【4-2】『侵入者』
※このシーンには、精神的・言語的な圧迫描写、および性的・暴力的示唆を含む表現があります。苦手な方はご注意ください。
【本作はpixiv・小説家になろう 同時連載作品です】
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この作品は、オリジナルのダークファンタジー小説です。全7章構成の連載形式で投稿します。
こちらの物語は、pixivにも同時掲載しております。
https://www.pixiv.net/novel/series/14203170
(※創作活動としての併載です。転載目的ではありません。)
それでは
第4章 行き止まりの午後
scene2『侵入者』
お楽しみください。
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※このシーンには、精神的・言語的な圧迫描写、および性的・暴力的示唆を含む表現があります。苦手な方はご注意ください。
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scene 2『侵入者』
放課後の校舎に、人の気配はもうほとんど残っていなかった。
文化祭の準備を終えた優真は、教室の鍵を手に締め作業を終えていた。
最後に鍵を返すために立ち寄った職員室は空っぽだった。
今日は緋村先生が当番って言ってたよな…
ため息をついて踵を返しかけたとき──
お腹の辺りに、じわりとした熱のようなものが広がった。
(っつ……なんか、さっきから……)
妙な違和感だった。
ジリ、と小さく焼けるような感覚と、どこか締めつけられるような鈍い痛み。
さっき、準備が一段落してから急に、ふとした拍子に何度もこれが来る。
(疲れてるだけ……だよね?)
一瞬、ここ最近の人間関係のゴタゴタが思い浮かぶ。
文化祭にテスト、体育に……澪や律のこと、それから──紫苑のこと。
無意識に溜め込んでたストレスが、胃にきたのかもしれない。
(……まあ、そんなときも、ある。うん。)
そう自分に言い聞かせるように、そっとそのあたりを押さえる。
「……失礼します」
保健室の扉をノックして開けると、中からゆるく鼻歌を歌うような声が聞こえた。
臨時職員の緋坂煉司。整えられた髪、清潔感のある白衣、どこか物憂げに微笑むその顔には、どこか得体の知れない雰囲気が漂っていた。
「先生、最後の鍵、閉め終わりました」
「うん。ありがとう、ご苦労様」
煉司はにっこりと笑って、鍵を受け取る。
「じゃあ、僕これで——」
そう言いかけた優真の背中に、柔らかいが引っかかるような声がかかった。
「毎日、遅くまで頑張ってるね」
「……あはは、文化祭、もうすぐですから。せっかくなら、いいものにしたいし」
明るく答える優真。
その笑顔に、煉司は目を細めながら椅子から立ち上がる。
「そういえば最近……天城くんを見かけないけれど、ずっと休んでるようだね」
「え……?」
一瞬、優真の顔から笑みが消える。
悪魔モードでほぼ毎日近くにはいますけど、、、
とは、口が裂けても言えない…
「あ、あー……なんか、また体調崩しちゃったみたいで……」
「ふうん」
煉司は優真をじっと見つめる。
「心配してくれる友だちがいて、彼女も幸せだろう。
……中でも、君が一番優しいね」
「え……?」
首を傾げる優真の前で、煉司はゆっくりと歩み寄ってくる。
その目には、妙に輝きが宿っていた。
「誰にでも優しくて断れないから……欲しいってわがままを言った紫苑に、簡単にこんなものをプレゼントしたのかい?」
差し出された手には、見覚えのあるストラップ——
紫苑に渡したはずの「証」が、ぶら下がっていた。
「……え……?」
凍りつく優真の視界が、じわりとにじむ。
目の前のそれが幻じゃないと理解した瞬間——
腹の奥が、ぐっ、と痛んだ。
思わず、咄嗟に腹部を押さえる。
灼けつくような熱が、内側で蠢いた気がした――
「それ、先生が……? え…なんで……っ」
熱を持つような痛みが、芯から湧き上がってくる。
にやり、と煉司の口角がゆるむ。
その目には、優真の動揺も痛みも──すべてが計画通りの“過程”に過ぎないかのように映っていた。
優真が一歩後ずさると、背中が壁にぶつかる。
逃げ道を断たれたことに気づいて、再びストラップを見つめる目が揺れた。
「優真。こないだの続き、しようか?」
「……は?」
背筋に、ぞわりと冷たいものが走る。
「見せてくれなかったろう? この間は」
「残念だったよ。確認して、焼き切ってやろうと思ったのに」
「……な……っ」
訳がわからない。パニック寸前の頭に、無数の疑問と恐怖が一気に押し寄せた。
何で、、何でストラップ持ってるの…?!
…え…てか今、“紫苑”て…“優真”って言った…?
ちょっ……待って待って…そんなことより“焼き切る”って何!?!?
煉司の目は、さっきまでの穏やかさを完全に失っていた。
その手が、優真の制服のシャツを乱暴に捲り上げる。
「わっ…先生!?なにして…っ…ちょっと待っ……!」
息がうまく吸えず、言葉が続かない。
「おや?俺には『いいですよ』って言ってくれないんだ。紫苑には見せたのに」
「…っ!?なに…言っ……」
喉が震える
怖い
怖い怖いこわい
「あー……そっか、男同士だから嫌なの? あはっ」
そして——
「じゃあこれなら、いい?」
煉司の体が一瞬で闇をまとい、女性の姿へと変わった。
「……!!!?」
息が止まる。
そうだ…
こないだ紫苑が言ってた
何回も
『煉司先生に、気をつけて』って
『怪しいから』って
あぁそっか…
そういうことだったんだ
これ………
“人間”じゃ
ないやつだ………
呼吸がうまくできない。
胸の奥がひゅうひゅうと音を立てて、視界がかすむ。
ーーーその時だった。
「煉司ぃ!!!」
保健室の扉が激しく開き、息を切らしたシオンが飛び込んでくる。
「……その子に触るなって言ったでしょ!?」
その姿は、いつもの彼女とはまるで違った。
顔色は悪く、服は乱れ、目の下には濃い影。
——ボロボロだった。
優真は、ただ呆然とその姿を見つめていた。
煉司は女の姿のまま、楽しそうに微笑んだ。
「なんだ。もう動けるの? 残念」
シオンが睨みつける中、煉司はふっと笑い、また姿を戻す。
「まあ、いーや。落ちこぼれに花を持たせて、一旦引いてあげよ」
くるりと背を向けて、消えかける直前
「あ、そうだ」
煉司は優真の方に向き直り、ニコッと笑う。
そして、耳元でそっと囁いた。
「——もうすぐ君、死にたくなるよ」
瞬間、体の奥底まで冷えきるような悪寒が走った。
煉司の気配が消えると同時に、優真はその場にへたり込んだ。
駆け寄ってきたシオンが、泣きながら何度も繰り返す。
「優真……ごめん、ごめん……ごめんなさい……」
夕闇に沈む保健室で、優真はうつろな目のまま座り込み、震える指先で床を掴む。
そのとき——
優真のスマートフォンが、小さく震え、光る画面が、現実へと引き戻す音を立てて鳴り響いた。
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《次回以降投稿予定》
8/10(日)
【4-3】『走れ』
8/11(月)
【4-4】『赤い地面』
※このシーンには、流血・負傷描写、強い精神的ショックや錯乱状態を含む描写があります。苦手な方はご注意ください。
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