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ホワイトデーのお返しを準備していないことに気づく

作者: 光井 雪平

「忘れてた」


 片桐裕也はカレンダーに書かれていた一つの単語を見た瞬間、自分の過ちに気づく。とても重大な過ちに。


「明日ホワイトデーじゃねえか」


 裕也はやべえとそのままつづける。裕也はちらりと時計を見る。


 9時を回っている。あたりはもう真っ暗だ。近くの店はもうしまっているだろう。


「コンビニで済ますか、だけどそれで許されるか」


 裕也はブツブツと言いながら考える。


 幼馴染の高槻八重のお返しをどうするか。


 裕也は八重と保育園から現在までずっと同じ学校で同じクラスでいつづけていた。高校まで一緒のクラスになったときは「「またか」」と二人して呆れながら言ったものだ。


 裕也はその八重から小学校の途中、本人たちにとってはいつの間にか必ずバレンタインデーのチョコを貰っていた。そして、そのお返しを必ず行うというのが彼らにとって当たり前の日常の一部であった。


 八重は中学二年ぐらいからチョコを豪華にしてきた。そして、必ずとある言葉を言うようになった。


『お返し楽しみにしてるから』


 と。満面の笑み(明らかに演技)とともに。


 それは裕也が中学一年の時にホワイトデーのお返しを忘れていて、遅れて渡したかと思えば、その辺のどこにでもある菓子を渡したことが原因であった。裕也本人もわかっていた。その仕返し、当てつけのようなものだと。


 だからこそ、今年も中途半端なものでは許されないだろう。


 裕也が頭を悩ませること、10分ほど。


「コンビニで高そうな菓子を買えばいいのでは?」


 裕也はその結論にいたると近くのコンビニへと急ぐ。明日の朝にはどうせ会うことになり、後で渡すよといっても怪しまれる可能性があるし、買いに行く時間もおそらくない。


 となれば今この瞬間に買うしかないのだ。というのが裕也の結論であった。


 コンビニに到着すると、おあつらえ向きにホワイトデーのお返しのためのコーナーがあった。裕也はラッキーと思いながらとりあえず高そうでコンビニで買ったことをごまかせそうなものを探す。


 そして、これでいいか、と思って商品を手に取り、会計を済ませてコンビニを出る。そして、歩いている途中、後ろから声をかけられる。


「裕也」


 と、今一番会うとまずい人物から自分の名前を呼ぶ声がする。声が聞こえた方を恐る恐る向くと、そこには八重がいた。


 反射的にさっき買ったものを八重から見えない位置に持っていく。


「八重じゃん、どうした?」

「いやシャーペンの芯なくて買いに来たの」


 タイミング悪いなと思いながら、


「へーそうなんだ。でもコンビニで買うの高くね」と言って裕也は話をそらそうとする。


「うーんそうなんだけど。ないと困るし。で、裕也は何買ったの?」

「お、俺、小腹すいてさ。それでちょっとしたものを」


 裕也は動揺を隠そうとしながら答える。八重にはその動揺は看破されていたが。そして、次の瞬間、衝撃の言葉が来る。


「それで、ホワイトデーのお返しコーナーにある菓子選んだの?」


 八重は満面の笑み(演技)をしながら裕也に問う。


 裕也はばれていたことに気づく。というかどうやら見られていたことに。

 それでもまだごまかそうと、「い、いや、うまそうだなぁってな、ははは」と乾いた笑いをしながら言う。


 八重はジト目で裕也を見た。少しして、裕也は八重から目をそらしながら「すみません」と謝る。


「何が?」


 と満面の笑みを浮かべながら八重は裕也に問いかける。


「ホワイトデーのお返し用意忘れてました」


 裕也は小声で言う。八重はふーんと言う。裕也は「いやほんとすみませんでした」と頭を下げながら言う。


 八重はため息をつく。

「私お返し楽しみにしてたのになぁ」


 と言う。裕也は「すみませんでした」とボットのように繰り返す。へたなことを言えばさらに神経を逆撫でするだけだと思ったからだ。


「コンビニでごまかそうとしたんだね、裕也は。私はバレンタインデーに心をしっかりこめたのに」

「すみませんでした」


 裕也はただ謝る。八重の言葉の違和感に気づくことなく。八重は裕也が気づいてないことに小さく「鈍感」とつぶやく。裕也は鈍感って何が?と少し思っていると。


「まっいいけど。裕也の思いはそんなもんだと思うから」

「それは違う。超大事に思ってるぞ、お前のこと」


 裕也は反射的に言う。裕也はお返し忘れてたとかなったらどんな報復があるかわからないから、大事に思っていた、お前(へのお返し)のことを。


 八重は裕也の突然の言葉に赤面する。裕也は八重がびっくりしたような様子を見せたことだけを把握する。暗くてよく顔が見えなかったのだ。


「もっといいの用意するから待ってください。明日の夜、夜までには準備するから」


 裕也は必死にそういうが、八重はぼそりという。


「いいよ別に」


 裕也は八重の言葉がよく聞こえずにいたのでえっ?と返すと。八重は大きな声で言う


「いいよ別に。それでいいよ。ただ今度からは忘れないでね」

「お、おう」


 裕也は八重の様子おかしいなと思うが、とりあえず許されたのでよかったと思う。


「次忘れたら絶対に許さないから」

「肝に銘じておきます」


 裕也はそう言うと、次は早めに準備しようと内心で決心を固める。


 八重の心の中はぐちゃぐちゃであった。裕也は全く気づかないが。


「とりあえず、八重帰ろうぜ。送ってくぞ、暗いし」


 裕也はさらりと流れるように言う。八重は「ありがと」とぼそりと言う。裕也はどうしたのか?と思うが。実は内心で怒っているのではと思い、何か用意したほうがいいなと思いながら八重を家に送っていくのだった・・・


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