トラブル
なんだ? 演出か? 辺りを見渡すが、真っ暗で何も見えない。歌声や演奏音も聞こえなくなっている。状況を確認する、といってもどこに確認すべきかもわからない状況だ。とりあえず様子見しかない、そうして待つこと数十秒。遅れて凄まじい爆音が鳴り響く。真っ暗で視界はゼロに等しいが、会場全体が徐々に白い煙に覆われていく。
「おい、ライエル!」
「ああ、聞こえるぞ! これはなんだ?演出か?」
「わからない! 迂闊に動くことも出来ないし、待つしかないだろう!」
各地で口々に話をする声が聞こえる。冒険者達は皆戸惑っているようだ。ライブステージ上は? どうなっているかわからない。念話が使えればアンやエッジに確認できるのだが…… 待ち続けること10分ほど。ようやく煙が晴れてきた。近くのライエルの顔は見えるが、困惑した顔をしてキョロキョロとあたりを見渡している。ステージ上は? 真っ暗で何も見えない……
「キキはどこだ!?」
しばらくして、ステージから怒鳴り声が聞こえる。ステージ上にキキの姿がないようだ。
「誰かキキを見ていないか!?」
大声を上げる護衛と思われる者に反応するものはいない。誰も知らない間にいつの間にかいなくなってしまった。そして、キキの首元には…… サクラの秘宝。やられたな。確実に怪盗の犯行だろう。
「全員でキキを探せ!」
「勝手な指示を出すな! まずは落ち着いて状況を確認する必要がある!」
「うるせえ、宝石がないんだぞ! 落ち着いてられるか!」
ステージ上では大人が喧嘩をしている声が聞こえる。ジェフ達は?
「何があった!?」
「事件か!?」
外で手荷物検査の準備をしていた冒険者達が慌てた様子で戻ってくる。色々な立場の者が会場を走り回って大声で話しているので滅茶苦茶になっている。本来であればジェフあたりが統率を取るべきなんだろうが、取る気配はない。何かトラブルがあったのか、それとも動揺しているのか。
「さて、ショーはいかがだったでしょうか? ここで皆様に素敵なお知らせがございます! この事件を解き、宝石とキキを取り返すことができた者には、この偉大なる大泥棒が一つ、何でも願いを叶えてあげましょう! ステージはライブ会場です。既に私はそこにはいませんかもしれませんが…… ぜひこのゲームを楽しんでください」
ステージ上空から大きな音声が流れてくる。あまりの音量に、サクラ全土に聞こえるのではないかと考えたほどだった。いや、実際に聞こえているのかもしれない。
「まずいな…… サクラ中から一般の者達が殺到する可能性がある」
「確かに。入り口を封鎖するべきでは?」
「ああ、だがオレ達だけではどうしようもないし、この暗闇では動きようがない。とにかく誰か統率を取る者が必要だ」
「なんで真っ暗なんだ? 魔道具が故障したか?」
「魔道具が使えなくなっている可能性があるな。それで拡声器なんかが使えないから誰も統率を取れないかもしれない。参ったな……」
「うお、会場真っ暗じゃねーか」
「キキ探しところじゃねーよ。こんな中でどう動けっていうんだ」
気の早い一般の者達がもう紛れ込んできたようだ。
「おい、誰だ、あぶねーだろ!」
「知らねーよ。真っ暗なんだから仕方ねーだろ」
「ああ? なんだお前は。舐めてるのか!」
四方で喧嘩と思われる怒鳴り声が聞こえる。あーもうだめだ。俺は心の中で降参した。こうなってはどうしようもない。朝になって明るくなるまでこのままか?
「あーあ、聞こえるか。シールズオブワールドの代表のジェフだ。ライブ会場にいるものは全員、動きを止め、こちらからの指示があるまでは何もしないように。現在、全ての魔道具が停止しており、明かりや拡声器を使うことができない。拡散の魔法で声を届けているが、時間に限りがあるので簡潔に話す。キキと首から掛けるサクラの秘宝がどちらも行方不明のようだ。近くで怪しい動きをするものがいたり、女性を連れている者がいる場合は引き留めておくように。それ以外の者は次に指示を出すまでその場で待機だ。緊急事態のため、こちらの指示に従わないものは殺す可能性がある。以上」
ようやくジェフが指示を出せる状況になったようだ。静かになる会場。流石に命を失いたくはないからな。しかしこれだけでは…… 状況は打開できない。
この間にも続々とやってくる一般人。皆真っ暗であることと、たくさんの気配がすることに驚いている。腕に覚えがある冒険者から、全くの素人まで多数の者が押し寄せているようだ。




