【4-1】『心は、すぐそばにあるのに』
【本作はpixiv・小説家になろう 同時連載作品です】
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この作品は、オリジナルのダークファンタジー小説です。全7章構成の連載形式で投稿します。
こちらの物語は、pixivにも同時掲載しております。
https://www.pixiv.net/novel/series/14203170
(※創作活動としての併載です。転載目的ではありません。)
それでは
第4章 行き止まりの午後
scene1『心は、すぐそばにあるのに』
お楽しみください。
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scene1『心は、すぐそばにあるのに』
放課後の風が、柔らかな夕焼けを連れてきていた。
校門を出た澪と律は、いつもの道を並んで歩いていた。
「ねぇ、あの教室の黒板の上の落書き見た?」
「見た見た!“文化祭がんばるマン⭐︎⭐︎ ゆうま”って……あれ優真のサイン書いてるけど絶対紫苑ちゃんよな(笑)」
そんな他愛もない話に笑い合う。けれど、澪の足取りがふと、ゆっくりになった。
「……あのさ、ちょっと話したいことが、あって」
律は足を止める。「ん?」
澪は律を見ず、前を向いたまま、言葉を選びながら続ける。
「律ってさ、私とか優真とか紫苑とか……女子も混ざってる仲間内と、よくつるんでるじゃない?」
どこか遠回しで、核心には届かない言い回し。それでも、言いたいことは確かに心の中にあって。
「なんかさ……しょっちゅう女子もいっぱい混ざってるし、あの……」
その奥にあるのは、“私のこと、どう思ってるの?”という、まっすぐな想い。
律は、その問いの気配に気づいた。
一気に心臓の鼓動がうるさくなって、平静を装うために言葉を探す。
「……その、か、彼女とか……!?」
澪は、自分でも何を言ってるのかよくわからない。緊張の波に足元が揺れる。
律がびくっと肩を揺らす。
「彼女とかさ、寂しがったりしないのかなーーなんて。あー…律も、、優真も!」
――あぁぁ違う、そうじゃない!!と内心で澪は頭を抱えていた。
律は慌てて笑う。
「いやいや、そもそもおれら彼女とかいないし!(笑)今さら何の心配だよ(笑)」
その言葉を聞いた澪は、ぱっと目を輝かせて律を見る。
「えっ!あ!そう!そうなんだ!そうなのね!ほう!!」
緊張しすぎて変な声が出る。恥ずかしいが、嬉しくて仕方がない。
しかしーー
優真の名前が出たことで、律の胸には小さなもやが立ち込めた。
(……なんだよ、俺はついでか? 本当は優真のこと…)
「そっかそっか、そうなんだぁ……」
ぽつりと呟いたあと、澪がふいに立ち止まった。
少し後ろを歩いていた律は、慌てて足を止めてぶつかりそうになる。
「わっ!と、何? どした?」
澪が振り返る。決心したような顔をしていた。
「あのね……あのね私――」
ーーその瞬間だった。
律の脳裏に、ビリッとした電流のような感覚が走る。
『優真が好きって言われるんじゃない?』
それは声にならない“誰か”のささやき。
律の胸がざわついた。そのざわめきをごまかすように、思わず口が動きーーー
「あー、もしかして優真!?あいつ鈍いからなー!まだ気持ち伝えてないの?(笑)」
「もたもたしてると紫苑ちゃんに取られちゃうんじゃなーい?(笑)」
澪の言葉を、いつものふざけた調子で押し流してしまった。
「……え、、、?」
あっけにとられた澪の表情が、だんだんと沈んでいく。
「紫苑ちゃんとのあんな場面見たら、そらショックだろうけどさ。こっちはほら、幼馴染だし?
まぁその辺はさ、勢いも必要じゃん?好きならガツンといってやった方が喜ぶよ、あいつも」
澪の顔に、怒りと悲しみが滲みはじめた。
違う…違う、そうじゃないのに。
言いたかったのは、律のことが好きだってことだったのに。
「…なんで……そんなこと言うの……?」
その一言に、律の思考が一瞬止まる。
「え……澪……?」
「なんでよ……違うよ。私、違う……私は……!」
その時、今度は澪の脳裏にビリッと、電流が走る。
『どうせ伝えたって、おちゃらけて流されて終わり。
いっつもそう。ちゃんと向き合おうともしないし。そういうとこ、まじムカつく。』
気づかぬうちに侵食された言葉が、心の奥に暗く重たい影を落とす。
澪はうつむいたまま、言葉を飲み込んだ。
「……澪……?」
「……いつも私ばっか。すぐごまかして。
本音で話したこともないくせに……わかったようなこと言わないで。」
「…は?」
「もういい。勝手に……決めつけてそうやって……なんなの、あんた。馬鹿じゃないの!?」
「え、ちょっと、澪――」
「もういい!!一人で帰る!!!!!」
叫びながら、澪は走り出した。
「おい!ちょっと…!!」
律の呼びかけに、振り返りもしない。
ただひとり、夕焼けの道を駆けていく。
律は、そこに呆然と立ち尽くしていた。
「……言い逃げかよ……」
ぐさりと胸に突き刺さる一言。
言い返すことも、追いかけることもできない。
優真じゃない?
え、じゃあ……
じゃあ、まさか……
「……!!!!?」
(俺……何、口走ってんだよ……っ!!)
素直に伝えることができなかった。
真剣な澪から目をそらして、ふざけて、逃げた結果がこれだった。
どうしようもない悔しさと、言いようのないイライラが律の胸を焼いていく。
気づけば、彼はその場にしゃがみ込み、拳を握りしめていた。
「……っくそ……」
夕焼けの光が、ふたりの距離を、じわりと照らしていた。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
《次回以降投稿予定》
8/9(土)
【4-2】『侵入者』
※このシーンには、精神的・言語的な圧迫描写、および性的・暴力的示唆を含む表現があります。苦手な方はご注意ください。
8/10(日)
【4-3】『走れ』
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