52 最終話
「大っきいね……」
「ちょっと無様だけど……」
宇宙人の本体が見え無いから無理矢理桃色に色付けすると、宇宙空間に桃のような巨大な物体が現れたので驚く純菜と蒼正。
「月から何キロぐらい離れてるんだろうね」
「地球と同じぐらいに見えるから……月との距離ぐらい? あ、その百倍か」
「まったく想像出来無い距離ってだけは分かった」
月と地球の距離は、三十八万キロ。その百倍では、どれ程距離があるかいまいち掴めない二人。
「とりあえず攻撃しよっか?」
「届いてるのかな~?」
分からない事は置いておいて、二人は聖属性の極太光線を連発。まったく手応えが無いが、本体の大きさを加味したら攻撃を止められ無い。
そうして三十分程無駄話をしながら連発していたら、宇宙人の本体は倍の大きさに見えるようになり、その頃に少しの変化が現れた。
「何か爆発してる?」
「だね。ロケットが着弾したのかも?」
「自信無いとか言ってたけど、ちゃんと当たったんだ」
「効果があるかは分から無いけどね」
電磁波爆弾の破裂痕だ。どうやったか分から無いが、桃色物体と接触してから爆発が起こっているように見える。
その十分後にも、違った反応がある。
「なんか桃が揺れてるよね?」
「うん……純が最初に撃ったジャッジメントが当たり始めたのかも?」
「届いたんだ……これは効いてるよね?」
「多分……嫌がってるのかも??」
桃色物体が揺れて見えると言う事はダメージが入っていると言う証拠。二人は気合いを入れ直して極太光線を撃ちまくる。
しかし、桃色物体は速度を落とさずに進んでいるのか刻々と大きくなり、現在の大きさは球体がギリギリ見える位置まで来てしまった。
「大きいとかどうとかの話じゃないね……」
「うん……これって、今はどれぐらいの距離があるんだろう?」
「分かん無い……分かん無いけど、あまり時間は残っていないと思う。もっと強力な攻撃にしないと間に合わ無い」
「じゃあ、こんなのはどうだろう?」
「いいね。僕はアレを試してみよっと」
今まで使っていたジャッジメントの数打ちゃ倒れる作戦では、威力が足り無いと方針を転換。純菜は想像出来る範囲の巨大な球体を飛ばし、蒼正は地球の元気を最大限集めて飛ばす。
それでも足り無いと、太陽の大きさを想像して聖魔法を放つが、そんな巨大な物はイメージが足り無くそれほど大きな攻撃とはならないのであった……
「ああ~……ここまでか……」
宇宙人の本体が、桃色の球体から目の前を覆い尽くす壁に変貌すると、ついに蒼正の口から諦めの言葉が出た。
「私達……頑張ったよね?」
その声を聞いた純菜も攻撃の手を止めた。
「うん。これでも僕達イジメられっ子だよ? 最初から地球の危機なんて、救える訳無かったんだよ」
「だよね。なんでこんなに頑張ってんだろ……一時期は死ぬ事か、嫌いな人が全員死ねとか思っていたのに」
「ホントに……てか、また調子に乗ったな~。ヒーローなんて、もうならないって決めてたのに」
「私も調子に乗っちゃった。これが蒼君が味わった喪失感なのね……でも、最後に蒼君と同じ気持ちを経験出来たから、悪くは無いかも?」
「フフフ。そんなの悪いに決まってるでしょ」
「フフフ。良い訳無いか」
「「ハハハハハ……」」
巨大過ぎる力には抗え無い。そんな現実を目の前に突き付けられた蒼正と純菜は心が折れる。
そして死を覚悟して、最後は抱き合いながらその時を待つ。
その後、月は宇宙人の本体に呑み込まれ、月を周回していた人工衛星は次々と制御を失う。
次に地球を周回していた人工衛星が宇宙人の本体に触れると自由運動に変わり、大気圏に近い衛星から炎に包まれて地表に降り注ぐ。
宇宙人の本体が地球を完全に呑み込んだのは、その数分後。その瞬間に地球にいる生き物は生命活動を止める。
それからおよそ十年後に地球はの自転が止まり、宇宙人の本体が立ち去った後には、宇宙空間に漂うただの岩と成り下がるのであった……
終 劇
☆ハッピーエンドバージョン
巨大過ぎる力には抗えない。そんな現実を目の前に突き付けられた蒼正と純菜は心が折れる。
そして死を覚悟して、最後は抱き合いながらその時を待つ……
「御両人、諦めるのはちょ~っと早く無いでっか~?」
「リア充、爆発しろっ!」
「「……へ??」」
その時、後ろから胡散臭い関西弁と、嫌悪感たっぷりの悪口が飛んで来たモノだから、蒼正と純菜は鳩が豆鉄砲喰らったような顔をして振り向いた。
そこには、スーパーマンみたいなマントをはためかせる細長い若者と、全身鎧が横に広がって丸くなっている太った男が立っていた。
「な、なに? なんで僕達の夢に入って来てんの??」
「ど、どちら様ですか??」
驚く蒼正と純菜の問いには、太った男は両手で中指を立てるだけなので細長い若者が答える。
「そりゃ、御両人がよう分かってるでっしゃろ。夢の中ならなんでも御座れ。わても宇宙人と戦っていた口ですわ~。とりあえず、あのクンピの壁を攻撃したらええんやな?」
「「はあ……」」
「ほないくで!」
「壁、爆発しろっ!!」
何者かは答えて貰えなかったが、ここに居ると言う事は、明晰夢の使い手。つまりは、蒼正と純菜の援軍だ。
「なんか分からないけど、あのピンクが宇宙人の本体って事かな?」
「なんでピンクになっているかはさておき、攻撃しましょうか」
「撃て撃て撃て撃て~~~!!」
「死ね死ね死ね死ね~~~!!」
「本体……申し訳ありません。天皇陛下を死なせる訳にはなりませんので」
更には、肌の色の違う人、髪や目の色が違う人、老若男女の個性的な人が次々と現れて攻撃を開始する。その数は、百を超え、千を超え、まだまだ増えて行く。
「宇宙人と戦ってるの、僕達だけじゃ無かったんだ……」
「こんなに居たのね……」
続々と増える援軍を見て、蒼正と純菜に戦意が戻った。
「「地球人、ファイト~~~!!」」
「「「「「おおぉぉ~~~!!」」」」」
蒼正と純菜に呼応して、人々は宇宙人の本体に攻撃を加え続けるのであった……
半年後、春……
西高の校門前に、仲良さそうに手を繋ぐ高校生カップルが立っていた。
「今日から同じ高校だね」
「うん。蒼君との高校生活楽しみ!」
「僕も楽しみだよ!」
こうしてイジメられっ子だった蒼正と純菜は、優しい人々に囲まれて、いつまでも幸せに暮らすのであった……
めでたしめでたし
『僕の私の夢は超イージーモード。だった・・・(ハッピーエンド版)』を最後までお読みいただき有り難う御座いました。
他サイト『アルファポリス』ではバットエンド版が掲載されていますので、もし興味がある方がおられるなら、そちらに移動してください。




