49 玉音放送の謎
玉音放送があった次の日、蒼正と純菜は朝から、お互いの家の中間地点辺りにある公園で顔を会わせた。ここで刑事達と待ち合わせをしているので、以前石坂と喋った奥にあるベンチにてお喋りをしている。
「純のお母さん、今日は何してるの?」
「病院行くって。何かと忙しいみたい」
「医者や看護師って、一番最後まで休め無さそうだね」
「そっちは?」
「うちは最後の挨拶に行って来るってさ。お得意様も回るみたい」
「アハハ。真面目だね~。そんなのサボっちゃえばいいのに」
「なんだかんだで仕事が好きなんじゃない? ここに来るまでにスーツの人、いっぱい見たし」
もう地球が終わると聞いても、大半の日本人は出社して最後の挨拶をしている模様。電車等もダイヤは乱れず、普通の日常のように感じる人が続出しているらしい。
そうしてスマホで普通の会社員なんかは何をしているのかと調べながら待っていたら、石坂がやって来た。
「早いな」
「おはよう御座います……あ、山下さん、戻っていたのですね」
軽く挨拶をした石坂の後ろには山下が居たので、そちらにも声を掛けた蒼正。
「四日前にね。日本行きの飛行機が全然取れ無かったから、危うく帰れ無い所だったよ」
「へ~。発表前なのに、そんなに混んでたんですか~」
「いや、時期的な物。いま、夏休みでしょ?」
「そういえばそうでしたね」
山下は結局チケットが取れ無かったから、アメリカ軍の輸送機に乗せて貰って帰って来たらしいので、蒼正の目が輝いた。
「凄いですね。軍事機密みたいな物じゃ無いんですか?」
「まぁ……世界の危機に貢献した特典みたいな? でも、乗り心地は最悪。寒いし揺れるし。エコノミークラスの方が、断然マシだったよ」
「そんな事を話に来た訳じゃ無いだろ」
蒼正と山下が話し込んでいたら、石坂が割り込んだ。
「あ、何か動きがあったんですか?」
「動きと言うより、NASAが発表しなかった理由を聞かせてやろうと思ってな。疑問に思っていただろ?」
「はい。空襲警報にも驚きました」
NASAから発表しなかった理由は、単純に怖気付いて。その当時のアメリカは、少しでも名を知られている者は変死体となり、それが無差別に行われていた。
テレビに出た一般人も変死体となっているのだから、NASA内で誰が発表するか大揉め。しかしこんな重大発表を顔も出さず紙一枚、もしくは音声のみでやっては信じて貰え無い可能性大。
なので適任者が居ないかアメリカ政府の下っ端に聞いてみたが、皆死んだんだとか。国連の下っ端にも、何処の国でも誰でもいいから偉い人は残って居ないかと聞いてみたが、皆死んだとの回答。
適任者が見付から無いので、先に最後の攻撃の準備をしようとアメリカ軍にお願いしてみたら、指揮官不足でどうしようも無いんだとか。そんな事をして宇宙人を怒らせたく無いと、より一層適任者探しが難しくなったんだとか。
そこでアメリカに残っていた山下に、力及ばずで申し訳無いとNASAが諦めた所で、山下が口を滑らせる。
天皇陛下は生きてるのに大変ですね、と……
そんな事を言うから、石坂に指令が下る。天皇陛下と、出来れば自衛隊も動かせ無いかとの無茶振り。石坂も「出来るか!」とキレたらしい。
しかし、ダメ元で皇居を訪ねてみたら、あっさり面会。NASAから、理由は言え無いが大変な事が起こっているので石坂と名乗る人物から詳細を聞いてくれと、連絡が行っていたからすぐに会えたらしい。
珍しく石坂もド緊張して、汗を拭いながら知り得た情報を天皇陛下に説明すると、これまたあっさり信じてくれたそうだ。
「凄いですね。あんな話、すぐに信じて貰えるなんて」
「いや、俺の力じゃない。そもそも天皇陛下も、襲われる夢を毎日見ていたから、謎が解けたと信じてくれたのだ」
「それって……何も知ら無いのに撃退していたと言う事ですか?」
「お前達が想像している事とは少し違う」
天皇陛下の見た夢は、包丁や銃で襲撃される夢。明晰夢は見れ無いが、すぐに夢と気付いて怪我するイメージが浮かば無かったから、無傷で乗り越えたんだとか。
その後は、襲撃者を優しく包み込むように諭して改心させたら、信者が増えて守ってくれるようになったらしい……
「ある意味怖いですね……」
「まぁな。その中に、宇宙人と言うヤツも居たそうだ」
「宇宙人まで信者にしたのですか……」
知らぬが仏とはこのこと。天皇陛下もいつの間にか宇宙人と仲良くなっていたから驚いたそうだ。
石坂から話を聞くことで全て理解した天皇陛下は、自分が矢面に立つ事を即決する。そして自衛隊にも働き掛け、アメリカから届いた電磁波爆弾を世界中のロケット発射場に届けさせたのだ。
「実際問題、発射可能なロケットは百にも満た無いし、宇宙空間で爆発させられるかも微妙らしいけどな」
「そんな賭みたいな作戦に、命を懸けるなんて……宇宙人を敵に回すのに……」
「天皇陛下、本当に素晴らしい人だね。刑事さんは、そんな人を地獄に追いやった極悪人ですね」
「その言い方は酷く無いか? 俺だって止めたんだぞ??」
こんな確実に死ぬ無謀な作戦、天皇陛下にやらすなんてと睨む蒼正と純菜。それは冗談だったのか、次の瞬間には吹き出して笑う一同であった。




