徹底捜索
「ヘッズオブドラゴンと夢の羽のメンバーは、すぐに責任者部屋に来てください!!」
会場中にアナウンスが響き渡る。心なしか切迫した様子の声だ。アリエッサが到着して、何か脅したんだろうな。
「なんか呼ばれているな…… とりあえず向かうか」
ライエルが緊張した顔で声をかけてくる。
「ああ、急いだほうが良さそうなアナウンスだったな」
小走りで責任者部屋に向かうと、メンバーが全員集結していた。アリエッサだけではなく、エリスも来ている。スタッフやシールドオブワールドの幹部もいるが緊張した面持ちだ。
「揃いましたね。内々で議論をしたいので他の方は退出いただけますか?」
「お気持ちはわかりますが、こちらとしても情報共有していただかないと困ります」
「後でします。退出していただけないのであれば物理的に存在を抹消します」
怯えながら警告するスタッフにピシャリと言い放つアリエッサ。
「なっ…… そんなことをしたら犯罪ですよ!?」
なおも食い下がるシールドオブワールドの幹部はいきなり吹き飛んだ。エリスが軽く蹴飛ばしたのだが、早すぎて誰もついて行けていない。
「……早く出ていってくれない?」
「我々はそんなことに興味はありません。早急にご退出ください」
正直にいうと、ヘッズオブドラゴンにとって犯罪という概念はない。警察に捕まるような弱さの者はおらず、むしろ色々な事件に協力している側なので、大概のことであれば揉み潰せる自信がある。もちろん、だからと言って街中で無差別殺人などしようものなら流石に庇ってはもらえないとは思うが、その際は隣の国に逃亡するだけだ。
まだ渋る者もいたが、エリスが剣を抜くと、結局全員退出していった。
「さて、では話をしましょう。まず、現状の確認です。ネックレスとキキ、そして怪盗は行方不明、これは正しいですね?」
「あ、ああ」
緊張した様子のライエルが答える。関係者とはいえ、目の前でシールドオブワールドと喧嘩している様子を見ると怖いか。後でどうなることやら、と思うのも無理はない。
「私は、このライブ会場で魔力暴発が起きたことを察知しました。その瞬間、会場全体が暗くなったと聞いています。全ては暗くなっている間に行われ、明るくなるとキキとネックレスもいなくなっていた。合っていますね?」
「その通りだ。暗くなっている間に犯行は行われたようだ」
「ついでに煙も出ていたから、私も何も見えなかった」
「アンも何も見えていないということですね。了解です。では、まずこの会場内に隠れていないかを皆で確認しましょう。戦闘になる可能性があり、相手の実力がわからないため全員で行動します。隠れルことができそうな場所はありますか?」
「えーっと……スペースでいうと控室と、トイレ、後は警備室と事務室でしょうか?後は、物陰などに潜んでいる可能性も否定できませんが……」
マルクが答える。
「わかりました。とりあえず近くから確認していきましょう」
責任者部屋から出ると、通路が続いている。通路は開けており、隙間などはないため隠れることができる場所はない。そして一番近い部屋は事務室だ。ドアを開けると忙しく作業をしている職員たちがいる。
「椅子の下であったり、机の中も確認しましょう。全てのスペースを見てください」
「なんですかあなた達は!?」
「今からこの部屋を捜査しますので邪魔しないでください。抵抗するようでしたら殺します」
強引に職員をどかして確認したが、どこにも人が隠れるようなスペースもない。
「……キキと怪盗が隠れている場所を探すんだよね? この部屋にそんなスペースないよね?」
「念の為です」
次は警備室だ。同じやりとりを繰り返し、中を確認したが誰もいない。そもそも人が隠れることができるようなスペース自体が存在しない。
トイレも女子・男子ともに一つずつ個室を確認するが誰もいない。見落としがないように複数人で確認していき、最後は控室である。中にはロッカーとベッドがある。ロッカーは開けて、ベッドはずらして中を確認するが、ロッカーには掃除道具があるだけ、ベッドの下には何もない。
「誰もいない、ということですね」
「やはり、ライブ会場からは既に逃走しているということでしょうか?」
アズサの問いに考え込むアリエッサ。普通に考えるとその可能性が高いが、人を1人抱えて逃走することは可能なのだろうか?もし、それほどの力持ちであったり、人を楽に移動させられるほどの力を持つ魔道具があれば…… もしくはどこかにまだ潜んでいるのだろうか?




