奔放な悪女
美厨財閥──それは、この国では知らない者はいないだろう。
皇帝家親衛隊将軍の血筋である美厨氏が勅許を受けて設立した帝室御用達の総合商社、美厨公社。
それを中心として、皇帝のおひざもとの宮都のみならず国内の主要都市、ひいては国外へすらも膨張を続けている巨大コンツェルンである。
その権力は朝廷すらも容易に統制できるものではなく、むしろ皇帝の権威を盾に朝廷に対して無理を通すこともしばしばあるという。
尊堂はあらためて依頼人──美厨那勝の一人娘、美厨帯を目でじっくりなめまわした。
噂は聞いていた。
父との相性が悪い奔放な悪女だと。
悪女といってもまだ20になるかならないかの歳のはずだ。
どうせ世間知らずで、奔放といってもせいぜい悪友と麻薬に溺れるぐらいだろうと思っていた。
だが──
「それが皇帝暗殺を決意した理由か」
いくらなんでも、それはもはや奔放という枠内ではない。
「年頃だからパパが嫌いとはいえ、そこまで憎むことはないだろう」
「憎しみではありません」
みくびられていると思われたのか、厳しくとがった声で反発する。
「この国の未来、ひいては世界の安寧のためです」
「さっきも聞いたな。俺の過去もそのセカイノナントカのためだったというわけか?」
「そうです」
美厨がはっきりと、真剣に返すので、ぎゃくに尊堂の方がすこしたじろいでしまった。
「あんたが奔放な悪女という噂はまあ本当なのかもな」
「どう指を差されようが関わりのないことです。問題なのはあくまでこの国、そしてこの世界──」