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それでも、この未来を。  作者: 風見鶏
第1章 出会いと予兆
4/23

【1-3】『いつもの笑顔で』

【本作はpixiv・小説家になろう 同時連載作品です】


ご覧いただき、ありがとうございます!

この作品は、オリジナルのダークファンタジー小説です。全7章構成の連載形式で投稿します。


こちらの物語は、pixivにも同時掲載しております。

https://www.pixiv.net/novel/series/14203170

(※創作活動としての併載です。転載目的ではありません。)


※第1章分まではすでにpixivにて先行公開済みのため、まとめて投稿いたします。

第2章以降は、pixivと小説家になろうにて同時更新となる予定です。



《この投稿の掲載内容》

ー第1章 出会いと予兆③ー

scene4『いつもの笑顔で』


《次回投稿予定》

ー第1章 出会いと予兆④ー

scene5『落とし穴とメドゥーサ』

第1章における審判記録


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


※この作品の無断転載・複製・AI学習への使用を禁止します。Repost is prohibited.


scene4『いつもの笑顔で』


――――――――――

翌朝。


制服のシャツに腕を通す前、何気なく鏡を見て、ふと手が止まった。


お腹のあたり――へその少し上あたりに、

うっすらと赤黒い、あざのようなものが見える。


「あれ?……こんなとこ、ぶつけたっけ……?」


寝ぼけてるのかと思って、もう一度しっかり見ようと鏡に近づく。

あざ、とは少し違う。痛みもない。けれど、


(……なにこれ)


よく見ると、うっすらと光が滲むように見える、複雑で不思議な紋様。

どこか見覚えのあるような…


次の瞬間、昨日の“あれ”が頭をよぎった。


屋上で、紫苑が自分の左腰を見せてきたとき。そこにも……こんな、模様が……


しかもその直後、自分は地面に押し倒されて……紫苑が顔を近づけてきて……服を、剥がされそうになって……。


(え……まさか)


これ、もしかして……紫苑が言ってた――


「魔紋」ってやつ……?


ぞくり、と背中を冷たいものが走った。


本人に、確認……したい……けど……


(……また身ぐるみ剥がされそうでむり…

むりむりむり!!!)


心の中で全力否定しながら、慌ててシャツのボタンを留めた。

見なかったことにする。考えない。とりあえず…何もなかったことにする。


とりあえず、学校行こう。

たぶん、きっと、何とかなる……はず……。




澪はあの日以来、優真と紫苑に対して明らかに態度を変えていた。


教室移動で見かけた澪は、こちらの姿を確認するなりあからさまに視線を逸らす。

「あ、あの!……澪……?」



昨日の屋上の──

と言いかけた優真の言葉を遮るように


「べつに!怒ってないけど?!」


澪はバッサリと言い捨てる。


そしてーー


「優真被服室どこだか教えてー♫

あ、澪ちゃん…だっけ!?やっほー」


と優真の後ろからひょっこり顔を出した紫苑を睨みつけ、足早にその場をはなれた。


ーーまいったな…律のことも、伝えなきゃなのに…


「??ねー、なんであの子、あたしのこと見るたび睨んでくるの?」


「いや、そりゃあれはその……」


「ん〜〜?ん〜〜〜…ま、いっか!」


優真の困惑もよそに、紫苑は、のんきに笑っていた。




⸻放課後。

残された数人の生徒の声が、だんだんと遠のいていく。


教卓の前の席に座った律は、日直日誌を開いたまま、うーんとうなりペンをくるくると回していた。


「……で、今日の朝の連絡事項ってなんだったっけ?」


「えーと、生徒会から文化祭の準備についてってやつ。あと、図書室の利用時間が来週から変更になるって言ってた」


「ふむふむ、そうだったそうだった! えっと、“生徒会より文化祭準備に関する案内あり。放課後──”……ん? なんだっけ」


「“放課後、各クラス委員が生徒会室へ”」


「おお、それそれ!」


律がペンを走らせるのに合わせて、優真は黒板の文字を丁寧にこすっていた。


「あと、A組の担任の先生が風邪でお休みしてて、代わりに教頭先生が来てた」


「おお〜ナイス補足、優真やっぱ頼りになるなあ」


「……いや、もう書いてるの僕じゃないだけで、実質日直やってんの僕だからね?」


「え、そんなことないって〜。俺ちゃんとペン持って書いてるし! ほら、“今日の出来事:A組に教頭先生が来ました。”……完璧!」


「それただの事実じゃん……」


そう言いつつも、優真は再び無言で黒板の上のチョークを拭い、ちらっと律の方を見やった。


──こうして今日も、「手伝い」の名のもとに、日直業務のほとんどを請け負っている優真であった。


そんな時だった。

開け放たれた教室のドア越しに、廊下を歩く人影が視界の端に映る。


それをいち早く察知したのは律だった。

机から顔を上げると、アンテナでも反応したかのようにぴくりと目を細め──


「あっ!! 澪ちゃんやっほ!!」


いつもよりひときわ大きな声が教室に響いた。

その声に、優真もつられて顔を上げる。


廊下の向こう、隣のクラスから出てきた澪が、呼びかけられて小さく足を止めた。

「あ、律くん……と……」


ちらりと視線を滑らせるように、黒板を拭いていた優真の方を見やる。


──その一瞬の視線に、優真の体がビクリと跳ねる。

思わず手元が狂って、黒板消しを床に落としてしまった。


「あ……」


チョークの粉が舞う中、優真はふと、あることを思い出す。

──そういえば、律に頼まれていたんだった。


(『あとほら、澪ちゃんがきたときさ、なんかちょっとこう、さりげなく? 優真だけ用事思い出して、スススーッと……』)


優真は慌ててカバンを引っ掴むと、咄嗟に一言。


「あっ…ああっ!やば、忘れてた! 僕、職員室行くんだったあぁ!」


やたらと不自然な声のトーン。

誰がどう聞いても、明らかに後づけ感満載だったが──


チョークまみれのまま、逃げるように教室を後にした。


残されたのは、ぽかんとした顔の澪と、律だけ。


「……いや、下手くそすぎるだろ」


そう呟きつつも、律の頬には苦笑いが浮かんでいた。


ーーーーーーーーー




(……なんなの?)


「あからさまにもほどがあるでしょ……」


思わず声に出そうになって、慌てて唇を噛みしめる。


さっきの優真の行動──

あれは、どう見たって“避けた”としか思えない。


苛立ちと、悲しさと、拗ねにも似た感情が混じって、澪の眉間には自然と皺が寄っていた。


教卓の前の席で、律が日直日誌の最後の一筆を書き終え、肩を回しながら声をかける。


「よし、終了〜っと。……俺も、もうやることないしさ。せっかくだし、一緒に帰る?」


「……え?」


唐突な申し出に、澪は目を瞬かせた。

予想外だった。でも、それ以上に……少し、救われた気がした。


まだ心の中のもやもやは晴れない。

それでも、ここで「一人で帰る」と言う気分でもなかった。


「……うん。いいよ」


ぽつりと返すと、律はどこか安心したように笑った。


「じゃ、行こっか」


教室を出ていく律の背中を見ながら、澪も無言であとに続いた。





ーー放課後の通学路。

ゆるやかな夕陽が、遠くビルの影を伸ばしていた。


律と澪は並んで歩いていた。いつもなら優真も一緒の帰り道。二人きりなのは、実は初めてだった。


最初こそ他愛もない会話をしていたものの、ふとした沈黙が訪れる。


その空気を断ち切るように、律がぽつりと口を開いた。


「……澪ちゃん、なんか怒ってる? 優真のこと」


澪はわずかに足を止めかけたが、すぐに歩き続ける。

そして小さく、首を振った。


「……怒ってないよ」


けれどその表情は、素直な笑顔とは少し違っていた。

まっすぐな目がどこか遠くを見つめていて、眉のあたりにはうっすらと陰。


律には、それが“本当の顔”じゃないと、すぐに分かった。


「うそだぁ」


思わずそう口にすると、隣で澪がむっとした顔でこちらを睨んだ。


「……うそじゃないもん!」


口を尖らせて、少しだけ足早になる澪。

それでも律は、焦らず一歩、また一歩と澪の歩幅に合わせて隣に並び直した。


──何があったのか、律には分からない。


「……別に、理由とかいいんだけどさ」


ふいに、律がつぶやく。


「……澪ちゃんが、ちゃんと笑えないの……俺、やだなぁ」


その声は、ふざけた調子でも、冗談めかした響きでもなく。

ただ、ぽろっと本心をこぼしたような、そんな響きだった。


澪はびっくりしたように律を見上げた。


そして次の瞬間──


律が突然、目をむいて変顔を披露した。


「ぶふっ……ちょっ、なにそれ、ずるっ……! 不意打ちじゃん!!」


思わず吹き出し、大笑いする澪。

久しぶりに見せる、そのくしゃっとした笑顔に──律の口元も自然と綻んだ。


「ははっ、ほら。かわいい」


一瞬の、沈黙──


澪の頬が、一気に真っ赤に染まる。


「はっ……え?」


ぽつりと零れた律の言葉があまりに素直すぎて、理解が追いつかない──そんな顔で、澪が律を見上げる。


その表情を見て、ようやく律も自分の発言の破壊力に気づいたらしい。


「へ?…あっ……ち、ちが、ちがっ、今のはその、えっと、その……!!」


バタバタと視線を逸らし、両手で顔を覆う律。

耳の先まで真っ赤になっていた。


その様子が、あまりにも馬鹿正直すぎて、思わず澪は吹き出してしまう。


「……ふふっ」


「な、なんで笑ってるし!」


「だって……」


くすくす笑いながら、澪は一歩、律の正面に回り込む。


「しょうがないなぁ……じゃあ、澪ちゃんの“かわいい顔”、もっとよく拝ませてあげようかな?」


「えっ?」


律が、おずおずと指の隙間から視線を上げた瞬間──


目の前には、澪の全力変顔がどどん!


「ぶはっ!?!?」


盛大に吹き出し、息も絶え絶えに笑い転げる。


「やべえっっ!!かわいくねえぇぇぇ!!」


「え"っ!?まってそこ!!

『おもしろい』とかじゃないの!?!?」


「だって…だってさすがにっ…ぶくく、やべぇ、腹いてぇ…笑」


ぷーっと頬を膨らませていた澪だったが、すぐに堪えきれなくなり、気づけば2人で声を上げ、大笑いしていた。


最後までお読みいただき、ありがとうございました!


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