依頼
「……天下一神エ師大会で替え玉になれと。天下の財閥総帥のご子女がとんだ話をもちかけるもんだ」
尊堂は鼻を鳴らした。
「たしか替え玉は最低でも懲役5年。立派な犯罪、バレたらあんたどころか、あんたのパパも終わりだ」
「承知の上です」
美厨はすずしい顔であった。
「それでもやらなければならないことがある。これは私だけの問題だけでなく、この一国の、ひいては世界の安寧のために……」
「……なんだそれは」
頭がおかしいのか、という言葉をかろうじて飲み込む。
まあ少なくとも金のためではないだろう。
この財閥総帥家の御曹司様ならば。
「報酬はさきほど申し上げたとおり、前金500万ディナール、1戦勝利につき300万ディナール……」
「太っ腹だな、替え玉ならせいぜい1戦100万ディナールが相場だ」
「危急の事態ですので。糸目はつけません」
「なるほど、財閥の経費で落とすのか」
「いいえ、総帥家の自腹です」
「…………」
「受けるか、受けないか、どうか御返答をくださいませ」
「…………」
尊堂は少し考えた。
あまりにも条件が良すぎる。
「だめだな。他をあたってくれ」
いままでの経験による判断だった。
「なぜ……一括現金払いで、未払ということは……」
「そういうわけじゃない。嫌な予感がした」
そのとき──