ、迷って、でもやっぱりいつもの調子に切り替える。


「まぁ、仮にそれが澪ちゃん相手だったとしたら――俺なら秒で脱ぐけどね?」


ビシッと決めポーズ。自信満々に胸を張る。


「アホかっ!! んなこと頼まないし!!////」


顔を真っ赤にして拳をふるう澪。

でもその頬には、かすかに笑みが浮かんでいて――

気づけばまた、いつものように笑い合っていた。



「……なんか、ごめんね。変な話。ぐだぐだ言っちゃって」


ふと、澪が視線を落としてつぶやいた。


律は首を横に振る。


「いや? 全然。むしろ、二人で帰れてラッキーまである〜」


「うわ、もうっ!」


照れ隠しのように笑いながら、でもその言葉がどこか嬉しかった。




そんな、いつもと変わらない、笑いの絶えない帰り道。

けれどその日、律の胸の奥には、ほんのわずかなざわつきが残っていた。


バイバイ、と手を振った、いつも通りの分かれ道。

いつも通りの、笑顔のままの別れだったはずなのに――


澪の姿が、坂の向こうに小さく消えていくのを見送りながら、律は立ち尽くしていた。


さっきまで、あんなに楽しく話していたのに。

ふたりで笑っていたのに。

なのに今、胸のあたりが――すうっと冷えている。




(……そっか)


優真と澪は、幼なじみだ。


長い時間を一緒に過ごしてきた、特別な関係。

自分の知らない思い出が、きっとたくさんある。

互いのことを深く理解していて、自然に支え合って、困っているときにはそばにいて――


そんな2人を思い浮かべたとき…

胸の奥に、何かがひっかかった。


(やっぱり、そういうことなんかな)


澪の困惑も、優真の気遣いも、

その意味が、ようやくつながったような気がした。



(やべえ……)


自分だけが、何も知らなかった。

そんな状況で、優真にあんなこと頼んでたんだ――

「澪ちゃんと、仲良くなりたいっ!!」なんて。


(……優真、あのときは笑ってた、、。けど、優真自身だって、澪とまた話せるようになって嬉しそうだった)



(これ……どーしよ)


ぼりぼりと頭をかきながら、ひとり言のように呟いた。

こんな真面目な空気、超苦手だ。



(……もしかして俺、邪魔だったりする?)


いやいや、そんなことは――

でも、そう思ったら、急に足が重たくなった。




坂の上の空はまだ青く、街灯もつかない夕方の空気の中で、

律はひとり、ぽつりと呟いた。



「……優真が好きなんかな、澪ちゃん」



でもその声すら、風にかき消されたように思えた。


なんとなく。

それ以来、律は澪と話すときに少しだけ視線を逸らすようになった。

気づけば、澪のいない時間帯を狙って、下校するようになった。


また、ひょいっと。

核心から逃げるように。


――そんな自分に、気づかないふりをしながら。



最後までお読みいただき、ありがとうございました!


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よろしくお願いいたします。

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