【3-2】無題/『予感と鼓動』/『保健室ー静かな侵入』
【本作はpixiv・小説家になろう 同時連載作品です】
ご覧いただき、ありがとうございます!
この作品は、オリジナルのダークファンタジー小説です。全7章構成の連載形式で投稿します。
こちらの物語は、pixivにも同時掲載しております。
https://www.pixiv.net/novel/series/14203170
(※創作活動としての併載です。転載目的ではありません。)
*お知らせ*
最新話の更新は1〜2日に1回のペースになります。
また、更新の時間帯については、日付が変わった直後〜お昼ごろまでの間に投稿することが多くなる予定です。
少しお待たせしてしまうこともあるかもしれませんが、継続して更新して行きますので、楽しみにお待ちいただけると幸いです。
更新時には活動報告でもお知らせしますので、よければチェックしてください!
それでは、
第3章 ふれあいと違和感②
無題/『予感と鼓動』/『保健室ー静かな侵入』
お楽しみください!
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保健室の前に立つと、紫苑がドアの小窓から中を覗き込む。
「……先生、いないみたい」
そっと呟いた声が、廊下に吸い込まれていく。
「ほんとだ。中で待ってていいかな…」
優真は顔をしかめたまま、壁に手をついて立っていた。まだ、鼻のあたりがじんじんとしている。
「うん。じゃあ、黒田先生、職員室にいたと思うから、あたし話してくる……!」
「……あ、うん。ありがと……」
優真を保健室前に残して、紫苑は2階の職員室へと急いだ。
残された廊下に、静けさが戻る。
彼女の肩を借りていた左側が、まだ少しだけあたたかい。
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scene2『予感と鼓動』
紫苑は職員室の前で立ち止まり、少し深呼吸をした。
(職員室に入るときは、まず挨拶して、クラスと名前を言う……職員室に入るときは、まず挨拶して、クラスと名前……)
以前、いきなり入っていって黒田先生ににこやかに指導された“マナー”を、今度こそは忘れないようにと、心の中で何度も唱える。
よし、と小さく気合を入れて扉に手を伸ばそうとした時、中からやりとりが聞こえてきた。
「それじゃあ緋村先生、保健便りは今月はこちらで作っておきますので…」
「ありがとうございます。助かります」
(……“緋村先生”?)
聞き慣れない名前に、紫苑は一瞬だけ首をかしげた。が、気にせず扉に手をかけた。
その瞬間ーー
中から勢いよく扉が開き、白衣姿の青年が廊下に出てきた──
「わっ……!」
「おっと、失礼」
軽く正面衝突しかけて、紫苑は反射的に頭を下げた。
「あっすみません……!」
青年は柔らかく笑みを浮かべたまま、肩を軽くすくめて階段の方へ向かって歩いていく。
(あぶなかったー…)
紫苑は、扉の中へ顔を向けかけた。
「失礼します、1ーCの天城です!黒田せんせ──」
その瞬間だった。
背後から、“何か“がビリッと飛んできた
視線でも、音でも、モノでもない
鋭く突き刺すような何かが、確かに“届いた”という感覚だけがのこる。
(……っ!?)
反射的に振り返る。
階段の上り口、曲がり角に向かって、さっきの白衣の男が足早に歩いていく背中が見えた。
「…なに…いまの…?」
とたんに、ぞわりと鳥肌がたつような悪寒がはしり、紫苑はとっさに踵を返すと男を追うように走り出した。
「どうしたー?天城?」
職員室から顔を出した黒田先生の言葉に立ち止まることなく、紫苑は急いで1階に駆け降り、先ほどすれ違った男の行先を探した。
しかし、もう廊下にはだれの姿も見えない。
(おかしい…やっぱおかしい、さっきの感じ……まさか……)
言いようのない不安に駆られながら、保健室の前にさしかかる。
すると、扉は閉まっているが、中から微かに声が漏れてきた。
「顔を打った衝撃で、他にも痛めたところがあるかもしれないね」
「首のあたり、痛くないかな?あとは腕や背中とか…
そうだな…お腹の辺りとかーーー」
「………っ!!!」
その声を聞くと同時に、あの時の悪寒が、今度は全身を刺すように駆け抜けた。
とっさに体が動く。
「――優真!!!」
保健室の空気を裂くように響いた声に、室内の空気が凍りついた。
――――――――――
scene3『保健室ー静かな侵入』
黒田先生に報告をしに行く紫苑を見送った後、優真は1人、保健室の扉を開いた。
「失礼します…」
呼びかけながら中に足を踏み入れた瞬間、ほんのわずかに感じる温度の違い。
校舎の中とは思えないほど、ひんやりとした空気が肌にまとわりついてくる。
ふと窓の外に目をやると
ついさっきまでの夏の日差しが照りつけるような青空は、いつのまにか一面に灰色の雲が広がりはじめている。
風に揺れる木々の向こうで、数羽のカラスが低く旋回していた。
夕立でも来るのかもしれない。
夏の空気に、どこか異様な重さが混じり始めていた。
誰もいない室内を見渡して、思わず小さくため息をつく。
薄暗く、カーテンが風に揺れているだけの静かな空間。
扇風機の回る音が、妙に耳に残る。
「……いてて……あんなとこまでボールが飛んでくるなんて思わなかったなぁ……鼻血、まだ出てる……?」
鏡の前に立ち、顔をしかめながら自分の鼻の下をのぞき込む。
ぶつけた箇所は赤くなっているが、幸い出血は止まっているようだった。
そのときーーー
ドアが静かに閉まる音と共に、背後から誰かに声をかけられた。
「それ、結構派手にぶつけたね?」
優真が驚き振り向くと――そこには白衣を着た背の高い男が立っていた。
白衣を羽織った、整った顔立ちの青年。年の頃は20代後半といったところだろうか。
その微笑みはどこまでも爽やかで、清潔感があり、どこか“作られた完璧さ”を感じさせる。
「驚かせてしまってすまない。君とは初めましてだね。」
「病休を取られた養護の先生に代わって、今週から臨時でこちらに勤務している、緋村と言います。どうぞよろしく。」
緋村と名乗るその臨時教諭は、ゆったりとした動きで歩み寄りながら、優真の顔を見て微笑んだ。
「あ、はい……よろしくお願いします」
「ふふ、どういたしまして。それはそうと君……」
柔らかな笑みを浮かべたまま、一歩、優真に近づきーー
そしてふと、その視線が優真の腹部――ちょうどシャツの下あたりに、わずかにとまる。
「他にぶつけたところとか、ないかな? 確認しておこうか」
そう言いながら緋村は、そっと優真の肩に手を添えた。
その瞬間、指先から伝わる感触とは違う“冷たさ”が、優真の背筋を走る。
――なんだ、この感じ……。
「顔を打った衝撃で、他にも痛めたところがあるかもしれないね」
「首のあたり、痛くないかな?あとは腕や背中とか…」
穏やかに言いながら、緋村の手が優真の首元や肘のあたりに触れ異常がないかを確認する。
そして、、
「そうだな、あとは…お腹の辺りとかーーー」
そう言いながら、体操服のシャツの裾に、その手が触れた…
ーーーその瞬間。
ガラララ…バンッッ!!!!!
「――優真!!!」
保健室の空気を裂くように響いた声に、室内の空気が凍りついた。
優真のシャツの裾をつまんだ緋村の指が、ぴたりと止まる。
緋村の表情がほんの一瞬だけ、鋭く変わった。
その顔を見た瞬間、紫苑の体に、再び悪寒が走る。
まって
待って待って
あの顔、もしかしてーーーーー
「あ、紫苑?」
紫苑は言葉を発するより先に、優真に駆け寄った。
その頬に、肩に、何度も手を当てる。
「大丈夫!? 変なとことか、痛いとこない!? なにかされた!?」
「え、いや……あの、保冷剤もらっ──」
「そう!! ならよかった!! 教室戻ろ!! 先生ありがとうございましたっ!!」
その手は震えていた。
強引に優真の手を引き、扉の方へ向かう。
戸惑いながらもついてくる優真。
ドアの前で、一度だけ振り返る。
「ありがとうございました……」
そのときだった。
「あっそうだ、君。女の子の方。」
紫苑の背中に向かって、ふいに緋村が声をかける。
「君とも、初めましてだったね。
彼には先ほど話したのだけれど、私は、今週から臨時でこちらに勤務している――」
「緋村先生ですよね?」
紫苑が、振り向かずに答える。
「おや」
緋村は、にこやかに微笑んだ。
「もう知っていたのですね。そうです。
緋村……煉司といいます。どうぞ、よろしく」
その言葉を聞いた瞬間――紫苑の表情がわずかに引きつる。
(……煉司…!!)
その名前、その声、その“温度”。
――やっぱり、間違いない。
背中越しに感じた微笑みの裏側に、かつて幾度となく向き合ってきた“あの目”を、確かに感じた。
あいつは、レンジだ……。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
《次回以降投稿予定》
8/4(月) 【3-3】『魔界の試験と煉司の因縁』/ 『保健室の外―紫苑の混乱』
8/5(火)ー更新お休みです!!ー
8/6(水)【3-4】『文化祭準備と悪魔モード』
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