【1-1】無題/『幼馴染との再会』
【本作はpixiv・小説家になろう 同時連載作品です】
ご覧いただき、ありがとうございます!
この作品は、オリジナルのダークファンタジー小説です。全7章構成の連載形式で投稿します。
こちらの物語は、pixivにも同時掲載しております。
https://www.pixiv.net/novel/series/14203170
(※創作活動としての併載です。転載目的ではありません。)
※第1章分まではすでにpixivにて先行公開済みのため、まとめて投稿いたします。
第2章以降は、pixivと小説家になろうにて同時更新となる予定です。
《この投稿の掲載内容》
ー第1章 出会いと予兆①ー
scene1 『幼馴染との再会』
《次回投稿予定》
ー第1章 出会いと予兆②ー
scene2 『一目惚れと留学生?』
scene3 『屋上の内緒話』
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※この作品の無断転載・複製・AI学習への使用を禁止します。Repost is prohibited.
無題
scene1『幼馴染との再会』
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「優真ってほんと、頼まれると断れないよなー。いい人すぎっていうかさ!」
まだ6月だとは思えないほどの蒸し暑さに、汗がじわりと滲む昼下がり。
隣を歩く滝沢 律のからかい混じりの声とともに、一ノ瀬 優真はよたよたと昇降口の階段を上がっていた。
両手には教室で待つクラスメイトたちの飲み物や食べ物がパンパンにつまった買い物袋たち、そして口元には、袋に入りきらなかった優真の昼食用の菓子パン。
まるで漫画みたいだ、と、自分でもちょっと思っていた。
「それ、もしかして全部“ついで”に頼まれたの?」
「……うん。あっ…」
返事をしようと口を開き、うっかり落としそうになった菓子パンを、律が片手でキャッチする。
苦笑しながら肩をすくめると、律は呆れを通り越して吹き出した。
「やっっば。購買の精霊かよお前。もはや伝説級」
──思い返せば、確かにひどかった。
購買に行こうとしたら、隣の席の子が「飲み物お願いしていい?」と声をかけてきて。
それをみたクラスメイトが、次から次へと「じゃあ俺も」「あたしも」「ついでにお願い!」――気づいたら、10人分くらい頼まれてた。
「断れよ、さすがに」
「でも、僕の分、買ってくるついでだしさ。」
「いやもう、“ついで”のプロだな(笑)感動するわ」
笑ってくれる律の声に、少し救われた気がした。
だけど――その時だった。
優真が渡り廊下に差し掛かった瞬間、世界の“音”が、ふっと消えた。
周囲を歩く生徒の動きが止まり、ざわめきも風の音も消えて、空気が凍りついたような沈黙に包まれる。
「……え?」
静止した世界の中心に、一人の少女が立っていた。
⸻
まっすぐな銀髪。紅い瞳。制服の上からでも分かるほど、すらりとした細身の体。
少女は笑顔で、こちらへぴょこぴょこと歩み寄ってくる。
そして、立ち止まると、優真の頭のてっぺんから足元までを、じーーーっと観察しはじめた。
手にぶら下がるスーパーの袋、やけに多いレシート、制服のほつれ、ちょっと片方だけ下がってる鞄の紐。
「ふむふむ……なるほどね。うん……」
何がなるほどなのか本人にしかわからないが、少女はなぜか得意げにうなずいた。
「たぶん、頼まれごとを断れない性格で、あと……お菓子とか分けてくれそうなタイプで……うーん、人生……なんかずっと、ちょっとだけ負けてる感じ?」
唖然としてると、少女は小さく鼻を鳴らして、勝手に結論づける。
「要するに、ちょうどいいってこと!」
にや〜っと笑って、ずずいっと距離を詰めてきて……
「ねえ、あなたの持ってるもの、なにかちょーだい♫」
いきなりすぎる言葉に、さすがの優真も思わず数歩後ずさる。
「……ぇ…てか、…誰?」
「あたし? んー、悪魔?」
少女はにこりと笑って、自分の頭の上に人差し指を立てて角の真似をした。
「今ね、試験中なの。人間と契約して、不幸にできたら合格ってやつ」
「……不幸に……?」
「そうそう、“証”が欲しいの。なんでもいいんだけど、もらえたら試験クリア!あー…じゃなくて、第一関門、突破!」
そう言いながら、彼女は俺の顔をじーっと見つめる。
「……っていうかさー、あたしもうこっち来て結構経っちゃってて、そろそろ選ばないとマジでヤバいの! ほんとにヤバいの!! 何がって……うーん……いろいろ!!」
説明になってない説明をしたあと、ドヤ顔で胸を張る。
「契約結ばないと試験落ちちゃうの! 落ちたら、もう終わりなの!! あれもこれも、それにあれとかも、もう全部ダメ!!」
何を指してるのか全然わからないけど、必死すぎて逆に笑えてくる。
「……ってことで、ちょーだい? あんたの“証”!」
そして、やっぱり唐突すぎて――。
「え、うん……あげれば助かるなら、別に、それはいいけど……」
戸惑いながらも、優真はそう答えた。
しかし、いったい、何を渡せばいいのか。そう思って立ち尽くしていると、少女の視線がふと、優真のズボンへ向けられた。
制服のポケットから、少しだけはみ出していたスマートフォン。その端に、小さなストラップがついていた。
「それ……かわいいね」
小さくつぶやいたその声に、優真は思わず視線を落とす。
「え?」
「ねえ、それ。ちょうだい」
少女はキラキラとした目で見上げながら、まるでおねだりする子どものように、指を差した。
優真は一瞬だけ戸惑い、そして、荷物をいったん足元に置くと、スマホからストラップを外して、そっと彼女の手のひらに置いた。
「うん。君が気に入ってるなら、どうぞ」
「えっやっさし!! なにそれ……なにそれ優しいって!!」
目を見開いた少女は、目をきらきらさせてストラップを受け取ると、胸に抱えてぴょんぴょん飛び跳ねた。
優真が手渡したストラップは、昔誰かからもらったものを真似て作った自作の品で、透き通るとんぼ玉と、小さな鈴がついていた。
涙のように丸いガラス玉の中には、淡くゆらめく緑色の光。
キラキラと輝く小さな金色の鈴は、揺れるたびに、ちりんっと優しい音が鳴る。
「わーい!やった!契約成立〜!!
これからしばらくよろしくね!」
少女は、それを世界一の宝物みたいに抱きしめ、
「あ!そうだ!」
「時間、動かさないとね!」
少女がパチン、と手を叩くと
今まで止まっていた、周囲の時間が動き出した。
「おーい、優真?どーした?」
律の声が聞こえたときには、あの銀髪の少女の姿はもうどこにもなかった。
――――――――――
Scene1『幼馴染との再会』
教室に戻り、優真は頼まれていた飲み物やパンを配っていた。律が後ろから覗き込むように言う。
「ほんとさあ、配給みたいになってるぞ、優真。どんだけ奉仕精神旺盛なのよ」
「えへへ、いいんだよ。みんな忙しそうだったし」
そんな他愛ない会話をしていたときだった。
「あっ!やっぱこのクラスだった!へへへ〜♪」
明るい声とともに、教室のドアが開いて、元気な雰囲気をまとった女の子がひょいっと顔をのぞかせた。
「久しぶりだね、優真!」
彼女は、藤崎 澪。
優真の小学校時代の幼馴染。中学で別の学校に進学してからは、しばらく会っていなかった。
澪は、ぽかんと口を開けたままの優真に近づいてきて、にこっと笑う。
「えっ……本当に、澪? いつからこの学校に?」
「この春から。高等部に編入ってやつだよー。いやー優真がいるって私も知らなかったんだけどさ。さっき購買の精霊がでたって友達が騒いでて、面白そうだったから見に行ったの!
そしたら、なんと優真だったの!!びっくりした!」
うまく言葉を返せずにいると、澪は、優真の隣で固まっていた律に気づいた。
「……あ、もしかしてそっちの人、優真の友達?」
「あっ、うん!律っていうんだ。滝沢律。中等部からの付き合いで──」
「へえ!優真のお友達なんだ。えっと……律くん?よろしくね♪」
そう言って、とびきりの笑顔でにっこりする。
律の表情が、固まった
「で、感動の再会を果たして早々あれなんだけど……」
澪は目をきょろきょろさせながら、ちょっと気まずそうに続けた。
「数学のノート……見せてくれない?(˙꒳˙)‧⁺✧︎*」
「うん、いいよ。数A?数Ⅰのほう?」
優真は即答して、カバンを開けて中を探る。
すると──。
「……えっ、おま……まさか全教科……!?」
隣で覗き込んでいた律が、半ば呆れたように叫んだ。
「え? ああ。よく“見せて”って言われるから」
「いや、どんだけ準備いいんだよ優真……!」
「わー、ありがとっ!!」
澪はぴょんと跳ねて、ノートを受け取ると嬉しそうに笑った。
「もつべきものは優真だね♡」
そしてそのまま、ふと律を見て──にっこり。
「律くんも、これからよろしくね!」
その笑顔が、あまりにも自然で無邪気で、でもって可愛すぎて──
律の中で何かが、ズキュゥゥゥゥン!!!と鳴り響いた。
「……やっべ、俺、今完全に……落ちた」
「……へ?」
「完全に!やられた!!!」
律は真顔で、目を見開いていた。
そして、ぴょこぴょこと教室を出ていく澪の背中を、夢見心地で見つめていた。
──この日から始まった、優真と少女の奇妙な契約。
──そして律の、完全なる片想い生活もまた、静かに幕を開けたのだった。
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