26 事情聴取
「イジメの件は早急に対応しますので、先に今日ここに呼んだ話を処理させて下さい。宜しいですか?」
校長の坂本が味方になる約束をした所で、蒼正も落ち着きを取り戻したから本題に戻す。
「先程言った通り、五十嵐君のグループ全員が入院したのです。その件で警察から問い合わせがありまして、まずは学校が吉見君と話をするべきだと教師陣で決まったので、呼び出した次第です。あの感じだと、何かを知っていて隠蔽しようと考えていたのでしょうね」
坂本の説明の最後の部分は腑に落ちた蒼正だが、前提がサッパリ分から無い。
「あの……入院したのは分かりましたけど、どうして僕が関係している事になっているのですか?」
「どうやら入院した五十嵐君以外の全員が、犯人は吉見さんだと言ってるようで……だから渡辺先生は、イジメ加害者が復讐したと思ったのでしょうね」
「正直言いまして、僕じゃ影打ちした所で上手く行くと思えません。怖いですし。放課後は毎日急いで帰りますし、外出も極力控えていますので、学校の外で会った事もありません。そんな僕には無理ですよ」
坂本は蒼正の話に嘘が無いと頷いたが、知っておきたい事もある。
「疑っている訳ではありませんが、二十二日の午前二時頃は何をしていましたか?」
「その時間なら毎日寝てる時間ですけど……その日が犯行日時と言う事ですか?」
「はい。五人同時に襲われたそうです」
「……はあ~?」
「フフフ。その反応が普通なのでしょうね」
坂本曰く、その日時に五十嵐グループの五人は叫び声を上げて目覚め、家族が救急車を呼ぶか車で病院に直行したとのこと。未成年が歩け無い程の怪我を負っていたのだから病院が警察に通報して、そこで蒼正の名前が出た。
しかし、同時刻に犯行に及ぶなんて事は、距離があるから間違い無く不可能。だから警察も犯人とは考えておらず、どうして名前が挙がったかの確認をしたいと学校に連絡を入れたそうだ。
「ここからイジメ案件がバレると思って、渡辺先生達は焦ったのでしょうね」
「はあ……でも、なんで僕のせいにするんでしょうか……」
「それは警察で聞いて貰った方が、詳しく聞けると思いますよ。それでどうしましょうか? 親御さんに連絡して一緒に警察署に行くか、呼ぶか……親御さんに迷惑を掛けたく無いと言うなら私が付き添います。たぶんすぐに終わると思いますよ」
「それじゃあ……さっさと終わらせたいので校長先生にお願いします」
坂本は二つ返事で了承すると、電話をすると言って部屋から出る。そうして戻って来たら、イジメ被害の調書を作りたいからとノートを差し出した。
蒼正が緊張した顔になったので、坂本は安心させるように、誰にも任せられ無いから一人で全てをやると声を掛けた。それを半分は信じる事にした蒼正は、今日は放課後まで生徒指導室に引き籠るのであった。
放課後、坂本と一緒にタクシーに乗った蒼正は、警察署に向かう。これは学校に警察を呼ぶと、蒼正がまた何か言われる可能性があるからと二人で決めた事だ。
警察署に入ると応接室のような部屋で聴取となったが、坂本が言っていた通り、対応している少年課の刑事も蒼正を疑っている素振りも無い。イジメ加害者とイジメ被害者の関係だと説明したら、心配までしてくれた。
事件の概要は蒼正が聞くとはぐらかされたが、坂本が根気強く聞くとなんとか重たい口を開いてくれた。と言っても、警察も何も掴んで無いんだとか。だから言いたく無かったんだとか。
それでは仕方が無いと蒼正も腰を上げようとしたが、一応、五十嵐グループの病状は気になったから質問する。刑事はまた口が堅くなったが、これは学校も知るべき案件だと坂本が説得して聞き出してくれた。
帰りは坂本の計らいで、タクシーで帰宅。蒼正は五十嵐グループの病状を思い出して、ざまぁみろとほくそ笑んでいたが、もうすぐマンションに到着という所で顔色が変わった。
「どうかしました?」
「ちょ、ちょっと酔ったみたいです……」
「家まで持ちそうですか?」
坂本の心配は大丈夫と返し、マンションに着いたら、蒼正は感謝の言葉を告げて家に入る。後日、母親の都合のいい日に坂本は謝罪にやって来るらしい。
自室に入った蒼正は、しばらくベッドに寝転んで考え事をしていたらスマホが鳴った。純菜だ。もう夕方なのに何も連絡が無いから何度も連絡していたのだ。
なので謝罪と掻い摘まんだ今日の出来事を送り、詳しくは夢の中でと追記した。
有紀が帰って来ると、蒼正はいつ切り出してなんて言おうかと部屋の中をグルグル歩く。結局の所、イジメの事は言えず、家庭訪問があるから直近で会える日が無いかと有紀に尋ねた。
蒼正の表情から有紀は何かあると感じ取り、夜か日曜日ならいつでもいいと返して、早く会おうとする。
これで現実のミッションは全て消化。色々あって疲れたのか、蒼正はベッドに入るとすぐに眠りに落ちたのであった……




