【1-3】『いつもの笑顔で』
【本作はpixiv・小説家になろう 同時連載作品です】
ご覧いただき、ありがとうございます!
この作品は、オリジナルのダークファンタジー小説です。全7章構成の連載形式で投稿します。
こちらの物語は、pixivにも同時掲載しております。
https://www.pixiv.net/novel/series/14203170
(※創作活動としての併載です。転載目的ではありません。)
※第1章分まではすでにpixivにて先行公開済みのため、まとめて投稿いたします。
第2章以降は、pixivと小説家になろうにて同時更新となる予定です。
《この投稿の掲載内容》
ー第1章 出会いと予兆③ー
scene4『いつもの笑顔で』
《次回投稿予定》
ー第1章 出会いと予兆④ー
scene5『落とし穴とメドゥーサ』
第1章における審判記録
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※この作品の無断転載・複製・AI学習への使用を禁止します。Repost is prohibited.
scene4『いつもの笑顔で』
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翌朝。
制服のシャツに腕を通す前、何気なく鏡を見て、ふと手が止まった。
お腹のあたり――へその少し上あたりに、
うっすらと赤黒い、あざのようなものが見える。
「あれ?……こんなとこ、ぶつけたっけ……?」
寝ぼけてるのかと思って、もう一度しっかり見ようと鏡に近づく。
あざ、とは少し違う。痛みもない。けれど、
(……なにこれ)
よく見ると、うっすらと光が滲むように見える、複雑で不思議な紋様。
どこか見覚えのあるような…
次の瞬間、昨日の“あれ”が頭をよぎった。
屋上で、紫苑が自分の左腰を見せてきたとき。そこにも……こんな、模様が……
しかもその直後、自分は地面に押し倒されて……紫苑が顔を近づけてきて……服を、剥がされそうになって……。
(え……まさか)
これ、もしかして……紫苑が言ってた――
「魔紋」ってやつ……?
ぞくり、と背中を冷たいものが走った。
本人に、確認……したい……けど……
(……また身ぐるみ剥がされそうでむり…
むりむりむり!!!)
心の中で全力否定しながら、慌ててシャツのボタンを留めた。
見なかったことにする。考えない。とりあえず…何もなかったことにする。
とりあえず、学校行こう。
たぶん、きっと、何とかなる……はず……。
*
澪はあの日以来、優真と紫苑に対して明らかに態度を変えていた。
教室移動で見かけた澪は、こちらの姿を確認するなりあからさまに視線を逸らす。
「あ、あの!……澪……?」
昨日の屋上の──
と言いかけた優真の言葉を遮るように
「べつに!怒ってないけど?!」
澪はバッサリと言い捨てる。
そしてーー
「優真被服室どこだか教えてー♫
あ、澪ちゃん…だっけ!?やっほー」
と優真の後ろからひょっこり顔を出した紫苑を睨みつけ、足早にその場をはなれた。
ーーまいったな…律のことも、伝えなきゃなのに…
「??ねー、なんであの子、あたしのこと見るたび睨んでくるの?」
「いや、そりゃあれはその……」
「ん〜〜?ん〜〜〜…ま、いっか!」
優真の困惑もよそに、紫苑は、のんきに笑っていた。
*
⸻放課後。
残された数人の生徒の声が、だんだんと遠のいていく。
教卓の前の席に座った律は、日直日誌を開いたまま、うーんとうなりペンをくるくると回していた。
「……で、今日の朝の連絡事項ってなんだったっけ?」
「えーと、生徒会から文化祭の準備についてってやつ。あと、図書室の利用時間が来週から変更になるって言ってた」
「ふむふむ、そうだったそうだった! えっと、“生徒会より文化祭準備に関する案内あり。放課後──”……ん? なんだっけ」
「“放課後、各クラス委員が生徒会室へ”」
「おお、それそれ!」
律がペンを走らせるのに合わせて、優真は黒板の文字を丁寧にこすっていた。
「あと、A組の担任の先生が風邪でお休みしてて、代わりに教頭先生が来てた」
「おお〜ナイス補足、優真やっぱ頼りになるなあ」
「……いや、もう書いてるの僕じゃないだけで、実質日直やってんの僕だからね?」
「え、そんなことないって〜。俺ちゃんとペン持って書いてるし! ほら、“今日の出来事:A組に教頭先生が来ました。”……完璧!」
「それただの事実じゃん……」
そう言いつつも、優真は再び無言で黒板の上のチョークを拭い、ちらっと律の方を見やった。
──こうして今日も、「手伝い」の名のもとに、日直業務のほとんどを請け負っている優真であった。
そんな時だった。
開け放たれた教室のドア越しに、廊下を歩く人影が視界の端に映る。
それをいち早く察知したのは律だった。
机から顔を上げると、アンテナでも反応したかのようにぴくりと目を細め──
「あっ!! 澪ちゃんやっほ!!」
いつもよりひときわ大きな声が教室に響いた。
その声に、優真もつられて顔を上げる。
廊下の向こう、隣のクラスから出てきた澪が、呼びかけられて小さく足を止めた。
「あ、律くん……と……」
ちらりと視線を滑らせるように、黒板を拭いていた優真の方を見やる。
──その一瞬の視線に、優真の体がビクリと跳ねる。
思わず手元が狂って、黒板消しを床に落としてしまった。
「あ……」
チョークの粉が舞う中、優真はふと、あることを思い出す。
──そういえば、律に頼まれていたんだった。
(『あとほら、澪ちゃんがきたときさ、なんかちょっとこう、さりげなく? 優真だけ用事思い出して、スススーッと……』)
優真は慌ててカバンを引っ掴むと、咄嗟に一言。
「あっ…ああっ!やば、忘れてた! 僕、職員室行くんだったあぁ!」
やたらと不自然な声のトーン。
誰がどう聞いても、明らかに後づけ感満載だったが──
チョークまみれのまま、逃げるように教室を後にした。
残されたのは、ぽかんとした顔の澪と、律だけ。
「……いや、下手くそすぎるだろ」
そう呟きつつも、律の頬には苦笑いが浮かんでいた。
ーーーーーーーーー
*
(……なんなの?)
「あからさまにもほどがあるでしょ……」
思わず声に出そうになって、慌てて唇を噛みしめる。
さっきの優真の行動──
あれは、どう見たって“避けた”としか思えない。
苛立ちと、悲しさと、拗ねにも似た感情が混じって、澪の眉間には自然と皺が寄っていた。
教卓の前の席で、律が日直日誌の最後の一筆を書き終え、肩を回しながら声をかける。
「よし、終了〜っと。……俺も、もうやることないしさ。せっかくだし、一緒に帰る?」
「……え?」
唐突な申し出に、澪は目を瞬かせた。
予想外だった。でも、それ以上に……少し、救われた気がした。
まだ心の中のもやもやは晴れない。
それでも、ここで「一人で帰る」と言う気分でもなかった。
「……うん。いいよ」
ぽつりと返すと、律はどこか安心したように笑った。
「じゃ、行こっか」
教室を出ていく律の背中を見ながら、澪も無言であとに続いた。
*
ーー放課後の通学路。
ゆるやかな夕陽が、遠くビルの影を伸ばしていた。
律と澪は並んで歩いていた。いつもなら優真も一緒の帰り道。二人きりなのは、実は初めてだった。
最初こそ他愛もない会話をしていたものの、ふとした沈黙が訪れる。
その空気を断ち切るように、律がぽつりと口を開いた。
「……澪ちゃん、なんか怒ってる? 優真のこと」
澪はわずかに足を止めかけたが、すぐに歩き続ける。
そして小さく、首を振った。
「……怒ってないよ」
けれどその表情は、素直な笑顔とは少し違っていた。
まっすぐな目がどこか遠くを見つめていて、眉のあたりにはうっすらと陰。
律には、それが“本当の顔”じゃないと、すぐに分かった。
「うそだぁ」
思わずそう口にすると、隣で澪がむっとした顔でこちらを睨んだ。
「……うそじゃないもん!」
口を尖らせて、少しだけ足早になる澪。
それでも律は、焦らず一歩、また一歩と澪の歩幅に合わせて隣に並び直した。
──何があったのか、律には分からない。
「……別に、理由とかいいんだけどさ」
ふいに、律がつぶやく。
「……澪ちゃんが、ちゃんと笑えないの……俺、やだなぁ」
その声は、ふざけた調子でも、冗談めかした響きでもなく。
ただ、ぽろっと本心をこぼしたような、そんな響きだった。
澪はびっくりしたように律を見上げた。
そして次の瞬間──
律が突然、目をむいて変顔を披露した。
「ぶふっ……ちょっ、なにそれ、ずるっ……! 不意打ちじゃん!!」
思わず吹き出し、大笑いする澪。
久しぶりに見せる、そのくしゃっとした笑顔に──律の口元も自然と綻んだ。
「ははっ、ほら。かわいい」
一瞬の、沈黙──
澪の頬が、一気に真っ赤に染まる。
「はっ……え?」
ぽつりと零れた律の言葉があまりに素直すぎて、理解が追いつかない──そんな顔で、澪が律を見上げる。
その表情を見て、ようやく律も自分の発言の破壊力に気づいたらしい。
「へ?…あっ……ち、ちが、ちがっ、今のはその、えっと、その……!!」
バタバタと視線を逸らし、両手で顔を覆う律。
耳の先まで真っ赤になっていた。
その様子が、あまりにも馬鹿正直すぎて、思わず澪は吹き出してしまう。
「……ふふっ」
「な、なんで笑ってるし!」
「だって……」
くすくす笑いながら、澪は一歩、律の正面に回り込む。
「しょうがないなぁ……じゃあ、澪ちゃんの“かわいい顔”、もっとよく拝ませてあげようかな?」
「えっ?」
律が、おずおずと指の隙間から視線を上げた瞬間──
目の前には、澪の全力変顔がどどん!
「ぶはっ!?!?」
盛大に吹き出し、息も絶え絶えに笑い転げる。
「やべえっっ!!かわいくねえぇぇぇ!!」
「え"っ!?まってそこ!!
『おもしろい』とかじゃないの!?!?」
「だって…だってさすがにっ…ぶくく、やべぇ、腹いてぇ…笑」
ぷーっと頬を膨らませていた澪だったが、すぐに堪えきれなくなり、気づけば2人で声を上げ、大笑いしていた。
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