檻を出て
檻の中から新入りがぬっと姿を現すと、周りにいた古参からの視線が向けられる。不安そうな新入りはブルブルと震え上がっていた。
「おい、若いの。ビビってんのか?」
一番な古株が、新入りに声をかけた。
か細い声で誠意杯の強がりが新入りの口から出てくる。が、それを他の奴らは真似して揶揄う。それを一喝して場を鎮ませると、古株はゆっくりと新入りに近寄った。
「今までなんて呼ばれてたから知らないが、ここじゃあ、新しく名前が与えられる。過去の自分とはおさらばするんだな」
古株はじっと、昔からいる顔馴染みを見ていく。
「紹介しよう。右端から、かわいい、かわいい、かわいいね、今日もかわいい、かわいい、だ」
古株は、ゆったりと長い尻尾を振る。
「そして、私が、ごはんだよ、だ」
ピンと伸びたヒゲを前脚で撫でながら、古株の猫は言うのだった。