1話 入学式
入学式当日。俺は新しい制服に袖を通す。
この体を乗っ取ってから、俺の脳内は城咲玲司の記憶が思い出されるように浸食されていて、こいつの過去の記憶がだんだんと分かって来ていた。
簡単に言えば、幼少期から一流の教育を受けていて、それを見た周囲からの嫉妬や攻撃に晒されて、本来は心優しい性格だったけど裏切りや偽善を目の当たりにして性格が歪んでしまったらしい。
けど、こんな事を知らされても、主人公兄弟にやってるいじめがえぐすぎて、とても同情できないな。
そんな事を思っていると、俺の入学する高校が近づいて来た。校門を抜けると、俺の姿を見た入学生たちが怯えた様子でひそひそと話し始める。
「あの人が城咲玲司って人……?」
「マジかよ……。アイツと3年間過ごすのかよ」
ひどい言われように胃が痛くなりそうだ。
だがこう言われるのも仕方がない。中学生時代から、他の生徒に嫌がらせをしていたらしく、大勢の生徒から煙たがられている。
まぁ、俺が乗っ取った以上、そんな事はしないけどな。破滅したくないし。何より綾乃が不幸になるところを目の前で見るのはごめんだ。
おとなしく体育館へ移動しようと歩き出した時だった。
「お兄ちゃん……! 早いよ……」
白銀のように輝く、ツインテールの白い髪を揺らしながら現れたのは、妹と紡ぐ恋の旋律のヒロインである篠宮綾乃だ。
マジか、この前まで会いたいと思っていた綾乃だ。画面の向こうから見ていた綾乃も可愛いけど、生で見る綾乃もすごく可愛いなぁ。
「お前の足が遅いからだぞ。綾乃」
その隣にいるのはこのゲームの主人公、篠宮悠斗だ。キャラクター資料で見た事はあったけど、とても整ったいい顔立ちをしているんだな。
すごく優しそうな雰囲気をしてるけどストーリーが進むにつれて綾乃へ急に高圧的な態度を取るようになるんだよな……。と2人を見つめていると、綾乃と視線がばっちりと合ってしまう。
マジか!綾乃がこっちを見てる……。咄嗟に俺は小さく手を振るのだが……。
「……」
冷ややかな視線を向けられたかと思うと、すぐに視線を逸らされてしまった。
そうだ。今、俺は悪役じゃん……。綾乃のあまりの可愛さに一瞬忘れてしまっていたよ。
俺は、肩を落としながら体育館へ向かった。
入学式が終わり、俺は自分のクラスへと向かう。
俺はシナリオ通り、篠宮兄弟と準ヒロインである、天石琴音、黒峰沙耶香、神崎麗奈と同じクラスになる。
まずピンクのボブカットの琴音は、天性の人懐っこさで男女問わず人気があるが、嫉妬深く、自分の思い通りにならないと感情的になることがあったりする。けどその人懐っこい性格が結構人気があって人気投票では綾乃に次ぐ2位だった。
2人目の黒いロングヘア―の沙耶香は、華道や礼儀作法、社交術に優れており、絵に描いたような正に「完璧なお嬢様」というべきだろう。プライドが高く、他人を見下すことが多いけど、実は不器用で純粋な一面もあって可愛いんだよね。でも、自分が特別だと思いたいがために、他者を攻撃したりするかなりの悪女だったりする。
3人目の青いポニーテールの麗奈は、このクラスの委員長で冷徹委員長、氷の女帝と呼ばれていて、クラスの秩序を守るために努力を惜しまず、他のクラスメイトに対してすごく厳しい態度を取ることがあるんだよな。でもその厳しい態度の裏にある優しい一面があるっていうギャップがいいんだよね。まぁ、綾乃ルートで悠斗と綾乃の関係をあり得ないとか言って滅裂に批判してくるから、俺は嫌いだけど。
3人ともいろんなタイプがあって、魅力的なヒロインだけど、共通して綾乃ルートになると、綾乃のことを目の敵にしてくるんだよな。
「この3人とは、あまり関わりたくないな……」
そんな事を呟いていると、クラスでは委員決めが始まり、シナリオ通り、麗奈が学級委員長に決まった。
確か、この後は他の委員には誰も立候補しなくて、くじびきで決める事になるんだよな。それで、俺は確か綾乃と一緒に図書委員を引くんだけど、綾乃がいやがるんだよな……。
シナリオ通り、くじ引きで決める事になって、クラスメイトが1人ずつ委員名の書かれた割り箸を引いていく。綾乃が図書委員を引きあて、その後に俺も図書委員の割り箸を引くと、予想通り、綾乃はわかりやすいくらいに嫌な顔をする。
やっぱりか。綾乃は自分の気持ちを相手に伝えるのが苦手なんだよな。シナリオだとその顔を見て玲司がブチ切れてしまうという緊迫したシーンがあるんだよね。
まぁ当然俺はそんな事はしない。
「お兄さんと変わるか?」
突然の優しい要求にクラスにいた生徒達は唖然とする。まぁ当然の反応だよね。
本当は綾乃と一緒にやりたかったが、後々の事を考えると、ここは素直に言う事を聞いといた方がいいだろう。
「えぇ。そうしていただけると助かりますね」
「お兄さんもいいよね?」
俺は悠斗に確認を取ると、「おう」と言って少し疑惑の目を向けながら頷いた。
よし、これで少しは破滅への道が一歩遠のいたな。
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