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それでも、この未来を。  作者: 風見鶏
第4章 行き止まりの午後
19/35

【4-4】『赤い地面』

※このシーンには、負傷描写、強い精神的ショックや錯乱状態を含む描写があります。苦手な方はご注意ください。


【本作はpixiv・小説家になろう 同時連載作品です】


ご覧いただき、ありがとうございます!

この作品は、オリジナルのダークファンタジー小説です。全7章構成の連載形式で投稿します。


こちらの物語は、pixivにも同時掲載しております。

https://www.pixiv.net/novel/series/14203170

(※創作活動としての併載です。転載目的ではありません。)




ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


※この作品の無断転載・複製・AI学習への使用を禁止します。Repost is prohibited.

※このシーンには、負傷描写、強い精神的ショックや錯乱状態を含む描写があります。苦手な方はご注意ください。





――――――――――

scene4.赤い地面



──なんで、あんなこと言っちゃったんだろ。


目の奥が、ずっと熱い。


律に背を向けてから、涙が止まらなかった。

怒ってるはずだったのに、悔しくて、悲しくて、ただそれだけのはずだったのに。

気づけば澪の足は、走るようにして道を進んでいた。


律の声が、表情が、何度も脳裏をよぎる。



──あのときの律の言葉。

言われた瞬間は、腹が立って仕方なかった。

でも、自分の口から出てしまった言葉のほうが、何倍も痛かった。



ー『勝手に……決めつけてそうやって……なんなの、あんた。馬鹿じゃないの!?』ー



手の甲で目元を拭っても、涙はにじむばかりだった。



自分でも、こんなに不器用だったなんて思わなかった。

ちゃんと向き合いたかったはずなのに、なに一つうまく言えなくて、ぶつけることしかできなかった。


「バカなのは、私の方じゃん……」



──もう一度、話さなきゃ

今度はちゃんと、自分の言葉で。



澪の顔が、決意の色に変わる。


「……うん。逃げない。」


誰に言うでもなく小さくつぶやいて、踵を返す。



──その瞬間だった。


耳障りなブレーキ音が、通りの向こうから鋭く響いた。

人々の驚きの声が、交差点に広がる。


「えっ……?」




横断歩道の途中で、視界が大きく揺れた。


思い出す時間も、考える余裕もなかった。


ただ、少し遠くで、誰かが叫んでいた。




「人がっ……!誰か!!!」







地面が、赤く滲んでいた。









澪とわかれた、帰り道。



律は、ひとり頭を抱えてしゃがみこんでいた。



「……くそ……俺、また……」


自分の声が、やけに遠く聞こえた。


「また、逃げちまった………」




過去の自分が何度もよみがえる。


優しいふりして、ふざけてごまかして、本音から逃げてばっかで。



「ちょっとは、変われたと思ってたのに……」


唇を噛み、拳を握りしめる。




「こんなままじゃ、また失う……」


自分の中で、何かがはじける音がした。


「あ〜〜っ……くそっ!!」


叫ぶように立ち上がり、走り出す。


澪が帰っていった道へ。

きっとまだ、そんなに遠くへ行っていないはずだ。


ダメ元で電話をかけてみるも、コールすらせずに留守電…


出るわけないよな

怒ってるんだから…



ちゃんといわなきゃ

まずきちんと謝って


それから、何であんなこと言ったのかも

ちゃんと説明して


それから

自分の思いもーーー





ごちゃつく気持ちを振り払いながら、ただ、ただ走る。



そして——







目の前に、黒山の人だかり。



「……?」



何かが、起きている。直感がそう告げていた。



ーーーサイレンの音がだんだんと近づいてくる。



律の心臓が、急に早鐘を打ち始める。


「すみません、通して……!」


ざわつく群衆をかき分け、無我夢中でその中心へと進んでいく。


視界が、ふと、赤く染まった。





「——っ」


そこに倒れていたのは。





変わり果てた澪だった。




血の色と制服の白が滲む。

大きく開いた目は、まるで誰かを探すように宙をさまよっていた。




「……え、……澪……?」


息が

うまく吸えない




「嘘……なんで……」



膝の力が抜け、その場に崩れ落ちるように、律は地面に座り込んだ。

何かが壊れたような音が、頭の奥で微かに響いた。


心が、引きちぎれるようだった。



ごめんって言わなきゃいけなかった。


伝えなきゃいけなかった。

……なのに。



握りしめていたスマホが、するりと滑り落ちる。

コンクリートにぶつかった軽い音が、やけに遠く聞こえた。



ぼんやりと、視界の端で光るその画面を見つめる。

名前も、文字も、よく見えない。

けれど、手が勝手にそれを拾い上げ、指が――触れる。



気がつくと、コール音が鳴っていた。


「……っ」


その音に、ようやく自分が何をしているのかを理解する。

そのすぐあと、受話口から、かすかに優真の声が聞こえた。



ー「……もしもし、律? どうしたの……?」ー


その声が、胸の奥を強く揺さぶった。



ー「律……?」ー



震える手でスマホをゆっくりと耳に当て、唇が、かすかに動く。



「……ま……優真ぁ……!!!!」




崩れた声で、やっとのことで叫ぶ。


その瞬間、律の中の何かが


完全に、壊れた。


最後までお読みいただき、ありがとうございました!



《次回以降投稿予定》

8/12(火)

【4-5】『壊れた心』


8/13(水)

第5章 証の代償

【5-1】無題/『今、僕にできること』


*お知らせ*

最新話の更新は1〜2日に1回のペースになります。

また、更新の時間帯については、日付が変わった直後〜お昼ごろまでの間に投稿することが多くなる予定です。


少しお待たせしてしまうこともあるかもしれませんが、継続して更新して行きますので、楽しみにお待ちいただけると幸いです。


更新時には活動報告でもお知らせしますので、よければチェックしてください!


よろしければ、ブックマークや感想をいただけると励みになります!

よろしくお願いいたします。

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