仙人掌
植物を育てるのが上手な母のことを、魔法使いだと思ったことがある。我が家にはサボテンがあった。いつからあったのかは覚えていないが、小さな可愛いサボテンだった。
「サボテン凄いことになってるね。」
私は久しぶりに実家に帰った時に際に、それこそ久しぶりにサボテンを見た。
「それねー。ぽこぽこぽこぽこ増えちゃって、わたしもビックリしてたんだよね。」
「これって昔からあったやつでしょ? 魔法でも使ったの? サボテンってこんなに増えるもんなの?」
「水なんてたまにしかあげないんだけど、何故だか不思議と増えるんだよね。」
一つしかなかったはずのサボテンの植木鉢が五つにもなっていた。そして、それぞれが先ほど母が言った通りの様子で、ぽこぽこと小さな子供がたくさんくっ付いていた。母は新しく生まれた子供を違う植木鉢に植え替えて、増植させていたのである。
「良かったら、一つ持って帰らない? 水は本当にたまーにあげるだけで大丈夫だから。」
「それなら一つ貰おうかな。」
私は軽い気持ちで植木鉢の一つを、一人暮らしをしている部屋へと持ち帰った。植物を育てるということが、生活の豊かさに繋がる様な気がしたのである。母の言っていた通り、気付いた時に水をあげていたら、次第に大きくなってきた。鉢を一回り大きなものに替えたぐらいである。一緒にいても大して気を使う必要のないこの植物に、私はとても愛着が湧いていた。
久しぶりに水をあげた。サボさんは美味しそうに水を飲んでいた。
「おい、ほんとに久しぶりだな。忘れられてるかと思ったよ。たまにでいいからさ、冷たい水をかけてくれよ。」
「ごめん、ごめん。最近忙しかったんだよ。忘れるわけないだろ、長い付き合いなんだから。」
「それならいいけどさ。あんまり無理すんなよ。」
「ありがとう。」
今も元気な彼は私達家族をいつも見守ってくれている。これからもどうぞよろしく。