【2-1】『嫌われなくて、よかった。』
【本作はpixiv・小説家になろう 同時連載作品です】
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この作品は、オリジナルのダークファンタジー小説です。全7章構成の連載形式で投稿します。
こちらの物語は、pixivにも同時掲載しております。
https://www.pixiv.net/novel/series/14203170
(※創作活動としての併載です。転載目的ではありません。)
《この投稿の掲載内容》
ー第2章 友達の定義①ー
scene1 『嫌われなくて、よかった。』
《次回投稿予定》2025.07.30(水)
ー第2章 友達の定義②ー
scene2『変わり始めた距離』
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scene1『嫌われなくて、よかった。』
「優真ー!おねがいノート貸して!(泣)」
「あは、いいよ」
澪がほとんどいつも通りになったのを感じ、優真は正直ホッとしていた。
今までと同じように、笑ってくれる。それだけで十分だった。
(……よかった、気まずい状態がちょっと落ち着いて)
安心感とともに、ふと頭をよぎったのは──
(……嫌われなくてよかった)
自分でも思いがけなかったその言葉に、ほんの少しだけ違和感を覚える。
でもそれが何なのかまでは、まだわからない。
(まぁ、いっか。澪が笑っててくれるなら)
そんなことを考えながら、頼まれた掃除当番代理を粛々とこなす優真であった。
*
「優真のやつ、また掃除当番変わってやったぽい」
「はぁもう、本当、あの性格は一生なおらないのかも」
夕暮れの道を、2人並んで歩く。
いつのまにか、足音がそろっていた。
「ねえ、律くん」
「ん?」
「こないだ、優真に対して怒ってる?って聞いてきたときの、話なんだけど…」
澪が、おもむろに口を開く。
「ちょっと前なんだけどさ……屋上で、紫苑…と優真が、ふたりでいるとこ、見ちゃったの」
律の歩みが、わずかに緩んだ。
「……あの時、私、優真が引きずっていかれるの見かけて…また何か巻き込まれてるのかって心配になって、あと追いかけて…屋上まで行ったの。」
視線を前に向けたまま、澪はぽつりぽつりと話し始めた。
「で…屋上、扉開けたら…」
「その、紫苑が……優真に馬乗りになってて。」
「しかも、なんか…無理やり服脱がせようとしてるみたいに見えちゃって……」
「……え?」
律は、澪の顔を見た。
「びっくりした。何してるの!?って感じで、見ちゃいけないもん見たって思って、すぐ引き返したけど……なんか、頭の中ぐるぐるして、しばらく優真と顔合わせづらくなっちゃって」
この話は、初めて聞いた。
「そっか……そんなことあったんだ」
そういえば――あの時、澪はずっとむすっとしていて、でも理由は聞けなかった。
変顔で笑わせたけど、本当は何に悩んでいたのか、その時の律にはわからなかった。
澪は続ける。
「今はもう、普通に話せてるつもりだけど……でも、紫苑と優真が一緒にいると、なんか、ちょっともやっとして。なんでかわかんないんだけどね」
律は、しばらく黙っていた。
澪の横顔を見つめたまま、何も言えずに。
胸のどこかで、引っかかるような何かが芽を出していたけれど、それをうまく言葉にすることはできなかった。
けれど次の瞬間、律はふいに笑って、パッと声を張った。
「なるほどなるほど。では澪ちゃんは、二人のその……アレな現場を“目撃”してしまったわけですね?」
わざとらしく人差し指を立てて、推理ドラマの名探偵のように眉をひそめてみせる。
おどけた仕草に、澪は一瞬ぽかんとしたあと、真っ赤な顔で抗議した。
「は!? ちょ、そんな言い方しないでよ!」
その反応がまた可笑しくて、律は肩を揺らして笑った。
「はは、ごめんごめん。冗談だってば」
澪は、拗ねたように口をぶーっと尖らせる。
「まぁ、あの紫苑ちゃんだからなぁ。ちょっと変わってるとこあるっぽいし、もしかしたらただの悪ノリだったんじゃね?」
「……うん、そうなのかな」
「優真も、ああ見えて真面目っていうか……なんとか平和に済ませようとしたのかもしれないし」
「……そっか」
澪は、少しだけ肩を落とすようにして答えた。
律はほんの一瞬だけ、迷って、でもやっぱりいつもの調子に切り替える。
「まぁ、仮にそれが澪ちゃん相手だったとしたら――俺なら秒で脱ぐけどね?」
ビシッと決めポーズ。自信満々に胸を張る。
「アホかっ!! んなこと頼まないし!!////」
顔を真っ赤にして拳をふるう澪。
でもその頬には、かすかに笑みが浮かんでいて――
気づけばまた、いつものように笑い合っていた。
「……なんか、ごめんね。変な話。ぐだぐだ言っちゃって」
ふと、澪が視線を落としてつぶやいた。
律は首を横に振る。
「いや? 全然。むしろ、二人で帰れてラッキーまである〜」
「うわ、もうっ!」
照れ隠しのように笑いながら、でもその言葉がどこか嬉しかった。
そんな、いつもと変わらない、笑いの絶えない帰り道。
けれどその日、律の胸の奥には、ほんのわずかなざわつきが残っていた。
バイバイ、と手を振った、いつも通りの分かれ道。
いつも通りの、笑顔のままの別れだったはずなのに――
澪の姿が、坂の向こうに小さく消えていくのを見送りながら、律は立ち尽くしていた。
さっきまで、あんなに楽しく話していたのに。
ふたりで笑っていたのに。
なのに今、胸のあたりが――すうっと冷えている。
(……そっか)
優真と澪は、幼なじみだ。
長い時間を一緒に過ごしてきた、特別な関係。
自分の知らない思い出が、きっとたくさんある。
互いのことを深く理解していて、自然に支え合って、困っているときにはそばにいて――
そんな2人を思い浮かべたとき…
胸の奥に、何かがひっかかった。
(やっぱり、そういうことなんかな)
澪の困惑も、優真の気遣いも、
その意味が、ようやくつながったような気がした。
(やべえ……)
自分だけが、何も知らなかった。
そんな状況で、優真にあんなこと頼んでたんだ――
「澪ちゃんと、仲良くなりたいっ!!」なんて。
(……優真、あのときは笑ってた、、。けど、優真自身だって、澪とまた話せるようになって嬉しそうだった)
(これ……どーしよ)
ぼりぼりと頭をかきながら、ひとり言のように呟いた。
こんな真面目な空気、超苦手だ。
(……もしかして俺、邪魔だったりする?)
いやいや、そんなことは――
でも、そう思ったら、急に足が重たくなった。
坂の上の空はまだ青く、街灯もつかない夕方の空気の中で、
律はひとり、ぽつりと呟いた。
「……優真が好きなんかな、澪ちゃん」
でもその声すら、風にかき消されたように思えた。
なんとなく。
それ以来、律は澪と話すときに少しだけ視線を逸らすようになった。
気づけば、澪のいない時間帯を狙って、下校するようになった。
また、ひょいっと。
核心から逃げるように。
――そんな自分に、気づかないふりをしながら。
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