【3-5】『夕焼けの屋上と断絶』
※この話には、一部暴力的な描写・精神的な圧迫表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。
【本作はpixiv・小説家になろう 同時連載作品です】
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この作品は、オリジナルのダークファンタジー小説です。全7章構成の連載形式で投稿します。
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それでは
第3章 ふれあいと違和感
scene7 夕焼けの屋上と断絶
お楽しみください。
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※この話には、一部暴力的な描写・精神的な圧迫表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。
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scene7 夕焼けの屋上と断絶
放課後の屋上。
日が落ちきる前のオレンジが、静かに校舎を染めていた。
風は少し強く、遠くから運動部のかけ声が聞こえてくる。
けれど、ここだけは世界から切り離されたように、どこか静かだった。
シオンは、屋上のフェンスにもたれて空を見上げていた。
深呼吸ひとつ。小さく、決意をかみしめるように目を閉じ――
――次の瞬間、空気が変わる。
すべての音が、ふっと消えた。
校庭の声も、風のざわめきも、遠くの車の音さえも。
まるで、世界の時間が一瞬で凍りついたかのような静寂。
シオンのまわりだけが、ぽっかりと時の流れから取り残された空間になっていた。
「……カァァ……」
どこからともなく、わずかに聞こえた。
かすれたような、乾いた鳴き声。
顔を上げる。
校舎の影を、黒い影がひとつ横切っていった。
カラスだ。
止まった世界のなかで、なぜか、それだけが動いている。
そして。
「……よォ。こんなとこで何してんの、落ちこぼれちゃん?」
背後から、不意に声がした。
空気の裂け目から忍び込んできたような、薄ら寒い気配とともに――白衣姿の煉司が現れた。
「あんた……」
シオンは一歩だけ後ずさる。
煉司は、いつもと同じ“仮の笑顔”を浮かべていた。
けれど、その目は氷のように冷たく、シオンを射抜いていた。
「なんで……わざわざ接触してきたの?」
シオンの声は、怒りと恐怖と、なにより不安に震えていた。
「他の受験者の邪魔なんかしてないで、自分の試験に集中しなさいよ!」
シオンが叫ぶと、煉司は面白がるように口元を吊り上げた。
「ははっ!なに?心配してくれてんの?やさしーね。」
その言葉に、シオンの表情が一気に険しくなる。
怒りと焦り、そしてわずかな不安が入り混じった目で、煉司を睨みつけた。
「まあ、気にすんなって。
こっちはもう、終わってるから。」
そう言って、煉司は懐から一枚の紙切れのようなものを、ひら、と掲げて見せた。
それは――
所々が焼け焦げ、縁がぼろぼろに裂けている「家族写真」だった。
三人。若い夫婦と、幼い子ども。
笑顔で並ぶ、人間の親子。
シオンは、その一枚に目を奪われたまま、動けなくなった。
焼け焦げた部分。黒くすすけてしまった家族の笑顔
そこに何が起きたのかを想像してしまった瞬間、全身の血の気が引いていく。
(……まさか……)
目の奥がじんと痛んだ。
うまく呼吸ができない。
胸が………苦しい………
「……だったら……なんで………」
恐怖と、怒りと、震えが入り混じったような、かろうじて音になるだけの問いが、シオンの口から絞り出される。
「ここにきた理由?
んーまぁ……俺の方は瞬殺だったけど、中間審査まで、まだちょっと時間あるし? 他にやることもねーから……」
首を軽く傾けながら、ヘラヘラと笑う。
「――暇つぶし、みたいな?」
その言葉に、シオンの背筋が凍りついた。
命を奪うことすら、あいつにとってはただの“暇つぶし”――
残酷な遊びの延長でしかない。
あの写真の“結末”も、その口ぶりも、何よりこの目の前の冷たい笑みも……
すべてが、それを物語っていた。
その事実が、背筋をじわじわと這い登ってくるような寒気となって、シオンの内側を蝕んでいく。
(優真が……あぶない………)
足元が崩れそうになる。
心臓が、壊れそうなほど脈打って、全身の震えが止まらない。
「お願い…やめて……」
喉から
やっとのことで絞り出した声は
震えていて、細くて、消えてしまいそうだった。
それは、
これまでの彼女が持っていた気の強さ――そのどれとも、まるで別のものだった。
煉司はシオンの様子を面白がるように見下ろしながら、フッと鼻で笑った。
「そういうとこ、ほんとムカつくんだよなぁ。お前、気づいてないの? 自分がどれだけ“お人好しの真似事”してるかって」
さらに無遠慮な笑みで肩をすくめる。
「……!」
「“契約者を信じてます”みたいな顔して、チンタラ構って、優しくして?それで信頼もらって?
いつ不幸になんのよ。馬鹿じゃねぇの?」
シオンのこめかみがピクリと動いた。
「……そんなの、、あんたには関係ないでしょ…!!あ、あたしにはあたしのやり方が…」
「言い訳ばっかしてんじゃねーよ」
煉司は一歩、間を詰めてくる。
「いいか、シオン。お前、自分があとどれだけ“持つ”か分かってんの?
魔力の総量、平均以下だよな? “落ちこぼれ”なんだから、俺よりはるかに時間ねぇって分かってるよなぁ?」
煉司の言うことは、間違っちゃいない。
条件を達成する前に魔力が尽きれば、今回の試験は失敗に終わる。でもーー
シオンは、ぎゅっと拳を握りしめた。
「……わかってるよそんなことっ!」
そして、その怒りのまま…
煉司にむかって
口にしてはいけない言葉を投げてしまった…
「あんたと違って、あたしはコネも特権もないから必死なの!
まあでもいいよね、煉司は“偉大なパパ”のおかげで、何やらかしてもモミ消してもらえるし。ラクだね?」
その瞬間、空気が一変した。
煉司の笑みが、スッと消える。
沈黙。
目を伏せたまま、煉司は一歩だけ足を引いた。
その足元から、黒い影がにじむように広がっていく。
「……はは、そうだなあ」
ボソリと呟いた声には、もう先ほどまでの軽薄な調子はなかった。
次の瞬間――
白衣の裾が、黒い焔に焼かれるように溶けはじめる。
闇が煉司の輪郭を覆い隠し、空気さえも染めていく。
獣じみた赤い光が、その影の奥からシオンを睨み返していた。
「……っ」
身を竦ませる暇もなく、レンジの手がシオンの首元を掴んだ。
「じゃあ、親父に頼んで“これ”も、もみ消してもらおうかぁ?」
「……っぐ……っ!!」
シオンの背が、コンクリの壁に叩きつけられた。
声にならない悲鳴と共に、足が浮く。息ができない。
「ルール違反だ?なーんも連絡、こねーけど?ははっ、すげーなぁ、まじで黙認されてるってことか。
やっぱ特権階級サイコー!」
楽しそうに言いながら、レンジはさらに力を込める。
「なぁ、“証を受け取った”ってだけで安心してるようなヤツが、俺と同じ土俵に立とうとしてんじゃねぇよ。
お前のやり方、生ぬるすぎて虫唾が走るんだわ」
その瞬間、手を離されたシオンは、その場に崩れ落ちた。
「っは……っ、げほっ、ぐぅ……っ!」
肩で息をしながら、必死に咳き込む。
視界が滲む。肺が熱い。
「煉……っ!!」
そして、ふとレンジの手に、見慣れた小さなストラップが握られているのに気づいた。
――優真の“証”。
「――あっ……!」
声が漏れた。シオンの表情が凍りつく。
レンジは、それを指先でくるくると器用に弄びながら、軽く口を開いた。
「なあ。
…契約対象って、1人じゃなきゃダメとは言われなかったよな?」
「え……」
(“一人だけ”って……言ってた?え…違うっけ?あのとき……説明のとき、なんて……)
頭の中が真っ白になっていく。
呼吸は浅く、胸が苦しい。
崩れ落ちた体、まだ震えが止まらなかった。
……どうしよう…
わかんない………
煉司はそんなシオンを見下ろしたまま、勝ち誇ったように続ける。
「って、ことはよ。壊した人間が多けりゃ多いほど、受験生として“優秀”ってことだよな?」
悪びれる様子もなく、まるでゲームの戦績でも語るような口ぶりだった。
「試験規約?とか、細かいのはどーでもいいんだよ。要は結果だろ?どいつもこいつも、俺が触れたら壊れてく。そんだけの話」
その目は笑っていながら、奥底に冷たい光を宿していた。
レンジは、ひときわ満足げに続ける。
「それに、お前じゃどうせ、攻略なんてできないだろ?」
ストラップをくるくると指で弄びながら、ニヤリと口端を吊り上げた。
「せっかくだしさ。優秀な俺が“こいつ”で――見本、見せてやるよ」
紫苑の証を握りしめたその瞬間、レンジの首元に、禍々しい黒い魔紋がうっすらと浮かび上がる。
それは、紫苑のものとはまったく異なる、鋭く刻まれたような荒々しい紋様だった。
それを見せびらかすでもなく、ただ「当然のように」隠そうともせず、レンジは口角を歪めたまま笑っていた。
「!!…だめっ…!!」
シオンが反射的に手を伸ばすも、空を切る。
「返して!! 返しなさい!!」
だがレンジの姿は、すでに夕焼けの影の中へと溶けていた。
屋上に一人残されたシオンは、床に両手をついたまま、唇を噛みしめる。
「……どうしよう」
掠れた声が風に流れる。
その瞬間だった。
左腰──魔紋の刻まれた場所が、ジリッと焼けつくように熱を帯びた。
「っ……あ……」
シオンは思わず顔を歪め、そこへ手をやる。
皮膚の奥で何かが焦げるような、痺れるような感覚だけが残る。
かすかに、軋む音がした。
それは、魔紋が“生きている証”をやめようとしている音だった。
そしてーーー
つながりが、切られた。
自分の中で、何かが途絶えた。
「……やだ……」
夕焼けの空が、遠く滲んで見えた。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
《次回以降投稿予定》
8/7(木)
【3-6】『それぞれの放課後』/《第3章:審判記録》
8/8(金)第4章 行き止まりの午後
【4-1】『心は、すぐそばにあるのに』
8/9(土)
【4-2】『侵入者』
※このシーンには、精神的・言語的な圧迫描写、および性的・暴力的示唆を含む表現があります。苦手な方はご注意ください。
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