キキとのデート 後編
「……怪盗についてどう思う?」
「わからないことが多すぎる。今まで遭遇したことはあるのか?」
「ないよ。話には聞いたことがあったけど。予告した上で盗みを成功させる怪盗って。そうなんだー、すごいねーくらいだったんだけどね」
「なるほど……。俺も気になって色々調べているが、変装の達人なんじゃないか、とか色々言われているな」
「ライブ中に私に変装して出てきたりするのかな? 実はすごい歌が上手かったりして」
「もうそれなら脱帽だよ。むしろ見てみたいまであるな」
キキはクスッと笑うと紅茶に手をつける。突然キキが2人になったら……シュールな光景になりそうだ。
「とはいえ、戦いだったら負ける気はしないけど。私の強さはわかってるでしょ? そこらの相手には負けないよ」
「だといいが。まあ、警備もたくさんいるし大丈夫だろう。いざとなったら俺達が介入できる」
「強い冒険者もいるらしいもんね。殴り合いになったら心配なさそうだね。ただ、今まで失敗したことがないらしいっていうことが気になるね…… 異常に強いのか、特殊な魔法を持っているのか、すごい技術があるのか、不安はいっぱいあるよ。とりあえずライブをぶち壊しにされるのだけは勘弁してほしいな」
「ああ、それだけは防ぐように俺達も努力する。だから心配しないでくれ」
「ありがとう」
「今日みたいな何気ない日も曲作りの上では大事なんだ。これで一曲書けそうな気分だよ。
知らない国で、見知らぬ男の人に馬鹿にされる、それが嬉しくて一緒にデートをする、そこで食べたケーキが美味しかった、こういう曲はどうかな?」
「馬鹿にされるのが嬉しい、という感情は一般的には伝わらない気がするが……」
「そこは私に任せなさい。プロの腕を見せてあげる。いつか出来たら聞かせてあげるね」
「また会う日があれば、な。楽しみにしているよ」
「まあ、私の夢は全ての国でライブをすることなんだ。全ての国に行ったことがある者はそうそういないでしょ? さらにライブをしたとなると世界初になるんじゃないかな? それを目指したいんだ。だからまたサクラに来るのはだいぶ先になっているかもね。その時には君は最強の冒険者になっているかもしれない」
「その時は最強の冒険者として君を護衛しようじゃないか。そうなれるように努力しておくよ」
「もしかしてキキさんですか!? 大ファンなんです!」
突然隣の席の女性から話しかけられる。周囲の注目を浴びる俺達。
「あ、すいませんつい興奮して。一度ライブでお見かけしたことがあるので……」
「そうだったんですね。はい、そうですよ。できれば内緒にしていただけるとありがたいですが……」
「わかりました。お休みのところ申し訳ないです。出来ればサインをいただけますか?」
紙とペンを渡され、サインを書くキキ。紙を持ち歩いているなんてよほどの上流階級なのだろう。顔がわかる距離でライブを見ていたということから考えても貴族なのかもしれないな。
「ありがとうございます! 家宝にします。ライブも行きますので楽しみにしていますね」
「いえいえ、期待に応えれるように頑張りますね」
気づけば店中から視線を感じる。これは気まずい。
「さて、そろそろ出ようか。いい時間だしね……」
「あ、ああ……」
会計を済ませ、俺達は店を出る。
「まさかバレるなんてね。びっくりしたよ。皆が見ていて恥ずかしかったな」
「有名人は大変だな」
「お喋りに夢中になっていて、魔法の効果が切れているのを忘れていたよ。うっかりしていたね。時間で効果が切れるから定期的に掛け直さないといけないんだ」
「ああ、それは仕方ないな」
「せっかくの楽しい時間だったのになあ。ごめんね」
「気分転換になったなら良かったよ。また機会があったら美味しいケーキ屋を紹介するさ」
「うん、楽しみにしてるよ」




